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リコーン編

別れ

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カスタに向かうとしてもこのまま突っ込んだら帝国兵が無差別に襲ってくる。あいつら、本当は災いをもたらす者なんてどうでもいいんじゃないだろうか。

アーヤは俺に抱き着いたまま、みんな終始無言だった。回り道をしてカスタから少し離れた所に船を着ける。

カスタに到着すると、多くの帝国兵が駐留していた。血は流れていない、さすがに災いをもたらす者が居るとされる場所以外は攻撃していないようだ。

ふぅ。深呼吸して近くの帝国兵に話しかける。リコーンにいた兵士と鎧が少し違う、ちょっと上の役職なのだろう。

「あの~、ちょっといいですか?」

「どうした?」

「俺、災いをもたらす者っぽいんですけど~」

「なんだと!? こっちに来い!」

俺は帝国兵に連れられて歩いている。でも、思ったより普通だ。
災いをもたらす者が出てきたって言ってるのに手すら縛らないなんて。

「あの~、思ったより何もないんですけど・・・」

「うん? 俺もよくわからんが、『もし、災いをもたらす者を捕らえることができた場合、丁重に私の所に連れてくるように』とハイウェル様から仰せつかっている。」

「そうなんですね」

どういうことだ?意味が分からない。たくさんの人を殺しておいて、目的の人間が見つかったというのに丁重になんて。

「お前たちはなんだ?」帝国兵が俺以外の3人に気づいたようだ

「私、リコーンで医者をやっているジャスミンと申します。この男、過去の記憶を失っており、自分が災いをもたらす者かもしれないと言うので、私たちで連れてきました。」

ジャスミンがすばやく応答する。

「そうか、君たちにも話を聞かせてもらおう」うまく一緒に話ができるようにするあたり、さすがジャスミンだ。

まもなくして、見た感じ確実に指揮官ぽい人の前に連れて行かれた。渋い顔の、まさに智将という顔立ちをしている。

「ハイウェル様、災いをもたらす者と自称する男を連れてまいりました」

「そうか。はぁ、見つかったか。 彼をこちらに」

俺含め女性陣もハイウェルさんの前に通される

「君が、災いをもたらす者だと?」何もかも見透かされそうな目だ

「まだわかりません。しかし、自分はつい最近、何もわからない状態でクルト付近で目を覚ましました。この世界の物ではない道具を持っており、行く所がことごとく帝国軍に攻撃されているので、もしかして自分が災いをもたらす者なんじゃないかと思った次第です。」

「この世の物ではない道具?」

「これです」スマホを取り出す

「これは何だね?」

「自分にもわかりません、記憶が無いもので。文字も読めないんです。何かを映し出す道具のようですが」説得力を持たせるにはこの手を使うのが良いだろうと判断した。調べられた所で大したことはわからないだろうし、電波も無いんじゃ使いどころもほとんどないからな。

「どうぞ」ハイウェルさんにスマホを渡す。

「ふむ。まさか自分から名乗り出るとはな、進んで汚名を被ろうとするなど普通は考えられん。怪しいと思っておったが、君が災いをもたらす者である可能性は十分考えられるだろう」スマホを見ながら話す。

「君には帝国の城に来てもらう。調査をした後、君が災いをもたらす者であるならば、おそらく公開処刑になるだろう。これだけの事をしてしまった。既に各地で帝国に対する暴動が起き始めている、民の怒りを鎮めるにはこの方法しかあるまい」

「その代わり、すぐにこの侵略行為を止めてもらえませんか? 災いをもたらす者が現れたのならもう必要ないはずです。自分が言うのもおこがましいですが、やり過ぎでしょう?そりゃ暴動も起きますよ」

「貴様!ハイウェル様に口答えする気か!!」周りの兵士が剣を抜く

「待たんか!!!!」ハイウェルさんの一言で一瞬で静かになる

「この者の言う事はもっともだ。私はこの作戦の指揮者、もとより地獄に落ちる覚悟はできておる。だが、私にはやらなければならない事があるのだ。災いをもたらす者を見つけ出す必要が、、」

何やら裏がありそうな発言をするなぁ

「災いをもたらす者は捕らえられた。すぐに軍を引き上げさせろ」

「は!」兵士の1人が駆けだしていった。

「これでいいだろう。ところで、そっちの君たちは。何か知っていることがあるのではないのか?」
ハイウェルさんがアーヤたちに話を振る。

「私はジャスミン、医者をやっている者です。この男は記憶もそうですが、現在肩に大きな傷を負っています。この薬で炎症を抑えなければまだ危険な状態です。持たせてください」ジャスミンが俺の服を少し脱がせて説明する。

「わかった。薬の所持を許可しよう。次はそなただ、目が泣き腫らしているようだが」ハイウェルさんがアーヤに話を振る。アーヤはずっとうつむいている、後ろからレーナさんが支えてくれている。

「この子はクルトの侵略に巻き込まれて声が出せなくなりました。災いをもたらす者と帝国軍の指揮官、並々ならぬ思いがあるはずです」

「そうであったか、、。辛かっただろうが、謝罪はしない。全てを背負うつもりだ。わかってもらおうとも思っていない。」ハイウェルさんが答える

「私は何も無いよ」レーナさんが先に言う

「そうか、詳しいことは城に戻らないとわからない。すぐに出発しよう」ハイウェルさんの一言で兵士が準備に入る

「ここでお別れだな」みんなの方を振り向く

「エンシ・・・、気をつけて。」ジャスミンが呟く

「しっかりな」レーナさん

「アーヤ、声、出るようにしてやれなくてごめんな」

そう言うとアーヤがおもむろに紙に何かを書いてこっちに来た

アーヤに優しく抱きしめられる。

「やめろよ・・・、つらく、なっちゃうだろ、、、」涙がこぼれそうになる

アーヤが紙を俺のぐるぐる巻きの包帯の間に挟んだ。

少しこっちを見つめた後、ジャスミンたちのところに戻っていく

俺も方向を変えて帝国軍の馬車に向かう。俺、これからどうなるんだろう・・・

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エンシと別れてカスタを歩くアーヤ、ジャスミン、レーナ

「アーヤ、レーナ、わかってるわね?」ジャスミンが問う

「もちろんさ。あいつが災いをもたらす者だろうがなんだろうが、このまま終わったんじゃ私のプライドが許さないよ」

アーヤの顔も決意に満ちている

帝国軍の侵攻を止めるにはこうするしかなかった、でもエンシを見捨てるなんてこれっぽっちも思ってない。

「エンシを・・・助けるんだ!」




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