魔法少女の魔法少女による魔法少女のためのご主人様幸せ化計画

円田時雨

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MMMを継ぐ者

藤堂咲姫の誓い

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「一緒に死合おうぜ、赤目ェ……」
 望月たちMMMの後任としてやって来た魔法少女、藤堂咲姫は、突如(藤堂は知ってたようだが)襲ってきた魔人を軽くあしらって、魔人に大きな屈辱を味あわせた。しかし、死を覚悟した魔人が決死の特攻を仕掛けようとする。
「いいだろう。貴様の覚悟に敬意を表して、俺の技をくれてやる。冥土の土産だ。地獄の底まで持って行け」
 藤堂は右足を半歩前に出して刀の鍔を腹に添えるようにして構えた。切先は左上を見上げるように伸びている。
 それを見てほくそ笑んだ魔人は、藤堂へと猛スピードで走った。
「これが獅子最後の爪だ! 『秘儀獅子の陣・獅子累々ししるいるい』! 」
 カマイタチを連続で飛ばしながら突進してくる魔人。だが、藤堂は動じることもなくスルスルと避けていった。
雷道虎丸流らいどうとらまるりゅう雷速剣技らいそくけんぎ伏虎ふしとら』! 」
 地面スレスレを這うように走る藤堂は、魔人が繰り出したカマイタチを避けながら、魔人の足元まで一瞬で辿り着いた。魔人が覆い被さるように藤堂へ斬りかかる。藤堂は構えた刀を横一閃、魔人の胴体を真二つにした。血の雨が噴き出す。
「さ……流石は赤目の虎と……呼ばれるだけある……。だがその凄絶な剣を……貴様は何のために振る……」
 ぶっ飛ばされた上半身が口をパクパクさせながら息も絶え絶えとかろうじて喋る。
「真二つにされたってのにしぶといヤツだ。何のために剣を振るのか? 馬鹿が。頭の中身までめでたい野郎だな。決まってるだろう」
 藤堂は魔人の上半身を掴み上げ、首をぶった斬った。血飛沫を上げながらぶっ飛んだ首が数メートル先に落ちる。
「己の信ずる道のため……それだけだ」
 首のない上半身を投げ捨てた藤堂は、そのままこっちへ走ってきた。
「アイツが死んだせいで空間魔法が解除される。無理矢理解除させたんだ。元の空間へ戻る時少しグラつくが、覚悟しとけ」
 そう言うと、藤堂は刀を納刀して煙のように消した。赤くなった目も元の黒目へと戻っている。
「地震で喩えるなら震度は4くらいだと思います。怪我したり死んだりすることはないのでご安心ください。それに揺れといってもほんの一瞬です。地震よりも短いくらいですから」
 どうやら性格まで元に戻ったらしい。
 俺より少し背の高い笑顔が、会って間もないはずの俺にあの頃を思い出させる。
 崩れ行く空間の中で、俺は藤堂へ頭を下げたくなった。確かに望月たちがいなくなったのは受け入れられない、信じたくない自分がいる。だから俺は、藤堂の存在が受け入れられなかった。醜くMMMにしがみつきたい自分がいた。わざわざみんなに開けてもらった窓を、俺は再び閉めてしまったのだ。みんながいなくなった、それだけの理由で。
 だから地面へ自分の顔をつける覚悟もあった。
「なぁ藤堂」
「なんでしょう? もう話しかけられないかと思っていましたが」
 軽く口を抑えてころころ笑う藤堂。
「今日は……その……ごめん。望月たちがいないからってあんな冷たい態度を取って」
「戦闘時の私を見て、ちょっとビビっちゃいましたか? いきなり謝られるなんて」
 そんなわけないと言ったら嘘になるというか、それ以上である。正直言って魔人よりも怖かった。
 だが、嘘も方便だ。
「そんなことじゃねーよ。藤堂がMMMじゃないからって冷遇するのは間違いだと思ったんだ。これからは藤堂にも……窓を開かないとな」
 キョトンとした表情の藤堂だが、すぐに笑みを浮かべた。
「では改めて……MMMの代わりとしてですが、マスターさん、これからはよろしくお願いします」
