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旅立ち

飲み屋にて

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アーヤに連れられて?いや、引っ張られて飲み屋に入った。もちろん見向きもされない。アーヤが目の前の3人組のお客さんにまっすぐ向かっていく。ま、待ってくれ、そのお客さんめっちゃいかつくないか!?

「ま、待ってくれ!」よりにもよってそんな人に話しかけなくてもよくない?!!

そんな俺の声にはお構いなしのアーヤ。鬼畜!!

とうとう着いてしまった。さすがに自分のテーブルに知らない人間が立ち止まると気になるよね~。こわもての男がこっちを見た

「おう、なんか用かい?あんちゃん」

「あの~、ちょっといいですか?」

「言ってみな」

「実は僕らクルトから逃げて来たんです、何か知っていることありませんか?」

眼力が強すぎて目が離せなかった

「そうかい、それは災難だったなぁ。まぁ座れや。姉ちゃん!イス2つ!」
店員さんがイスを持ってきてくれた。アーヤと共に座る。

「嬢ちゃんも大変だったな」こわもてさんがアーヤに話しかけたが、アーヤは首をかしげる。

「この子、俺が助けたときは気絶してて、目が覚めたらその時の記憶が無くて。声も出なくなっちゃったんです。俺はたまたま外出してて助かったんですけど。」

こわもてさんが少し考え込んで悲しそうにつぶやいた

「そうだったのか。帝国もひでー事しやがる、あいつらはあんな事しといて国のためだとか言ってんだ。何があろうと、人が人を殺す道理なんてあるわけねぇだろうに。憎しみや怒りじゃなく、自分が正しいことをやってると思い込んで殺してるのが尚更たちが悪い」

この人めっちゃ良いこというやん・・・

「すいません、せっかく楽しんでいるとこ邪魔しちゃって」

「気にすんな。つれぇ事があった奴を無視してまでどんちゃんするつもりはねぇ。姉ちゃん!ビル2つ!」店員さんが飲み物を持ってきた。ってこれ、まんまビールだ!ついよだれが出そうになる。

うん?待てよ

「そういや、アーヤって酒飲めるのか?」とアーヤの方を見ると、ものすごく目を輝かせているー!
俺を見てうんうん頷いている。ちょっと首がざわついたが、まぁいっか。

「これは俺のおごりだ、ちょっとは気が紛れると良いな」

「ありがとうございます!」

5人で乾杯する。ビール飲むのはいつぶりだろう、『うまい!うますぎる!は、犯罪的だ!!』
彼の言う事がわかる日が来るとは!ほぼイッキしてしまった

「くーーーーーーー!!!たまらん!!」ビールは疲れれば疲れるほどうまくなるというが、全くその通りだ。人生で1番うまい!

俺が空のジョッキをテーブルに置くと、ほぼ同時にアーヤも置いてきた。まさかあの量を飲み干すなんて!他の3人も特に問題なさそうに飲み干す。この人ら何杯目だよ・・・

「アーヤ、そんなに飲んでだいじょう・・・」言いかけたが、大丈夫ではなかった

耳が真っ赤で目がとろんとしている。フラフラし始めた。

「言わんこっちゃない、ほらこっち」

とりあえず、俺の膝の上に頭を持ってきて寝させた。

「すいません、さっそくつぶれちゃいましたねー」

「ふん、かわいいじゃねぇか。」こわもてさんにはアーヤの酔い顔は好評だったようだ。

「ところで、みなさんは何をやってるんですか?」

「俺たちは狩人だ。旅をしながら街を襲う野獣を討伐して稼いでる。ここら辺はそこまで凶暴な野獣はいねぇから楽だったぜ。」

「なるほど!かっこいいですね!」

「へへ!そうだろう。ストレス発散にもなるしな!ガハハ!」

この人は自分も危険だいうことを忘れないか?まぁ、見るからに強そうだけど。とか思いつつ本題に入る。

「俺はこの子を医者に見せたいんです。どこか良い所を知りませんか?」

「うーん、そうだなぁ。リコーンなんてどうだ?確か有名な医者がいただろ。」

「ちょっと遠いが、帝国もまだあそこには手を出せないだろう。」仲間の1人が答える

「ていうわけだ。チスタの西門を出て、カスタを挟んでさらに行ったところだ。道なりに進めば問題ないだろう。」

「いろいろありがとうございました。リコーン、行ってみます!」

「おう、気をつけてな。道中の野獣は片づけておいたから大丈夫なはずだ。俺たちはクルトへ向かう」

「クルトに行くんですか?」

「あぁ、街が灰になってそのままってわけにはいかねぇだろ。片づけないと再興もできねぇ、何より人間の死体に野獣が集まってきちまう。」

「ホントにすごいですね、尊敬します。良かったら名前を教えてもらえませんか?俺はエンシです。」

「俺はオーノ、こいつがカズナ、そんでこっちがレオスだ。」

「オーノさん、カズナさん、レオスさん。本当にありがとうございました!またどこかで会いましょう!」アーヤをおんぶして彼らに別れを告げる。

「おう!あんちゃんらはあそこから生き残った強運の持ち主だ、強く生きてくれ。困ったことがあったら言いな、なるべく助けになるからよぉ!」

「はい!」

どうやら異世界でも、見た目は怖いが実はめっちゃ良い人ってことはあるらしい。

『俺をあそこに引っ張ってくれたアーヤに感謝だな』アーヤの寝顔に微笑みつつ、宿へと歩いた。

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