現実に獣人がいるって異世界転移して来たんだろ?だったら俺もいつか行ける?

サクラギ

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1章

19 威嚇射撃

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 これは本当に最悪に巻き込まれていると分かった時にはすでに渦中で、アドレナリンが一気に放出されて、感覚が一気に覚醒するのを本気で感じた。今まで数々の難題をクリアして来たし、危険なめにも合って来たけど、それも全部ぬるかったと知るこの数分の逃走劇。いっそドラマの撮影と言ってくれよと感情が泣き言を言っているけど、どうにも分が悪いのはニアがいるっていうこの状況だ。仲間なら多少見逃しても自力でどうにかする。そういう信頼があるし、助けられる側の動きというものがあって、そういう共通認識の中で動ける。
 志津木は初めてまるっきり素人を引き連れて逃げる事の苦労を知った。それにさ、ニアは心の底から獣人気質で、自分の命の軽さを認めてしまっている。置いて行けとかふざけてる? 志津木は逃げ腰になるニアを半ば抱えるようにして脱出をはかっている。

「くっそ、ニア、何も考えずに動けよ、こっち、早く」

 狭い通路を這いながら進んで、穴を降りる。ずいぶん使われていなかったし、ここまで手入れするヤツなんていないから、蜘蛛の巣と虫の宝庫で、それだけでニアは嫌なようだ。暗いのは目が良いから大丈夫らしく、見えなければいっそ良かったのにと思う。目が良いから蠢く虫の動きや這い回る音が聞こえてしまう。その点は普通の志津木の方が楽だ。暗いから見えないし、アドレナリン放出で気が立っているせいで細かな事に目を向けていられない。目標は脱出。脱出できなければ黒焦げの炭だ。それで異世界へでも転生できるのなら、結果オーライだけど、その補償はカケラも無い。

「乗って、良いから!」

 強引に腕を引き、船に乗せ、蓋になっている入り口を開けてニアを押し込んだ。本気で怯えているニアは青褪めて震えている。でもそこに構っていられない。綱外してエンジン掛けて一気に加速させる。海も見張られているだろうし、逃げるのバレてるだろうけど。暗いうちに焼き払うとか鬼畜? 沖から波にガンガン乗り上げながら進んで行く。ライト付けられないし、月明かりが頼りで。良い感じに屋敷が燃える灯りで海が明るい。岸に人影がある。水上バイクが向かって来る。船の操縦なんていつぶりだ? 免許を取らされて以来乗っていない。もう10年前? それで追いかけっこ? 死のレース? っていうかどこへ逃げる? 頼みの綱はタブレットへの連絡だけど。海岸線沿いに逃げたって意味はないし。タブレットが振動する。左って? 海で左ってなに? ああクソッわかった、左な! ハンドル左に切って沖へ。

 別の場所から水上バイクが来て、追手と混戦になっている。どっちが味方か良くわからない状況で、とにかく沖へ。

「ふざけんなよ、左ってなに?」

「的確な判断だっただろ?」

 連絡は纐纈からだ。焦っている志津木とは違い、纐纈はのんびりした口調だ。

「もうすぐ大型船が見えて来る。回収されろ」

「は? ニアも? それって安全なんでしょうね?」

 船に乗ってからでは遅い。纐纈が何を考えているのか分からない不安がある。

「珍しいね、口答え? 子猫に夢中なのは分かるが、立場を弁えないとね」

 水上バイクが向かって来る。銃弾が打ち込まれる。当てる気はないらしく、船に穴が空く。

「従わねえと殺すって事? って事は、安全じゃねえって事だろ?」

 船を沖から陸へ向ける。水上バイクが邪魔をして来る。

「マジで従わねえの?」

「シェンエン?」

 黒づくめの水上バイクから見知った声が聞こえる。

「せいかーい、従わねえと殺しちゃうよ?」

 楽しそうに銃を向けられる。沖へ逃げる。くっそ、せめて理由くらい教えてくれれば、逃げるか従うか判断出来るのに。どれも正解だとは思えない。両方ともニアにとって悪だと思える。追いかけて来るのはシェンエンひとり。船腹と船尾をぶつけてバランスを崩させる。だが相手もプロだ。思うようにさせてくれない。

「なんで獣人に命かけてんの? ありえねえんだけど」

 叫ばれる。ついでに銃声。やばい、大型船が向かって来る。
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