魔法少女の魔法少女による魔法少女のためのご主人様幸せ化計画

円田時雨

文字の大きさ
14 / 114
MMM(トリプルエム)の見守り計画

さんっ!

しおりを挟む
 ゴールデンウィークの初日、長い連休の初日は旅行とかに行くこともあるだろう。しかし、そんな予定や金のないやつはアリがエサに群がるように人間も近くにある人気の場所へ群がるというものだ。デートスポットともなればゴールデンウィークにイチャイチャしたがるカップルなんて箱詰めにして全国のご家庭に配送したって余るだろう。デートとは全く縁もゆかりもない人たちがその場所に来ると殺意の塊と化すのは、春が夏になっていくこと以上にごくごく自然なことであるのは言うまでもない。
 そんな(おそらく)裏ではカオスな現場になっているであろう市内の有名なショッピングモールで、表立ってカオスな空気をかもしだすグループが2つ。立花&西田カップルと、それを尾行する俺&望月&早瀬組だ。
 カップル組は、立花が終始無表情を貫き通して、西田は立花がつまらないと思っていると考えたのかなんとか楽しませようと四苦八苦していた。俺たち尾行組はそれを追って、はたから見ても俺から見ても完全に怪しいヤツになっていた。
 昼頃になるとフードコートであたたかいメシをせっせと食べながら大声で尋問しているヤツらを見た人がいただろうか。それは間違いなく俺たちだ。
「あっ! しまった! もう12時30分じゃん! 」
「えっ? もうそんな時間? マスターのデートプランを聞いてる暇なんてなかった! 」
 どこまでずさんな計画なのだろうか。俺と早瀬は望月に引っ張られて急いで北館の映画館までダッシュした。なんとか間に合ったようだ。カップル組が映画館を立ち去るギリギリのところだ。
 これから昼飯のカップル組のおかげで、さっきまでダッシュしてきた道を引き返さなければならなかった。
「ところで早瀬、西田たちは何の映画を観てきたんだ? 」
「それがね? なんとコメディものよ? 男女でも気軽に見ることができるからデートで見るのにはもってこいなのよね。西田くん、この日のために色々と考えてきてるみたいね」
「あいつはあいつなりに頑張って考えてるんだろう。昨日あんだけうかれてたんだ」
 西田の憎々しい笑顔を思い浮かべた。昨日はあんなに調子に乗りまくっていたクセに今日見せる顔は全部焦ったり緊張したりソワソワしたりと全く落ち着いていない。
 それ以外の表情を見れた時は、やはり昼飯の時だろう。見た目に反して食いまくるその食欲とスピードは西田とその周りの人たちを驚かせていた。テクテクと不意に歩き出しておかわりを店のおっちゃんに要求している姿はこれでもう5回目だ。食べられるほうもさぞかし驚いているだろう。そんな大食い選手権のチャンピオン顔負けの食いっぷりを見せた立花は散々食べまくった挙句、一瞬のうちにラーメン7杯が胃袋に消失してやっとこさ満足したように皿を返しに行った。
 西田の親切なのかアピールなのかは知らんが、ラーメン掃除機立花が食べた7杯分の金を全て払ったことには感服しきりだ。その店の1番安いラーメンを7杯分頼んだとしてもそれだけで4000円近くはいくだろうに。
 午後からは俺の予想通り立花のショッピングに西田が付き合うような感じになっていた。
 フードコートのすぐ横にあるおもちゃ屋に入ると、女の子のおもちゃコーナーを素通りしてゲームのコーナーに直行した。
「ねぇねぇマスター。立花さんってあんな趣味あったのかな? 私見たことないよ?。立花さんが人生ゲーム以外のゲームをするところを見るなんて」
 俺だって意外だ。立花にこんな趣味があったとは。
「もっと近付いて見ましょ? 立花さんたちの会話を聞けるところまで」
 昼飯から3人で一緒に尾行していた俺たちは、固まって動くとバレるかもという望月の提案によりけっこう遠いところから立花たちを見守っていた。だがここは早瀬の提案に乗るとしよう。西田と立花がどんな会話をしているのか気になるし、バレたってなんとか言い訳を考えておけばそれで問題ないだろう。
 俺たちはゲームコーナーの近くのプラモデルコーナーまで来て立花たちの会話を盗み聞きすることにした。
 というわけで特に俺たちはそれ以来特筆すべきことをなにもしていないので危険な行動の収穫である西田と立花の会話を聴いておこう。
「へ、へぇ。立花さんって、ゲームの趣味があったんだぁ。し、知らなかったなぁ」
「違う。私にそんな趣味はない」
 え?じゃあなんでそんなとこによったんだ立花?
 俺たち3人はさらに耳を傾ける。
「そ、そうなんですか? じゃあどうして……? 」
