魔法少女の魔法少女による魔法少女のためのご主人様幸せ化計画

円田時雨

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MMM(トリプルエム)の夏休みミステリー計画

トリプルエムの事件簿4

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「そのかわり、皆さんの謎を解決させていただきます! 」
 自信たっぷりの顔で言い放ったその言葉は、その場にいた全員をびっくりさせるには十分な破壊力があった。中には唖然としている人もいる。
 まぁそりゃそうだろうな。誰かも知らんような一女子高にこの難解な事件が解けるかって思っても当然だろう。正直言って俺もけっこう不安だ。昨日立花がこっそり教えてくれた推理は俺にとっても一番しっくりくるし、立花も自信ありげだった。おそらく間違いないだろう。
 問題は、早瀬が立花と同じ結論に達しているかどうかなのだ。もし達していなかったら大恥かくばかりか犯人扱いされた人に激怒されること間違いないだろう。当然の結果だ。そんなことにならないことを祈ろう。
 頼んだぞ早瀬。もしもの時は俺がフォローいれるから。
「考えてみれば実にカンタンな事件でした。最初から最後までまるでヒントが散りばめられていたかのように解き明かしやすい事件だったのです。だから私でも解決に導くことができたと思います」
 無駄に自信のある前振りで胸を張る早瀬。
 そんなこと言ったら犯人が怒るんじゃないのか?もしかして煽ってるとか?
「おいおい。そのカンタンな事件とやらの犯人をはやく教えてくれよ。俺たちゃ朝早くからこんなくだらん推理ショーの相手をしてやってんだぞ?とっとと終わらせてくれよ」
 誰かが大声でヤジを飛ばした。
 人の話にヤジを飛ばすなんて暇つぶしにザッピングしてる時にたまたま映った国会中継でしか見たことない。
「すみません。すぐ終わらせますから。では早速犯人をお教えしたいと思います」
 全員ではないものの、この場に緊張が走る。
 ごく一部の人たちはくだらんとか思ってるのか、呆れ顔で早瀬を睨んでいた。いっそのこと抜け出したいくらいなのだろうが、そんなことしたら真っ先に自分が疑われると考えているのだろうか。
 早瀬が疑った3人ではなかったが、いくらでも難癖さえつけてしまえばそんなものコロッとカンタンに疑われてしまうだろう。
「犯人は……中村美樹さん。あなたです! 」
 さすがにその場にいた全員が言葉を失った。あの3人の中でも最も平和的な性格をしていることを西田の親戚たちも知っているのだろう。虫も殺さなそうな人が人殺しなんて誰も予想しなかったことだ。
 犯人扱いされた当の本人は、顔を真っ赤にしていた。怒っているようにも見えるがなんとなく感激しているようにも見えるのは気のせいではない。
 これが噂に聞くサイコパスとかいうやつなのだろうか。
「どうして……私が犯人だと思うの? 」
 美樹さんは口からボソッと呟くように早瀬に質問した。
 普段の立花の呟くような喋り方に慣れてしまったせいか、最近こーゆー喋り方でも普通に聞こえてしまう。立花と出会ってからまだ3ヶ月しか経っていないのに、地獄耳になってしまったようだ。
 人間の進化というのは恐ろしくはやいことを実感する。
「どうして私が犯人なの? 昨日のあなたの説明にはある程度納得したところもあった。だからあなたの質問にも素直に答えたつもりよ。でも犯人扱いされるのは納得できないわ」
 声を荒らげるわけでもなく、あくまで大人しく冷静に対処しようとしている感じの低めの声だった。
「ではご説明させていただきましょう。あなたはパーティーが終わる前にシャンパンを持っていった。冷蔵庫にあるシャンパンはパーティーでもない限り執事さんは渡すことはないことを、あなたは知っていたから。あなたは部屋の中にあるペットボトルを冷やすための小さな冷蔵庫でシャンパンを冷やしておき、菊子さんが部屋で休んでいて執事さんがパーティーの後片付けを行っているタイミングを見計らって、シャンパンの入ったグラスを手に取り菊子さんの部屋に向かった。あらかじめ毒薬をとかしておいたシャンパンを持って……」
「ちょっと待ってよ。あなたは昨日犯人は言ったはずよ。犯人は慎重な行動をするはずだって。その意見には賛成だし、間違ってないと思う。でも廊下でシャンパンの入ったグラスを持ち歩いているなんて不自然極まりないわよ? もしそんな姿を見られたら覚えられるに決まってるじゃない」
「たしかにそうかもしれませんがその程度の理由をつけるくらいわけなく出来るでしょうし、そもそもあなたはシャンパンの入ったグラスを持って廊下を歩いていませんから」
 美樹さんはギクッとした反応をわかりやすく見せた。美樹さんってそんなにオーバーリアクションをする人だったっけ?
「そ、それは……どういうこと? 」
 美樹さんはあくまでもとぼけ続けるつもりらしい。
「とぼけるつもりですか? じゃあ私が全部お教えしてもいいというわけですね? 」
「えぇ、どうぞ。それが出来るのならばだけどね」
 美樹さんは挑むような目で挑戦的な口調になった。とぼけ続けるのは無理だと判断したのだろうか、それともなにか考えでもあるのだろうか。
 とにかく急に挑戦的になったのだ。一体なんのキャラ変なんだろうか。
「ではお望みどおりそうさせていただきましょう」
 変にもったいぶって早瀬は説明し始めた。
「この館にはこのホールの裏口に繋がる隠し通路と、その通路へ行くための隠し扉が一部の部屋にいくつか用意されています。美樹さんはその部屋の一つを借りました。そして、菊子さんが後に殺される部屋。つまり菊子さんが当時休んでいた部屋も同じような隠し扉があったのです。美樹さんは隠し通路を使ってここの裏口まで来て、別の隠し通路を使って菊子さんの部屋まで来たのです」
「でも、そんな偶然なんてある? もしも私か菊子さんが隠し扉がある部屋を使ってなかったら隠し通路も使えないからあの人の部屋までたどりつけないじゃない。この館の数多い部屋から2人が隠し扉のある部屋を偶然選んだっていうの? そんなのありえないわ」
 あいまいな反論だった。とりあえずなにか反論しようとしたが、全て図星のためなのかあまりにも頼りのない感じの反論だ。
 それでも挑戦的な目を崩そうとはしない。
「いいえ、あなたは菊子さんが隠し扉のある部屋に泊まることを知っていました。なぜなら西田家の遠い親戚の方たちは知らないと思うのですが、菊子さんがこの館に来たときは必ず隠し扉がある部屋に泊まるからです」
「じゃあわたしが知るはずないわ。あなたに説明した通り私は菊子さんの遠い親戚ですから」
「いいえ、あなたは菊子さんの遠い親戚ではありません。あなたは菊子さんの孫娘で西田くんのお姉さんのはずです」
 一瞬美樹さんの表情が驚きで固まった。なぜそれを知っているのかとでも言いたげな顔だ。
「な……なんでそう思うの……? 」
 動揺しているのか、声も震えている。
「ただの推測でしたけど当たっていたようですね」
 そう言って早瀬はあの10枚のパネルを紙袋から取り出した。
「これを使って昨日お話を聞いた3人の中で菊子さんに近い血縁者を探しました。菊子さんが隠し扉の部屋に泊まることを知っている人は執事さんか相当血縁関係が近い人たちだけだって執事さんから聞いたので」
 そう言いながら早瀬は西田の顔の輪郭が手書きしてある透明なパネルと美樹さんの顔の輪郭が書いてある透明のパネルを重ね始めた。これにはさすがにその場にいた人間がみんな驚いた。ぴったりとはいかないが、かなり似ているのだ。早瀬はさらに菊子さんの透明パネルを重ねた。するとこっちもより似ているのだ。遠い親戚ではありえない程顔が似ていた。
「お分かりですか? あなたは菊子さんの孫娘のはずなんです。菊子さんと普段一緒に暮してるから菊子さんがシャンパンの誘惑に弱いことも、この館に来たら隠し扉のある部屋に必ず泊まるはずだと知っていました」
 美樹さんは観念したように床に座り込んだ。これ以上の反論は無意味であると考えたのだろう。
「そう……私が犯人です……」
 悔しがりながらも呟くように美樹さんは告白した。早瀬はさらににやっと笑った。
「と、思わせるのが犯人の狙いです」
 このセリフにはさすがにみんなが頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。しかし美樹さんだけはギクッとした顔をしていた。
 だが早瀬の次のセリフを聞いたときはこの反応が2段階くらい大きくなった。
「そうですよね? 菊子さん、西田くん」
 そう言いながら早瀬がホールの裏口のカーテンを開けて菊子さんと西田の姿を見たときはみんな黒歴史になりそうなくらい驚いた顔を見せた。
 エビでリュウグウノツカイを釣ったような反応だ。
 俺は昨日立花がこっそり教えてくれた推理を思い出した。
 
