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MMM(トリプルエム)のリアルローリングプレイゲームタイム

エピソード1

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 立花の手によって立花が作ったゲームの中に入った俺はチュートリアルだというのにテンションが上がり始めてドヤ顔でソードのカードをスキャンさせると、
『ソード』
 スラッシャーが明らかに立花の声ではない声でカード名を詠唱した。
 すると俺の手にいつの間にか剣が握られていた。思ったよりもシンプルなデザインで、思ったよりも軽い。
 カニヤローが攻撃をしてきたので、剣で斬りつけた。
 ザシュッ!
 特撮ドラマみたいなSEを出して斬られたカニヤローは大きく仰け反った。
 これは攻撃のチャンスだ。
 ヘタに血が出てくるわけでも、エグイ音が出るわけでもないので抵抗をあまり感じないままカニヤローを斬りまくった。
 やがてカニヤローは奇声を発して動かなくなった。
『敵を撃破した』
 一切感情が込められていない声が頭に響く。
 立花、ここは初戦闘直後のリザルトのつもりならもうちょっとくらい賞賛の言葉が欲しいな。
 カニヤローの亡骸を見てみると、カニヤローは急にカードに変わった。
 なるほど。そうやってカードを集めていくんだな。
 俺は地面に落ちた新しいカードを拾いながらふと思ったことを立花に聞いてみた。
「なあ立花。このゲームってクリア条件は何なんだ? 」
『このゲーム内にある七つの遺跡にある宝を集めること』
 そりゃまた面倒くさそうなやつだな。この辺はどれだけ見回したって草原しかない。
 途方もないような気がしたので新しいカードはどんな効果なのかと気を紛らわすことにした。

  バブル(周囲に泡を発生させて相手の視界を妨げる)

