煩雑

みづき

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少女の脱出

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 意識が朦朧とする中、疲れと痛みに襲われる。

いつものお母さんが隣で眠る布団の中ではないことに気がつくのと同時に、お腹から肩にかけて紐で縛られていることに気がつく。

まだはっきりとしたことはわからないが、どうやら閉じ込められているようだった。

しかし、体が言うことを聞かず、動くこともままならない。

疲労のせいなのか、それとも何か盛られたか。

一刻も早くこの場所から抜け出さなくてはならない。

そんな気がしていた。


 あたりを見回すと、四角い箱の中に閉じ込められていることを理解した。

しかし、なぜこのような状況に陥ったのか思い出せない。

昼間お母さんと喧嘩して以降の記憶が曖昧であり、そこから今に至るまでどれくらいの時が立ったのかもわからない。

しかし、これだけは言える。

私はこの四角い箱から脱出しなくてはならない。

時間は刻一刻と進んでいるのだから。
 

 現在私は、閉じ込められた箱の中の左後ろにいることがわかった。

箱の出口は四面の内三面しかなく、出口の存在しない面を前方と考えた時のことである。

そこに私は縛り付けられているのである。

まずはこの紐を解かなくては外に出ることもできない。

出口には当然ロックがかかっているだろう。

三つの出口どこから出るかも考えなくてはならない。

通常なら一番近くの左側に位置する出口から出るべきだが、安易に考えてはならない。

罠の可能性も十分に考えなくてはならない。

こんなことになるなら喧嘩なんかしなければよかった。

早くここを抜け出さなくては。

そして、家に帰らなくては。

帰ってお母さんに謝ってもうこんなことが二度と起きないようにちゃんと言うことを聞かなくてはいけない。

精神的にも参ってしまいそうになるが、寂しさに浸っている暇はない。


 もうどれくらい経っただろう。

はっきりしたことはわからないが、出口には外を見渡せる小窓がついていた。

最悪ここを壊して脱出しなくてはならない。とりあえずこの縛られている紐をどうにかしなくてはならない。

体を揺すって外そうと試みる。

そこまで固く縛られていないのと紐は伸びる性質でできていることに気がついた。

紐を解くことはできなかったがすり抜けることに成功した。

しかし、その瞬間全身に痛みが走る。

やはり、何か毒物のようなものを盛られたか。

どっちにしたってもう長くはない。

早くこの場所から抜け出さなくてはならない。


 一番近くの出口に近寄り押し開けようとするがびくともしない。

どこかにスイッチかカギのようなものがあるかもしれない。

あたりを見渡すがそのようなものは見つからなかった。

ふと、小窓の外を見るとボタンのようなものを発見した。

しかし、この場所は密室であり、ドアの外にはとてもじゃないが手を出せるような場所はなかった。

やはりこの窓を壊すしか方法はないのかもしれない。

近くに壊せそうなものは何も落ちていない。

手で叩いてみるも、全く割れる気がしなかった。

すると外に人がいることが確認できた。

この機を逃すわけにはいかない。

大声で外の人に向かって叫んでみた。

外の人間は全くこっちを見向きもしない。

この空間は音も外には出してはくれないのだ。

身振り手振りで表現するがこっちをみることはなかった。

しかし、偶然にもその人は、外のボタンのようなものを押したのである。

こんなに上手くいっていいのだろうか。

だが、その幻想は一瞬にしてかき消された。

何も起こらなかったのである。

三つの出口全てを確認したが、どこも開くことはなかった。

絶望と同時に、痺れるような痛みが走る。

もうどうすることもできないのか。

涙を流し、後悔とともに意識が抜けていった。


 あれから何時間経ったのだろう。

いや、実際そんなには経っていないのか。

時間の感覚が曖昧になってしまっている。

早くここから脱出しなくては。

先程の絶望は薄れていたが、希望はどこにもない。

箱の中は何一つ変わっていないのだから。

ふと、先程の人のことを思い出す。

なんとか知らせれば助けてもらえるかもしれない。

出口に近寄り、窓の外を覗くと先ほどとは違う景色が広がっていた。

不思議に思っていると、その箱自体が少し揺れたのである。

地震かと思うと同時に一番近くのドアが開いた。

よくわからないことが連続して起こったが、助かったと思い勢いよく飛び出す。

しかし、時間切れのようだ。ドアの外にはお母さんが笑顔で立っていた。

潔くここはついていくしかないのかもしれない。

途中で抜け出せなかったのだから。

逃げられなかった私の負けだ。

外に出て頭上を見渡すとそこには「さくら歯科クリニック」と看板が立ち上っていた。

私は腫れた右頬を押さえて覚悟決めた。
 
 

 ~あとがき~

 私は小さい頃、虫歯にはなったことなかったですが、歯医者は今でも怖いです。

ゴム手袋のような独特な匂い、何かを削るドリルの音、待合室の緊張感。

名前を呼ばれると大人ながら直立で立ち上がってしまいます。

そして処刑台へ登る階段のように一歩一歩足を出す時、これまでの行いを考えるのです。

もっとちゃんと歯を磨けば良かった。

甘いものを控えれば良かったと。

まあ実際はそんなに嫌なものではないのですが、緊張しますよね。

歯医者までの道のりの恐怖と時間の迫った脱出ゲームに似通った物があるなと思い今回は書かせてもらいました。

今回は初投稿なのですが、続けられたらと思います。

それではまたいつか、どこかで。
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