「おそらく美樹さんは菊子さんの孫娘。西田家特有の目の形を菊子さん以外でこの館にいるどの人間よりも再現できている。これは整形では再現不可能。おそらくこの館の隠し通路を使って菊子さんの部屋にたどり着いた」
「隠し通路? 」
「そう」
 一息ついて立花は早瀬が言ったトリックを語った。
「なるほどな……なんてこった……。美樹さんが犯人だなんて」
「そう思わせるのが菊子さんの目的」
「菊子さん? あの人は死んだんじゃなかったのか? 」
「違う。今言ったのは最初から全て仕組まれた演技。このような殺人事件は存在しない」
「どういうことだ? 」
「あの死体は精巧に作られた人形。全て余興」
「なんだと? 誰が考えた余興だ」
「西田くん。おそらく吊り橋効果を狙ったもの」
 俺はさすがにキレそうになった。
 ふざけすぎている。犯人を1発殴りたかった。吊り橋効果なんてこんな大マジメにやるヤツがいるか。
 
 早瀬も同じようなことを言ってその場を驚かせた。
 菊子さんも観念して同じような説明をした。結局西田の壮大なドッキリだと分かりその場はなんとか収まったが、俺がそんなことで納得するわけないだろ。

 くだらんドッキリも終わってやっとこさ家に帰ろうとした時、俺は西田を拷問にかけた。
「わわっ! 悪かったって! ほ、ほらほら、恐怖体験を共有したら女なんてコロッと俺の魅力に騙されるだろ? 」
「そんなわけあるか。それにお前ずっといなかったじゃねえか」
「心配して見に来てもらったら出てくる予定だったんだよ。少し情けない姿を見せたほうが愛らしさが出てモテモテ間違いなしだろ? 」
 こんなアホらしいことに菊子さんや親戚みんなを巻き込もうとするこいつの頭の中身を少しは知りたいね。
 俺だって女にモテるためにある程度策は練るがここまでやるやつは空前絶後だろう。
 俺は西田を禁固500000年の刑に処すかもしれん。こいつがまた同じようなバカを繰り返したらの話だがな。
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