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3章
15 奪い合い
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初日に訪れた温室には宴会用の絨毯が敷かれていたが、そのスペースに今は檻がある。それは観賞用らしく、強固な鉄製とは違い、華奢な針金に煌びやかな宝石が通された美しいもので、日の光を浴びて輝きを放っている。
「貴方は十分に役割を果たしてくれました。もう用済みです。ニアの事は忘れて下さい」
志津木の前に立ったのはヴォルフだ。
檻の中で倒れているニアを愛しそうに見つめて、次に志津木に向かい、冷めた表情をする。
ニアは眠っているのか。志津木の気配に気づいていない。志津木はヴォルフを警戒している。ニアを側にと思うのなら、檻に閉じ込めず、説得して見せるべきだ。
「用済みかどうかはニアが決める」
志津木がそう言うと、ヴォルフは嘲笑う。ニアを欲する者はみな、志津木を下に見る。権力者の奢りだろう。まともな者を見た試しがない。ヴォルフといい、アニエスといい、傲慢さが見て取れる。
「たかがお情けで聖気を得ただけのおまえが?」
「それは別にどうでも良い」
志津木にとってあれはいつも通り、合意の上の性欲処理だ。それに勝手に付属を付けられた。それ以上の意味はない。
だが志津木のどうでも良いと言う態度を見たヴォルフは怒りを見せる。
「聖気だ! 簡単に手に入るものではない! ましておまえのような人族の底辺が!」
怒りのままに怒声を上げたヴォルフを見て、志津木は笑う。喉を鳴らして笑い、ヴォルフを見やる。
「その底辺がマティアスを抱いた。国名にするほど偉大なのだろう? 悪かったな、そんなに怒られる事だとは知らなくて」
「うるさい! 黙れ!」
「纐纈翠はおまえにとって何なの? おまえだって聖気を持つひとりなんだろ? 翠だけじゃ足りなくてニアも欲しいの? それってワガママじゃねえ?」
ヴォルフは顔を赤らめて怒っている。まるで子供だ。おもちゃを取り上げられそうになって必死になっている。そうとしか思えない。
志津木が一歩一歩近づけば、ヴォルフは下がって行く。戦いに不慣れなのか? 志津木は感覚的にそう思い、一気に間合いを詰めた。華奢な檻だが結界があるのか、ヴォルフの背が檻に付いても崩れる事はなく、志津木の手は檻の無い部分に付いている。手のひらには平らな面の感触がある。
「ニアを渡して貰おうか」
顔を寄せ、息のかかる距離で凄みを効かせる。軽い電流を手のひらに感じ、背後からの殺気に、気づくより先に体が動いた。
「さすがに気づくか」
咄嗟に体を返し、数歩分の距離を横に取った。ヴォルフを奪い返すように攻撃をして来たのは翠だ。小型ナイフが檻に当たり、軽い音を上げて床に落ちる。
低い姿勢を取り、次の攻撃に構えながら、どうしたものかと考える。出口のない檻、結界が張られている。軽い電流も流れていて、無理にこじ開けようとすると電圧が上がる仕組みだと推測できる。
ヴォルフは翠の腕の中に収まっていて、その表情は見えない。だが翠にとって大事な者なのだとは分かった。
別に志津木はヴォルフを口説いていた訳では無いが、先ほどの体勢は誤解を招いたのかもしれないと、翠の目に嫉妬を感じ、志津木は苦笑した。
「貴方は十分に役割を果たしてくれました。もう用済みです。ニアの事は忘れて下さい」
志津木の前に立ったのはヴォルフだ。
檻の中で倒れているニアを愛しそうに見つめて、次に志津木に向かい、冷めた表情をする。
ニアは眠っているのか。志津木の気配に気づいていない。志津木はヴォルフを警戒している。ニアを側にと思うのなら、檻に閉じ込めず、説得して見せるべきだ。
「用済みかどうかはニアが決める」
志津木がそう言うと、ヴォルフは嘲笑う。ニアを欲する者はみな、志津木を下に見る。権力者の奢りだろう。まともな者を見た試しがない。ヴォルフといい、アニエスといい、傲慢さが見て取れる。
「たかがお情けで聖気を得ただけのおまえが?」
「それは別にどうでも良い」
志津木にとってあれはいつも通り、合意の上の性欲処理だ。それに勝手に付属を付けられた。それ以上の意味はない。
だが志津木のどうでも良いと言う態度を見たヴォルフは怒りを見せる。
「聖気だ! 簡単に手に入るものではない! ましておまえのような人族の底辺が!」
怒りのままに怒声を上げたヴォルフを見て、志津木は笑う。喉を鳴らして笑い、ヴォルフを見やる。
「その底辺がマティアスを抱いた。国名にするほど偉大なのだろう? 悪かったな、そんなに怒られる事だとは知らなくて」
「うるさい! 黙れ!」
「纐纈翠はおまえにとって何なの? おまえだって聖気を持つひとりなんだろ? 翠だけじゃ足りなくてニアも欲しいの? それってワガママじゃねえ?」
ヴォルフは顔を赤らめて怒っている。まるで子供だ。おもちゃを取り上げられそうになって必死になっている。そうとしか思えない。
志津木が一歩一歩近づけば、ヴォルフは下がって行く。戦いに不慣れなのか? 志津木は感覚的にそう思い、一気に間合いを詰めた。華奢な檻だが結界があるのか、ヴォルフの背が檻に付いても崩れる事はなく、志津木の手は檻の無い部分に付いている。手のひらには平らな面の感触がある。
「ニアを渡して貰おうか」
顔を寄せ、息のかかる距離で凄みを効かせる。軽い電流を手のひらに感じ、背後からの殺気に、気づくより先に体が動いた。
「さすがに気づくか」
咄嗟に体を返し、数歩分の距離を横に取った。ヴォルフを奪い返すように攻撃をして来たのは翠だ。小型ナイフが檻に当たり、軽い音を上げて床に落ちる。
低い姿勢を取り、次の攻撃に構えながら、どうしたものかと考える。出口のない檻、結界が張られている。軽い電流も流れていて、無理にこじ開けようとすると電圧が上がる仕組みだと推測できる。
ヴォルフは翠の腕の中に収まっていて、その表情は見えない。だが翠にとって大事な者なのだとは分かった。
別に志津木はヴォルフを口説いていた訳では無いが、先ほどの体勢は誤解を招いたのかもしれないと、翠の目に嫉妬を感じ、志津木は苦笑した。
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