魔法少女の魔法少女による魔法少女のためのご主人様幸せ化計画

円田時雨

文字の大きさ
26 / 114
MMM(トリプルエム)の解散危機一髪

新たなるMMM(トリプルエム)

しおりを挟む
 ふわっと消えていった巨大魔人を見て、誰もが安堵のため息をついた。
 みんな体力を消耗しまくったのか、息をハアハアと切らしている。あの立花でさえもだ。
「ハア……ハア……。やっと終わったわね……。『空間魔法・十八式解除』……」
 さあァァー!
 さざ波のような音を出してボロボロになった住宅街は、元の懐かしき生徒会室に戻っていた。
 時計を見ると空間魔法で生徒会室が閑静な住宅街になる直前の時間から全く変わっていない。これは一体どういうことなのだろうか。
「なぁ。俺たちが住宅街に行く前の時間と今の時間が変わっていないのはなんでなんだ? 」
「空間魔法はこの世界から断然された時空間を作り出し、一時的に能力使用者とその周りにいる魔力保持者をそこへ強制的にワープさせる。空間魔法を解除した時に元の時空間に戻ることが出来るが、断絶された時空間とこの世界での時間の進み方に大幅なズレが生じるため元の世界に戻った時は空間魔法を発動した時間とほんのわずかしかズレが生じない」
 ダメだ。なんとなくしか話の内容がわからない。
「要するにここと空間魔法内では時間の進み方が全然違うってことよ。これなら分かったでしょ? マスター」
 早瀬が立花のわけのわからん説明をわかりやすく説明してくれたおかげである程度分かった。
「どれくらい時間の進み方に差があるんだ? 」
「ここでの1秒が空間魔法内での12時間に相当する」
 ポツリと俺の問いに答えてくれた立花。相変わらずの無表情だ。
 俺はそれを見てなぜか安心していたのだが、俺の安らぎタイムをソッコーでぶち壊してくれやがったのは厳格な生徒会長の結さんだ。
「空間魔法の解説済んだ? コレであなたも空間魔法についてよく分かったわよね? 防衛対象さん」
 俺の方へゆっくり近付いてくる時も偉そうな口調を止めることはない。
「一体どうしてくれるの? 防衛対象さん。さっき出てきた巨大化型魔人。誰が出したと思う? あなたよ。防衛対象さん」
 それは俺もうすうすではあるが気づいていた。結さんの言った言葉に俺の怒りのリミッターは一瞬で破壊されちまってたようで、あれほど怒りの感情を剥き出したことは今までになかった。おそらくこれからもないだろう。
 そんな俺の怒りから生まれたマイナスエネルギーを糧に巨大魔人を呼び出させてしまったようだ。
「まさかあなたが魔人を呼び寄せてしまうだなんて考えてもいなかった……。過去に1回だけ事例はあったけどね」
「それがどうしたってんだ」
「あなたがマイナスエネルギーを放出すると、おそらくとんでもない強さの魔人が出てきてしまうようね。前の1件も含めて。あなたにはできるだけ監視、そして行動制限をつけないとダメっぽいわね」
 俺に言っているというより自分にそれを言い聞かせて確認しているといった感じだ。ブツブツと小さな声で呟いていた。
 俺はやっぱり立花の声ですっかり慣れてしまっているので全部丸聞こえだ。
 結さんは望月たちの方に改めて向き直った。
「望月さん、立花さん、早瀬さん。あなたたちはなぜ任務を遂行せず防衛対象さんと遊びまくっていたの? なぜずっと防衛対象さんの傍にいたの? 」
 再び説教タイムか。だったら俺がもう一回ガツンと俺が言ってやろうか?
 とか思っていると、結さんは説教ではなくちょっと意外なことを言った。
「なぜ……なぜ、あなたたちは幸せそうなの? なんでなの? 」
 なにかが吹っ切れたのか、不器用ではあるが自分の気持ちを素直にぶつけたような聞き方だ。
 拳をギュッと握って、今までのキリッとした表情ではなく感情を露わにした顔になっている。
「結衣ちゃん……」
 弥生さんも驚いたように結さんを見た。しばしの間沈黙が生徒会に流れる。結さんも自分で言った言葉に心から動揺しているようだ。
 どのように終わらせればいいのかわからないこの沈黙は、俺にとって体感では数時間以上の長さだったが、まだ数分も経っていない。
 どうやってこの沈黙を破ってしまおうかずっと考えていたが、考えついた策はどれも役に立てそうもなかった。「もうすぐ昼休みが終わるぜ。はやく教室が戻ろう」というのはカンタンだ。だが生徒会室に残された2人がなんとなく可哀想にも思えるのだ。
