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MMM(トリプルエム)のリアルローリングプレイゲームタイム

エピソード2

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 現れたヘドロマンに望月の剣は止められ、俺の武器も剣なのでどうしようもなかった。攻撃手段がない。
 その時、望月は『ビート』とかいうカードを使って鈍く重いような音を響かせた。ヘドロマンは体をパチャパチャと言わせて望月の剣を離した。
「くらえヘドロ! 」
『スピード』
 俺は超スピードでヘドロマンの体をあらゆる方向から斬りまくった。どうやらヘドロマンは俺のスピードがはやすぎて剣を掴む暇すらなかったのだろう。ほとんど無抵抗のままヘドロマンを斬りまくることが出来た。
「うヴヴァァァァ! 」
 間もなくするとヘドロマンは奇声を発してただのヘドロになった。そして近くには2枚のカードが落ちていた。

 スラッジ(対象者1名にドロをぶつけて行動速度を下げる)

 強くはないが弱くもないというのが俺の率直な感想だ。相手の行動速度を下げるってのはどれくらい下げられるのかが気になるところではあるが。
「ところで望月。お前のカード何があるか見せてくれないか? どんなカード持ってるか気になってな」
「え? いいよ。はいこれカードデッキ」
 どんなカードを持ってるかで今後どんな連携を取ればいいのか分かるからな。ある程度そういうことは知っておいた方がいいだろう。
 望月のカードを一覧にして見るとザッとこんなもんだ。
 
 ブレイド(剣を召喚する)
 ビート(音波を発して相手を混乱させる)
 フラッシュ(眩い光を発生させて相手の視界を奪う)
 リフレクト(攻撃を受ける時使用可能。相手の攻撃を見えない壁で受け止めて衝撃を発生させる)

