上 下
8 / 114
異世界っぽい現実 第4章

MMM(トリプルエム)始動っ!

しおりを挟む
 4月の暮れも近づいてきて、だんだんと花粉とかい殺人粉も消え失せつつあることに喜びを感じながらも早瀬の転校になんの関心も抱かずに静かに暮らしたいという願いを望月にぶち壊され続けてそんな願いは叶わないと諦めつつあったある日、最近いつも通りになりつつあるやかましい朝が誰も求めてないのに律儀にもやってきた。
 こんなグダリまくったことしか言えないのも疲れてきたせいだろうか。
 毎朝からの疲労の原因が足音をバタバタとやかましくたてて近づいてきた。自分の手狭な部屋のベッドで布団にくるまりつつ、せめてもう少しくらい静かにしてく…………
「朝だマスターっ! 起きろーっ! 」
「ぐはぁっ! 」
 頼むから毎朝毎朝俺のみぞおちにダイブして起こしてくれるな。このままいくといつか死んでしまう気がする。
「そうでもしないとマスター起きないじゃん」
 というのがこいつの言い訳なのだが、そんなことせんでも俺は充分起きれる。
 目覚まし時計が3個あれば俺の眠気だって吹っ飛ぶだろうに、こいつの目覚ましは俺の快眠どころか眠気という概念を忘れてしまいそうになる。睡眠欲が一切失われるのだ。目覚まし時計20000000000個分くらいに相当しそうだ。
「マスターはやくはやくっ! 」
 無理やり布団を引き剥がされて俺は瞳孔が微妙に開いた状態で朝メシの準備に取り掛かる。
 望月はともかく立花まで料理が出来ないのは参ったね。
 3人分の朝メシと弁当と晩メシをつくることを強いられた俺は朝っぱらからいそがしくタダ働きをさせられることになった。
 もう一つ参ったことがある。
 2人とも俺以上に食欲がハンパではないのだ。どこぞの漫画の主人公みたいな食いっぷりな望月と、いつの間にか食べ物が消えているというミステリーを引き起こすバキュームのような食いっぷりの立花のせいでメシも実質6人前つくらなければならない。(俺1人前望月2.5人前立花2.5人前)
「マスターっ! はやく着替えないと遅刻するよ? 」
 俺の居候のメシ事情を話している間に朝メシとは思えない量を食い尽くした2人はすぐさま顔を洗って制服に着替えていた。
 俺はというとやっとこさメシが終わりそうってところだ。
「マスターはやくーっ! 」
 朝からせわしなくうるさいヤツだ。
 それにしても今日はテンションがやたら高いな。何かあるのか?
「何があるのかって、今日は1年生旅行じゃん! 楽しみだなぁ。マスターはやくはやくっ! 」
 あぁ、そうか。今日は確かにそんなイベントがあったな。
 1年生旅行とは正式名称「新1年生全体校外学習兼新1年生親睦会」、通称「1年生旅行」だ。やたら長い名前だが、この名前でおおよそ教師たちがやりたいことが伝わってくるだろう。ようは遠足なのだ。
 クラスの壁を取っ払うことも目的らしく、クラス内外関係なしに班が編成された。
 そのおかげなのかそのせいなのか、俺の班は魔法少女×3+俺といういつも通りなんの変わり映えもしないメンバーとなった。おかげで大喜びなのは望月だ。
「知らない人と班を組んでも面白くないもんっ! 」
そういうのをなくすための校外学習なのだろうに。
 望月がいつも以上に近所迷惑なのはそのせいか。
 やがて俺たちは行きしに早瀬と合流して学校に向かった。
「楽しみだね! 1年生旅行」
「ええ。これも私たち3人とマスターの仲を深めるいい機会だわ。今日は一日中じっくり楽しみましょ? 」
「……わかった」
 何がわかったのだろうか。
 たかだか県の隅のほうにある歴史資料館に行って近くのオンボロテーマパークに行くだけでよくそこまで期待出来るものだ。
 俺はそんな叶うはずもない期待なんてマリアナ海溝の底に置いてきたというのに。
 望月の足どりは軽やかで今にもフワリと浮いてしまいそうな程だが、俺の足どりはそこまで重くもなく軽くもない微妙な感じだ。
 なんとなく魔人が出てきそうな気がして仕方がないのだ。何事もなく終わるわけないよな?こいつらがいるんだし。