 差し伸べられた手を受け入れようとしたその時、グラりと地面が揺れた。どうやら、魔人の空間魔法が完全に解除したらしい。いつもの窮屈なグラウンドへと戻ってきたようだ。運動部が邪魔くさそうな目で俺たちを冷ややかに見つめている。指導されるのも面倒くさすぎるので、俺は藤堂の手をグイッと引いて、さっさと校舎まで歩いた。
「マスターさん」
 透き通るような声が、運動部の掛け声をすり抜けて響いた。
「なんだ? こんな所で止まってる余裕はねえぞ」
 コロッとした笑い声が聞こえてくる。
「それじゃあ、今日からよろしくお願いしますね」
「なにが? さっきもよろしくって言われたんだし、10秒後にいう言葉じゃないだろ」
「フフッ、そうですね。でも、そのよろしくとはまた違います。居候の件です」
 思わずグラウンドの端っこまできて立ち止まってしまった。
「何だって? 居候? マジで? 」
「前任の望月さんと立花さんも、居候してましたよね? 私もそうさせてもらうよう仰せつかっていますよ。天界から」
 天界のお偉方共め~っ! 俺の家計がどれだけ苦しいかも知らないで~! と、顔を真っ赤にして思ったが、すぐさま俺の顔色が元の薄橙へと戻れるような妙案を思いついた。
「ふぅ…………分かった」
「ありがとうございます、マスターさん」
 ニコリとした藤堂の笑顔を一瞥して、俺は言葉を続けた。
「その代わり、守ってもらうルールがある」
 藤堂は笑顔を崩さなかった。
「ルール……ですか? 」
「あぁ。望月たちが居候してた時は大変だったからな。その時の経験を活かして守って欲しいルールを決めた。今ここで」
 俺は生徒手帳のメモ欄にペンを走らせた。不安定な場所で書いたから文字はフラフラだが、藤堂は顔をしかめることなく目を通した。
「確認のため音読させてもらいますね。
『俺の家に居候する者は以下のルールを守ってください。
 一、家賃は払うこと(月6万)
 二、家事は俺と分担して行うこと
 三、プラスチックごみ回収の日はゴミ出しをすること
 四、俺の目覚ましににウルトラバックブリーカーなどのプロレス技は使用禁止
 五、部屋の中をゴミ屋敷にしないこと』
で、よろしいでしょうか? 」
「よろしいですよ。家賃は正直申し訳なさを感じずにはいられないが、うちの家計が交通事故死寸前まで陥ったから……安定したらなくそうと思う」
 藤堂はコクコクと小さく頷き、ニコリと笑って紙を返した。
「分かりました。居候させてもらう身ですので、これくらいは当たり前かも知れませんね。よろしくお願いします」
 藤堂は望月が使っていた部屋を整理して使うこととなった。藤堂曰く、望月の温かみのある雰囲気がこの部屋にも残っているという。
 藤堂は望月たちと違って、家事全般は問題なくできるようだ。とりあえず皿洗いをしますと言って、慣れた手つきで皿をカシャカシャと鳴らす。
 下手をすれば俺よりも上手いんじゃないだろうかと、今まで浸っていた優越感が萎縮し始める。
 なにか手伝おうか? と尋ねてみるが、大丈夫ですよ。とか、ここは私に任せてください。なんて返事が返ってくるばかりだ。俺の仕事が取られそうなくらいせっせと働いてくれる。
 そうこうしているうちに、俺たちの1日はあっという間に終わっていた。
「それじゃあ、おやすみなさい、マスターさん」
 11時を時計の針がちょうど示していた。
 俺はその時、西田から連絡があるまで寝ないで欲しいという西田の願いを叶えさせようと、目をギラギラさせながら必死で睡魔と戦っていた。
 睡魔へギブアップ宣言をしようとしたその時、握っていたスマホがブルブルと震えた。睡魔との戦闘を終わらせた俺は、ロック画面すら煩わしく思えるほど、バタバタと忙しく電話に出た。
「なんだよ西田、遅いじゃないか」
『悪い悪い。マスターに協力して欲しいことがあってさ』
 西田が俺に頼み事をするのは珍しいことではない。今回も大したことではないだろうが。
「なんだ? いつものしょうもないことじゃないだろうな」
『バーカ! 今回は俺の人生を左右するほどの頼み事だぞ! お前の助けが必要なんだ』
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