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14 本心か接待か、謎

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 人の性癖もいろいろだけど、好きの好みもいろいろで、いろいろだからこそ俺が選ばれる未来もあるのだとは思うのだけど。

「あんなのハルは辛いだけだろ?」

 俺が知っているのは男女の行為だけど、一方が我慢を強いられる行為は正しい行為とは言えない。

 食べ終わった食器をシンクに運ぶとハルも持って来る。俺が洗おうとすると「ありがとう」ってすかさず補助に入ってくれる。いいよ、やるよって言われるよりスマートな気がする。

「こんなの言うと引かれるかもしれないけど、俺はすごくよかったよ。ユウキの許してくれる範囲を探るのも、我慢してるのに煽られる感じも、俺に縋って泣いてるのも」

 すごい性癖に刺さるって、耳元で言われた。ゾクッとして震えた。強めにハルを睨むと、ハルの表情が甘く崩れる。

「逆効果」

 首筋にキスされて、ゾクゾクする。

「あーマジか」

 思わず呟く。ん? ってハルに見られて、下を向く。

「ああ、勃った? 抜く?」

「やんねえ、治る」

 どうやらずいぶん簡単に感じられるようになったらしい。っていうか人と触れ合うの久しぶりだからかも。でも触るのも出すのも、吐きたくないと思うから進めない。

「残念」

「残念とか」

 フッて笑って、洗い物終えて、コーヒーを淹れてもらう。

「俺、今日は帰る」

 コーヒー受け取ってソファに座る。ハルは前と同じように椅子に座った。

「残念」

「また残念?」

 普通だなって思う。風呂であんな事をしていたなんて嘘のようだ。

「ランチに行こうかとか映画観たいのあったかなとか、考えてた」

「土曜の混雑時には出かけない派」

 そう言うとハルは笑う。

「ユウキは土日出掛けない派、覚えておく」

「よろしく」

 コーヒーを飲み終わり、マグカップを返しに行くと、腕を引かれて止められて、じっと見上げられた。ああ、って思って屈む。チュッてキスをする。

「これってパターン化するの?」

 ニヤッと笑ったら、ハルが立ち上がって抱きしめられた。後頭部に触れられて、耳の所にキスされて、今度は舌を絡めるキスをされる。あーもう、朝から濃い。耳に響く水音がエロい。

「ん、も、おわ、り——ダメだって、おしまいだって」

 胸を押して距離を取る。

「ダメ?」

「ダメ」

 やっぱさ、昨日のアレだけじゃハルには足りないんだよな。俺はすげえ満足だけど。エロ動画とか観るとぐちゃぐちゃになるくらいしてるし。まああれはファンタジーって感じもするけど。実際、何回するもの? 蓮池は冗談だろうけど、朝昼夜違う相手とシたとか言ってた。最低でも3回? いや6回? 恐ろしい。

「帰るよ」

 一旦帰っていろいろ整理したい。

「ん、わかった。荷物持って来る」

 着て来た服が紙袋に入れらている。それを手渡されて、着ている服がハルのだと思い出す。

「服ありがとう。今度返しに来る」

「いいよ、あげる。ユウキに似合ってる」

 茶色の綿パンと白いインナーと深緑のシャツ。ハルとは服のサイズが同じらしい。俺の方が若干小さいし細いんだけど。

「あーうん、ありがとう。今度なんかお返しする」

「いいよ、気にしなくて。っていうか普段着てくれたら嬉しいんだけど、引く?」

 彼シャツ的なあれか? 俺の服を着てる的な楽しみみたいな。頬が熱くなる。そんなの俺がして楽しい? でもテレた俺を見てハルもテレてる。可愛い。

「気が向いたら」

 じゃーねって玄関を出る。送るって言うハルを押し留めて、さっさとエレベーターに乗り込んだ。さっきご飯食べてる時にラインの交換はした。ラインのアイコンがサッカーボールだ。名前はハル。これは共通のあだ名みたいなもん? 俺は優希にしてるから、本名ってバレてる。これからどういう付き合いになるのか、見当も付かない。ハルのあれが接待だったんじゃ? っていう疑問も拭えないから。
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