 結さんにぶつけられたこの問いに答えなければいけない気がする。強迫観念とかいうやつではないが、義務感を感じずにはいられない。
「…………ごめんなさい。こんなことを聞くつもりではなかったの。とにかく、あなたたちは天界に帰りなさい。帰還命令は既に可決されたものなのよ」
 この永遠にも続けそうな沈黙を破ったのは、平静を取り戻して再びキリッとした顔つきになった結さんだ。
 言っていることは生徒会室に俺たちがやってきた時からなにも進展していない。それでも、人の噂話を信じていないがなんとなく話しておくかといったような虚ろな感じで言っている気がする。
 どうでもいいような感じだ。
「さあ、分かったらとっとと天界に帰りなさい。防衛対象さんも、はやく教室に戻らないと授業に送れるわよ? 」
 余計なお世話だ。望月たちを天界に帰すつもりはないし、そんなことどうやってもさせねえよ。
 それよりお前はどうなんだ?さっき俺たちにぶつけた本音に、俺たちは答えなくていいのか?
「断る。私は天界に帰る気はない」
 意外な人物が結さんに反論した。
 立花だ。
「あなたも見たはず。マスター……防衛対象が発生させた魔人はあらゆる意味で強力。防衛対象がなんらかの要因でマイナスエネルギーを発源させて召喚した魔人は、通常の魔人とはおそらく規格が違う。例えるならフェラーリとセダンほどの違い。しかしその原因は断定できない」
「なにが言いたいの? 」
「マスター……防衛対象にネガティブな気持にさせてマイナスエネルギーを発生させるべきではない。私たちは防衛対象にネガティブな思考を発生させるべきではないと判断した。そのため、我々は防衛対象にネガティブな思考を発生させないことと、我々天界人の滞在時間延長のためポジティブな思考を発生させてプラスエネルギーを発源させるために防衛対象と娯楽などをすることにした。任務違反は認めるが、我々の行動を早瀬さんの述べた行動と共にこれを最良の判断とした」
 立花は一度言葉を切って小さく深呼吸した。なにかを決断するような覚悟を決めた表情だ。
 こういった姿を見るのも初めてなので、実はけっこう驚いていたりする。
「あなたがさっき聞いてきたこと。なぜ私たちが幸せに見えるのか。私個人としての答えは……それは私が今のこの生活に満足感を覚えているから。もしかしたら望月たちも同じ考えを持っているかも知れない。きっとマスターも同じ考えを持っているに違いない。だから私たちの帰還命令に怒ったと思う」
 もう一度言葉を切って一呼吸をおく。
 立花もこういうことにはなれていないようだ。無表情の中に緊張の色が見え隠れする。
「私は……………………天界には帰りたくない。今のこの生活をずっと続けたいと思っている。この生活が私にとって楽しいと感じている」
 フゥ。
 と一つため息をついた立花。自分の感情を露わにした結さんに対して、立花も自らの感情を立花なりに露わにしたようだ。
 結さんはその様子に驚いて、そしてその答えを聞いてもう一度キリッとした仮面を脱いだ。さらに立花は続ける。
「だから帰りたくない。マスターとの…………望月さんたちとの生活が楽しいから」
 立花がこんなことを言うなんて思ってもみなかった。あの無表情お料理吸引機がそんなことを思っていたなんて……。
「………………あなたがなにを言おうとも……帰還命令は既に出ているのよ……」
 うつむいて絞り出した言葉は、自分の感情を隠そうとした強がりにも聞こえた。再びしばしの沈黙が流れる。今回は結さんが自分の気持ちを見つめ直しているための沈黙ようだ。
「分かったわ…………天界にあなたたちの帰還命令を取り消してもらえるように掛け合ってみるわ……」
「結ちゃん……よかったれす~」
「ありがとうーっ! 結ちゃんだーいすきーっ! 」
「ちょ……抱きつかないでよ愛果さん! 」
「と、とりあえず防衛対象さんの隣の家に住む予定だからよろしく」
「え? 私の家? 」
「そ、そのえとあなたたちが帰還命令で天界に帰ったあとに住む予定だったからなのよっ! 弥生も一緒よ! 」
「結ちゃんも弥生ちゃんもだーいすきーっ! 」
 さっきまで重たすぎる空気が流れていた生徒会室は、昼休みが終わるまで騒がしくなるのだった。
 この調子じゃ最近望月の騒がしさにも慣れてきた隣のババアが苦情をよこしてきそうだ。5円の風船ガムでもお詫びに贈っておこう。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...