上 下
21 / 39

21 ハルの部屋はいい匂いがする

しおりを挟む
 やる事も考える事もたくさんあるのに、好きな人に対する想いがあると悲惨で、ベクトルが大きく振れる。しかもそれが痺れるほど幸福であったりするから致し方なく、ただ腑抜けである事に間違いはない。

 サッカー道具を引っ張り出して、道具の手入れをするとか。考えるのはハルの事で。ハルって何でもそつなくこなしそう。俺はユースにいたってナイショにしたいくらいに上手くない。小6までは自分がうまいって酔っていられたけど、いざユースに受かって入ってみると、俺くらいのヤツなんて普通で、もっと上手いヤツがゴロゴロいて。金は掛かるし、親の負担も大きくて、中3になる前に辞めた。完全な負け犬で、高校は帰宅部。友達と遊びもしなくて、授業がサッカーの時はサボっていた。大学に入ってお試しで誘われて数回行ったのも、五條がいたから、それだけの理由。

「おじゃまします」

 スポーツバッグ抱えてハルのマンションに行けば、サッカーの用意しているのでお泊まりってわかるって喜ばれて、なんとも言えない恥ずかしさがあった。

「お酒飲む?」

「ん、少し」

 ハルの服着て来た。明日はジャージだし。良いかと思って。それも喜ばれたっぽい。

「ツマミ用意してくれたの?」

 クラッカーにチーズ乗ってるのと、ナッツとチョコ。ごはんも風呂も済ませて来たから、あとは寝るだけ。それはハルも同じ。黒いスエット上下を着てる。

「明日6時集合なのに、ずっと居てくれるの?」

 ソファの隣にハルが座る。グラスに氷が入っていて、ハーブっぽいのが入ってる。オシャレすぎる。缶酎ハイで良いのに。ビールとか。受け取って、なんとなくグラス合わせて、飲む。微炭酸で爽やかな味。

「分からないから一応」

 頬に触れられる。ハルの雰囲気が甘い。あの日、大学に凸られた日の言い訳はラインで話した。通話をした時はまだ俺の話になっていなくて、あの日は会う約束をしていて、急遽話が出て、俺を呼び出したそうだ。暇だねっていう感想。

「居て欲しいな」

 ハルの指が俺の唇に触れる。っていうか、ヤル気があって来てるから良いんだけど、でも雰囲気が甘いの、落ち着かない。せっかく用意してくれてるツマミを食べる気にはなれない。さらって髪に触れられて、指で髪をすかれて。ハルを見たら視線が合って、合えばキスしたくなる。

「ベッドでできそう? お風呂が良い?」

 チュッチュッてキスされて、頬とか、いろいろ触られて、ハルからはいい匂いがする。キスもお酒の味。徹底してくれていて、緊張はするけど、気分は良い。

「お風呂?」

 でも慎重になる。まえに出来た事は出来ると思うから。

「用意できてるよ、おいで」

 手を引かれる。おいでとか、くすぐったい。ハルの目が真剣で、なのに性的な欲求が見えて、ゾクゾクする。
しおりを挟む

処理中です...