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2章
21 戦闘
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アダマス国の街は、王城を中心に円形に広がっている。細い路地は幾つもあるが、均等の取れた造りは逃げるのに向いていない。
「どこへ向かう? ニア、国境門は封鎖されていると思うか? それともレイモンドを頼るか?」
「……行きたい場所がある」
ニアが顔を上げ、進む方を示した。馬も疲れて来る。長く逃げるのは無理だ。今は後方の追手だけだが、何れ囲まれてしまうだろう。その時、降り注ぐ矢から逃れるのは難しい。
「ヨウ、血が」
馬から視線を上げて初めて志津木に矢傷がある事に気づいたニアが心痛を持って志津木を振り返る。
「ああ、こんなの大した事ないよ。戦いの傷には慣れてる。痛みも感じないから気にするな」
最初は鉄の小手で矢を防いでいたが、当たりどころが悪かったのか次第に壊れて、砕け散った。それからは腕を犠牲にした。片腕くらい無くても何とかなる。足は無いと逃げられないから、そっちを死守した。ただそれだけの事。
「ヨウごめんなさい」
追手から逃げているからそっちに集中したいのに、ニアは志津木の腕にそっと手を添えて、舐めて来る。まるで傷を癒そうとする動物のようだ。
「気にするな、ニア。おまえを守るのが俺の義務なんだ。なにせ獣人保護法にサインしたんだからな」
ニアの髪をくしゃくしゃに撫でると、手の甲に頬擦りされた。
「身を伏せて道案内に集中して。馬が疲れている。もう長くは持たない」
「大丈夫、あそこの建物に行く」
ニアが指す方向に崩れた教会のような建物がある。マティアスの家と似た造りで、後方にある湖の水面に崩れ落ちた建物の一部が見える。
けれど簡単には行かせて貰えないようだ。疲れた馬がバランスを崩し嘶くと同時に倒れ込み、ニアを抱えた志津木は受け身を取って地面に転がった。兵が追いついて来て囲まれる。
「残念だったな、ニア。俺から逃げられると思うなよ」
アニエスの侮蔑を含む笑いが響く。
志津木はアニエスのニアを見下す視線に怒りを覚えた。
政略結婚だか何だか知らないが、この一瞬だけで分かる。アニエスはニアを道具としか見ていないし、ニアはそれに怯えている。もしかしたら酷い仕打ちをされていたのかもしれない。今だって志津木の腕の中で怯えて震えている。縋られて悪い気はしないが、二度と手放すものかと奮い立つ。
「王様殺して兄王子を王様にするんなら、兄王子と結婚すれば良いだろ? なんでニアの尻を追っかけ回すんだ?」
「そいつを渡せ! 死にたいのか?」
アニエスは志津木の質問に答えるつもりもなく、嘲笑うばかりだ。
「質問に答えろよ、ああ、そうか、勝手に権力握ったつもりのバカには言葉が通じないんだな」
ニアを庇いながら立ち上がる。アニエスの合図で兵が剣を抜き、向かって来る。
未だサバイバルナイフ一本の武器しか持たない志津木は、せめて大剣が欲しいと、向かって来た兵を護身術でかわして首を叩き気絶させ剣を奪うと、気絶した兵を盾にニアを庇いながら崩れた教会へ向かう。後方の兵を退け、後ろの安全を確保し、ニアを押して教会の瓦礫の陰へ隠した。怯え切ったニアは瓦礫に伏せて震えている。対するはアニエスだ。勝たなければ未来はない。
兵が増えて行く。アニエスは後方から出て来ず、馬上から状況を見やって笑っている。ニアを守るので精一杯だ。こんな事なら剣術を学ぶべきだった。せめて仕込みナイフがあれば違う。一番は銃だけど。疲れて来る。動きが鈍る。終わりが見えない。
「どこへ向かう? ニア、国境門は封鎖されていると思うか? それともレイモンドを頼るか?」
「……行きたい場所がある」
ニアが顔を上げ、進む方を示した。馬も疲れて来る。長く逃げるのは無理だ。今は後方の追手だけだが、何れ囲まれてしまうだろう。その時、降り注ぐ矢から逃れるのは難しい。
「ヨウ、血が」
馬から視線を上げて初めて志津木に矢傷がある事に気づいたニアが心痛を持って志津木を振り返る。
「ああ、こんなの大した事ないよ。戦いの傷には慣れてる。痛みも感じないから気にするな」
最初は鉄の小手で矢を防いでいたが、当たりどころが悪かったのか次第に壊れて、砕け散った。それからは腕を犠牲にした。片腕くらい無くても何とかなる。足は無いと逃げられないから、そっちを死守した。ただそれだけの事。
「ヨウごめんなさい」
追手から逃げているからそっちに集中したいのに、ニアは志津木の腕にそっと手を添えて、舐めて来る。まるで傷を癒そうとする動物のようだ。
「気にするな、ニア。おまえを守るのが俺の義務なんだ。なにせ獣人保護法にサインしたんだからな」
ニアの髪をくしゃくしゃに撫でると、手の甲に頬擦りされた。
「身を伏せて道案内に集中して。馬が疲れている。もう長くは持たない」
「大丈夫、あそこの建物に行く」
ニアが指す方向に崩れた教会のような建物がある。マティアスの家と似た造りで、後方にある湖の水面に崩れ落ちた建物の一部が見える。
けれど簡単には行かせて貰えないようだ。疲れた馬がバランスを崩し嘶くと同時に倒れ込み、ニアを抱えた志津木は受け身を取って地面に転がった。兵が追いついて来て囲まれる。
「残念だったな、ニア。俺から逃げられると思うなよ」
アニエスの侮蔑を含む笑いが響く。
志津木はアニエスのニアを見下す視線に怒りを覚えた。
政略結婚だか何だか知らないが、この一瞬だけで分かる。アニエスはニアを道具としか見ていないし、ニアはそれに怯えている。もしかしたら酷い仕打ちをされていたのかもしれない。今だって志津木の腕の中で怯えて震えている。縋られて悪い気はしないが、二度と手放すものかと奮い立つ。
「王様殺して兄王子を王様にするんなら、兄王子と結婚すれば良いだろ? なんでニアの尻を追っかけ回すんだ?」
「そいつを渡せ! 死にたいのか?」
アニエスは志津木の質問に答えるつもりもなく、嘲笑うばかりだ。
「質問に答えろよ、ああ、そうか、勝手に権力握ったつもりのバカには言葉が通じないんだな」
ニアを庇いながら立ち上がる。アニエスの合図で兵が剣を抜き、向かって来る。
未だサバイバルナイフ一本の武器しか持たない志津木は、せめて大剣が欲しいと、向かって来た兵を護身術でかわして首を叩き気絶させ剣を奪うと、気絶した兵を盾にニアを庇いながら崩れた教会へ向かう。後方の兵を退け、後ろの安全を確保し、ニアを押して教会の瓦礫の陰へ隠した。怯え切ったニアは瓦礫に伏せて震えている。対するはアニエスだ。勝たなければ未来はない。
兵が増えて行く。アニエスは後方から出て来ず、馬上から状況を見やって笑っている。ニアを守るので精一杯だ。こんな事なら剣術を学ぶべきだった。せめて仕込みナイフがあれば違う。一番は銃だけど。疲れて来る。動きが鈍る。終わりが見えない。
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