 こうして始まった1年生旅行。
 催眠術師校長のせいで7割の生徒を快眠に陥れる恐ろしさを味わいつつもなんとかバスまで辿りついて席につくことができたのは奇跡としか言いようがない。いっそのこと理性に身を任せて寝てしまおうかと何度考えたことか。
 バスの座席は班で固められており、各自あらかじめ持ってきたカードゲームでバスの旅を楽しんでいる。
 俺たちも例外ではなかった。早瀬がトランプ2セット、ウノ1セットをわざわざ持ってきたのだ。なんでトランプは2セットも持ってきたんだ?
「なんとなく……かしら? トランプってソリティアみたいに何セットも使って遊ぶゲームが多いじゃない? だからかな持ってきたのかな」
 ウノは不人気なのか知らんが俺と早瀬でポーカーを、望月と立花でババ抜きを始めた。
 俺も早瀬も賭け金のレートを知らなかったので最小10円~最大100円、買ったほうが相手の賭けた金をもらえるということにした。賭け金の額が少なすぎるのはできるだけ無害な方がいいという判断からきたものだ。それなら最初からノーレートでよくないか?
 ロイヤルストレートフラッシュでも出てこないかと期待したんだが、そんなどこぞの博打漫画みたいなことはさすがに起きなかった。1番いい手でフルハウスだった。
 ありがとよ早瀬。5勝2敗でほんのちょびっと財布が潤ったぜ。まぁ砂漠に水滴をたらしたみたいな感じだったが。
 8戦目に取り掛かろうと早瀬の悔しそうな顔を拝みつつ準備に意気揚々と勤しもうとした時、望月がアホなことを思いついたのかガタッと急に立ち上がった。
「ねえみんな! 私たちのチームに名前をつけようよ! 」
 俺たちの名前?大変申し訳ないのですが丁重にお断りさせていただきたいと思いま……
「だって13班ってなんかイヤじゃない? 不吉な数字だし私たちにはあんまり向いてないよ」
 なにが向いてないのだろうか。そんな迷信を信じる気などないしどうでもいいだろうそんなもん。
 とりあえず名前をつけてかっこよくキメたいってのが本音なんだろ?
「あはははは……やっぱり分かっちゃった? というわけでみんな! 私たちのチーム名にふさわしい名前を考えようっ! 」
 どうやらなんとしても名前をつけたいらしい。
「……こけし四人衆」
 ポツリと呟く立花。
 こけし?なんでまたあんなキモイヤツを俺たちのチーム名にしようというのか。
「こ……こけし? 」
「そう」
「なんでこけしなの? 」
「可愛いから」
 空気が死んだ。
 あのおちょぼ口の顔面崩壊寸前人形のどこが可愛いのだろうか。夜に見るとちょっと怖いくらいしか印象にないあの小さな人形に魅力を見い出した立花はどこかドヤ顔のような表情を0コンマ数秒だけ見せたのは気のせいではないはずだ。
「ほ、他にはある? 」
「全員の頭文字をとって名前にするのはどう? 」
「それだ!さすが真理ちゃん!えーっと……まもたは? 」
そのまんま過ぎる。もうちょっとはひねってくれ。
 順番変えるとかしてなんとか意味のある単語にならんのか?えーっと……もたはま?
「そうだっ! 」
 今度はなんだ。
「私たちの活動目的をそのまま名前にすればいいんだ! 」
 俺たちの活動目的なんて校外学習を楽しむくらいしかないだろ。それ以外なにをするというんだ。
「普段からの活動だよ! えーっと……なにがあるかな」
「普段からの私たちの生活か……例えば、マスターを魔人から守ること? 」
じゃあ俺は関係ないってことだな。
 どうやら俺は13班をクビになったらしいな。
「わかった! 
M(マスターを)
M(みんなで)
M(守る会)
でトリプルエムっていうのはどう? 」
 全然よくない。
 なんだそのダサダサの名前は。
「凄いわね! なんかかっこいい! さすが愛果ちゃん! 」
 早瀬はどうやら気に入ったらしい。お前はそれでいいのかよ。こんなテキトーに考えたクソダサい名前でも。
「響きがいい……と思う」
 全くよくない。
 立花よ。お前までこんなゴミ箱のあだ名みたいな名前でいいのか?
 ゴミ箱のあだ名というのは少し言い過ぎたが、それでもこんな泣きたくなるような名前は受け入れられん。断固抗議する。
「えーっ! こんなにかっこいい名前なのにーっ! 」
 それでもいやなもんはいやだね。
 というよりダサい。かっこよくは決してない。
 その名前のなにがいいというのだ。
「今日から私たちはトリプルエムだ! みんな! ファイトっオーっ! 」
 ダメだこりゃ。
 穴があったら入りたいくらいの名前で俺たちは活動していくらしい。
「で? そのトリプルエムの活動目的を具体的に教えてくれ。まぁだいたい分かるが」
「みんなでマスターを幸せにすることっ! 」
 おいおい。
 はやくも活動目的が完全に変わってるぞ。マスターをみんなで守る会って名前のくせに俺を幸せにするだと?それじゃ名前詐欺もいいとこだ。
しおりを挟む

処理中です...