魔法少女の魔法少女による魔法少女のためのご主人様幸せ化計画

円田時雨

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MMM(トリプルエム)のリアルローリングプレイゲームタイム

チュートリアル

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 文化祭が終わると、客を全員学校から追い出して教師共の大好きな集会を始めやがった。
 相変わらず催眠術と言うべき校長と理事長の話し方は俺たち生徒を快眠の底に追いやるのだった。
 めんどくさい文化祭の片付けをやっとこさ済ませた俺たちはようやく帰路につけるのだが、どうも立花の無表情がうわの空に思えて仕方がない。今までの無表情とは違って本当にぼーっとしているような感じなのだ。
 と言ってもなんとなくそんな気がするというだけなのだが。
 まぁ気になるし一応聞いておこう。
「なんかあっのか? さっきからずっとうわの空のように見えるぞ? 」
「なにもない……」
「本当に? 」
「……………………」
 一瞬沈黙がその場に流れる。
「…………気をつけて」
 少し躊躇いがちに口を開いた立花の発した言葉は俺に恐怖を煽るものだった。
 そうは言ってもまだ実感の湧くものではない。
「何にだ? 」
「分からない。ただなんとなく。私のカン。気にしなくてもいい」
 何度も文章をちぎったその言い方は、無表情のまま無感情で必死に訴えているような気がする。
 立花よ。気にするなと言われたら気になるのが人間だ。天界人は違うのか?
 だが立花の顔はさっき自分が言ったことを後悔しているような無表情だ。
 これ以上の詮索はよしておこう。気にはなるが。
「……彼女がそんなことをするはずがない。彼女はそんなことを……」
 心の声が漏れたのだろうか。立花は独り言を言っていることに気づいてハッともせずに言葉を切って黙り込んでしまった。

 文化祭から数日後、立花のおかしな様子はあれ以来すっかり消え失せたように思え、何もなかったのかそれとも何かが起こる危険性がなくなったのかと思っておこう。
 もし何かが起こるのだったらそれこそ何とかしてくれるだろう。
 立花があれ以来変わったことと言えば強いて言うならだが夜更かしする時間が長くなったくらいか。一生懸命1人でパソコンのキーボードに打撃を与えているようだ。
 自由研究以来すっかりゲーム制作にハマっているようで、もう何回も新作ゲームの初プレイに付き合わされている。まぁ面白いから全然構わないのだが。
 だが今回はいつもより時間がかかっているようだ。普段は俺が深い眠りについている間にゲームを完成させているのだが、今回はもう1週間近くかかっている。
「立花、今度はどんなゲームを作っているんだ? 随分時間がかかっているみたいだが」
「秘密。完成したら教える。その時はまたプレイをよろしく」
「おう。楽しみにしてるぜ」

