寵愛バトル~ワンオペ王妃ソフィアの苦悩の日々~

高橋 カノン

文字の大きさ
20 / 50

020 ドレス合わせ

しおりを挟む
ウィリアムがこんなに子供っぽい事をするとは、にわかには信じられないが、そろそろ現状を受け止めないといけないようだ。実際にアリアドネは、夜会に出席できないかもしれないのだから。



(フローリアの衣装がピンクだから何だって言うの!)



 怒っていても三日後には夜会が開催される。ウィリアムに直談判したら、藪蛇になりそうである。今からボール・ルームの壁紙をピンクに塗り替える事も考えたが、会場に手を出してはガーランド伯爵夫人の怒りを買って、余計に面倒な事になるかもしれない。



(それであれば、”ドレス合わせ”だわ)



「アリアドネさん、ピンクのリッツパール夫人のドレスを着てください」

「え、でも。陛下のお怒りを買うんじゃ……」

「私も、ビアンカさんも着るのです」

「ドレス合わせをいたします。女のドレス合わせには、どんな男性も口出しは出来ませんわ」



 ドレス合わせとは、仲がいい令嬢たちが同じ色やモチーフのドレスを着て、仲の良さをアピールするものだ。使い方によっては、誰かを仲間はずれにする事も出来る、社交界の「手法」の一つである。女性特有の社交のテクニックなので、男性は口出ししないという暗黙の了解がある。



 今回は仲間外れではなく主役に揃えるので、ある意味非常に嫌味な方法ではある。だが、先に手を出してきたのは向こうなのだ。



 ビアンカやアリアドネと私は、急いで今回の夜会に招待されていそうな、仲の良い令嬢たちに手紙を送った。義母にも着てもらいたかったが、それはさすがに諦めた。



 王宮に戻った事はウィリアムの耳にも入っただろうが、何かと理由をつけて当日まで顔を合わさないように気をつけた。その間、私は父の公爵に今回の経緯を説明して、対応を相談していた。



 夜会やドレスだけならまだしも、ガーランド伯爵夫人が介添え人シャペロンを務めるのは、公爵家としても看過できない。伯爵家とはいえ、富豪で有名な家門である。ガーランド夫人は王の姉でまだ若く、社交界では一目置かれている。



 ビアンカの実家のクランドリー伯爵家もアリアドネのカトル子爵家も、結局はフォースリア家と同じ派閥である。王家が一つの派閥に偏るという批判もあるが、ウィリアムの出自をカバーするには、必要な事だと考えられるのだ。少なくとも、フォースリア家はそう理解している。



「お父様、ガーランド家がフローリアの後ろ盾に入るという意思表示でしょうか?」

「まあ、そうだろう。だが、陛下がそこまで考えているとは思っていないが……」

「陛下はもう何を考えておられるのか……」

 私は父の前で、つい泣き言を言ってしまった。



「ソフィア、お前は王妃だ。王子の立太子まで、気を強く持ってくれ。本来ならそれほど急ぐ事もないのだが……なるべく早くエドワード様には王太子になって頂く」



「……まだ、二歳ですわ」

 ウィリアムがまだ若いので、普通なら王太子の指名はまだずっと先のはずだ。



「フローリア妃の事は、少し軽く考え過ぎていたようだ。エドワード様の基盤を出来るだけ早く固めておきたい。色々と気にかかる事もあるのでな。ソフィア、体調が悪いのに苦労をかけてすまないな……」

「お父様のせいではありません。皆、ウィリアム陛下が悪いのですわ……」







 そして、夜会の当日になった。次から次へと、王妃宮の正面玄関に馬車が付けられる。招待客の多さに驚いた。マクレガー子爵に招待客のリストを貰いたかったが、下手に動くとウィリアムの耳に入る。水面下で有力な令嬢や夫人たちに連絡を取っていた。



 当日まで連絡した令嬢たちが、ドレス合わせしてくれる保証はない。当日に裏切られる可能性もある。私とビアンカ、アリアドネは、バルコニーから馬車を下りる女性たちの衣装をじっと見つめていた。概ね、協力を仰いだ女性たちが、こちらに付いてくれる事がわかった。



 それと同時に、フローリアのドレスも途中で変えられる可能性がある。こちらはローレンが派閥の令嬢や、下働きたちを使って目を光らせていてくれている。

「王妃様、フローリア妃がピンクのドレスで西宮を出たようです」

 ローレンが耳打ちしてくれた。



 会場では、マチルダが様子を偵察している。マチルダの使いが逐次情報を持って来る事になっている。

「会場はピンクの夫人方で埋め尽くされているようですわ」

 シンクレア夫人が教えてくれた。



 会場に人が集まり、国王と王妃が入場する時間となった。さすがに側室と入場する事はできないが、王妃不在の場合は別である。おそらく、フローリアと入場するために私に内緒で夜会を開きたかったのだ。



 入場のドアの前でウィリアムと顔を合わせた。半月ぶりの再会である。私のドレスを一瞥するなり、プイとそっぽを向いた。傷ついたのは事実だが、会場のドアを開けるときっと気持ちがスッとするはずだ。そう思って耐えた。



(やれるだけの事はやったわ。私に恥をかかせる作戦は失敗だわ、ウィリアム)



「国王陛下、王妃陛下のご入場です」



 ドアが開けられると同時に、入場の音楽が奏でられた。まばゆい光の中に、ピンクのドレスの令嬢や夫人たちがひしめき合っている。視線だけ動かして、そっとウィリアムの表情を覗いた。思惑通りちょっとだけ、気持ちがスッとした。

(でも、同時に空しくもあるわね……)



 王と王妃の席につくと、ウィリアムが立ち上がり、本日の夜会の趣旨を説明した。そして、いよいよフローリアの入場である。ピンクのシルクのドレスだった。複雑なひだが重なり合い、ホワイトパールが全体にあしらわれている。まるで妖精のようだった。



 ウィリアムは意気揚々と、フローリアのエスコートのために階下に向かって行った。ウィリアムに手を取られ、フローリアは花の様に微笑む。確かに、これで皆が違う色の衣装だったら、きっと切り取られた絵のように美しかっただろう。多少なりとも相手の作戦に水を差せたと思うべきなのだろうか。



 そして、唐突に音楽が鳴った。



 ダンスは最初に国王夫妻が踊るものである。私が着席している間に、ダンスのための音楽が鳴るなどあり得ない事だ。

 するとウィリアムが、優雅にフローリアに礼をして、ダンスに誘っている。私の前にフローリアと踊ろうというのだろうか。



 確かに以前、アリアドネのデビュタントのファーストダンスは、ウィリアムが踊った。彼女をエスコートした男性の面目は丸つぶれとなった。でも、その前の国王夫妻のダンスは私と踊っている。心臓が痛くなってきた。



(ウィリアム!あなたは、それ程までに私を疎ましく思っているのですか……!)

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

恋詠花

舘野寧依
恋愛
アイシャは大国トゥルティエールの王妹で可憐な姫君。だが兄王にただならぬ憎しみを向けられて、王宮で非常に肩身の狭い思いをしていた。 そんな折、兄王から小国ハーメイの王に嫁げと命じられたアイシャはおとなしくそれに従う。しかし、そんな彼女を待っていたのは、手つかずのお飾りの王妃という屈辱的な仕打ちだった。それは彼女の出自にも関係していて……? ──これは後の世で吟遊詩人に詠われる二人の王と一人の姫君の恋物語。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...