「プレゼント。お世話になってる人がいるから」
「誰のなんですか? 」
「秘密。あなたは知らないほうがいい」
「そ、そんなこと言われたら……気になっちゃうなぁ。あははは……」
「教えない」
「で、ですよね……。ハハ……」
 力なく笑う西田。
 頑張れ西田。そんなんじゃダメだぞ。もっと堂々としていろ。そうすりゃ早瀬の評判も少しはよくなるだろう。
 立花たちの会話に集中していたせいでもあるが、おもちゃの棚が邪魔で立花たちが見えにくい。カートに入れたゲームは何だったのだろうか。ゲームソフトを2つくらいカートに入れてたように見えたが。
 西田がおごろうとしていたが、立花はキッパリとそれを断った。
 その後立花はオシャレな服屋に行き、オシャレな服を買っていった。西田が今度こそおごろうと必死になっていたが、立花はそれを再び拒否した。
 そこまでして自分でお金を払う理由ってのはなんだろうか。それに服も女の子らしいといえば女の子らしいが、立花ってそんなに洋服にこだわった趣味があったのか?
「た、立花さん。洋服……好きなんですか? 」
「少し。でもこだわりは特にない」
「へ、へぇ……。普段はどんな服を着ているんですか? 」
「今着ている服と同じような服」
「そそ、そうなんだぁ……」
 再度沈黙が2人の間に流れる。気まずい空気が俺たちにまで伝わってくる。
「つ、次行きましょう? 今度は……ど、どこがいいですか? 」
 緊張してつまりまくりな西田の問いを、立花はまた意外な答えで返した。
「ゲームセンター」
 立花の要望に応えてゲームセンターに訪れた2人は、まず最初にUFOキャッチャーをすることにした。
「こ、このフィギュア知ってます? 今人気のアニメのキャラクターなんですよ? 」
 西田が指さしたのは少年漫画のキャラクターのフィギュアだった。
「欲しいの? 」
「え、ええ。そりぁ…もちろん欲しいですけど……」
「分かった」
 立花は西田が財布を出す前にUFOキャッチャーに金を入れ、巧みにボタンを押して操作し、あっという間にフィギュアを手にいれた。
 唖然とする西田に立花は無表情のままフィギュアを手渡した。
「これ、プレゼント」
「え、え? 俺に……ですかっ! 」
「そう。お昼のお礼」
「ヤッターっ! ありがとうございます! 一生大切に、いや家宝にします! 」
「そう。このゲームも」
 ついさっきおもちゃ屋で買ったものを袋から取り出して西田に手渡した。
「このゲームも。奢らせてばかりで悪いから」
「い、いいんですかっ? ありがとうございます! 」
 この時のために生まれてきたようなとびきりのはじけて爆発しそうな笑顔を立花に見せた。それを無表情で応えた。
 なんとなく西田がむかつく。おのれ西田め。そのキモイ笑顔をこれ以上見せるな!
 その後もゲームセンターで遊びまくった2人は、ようやく帰路についた。もう2人の会話を聞く必要もないだろうという早瀬の提案により、再び遠くから見守ることになった俺たちは改札口から少し距離のある柱に隠れていた。
「お手洗いに行ってくる」
 西田より先に改札口を通った立花は、小走りにトイレにむかって行った。と思ったら目の前の世界が樹海に変わった。
 なんだなんだ?魔人でも出てきたのか?
 立花がこっちに向かってやってきた。
「なに」
「え……。えーっと……その……」
「なぜ私たちをずっと尾行してたの」
「それはもちろん立花さんと西田くんのデートを見守るためだよ! 」
 これ以上隠れる必要がないと思ったのか、望月と早瀬も出てきた。
「デート? 」
「え? 立花さん、あなた西田くんとデートしていたんじゃないの? 」
「していない。私はデートをしているつもりはない」
「でも、お前はデートをしてほしいって告られてOKしたんじゃなかったのか? 」
「そのようなことを言わけた覚えはない。私は彼に『今度のゴールデンウィークにデートしたい。付き合ってくれ』と言われた」
「それはデートしてほしいって言われたんじゃないか? 」
「私は彼の言葉を、『デートの付き添いをしてくれ』と解釈した」
 俺たち尾行組は一気に力が抜けて今日1日の疲れが出てきた。なんだ。ってことは立花のタダの勘違いってことか……。
「どうしたの? 」
 俺たちの表情を見て立花が珍しく頭の上にクエスチョンマークを浮かべたようだった。
「これ」
 立花は持っている袋からゲームと服を出して俺たちに手渡した。
「プレゼント。いつも世話になっているから」
 西田には悪いが、この時が1番安心した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...