 相手の攻撃を妨害するカードがやたらと多いのはどういうことだろうか。
 使い方によってはかなり強いカードと言えそうな『フラッシュ』も、望月の誇るIQでは役に立ちそうにないだろう。
 結局野良モンスターたちはそれ以来俺たちの目の前に現れることもなく、俺たちは街に辿り着いた。
 石畳の地面が広がっている街の見た目はなんとなく19世紀のヨーロッパ風に見える。木造の家が広がっているため、家の外見は同じようなものばかりにしか見えない。もしも俺がこの街の住人なのだったら間違えて知らない人の家に入ってしまいそうで怖い。
 だがそれも商店街エリアに行ってみると間違えて知らない人の家に入ってしまうことはなさそうだ。カラフルでハデな店の看板は言うまでもなく何の店かわかりやすい。
 雑貨屋、衣装屋、アクセサリー屋、食べ物屋などの現実世界でもありえそうな店も多々あれば合成屋、カード屋、攻略屋などのこの世界ならではといった店も数多くならんでいる。
 役に立ちそうなアイテムやカードを色々と買っていきたいところだが俺たちの所持金はおそらく0だろう。金の入手方法が分からない限りこの商店街エリアではなにもすることがない。
 こーゆー時はゲームガイドをしてくれている(多分)立花に聞くのが1番だろう。
「なあ立花。このゲームではどうやって金を手に入れるんだ? 生活保護でも受けりゃいいのか? それともちゃんと定職に就いた方がいいのか? 」
『このゲーム内に生活保護という政治的サービスはな存在していない。またこのゲームに参加しているプレイヤーは就職又は非正規労働者になることはできない。ゲーム進行の妨げになる可能性が高いから』
「いや……冗談だ。本気にしなくていい……」
『そう』
 しばらくの沈黙が流れた。
 ガイドさんよ。まさか今の俺のセリフ全部が冗談だと思ったのか?
「金の入手の仕方を聞いたのは本当だぞ? 」
『そう……。このゲーム内では金銭の入手をするには3通りの方法がある。1つはモンスターの撃破をすること。撃破後に自動的にお金が手に入る。ただしさっきまでいた草原で出現するモンスターを撃破してもお金を入手することはできない』
「どうすりゃいいんだ? 親のスネなんてここじゃかじれねえぞ」 
『まだ2通りの方法がある。定められたイベントをクリアすること。そして所持しているカードをカードショップで売却すること』
 俺たちは立花の言ったとおりにしようかと悩んで議論を繰り返した末に結局遺跡に向かうことにした。
 まずは遺跡に関する情報収集からだ。とりあえず暇そうにしているオッサンに聞いてみよう。
「遺跡? あ~……。どこにあるか知ってるがあそこに行く気ならやめておいた方がいいぜ。近づきたくもないような場所だな」
「なぜだ? そんなに危ない場所なのか? 遺跡は」
「お願いします。私たちどうしてもその遺跡に行かなければいけないんです。遺跡の場所を教えてください」
「可愛い娘さんにお願いされてもなぁー……。それに危ないなんてもんじゃねえ。なにせあそこは宝の番人とか名乗ってるやつがいるんだ。近づいただけでたちまち拷問、果ては死んじまうってオチだぜ」
「だがなオッサン。俺たちはそこに行かなきゃならないんだ。頼む。遺跡の場所を教えてくれ」
「ったく…………。しゃあねえ。教えてやるよ。その代わり、どうなったって俺は責任とる気はないからな。教えてくれって言ったのはあんたたちだ」
  しぶしぶ教えてくれた遺跡の場所はここから意外と近いそうだ。
 宝の番人なんて王道過ぎて逆に今となっては見ないような設定だがどれくらい強いのだろうか。
 俺たちはオッサンが教えてくれた場所に間もなくすると辿り着いた。遺跡に近づいてみても特になにもなかったので俺は逆に警戒心を強くするのだが、望月は運が良かったとルンルン気分だ。油断も隙もありすぎるやつだ。
 ピラミッドとみたいな(というか完全にピラミッドと同じようにしか見えない)遺跡の中に入ってみると暗くて狭い通路しかなく、遺跡っぽいなんてことを俺に実感させる。
「暗いね……ここ」
 そりゃそうだろう。よくよく考えてみたらこのヘンの明かりは外から入るための開けっ放しにしているドアくらいしかないのだ。開けっ放しにしていなかったらここ全体は真っ暗だったに違いない。
 俺たちはしばらく歩いていると殺風景な小部屋に出てきた。なにもないように見えるが当たりを見回して見るとでかい棺桶がある。
 古代っぽい感じの不気味な壁画がこの部屋の不気味さをより一層高めているが、この部屋の真ん中にポツンとある棺桶の方が不気味だろう。棺桶に掘られている変な気持ち悪い模様はどうやら古代文字のようだ。
 指でたどる迷路みたいな文字をほんとに迷路にして遊んでいる望月と石畳に書いてある古代文字を迷路にして遊んでいる俺の目の前に現れたのはなんとあの白鳥だ。
「ふえ~……。防衛対象さんに愛果さん。立花さんの言う通りほんとに来てくれたんですね~」
「立花の? どういうことだ白鳥」
「あ、はい。えっと……立花さんが私のところまで来てこのパソコンに魔力を込めてくれって言われたのでやってみるとなんかこんな暗い部屋に空間魔法によるワープがされたみたいで……えとえと……立花さんが私にここで待ってるようにって……あ! 直接じゃないですよ? 頭の中に直接……えっと直接なのかな? え~っとその……なんて言えばいいのかな……? 」
「あ、いやだいたい分かった。それでそれから立花になんて言われたんだ? 」
 白鳥は急にキッとした真面目な顔になってカードを構え始めた。
「あなたたちを倒すように言われました! なのですみませんが全力で倒させてもらいます! 」
 なるほど……そういうことだったのか。
 なんとなく気付いていたが白鳥が宝の番人ってことか……。
 めんどくさいのでとっとと終わらせたいのだが、白鳥がカードを使えることとさっきのオッサンの口ぶりからしてけっこう強いんだと俺は予想していた。
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