性癖って性格と同じだけ異なると思うんだけど俺に合う相手っている？

3 ご相談は相手を見て話しましょう

　素敵女子だからといって全てにおいて素敵とは限らない。

「マスターのカレンとウェイターのナナよ、よろしくね、新人さん」

　黒スパンコールがカレンで、ピンクウィッグがナナ。ナナに腕をホールドされて、ニコッて笑まれた。年齢不詳。どっちも。

「俺はユウキです。よろしくお願いします」

　カウンターの並び席には常連だろう男たちがいて、その隣に様々なタイプの男がいる。黒いサロンエプロンを付けているのが従業員で、ナナの他に3名がいて、客と話していたり、注文を聞いたり運んだりしている。話し声と笑い声と英国ロックの音。俺のことを気にしている客はいないヨナ？　と神経を尖らせ、自意識過剰かと息を吐く。

「ユウキちゃーん、よろしくね？　大学生かしら？　もっと強い酒、いる？」

「相談ってなに？　何系？」

　ワクワクッて雰囲気で前と左から詰め寄られて、ウィスキーを一気飲む。わおーとか言われて、新しい酒を作られて、プラス千円。時間が経つほど相談料が嵩む。ここはもう二度と来ないと勇気を出して第一声を小声で呟き、え？　なに？　って聞き返されて唾を飲み込んだ。

「ですから、俺の性癖に、ついて、デス」

　またもや、わおって驚かれ、特殊性癖？　ってナナに詰め寄られた。

「匂い、デス」

　え？　っとナナに引かれる。腕にしがみついていたのに解放されて、温もりが冷える感覚と引かれる感覚がマッチする。

「匂いってなに？　そういう匂いが好きとかそういうやつ？　男の汗の匂いが好きとか、下着の匂いフェチとか、そういう感じ？」

　カレンが酒を飲みながら、別になんでもないように言ってくれて、少しだけ気分を持ち直した。

「いえ、そうではなく、むしろ逆で、そういう時の匂いがダメで……」

「そういう時って、ヤってる匂いってこと？」

　ナナが微妙な表情でカウンターに肘をつき、体ごと俺を見て、変人っていうような視線を送って来る。

「……そうですね、そんな感じデス」

「ええ？　じゃあ、ユウキくん、童貞？」

　童貞！　言葉が響いた気がする。ザワッとした室内の空気に慌てて否定した。

「いえ、違います、それなりには——」

　なぜ慌てる。男として二十歳で童貞って恐ろしいんですけど、違いますかね？　明らかに期待した視線が向かって来た気がするんですけど？　そしてすーーーっと引いた気がするんですけど？

「ヤッた匂いで気づいたってこと？　でもそれって別に普通のことよね？　好きになれない人だってたくさんいると思うけど」

　冷静な大人の意見。そうだけど、そうでもない。

「なに？　トラウマ？」

　ナナに言われて頷いた。

「初体験の相手が素敵な歳上の清楚系女子で、上に乗られて——」

「ま、なにそれ？　ノーマルには垂涎のシュチュよね？」

　と、カレン。

「妄想癖あるんじゃなくて？」

　と、ナナ。

　ぶるると頭を振り、二杯目のウィスキーを飲み干した。さらに追加千円でもう一杯。相談料五千円。

「それで匂いもだけど、入る感覚もダメで、潔癖とは違うと思う、あの時だけで——あれから女はダメで、男も良いかなって思う部分もあって」

「男と試したいの？」

　ナナの目がスッとすがめられて、ぷっくりしたピンクの唇が弧を描く。

「ナナさんは女子っぽいから無理だと思う」

　思わず出た本音にナナが頬を膨らませた。

「女子っぽいってなに？　ナナが可愛いからでしょ？」

　ぷんすか怒って席を立ってどこかへ行ってしまった。カレンはあーあと言ってお酒を飲んでいる。俺はいつ何時でも空気が読めない。女子っぽいではなく、可愛いからダメだって言えば良かったのかと学習した時には、店内の可愛い系に嫌われていた。ウケとかネコとか言われる人たちに。