 最初は重要だろうが中盤に差し掛かると特にいらなくなるであろうカードだな。
 俺はカードをカードデッキにしまってアテもなく歩き出した。どこか街にでも出くわしたらいいのだがそんなことは奇蹟に近いだろう。
 しばらく歩いていると、俺は意外な人物に出くわした。
「あっ! マスター! 」
 望月だ。望月も中世風の鎧を着ている。
「なんでお前がこんなとこにいるんだ? 」
「立花さんに誘われてパソコンに魔力を送ったらここの世界に入れたの。このゲームやってると面白いよね~っ! そうだマスターっ! バトルしてみない? 」
 あいにくだが俺は平和主義者なのだ。ところ構わず戦うような戦闘狂ではない。
 と言いたかったがやめておいた。さっきカニヤローを倒してきたばかりだからな。見方によっちゃ俺も平和主義者じゃなくなる。
「いいぜ。かかってこい! 」
「えへへっ! いくよーっ! 」
 望月はカードデッキから素早くカードを取り出すと、すぐさまスキャンさせた。
『ブレイド』
 望月の手には小太刀が握られていた。それじゃいつもの魔法と変わらないんじゃないか?
 俺も望月に続いてカードをスキャンさせる。
『ソード』
 剣と剣同士の戦いだ。俺と望月は激しいつば競り合いを続けていた。
 こんな芸当が出来るってことはきっと立花が俺の身体能力をある程度底上げしてくれてるのだろう。じゃないととっくに望月に斬られているに違いない。
 望月が突き出してきた剣を素早くかわし、隙のできた望月を叩き斬ろうとすると腕を引っ込めて俺の攻撃を防ぐ。そんな感じのやりとりが続けられていた。
『ウォール』
 膠着状態となりつつあったので、俺は素早くカードをスキャンさせると目の前に現れた大きな壁が望月の突きを防いでくれた。
 驚いた望月は攻撃を中断して後ろに大きく飛び退いた。
「逃がすか! 」
『スピード』
 俺はカードを使って望月の背後に一瞬で回り込むと隙だらけの背中に斬撃を加えようとした。だがそれすらも望月は防いできた。
「甘いねマスターっ! 」
『リフレクト』
 望月が何かのカードをスキャンしたようだ。何も起こらなさそうだったので気にせず攻撃すると、
 ガシャァン!
 攻撃が弾かれた。俺は勢いのまま仰け反ると大分おかしな格好のままカードをスキャンさせるので精一杯だった。
『バブル』
 周囲に発生した泡はカードの説明通りに望月の視界を妨げた。
『コピー』
 俺は分身を1体作り出して俺と分身の両方が望月に斬りかかった。
 一本だ。
 望月は分身の攻撃は防げたが俺の攻撃は泡のせいもあってか読めなかったらしい。完全な無防備状態の首付近に俺の剣があった。
「…………負けちゃった……。凄いねマスター! 私を倒しちゃうなんて! 」
 望月はぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいるようだった。もしかして俺が勝てない前提で戦ってたのか?
「私はマスターに負けちゃったからマスターのパーティに入ってもいい? 」
「いいぜ。頭数が多い方がいいからな」
 俺はこのゲームにパーティなんてあるのかと思いながら望月の頼みを快諾した。
「ねえマスター。このゲームのクリア条件って遺跡のお宝をゲットすることなんだよね」
「あぁ。たしか7つの遺跡のお宝を全部集めろってやつだ。それにしてもどこに遺跡があるのかなんて全くわかんねーんだよなぁ……。それにせめて街の場所さえ分かればいいんだが、それさえも一切分からんからな……」
 最後の方の俺のセリフはボヤくような独り言だ。
 現状ではそのヘンの野良モンスターを倒してカードを新たに手に入れるくらいしかやることがない。それか街に行ってショップを見つけてカードを買うくらいのことが出来るのであればそれでなんとか済ませたいし、街である程度の遺跡に関する情報が手に入ることも期待出来る。それが一切ないとなるとこのゲームは野良モンスターを狩るだけで終わってしまいそうだ。
 どうしたものかと唸り声をあげたくなるような気分でいると望月がキョトンとした顔で言った。
「へ? 街なら1つ行けるとこ知ってるよ? 」
「なに? なんでお前が知ってるんだ? 」
「立花さんの言われた通りにゲームの世界に入ってみると、近くに街があったの。そんなに大きな街でもなかったけど大丈夫かな? 」
「いや充分だ。ないより全然マシだしな。どこにあるんだ? 」
「あっちだよ~」
 望月が指さした方向にはやはり草原が広がっていたのだが、この現状では望月の言うことを信じるしか打つ手はなさそうだ。
 俺たちが歩きだそうとするとまた野良モンスターが出てきやがった。
 なんとめんどうな。これがRPGにおけるめんどくさいところではあるのだがカードが少ない今は積極的に戦うべきなのだろう。
 カニヤローの時みたいにある程度役に立ちそうなカードが来ることを望む。
「なんか変なの出てきちゃったね! どうするの? 倒しちゃおうか? 」
「まぁ倒すしかないだろうな。このヘンの野良モンスターならある程度は倒せるだろうし」
 今度のモンスターはカニヤローよりも気持ち悪いやつだった。
 日に照らされて眩い光を放つ紫色の体は動くたびにタプタプと気味の悪い音を立てる。
 ヘドロの塊だろうか。ドロドロと体をヘドロが覆っているのか、それとも体そのものがヘドロなのかよく分からんがヘドロが地面にまとわりついて気持ち悪い。
「うわ~っ! 気持ち悪いなぁ……。早く倒しちゃえ! 」
『ブレイド』
 望月は早速剣を召喚してヘドロマンに斬りかかった。ところが望月の剣はヘドロマンを斬ることなく止まった。
 ヘドロを斬ることなく剣がヘドロの体に止められたのだ。
「ぬっ……抜けないっ? 」
「大丈夫か望月っ? 」
『ソード』
 この場で役に立ちそうなカードなんてなかったので剣だけ召喚しておこう。剣も役に立ちそうにないが。
「クソッ! どうしようもなさそうだ……」
「私に任せて! 」
『ビート』
 ブーン!
 望月がカードをスキャンするとでかい重くて鈍いような音が響き渡った。
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