60 / 66
3章
16 利用価値
しおりを挟む
翠は志津木を敵対視し、ヴォルフを抱きしめているが、志津木にとっては逆恨みに等しい。
「あのさぁ、俺はニアさえ返してくれたら良いんだけど?」
未だに目覚めないニアを視線で示した。
「どう言う事だ?」
翠の冷ややかな声がヴォルフへ向かう。翠に抱かれた、というか拘束に見え出した抱擁の中で、ビクッと体を揺らしたのが見て取れた。
ふたりの関係の上位は翠らしい。見目での年齢も翠の方が上に見える。組織のボスという落ち着きのせいか。
「別に……コイツが気に入らないだけで……」
途端に歯切れの悪くなった返事に、ヴォルフの焦りが見えた。翠の表情に苛つきが窺える。
「ふうん、アレがお気に入りか、ルフ。別に俺もおまえで無くとも良いが?」
冷めた声に怒りの震えが篭もる。翠はヴォルフの服を掴み、力任せに檻の中へ投げ飛ばした。
檻は翠の意志に反応するのか。ヴォルフを通したあとは、一瞬空いた隙間も無くなっている。
ヴォルフは投げられた際に頬を擦ったのか、血が滲んでいる。倒れた姿勢のまま、翠を見上げている表情に後悔と屈辱が入り混じっている。
翠の気配でニアが目を覚ました。ふああと欠伸をして、涙を拭っている姿を可愛いと見やっていた志津木は翠の接近を許していた。
「なんだよ、おまえ」
迫る翠に押し迫られ、背中が檻に当たる。ヴォルフが駆け寄って来たが、結界がある。内側からも外へは干渉できないようだ。
「スイ、ごめんなさい、ニアの事は懐かしくて——こいつに渡したくないだけで……」
背中にヴォルフの言い訳が届く。それよりも寝ぼけた様子で「ヨウ?」と発したニアの方が気になっている。志津木にとって翠の行動は嫉妬ゆえのものであり、そこに殺意はないと分かっていた。
「マティアスはどうだった? よかったか?」
翠の笑いを含んだ声が至近距離で届く。ねっとり耳を舐め上げられ、背にゾクッとしたものが上がる。股間を押しつけられ、足の間に太ももを差し入れられ、押し上げられている。が、お互いに熱を持っていないのは分かりきっている。志津木は翠の演技に付き合っている。だがその光景を背後から見ているヴォルフは焦りを見せる。結界を叩きながら、スイの名を連呼している。その悲壮さは見なくても想像できた。
「ヴォルフよりもおまえの方が手練れで良さそうだ。マティアスのように俺にも……」
唇を舐められ、深く唇を重ねられる。志津木は嫌だなと思いつつも、背側にいるヴォルフが嫉妬していると思えば、先ほどまでの嫌がらせの意趣返しとなり溜飲が下がる。
「ヨウ?」
でもニアには誤解されたくない。ニアの位置からは何をしているか分からないのかもしれない。
「やめてくれスイ! 僕が悪かった、お願いスイ、僕を捨てないで」
泣き叫ぶ声が響く。それを見てニアも状況を察したのか。近づいて来る気配がする。
「ニアは幼馴染だ、少し揶揄うつもりだったんだ、本気じゃない」
翠が志津木の耳元で笑う。クックと笑い、ヴォルフの嫉妬を甘い蜜のように感じている。
「可愛いだろ? あれが嫉妬に狂うと、アレがいつもより大きく猛る。狼の血が濃くなり抜けなくなる。それがたまらなくイイ」
耳元で吹き込まれる卑猥な言葉に、志津木は苦笑した。おまえがそっちかと、心の中で呟く。恋人同士の在り方はそれぞれだ。ただ知る必要はないと思うが。
翠に利用された志津木は、問答無用の包囲から解放されて、ため息を吐いた。
「あのさぁ、俺はニアさえ返してくれたら良いんだけど?」
未だに目覚めないニアを視線で示した。
「どう言う事だ?」
翠の冷ややかな声がヴォルフへ向かう。翠に抱かれた、というか拘束に見え出した抱擁の中で、ビクッと体を揺らしたのが見て取れた。
ふたりの関係の上位は翠らしい。見目での年齢も翠の方が上に見える。組織のボスという落ち着きのせいか。
「別に……コイツが気に入らないだけで……」
途端に歯切れの悪くなった返事に、ヴォルフの焦りが見えた。翠の表情に苛つきが窺える。
「ふうん、アレがお気に入りか、ルフ。別に俺もおまえで無くとも良いが?」
冷めた声に怒りの震えが篭もる。翠はヴォルフの服を掴み、力任せに檻の中へ投げ飛ばした。
檻は翠の意志に反応するのか。ヴォルフを通したあとは、一瞬空いた隙間も無くなっている。
ヴォルフは投げられた際に頬を擦ったのか、血が滲んでいる。倒れた姿勢のまま、翠を見上げている表情に後悔と屈辱が入り混じっている。
翠の気配でニアが目を覚ました。ふああと欠伸をして、涙を拭っている姿を可愛いと見やっていた志津木は翠の接近を許していた。
「なんだよ、おまえ」
迫る翠に押し迫られ、背中が檻に当たる。ヴォルフが駆け寄って来たが、結界がある。内側からも外へは干渉できないようだ。
「スイ、ごめんなさい、ニアの事は懐かしくて——こいつに渡したくないだけで……」
背中にヴォルフの言い訳が届く。それよりも寝ぼけた様子で「ヨウ?」と発したニアの方が気になっている。志津木にとって翠の行動は嫉妬ゆえのものであり、そこに殺意はないと分かっていた。
「マティアスはどうだった? よかったか?」
翠の笑いを含んだ声が至近距離で届く。ねっとり耳を舐め上げられ、背にゾクッとしたものが上がる。股間を押しつけられ、足の間に太ももを差し入れられ、押し上げられている。が、お互いに熱を持っていないのは分かりきっている。志津木は翠の演技に付き合っている。だがその光景を背後から見ているヴォルフは焦りを見せる。結界を叩きながら、スイの名を連呼している。その悲壮さは見なくても想像できた。
「ヴォルフよりもおまえの方が手練れで良さそうだ。マティアスのように俺にも……」
唇を舐められ、深く唇を重ねられる。志津木は嫌だなと思いつつも、背側にいるヴォルフが嫉妬していると思えば、先ほどまでの嫌がらせの意趣返しとなり溜飲が下がる。
「ヨウ?」
でもニアには誤解されたくない。ニアの位置からは何をしているか分からないのかもしれない。
「やめてくれスイ! 僕が悪かった、お願いスイ、僕を捨てないで」
泣き叫ぶ声が響く。それを見てニアも状況を察したのか。近づいて来る気配がする。
「ニアは幼馴染だ、少し揶揄うつもりだったんだ、本気じゃない」
翠が志津木の耳元で笑う。クックと笑い、ヴォルフの嫉妬を甘い蜜のように感じている。
「可愛いだろ? あれが嫉妬に狂うと、アレがいつもより大きく猛る。狼の血が濃くなり抜けなくなる。それがたまらなくイイ」
耳元で吹き込まれる卑猥な言葉に、志津木は苦笑した。おまえがそっちかと、心の中で呟く。恋人同士の在り方はそれぞれだ。ただ知る必要はないと思うが。
翠に利用された志津木は、問答無用の包囲から解放されて、ため息を吐いた。
1
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる