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2章
3 決意
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アダマス城から連なって広がる街には属さない、山から降りた最後の丘に、ニアが目指す孤児院があった。丘の上に建つ孤児院は、志津木の記憶にある教会のような造り、白い木の壁と三角屋根、屋根の下には丸窓があって、そこに色彩豊かなガラスがはまっている。上部が半円のドアの横には鐘がついていて、紐が垂れている。孤児院の周りには白い柵が囲んでいて、柵の中に洗濯を干す竿があり、そこに白いシーツと衣服が並び、風で揺れている。柵から続く山肌には、白と黒の動物がいて、のんびり草を食んだり、体を横たえていたりする。犬もいる。人の世にいる犬と同じに見える。
「牛と山羊と犬? 獣人族の国に?」
志津木は見たままの光景を口にし、失言だったかと思った。
「あれは人族の国の動物とは見目が違う。こちらではあれらを従獣と呼ぶ。人型にはなれず、言葉も解せない。だが言葉を解する獣もいる。我らに害を及ぼし、時に命を奪う。そういうモノを害獣と呼ぶ。山の奥には行くな。特に夜は危険だ。時に山から降りて弱い者を襲う。孤児院も例外ではない。気を付けて欲しい」
ニアが淀みも戸惑いもなく淡々と話している。志津木を案内するように先立って、身の安全を心配している。志津木はそれだけで嬉しかった。ニアがこの世界の住人である事がその態度から見て取れる事が嬉しいのだ。勝手に送られた人の世で苦しめられて生を終えるより、自分の意思で動き、自分の正しい運命の中にいてくれる事に安堵した。
「分かった、気を付ける」
志津木はどう気を付けるのか分かっていない。でもそう答えた。ニアの負担になりたくないからだ。志津木がここでどうなろうとニアの責任ではない。志津木が望んで選び、選んだ通りに運命が動いた。ただそれだけの事だ。
「マティアスはとても美しい。戦乱の世も遠く、今は孤児も少ない。畑や従獣の世話を手伝って貰えると助かる」
「ああ、そういう仕事の方が実は得意なんだよ」
「そうか、よろしく頼む」
孤児院に住むマティアスとはどういう獣人なのか。ただニアの口調や態度から推測するに、とても親しく感じる。
まだ遠くだった孤児院が近づいて来る。洗濯物を取り込む大人と子どもの姿が見える。こちらに気づいた子どもが手を振り、走って来る。
「ニアお兄ちゃーん」
駆け寄って来るのは二人の子どもで、柵の入り口の所まで来ると柵に足を乗せて手を振っている。隣でニアが手を振って笑っている。とても珍しい表情を見た志津木は微笑ましく見守った。子どもの隣に大人が寄り添う。白いシーツを巻きつけた様な衣装に丈の長い羽織をつけている。髪は白銀でサラリと長く、腰位置までありそうだ。
「あれがマティアスだ。遠目でも綺麗だろう。手を出さない様に」
「まさか」
そういえば獣人の性的趣向を知らないなと思う。人の飼っていた獣人は、人の都合に合わせて扱われていたから、どちらの立場を選択もできずに従っていた。まぁ、自分の本来の居場所じゃない所で自由に選べるとは思わないし、与えられた立場を理解している。ニアがいなければ、転移して即死だってあり得た。どちらが良いかは、この先、暮らしてみなければ分からない。ニアの嬉しそうな横顔を見ながら、この先、ニアの邪魔になるようなら、自ら死を受け入れようと決めた。
「牛と山羊と犬? 獣人族の国に?」
志津木は見たままの光景を口にし、失言だったかと思った。
「あれは人族の国の動物とは見目が違う。こちらではあれらを従獣と呼ぶ。人型にはなれず、言葉も解せない。だが言葉を解する獣もいる。我らに害を及ぼし、時に命を奪う。そういうモノを害獣と呼ぶ。山の奥には行くな。特に夜は危険だ。時に山から降りて弱い者を襲う。孤児院も例外ではない。気を付けて欲しい」
ニアが淀みも戸惑いもなく淡々と話している。志津木を案内するように先立って、身の安全を心配している。志津木はそれだけで嬉しかった。ニアがこの世界の住人である事がその態度から見て取れる事が嬉しいのだ。勝手に送られた人の世で苦しめられて生を終えるより、自分の意思で動き、自分の正しい運命の中にいてくれる事に安堵した。
「分かった、気を付ける」
志津木はどう気を付けるのか分かっていない。でもそう答えた。ニアの負担になりたくないからだ。志津木がここでどうなろうとニアの責任ではない。志津木が望んで選び、選んだ通りに運命が動いた。ただそれだけの事だ。
「マティアスはとても美しい。戦乱の世も遠く、今は孤児も少ない。畑や従獣の世話を手伝って貰えると助かる」
「ああ、そういう仕事の方が実は得意なんだよ」
「そうか、よろしく頼む」
孤児院に住むマティアスとはどういう獣人なのか。ただニアの口調や態度から推測するに、とても親しく感じる。
まだ遠くだった孤児院が近づいて来る。洗濯物を取り込む大人と子どもの姿が見える。こちらに気づいた子どもが手を振り、走って来る。
「ニアお兄ちゃーん」
駆け寄って来るのは二人の子どもで、柵の入り口の所まで来ると柵に足を乗せて手を振っている。隣でニアが手を振って笑っている。とても珍しい表情を見た志津木は微笑ましく見守った。子どもの隣に大人が寄り添う。白いシーツを巻きつけた様な衣装に丈の長い羽織をつけている。髪は白銀でサラリと長く、腰位置までありそうだ。
「あれがマティアスだ。遠目でも綺麗だろう。手を出さない様に」
「まさか」
そういえば獣人の性的趣向を知らないなと思う。人の飼っていた獣人は、人の都合に合わせて扱われていたから、どちらの立場を選択もできずに従っていた。まぁ、自分の本来の居場所じゃない所で自由に選べるとは思わないし、与えられた立場を理解している。ニアがいなければ、転移して即死だってあり得た。どちらが良いかは、この先、暮らしてみなければ分からない。ニアの嬉しそうな横顔を見ながら、この先、ニアの邪魔になるようなら、自ら死を受け入れようと決めた。
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