 それからゲームが完成したのは2日後のことだった。
「マスター。ゲームが完成した。プレイして」
「いいぜ。ソフトはどこだ? 」
 いつもは手渡してくれるソフトが見当たらない。
「パソコンに手をかざして」
「手を? 」
「そう」
 言われた通りに俺のノートパソコンに手をかざした。ノートパソコンはデスクトップに自然の情景が映し出されているだけでなんのソフトも開いていないように見える。
 立花がゲームを完成させたなんて嘘をつく意味もないし、もしかしたらなんかのサプライズか?
 俺は勝手に胸を踊らせていると、立花が俺の背中に手を当てた。
「目を閉じて。力を抜いて。すぐ終わる」
「何する気だ? なんかのサプライズなのか? 」
「すぐに分かる」
 俺は言われるがまま、力を抜いて目を閉じた。
 グッ!
 背中に当てていた立花の手が力を込めて俺を押した。けっこうな力なので思わず目を閉じていたまま倒れてしまった。
 ん?
 おかしいな。目の前にノートパソコンがあったんだから倒れる前にぶつかるはずだ。
 立花からはなんの指示もないので、目を開けさせてもらうことにした。
 そこはなにもない草原が目の前に広がっていた。ちょっとした丘も、小さな池も見当たらない。ただ、だだっ広い草原がそこなはあった。
 とりあえず起き上がろうとすると、そこではじめて自分の重さの異常に気づく。
 やたらと重い。
 起き上がれない程ではないが立ち上がることで精一杯のようだ。なんて重さだ。
 なんとか立ち上がって自分の体を見てみると、中世の農民風のオンボロ鎧が全身にまとわりついていた。というか着ていた。腰には正方形のケースみたいなものがある。中身を開いてみるとそこには数枚程度のカードが入っていた。何に使うというのだろうか。
 カードの柄を見てみると、どうやらウノやトランプのようなオーソドックスなゲームではないらしい。
 なんかのモンスターが書いてあるに見えた。
 さらに驚いたことは、右腕にはなんと変な機械が巻き付かれていた。さっきのカードをスラッシュする機械のようだ。何のための機械なのだろうか?
『マスター。いまどこ? 』
 頭の中に立花の声が電話してる時の相手側の声みたいに聞こえていた。
 それにしてもその質問はそっくりそのままお前に返したいのだが。
「なにもないただのでかい草原があるところにいる。それよりもここはどこなんだ? 俺はいったいどこに飛ばされたんだ? 」
 俺の問いに立花はひたすら無言で返してきた。
 ビーっ! ビーっ!
 頭に直接やかましい警告音が鳴り響いた。
 後ろを振り向いて見るとそこには気味の悪いバケモノが立っていた。俺の頭はこの事態に全然追いついていなかった。
 それもそうだろう。急にどこかも分からんような草原に飛ばされて(本当に飛ばされたのかよく分からんが)、後ろを振り向いて見ると気味の悪いバケモノがそこに立っているのだ。魔人を何回も見たっていつまでも慣れないのと一緒でこの未知との遭遇に俺の脳みそはパンク寸前だ。
 バケモノは見た目は一応カニのように見える。だがどう見たって人型だ。10本ある足の1番下にあたる2本はやたらと伸びていて、それだけで自立出来ている。そしてハサミのある2本の腕はこれまた長く伸びて、人間の腕見たいだ。他の6本の足は完全に顔の装飾品の一部でしかないから意味がなさそうにみえる。
 そう言えばこんな感じの怪人を俺はヒーローもののドラマで見たことあるぞ。俺は頑張ってカニヤローのチャックを探しまくったが何も見つからなかった。どうやらあれは本物のバケモノらしい。
『安心して。チュートリアルモード』
 頭に響いてきた声の主は立花だ。俺が立花に何じゃそりゃと聞き直す前に頭の中にメニューが開いた。

 戦う
 カード
 道具
 捕獲
 逃げる

 なるほどな。まるっきりベタベタなRPGだ。ところでカードってのはなんだろうか。
『戦うを選択すると通常攻撃を出せる。カードはスラッシャーにカードをスキャンすることでそのカードの効果が使えるようになる。一部のカードは相手の攻撃発動時に自動発動で敵の攻撃を防御する。道具は回復薬などが使えるようになる。捕獲は相手モンスターを捕獲するチャンスを得ることができる。自分のターン中にどれかひとつの操作が可能。コマンドをどれかひとつ選んで』
 逃げようとしてもチュートリアルなので逃げられないだろう。ってことは戦うしかあるまい。
 とりあえずカードを使って攻撃態勢を整えることにしよう。攻撃力アップするカードとかあれば楽になると思うんだが。
 腰にあるカードデッキからカードを全部取り出して効果をいちいち確認している間、カニヤローは大人しくちょこんと立っていた。全然凶暴そうに見えなくなってくる。
 数分かけて俺はようやく今の手持ちカードの効果を確認し終えた。残念ながら攻撃力アップのカードはなかった。俺の今の手持ちカードはこんな感じだ。

 ソード(剣を召喚する)
 コピー(最大5人まで分身する)
 スピード(数秒間スピードが大幅に上がる)
 ウォール(敵の攻撃を1度だけ完璧に防ぐ)

 今の4種がそれぞれ何枚かあるような状況だ。俺はなんとなくソードのカードを使うことにした。武器があった方がいいからな。
 覚悟しやがれカニヤロー。俺のゲームセンスに驚きやがれ!
 俺はチュートリアルなのにちょっとテンションが上がり始めていた。
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