魔法少女の魔法少女による魔法少女のためのご主人様幸せ化計画

円田時雨

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剣道部へようこそ

戦え藤堂、小早川部長!

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「藤堂さん、改めて、剣道部に入ってみない? あなたの剣の腕前は全国大会で優勝を狙えるレベルよ」
 剣道部部長小早川葵は、満面の笑みで言った。
 残念ながら藤堂の腕は世界大会で寝てても優勝できるくらいだ。全国大会優勝候補を数秒で打ちのめすレベルだからな。それも手加減しすぎたってコメントを残している。
 藤堂は苦笑していた。誘いは嬉しいが、正直言って入る気はそこまで無いらしい。
 俺は西田に顔を向けてみた。祈るような表情で藤堂を見つめている。確かに、藤堂の入部が決まる決まらないで、コイツの剣道部部長へのナンパが成功するか決まるのだ。
 まだ話してすらいないやつに、コミュ障のお前が挑むんじゃねえよ。藤堂が男だったら、剣道部長にアタック掛けても成功するかもしれないが。
「どうする? 藤堂さん」
 小早川葵が藤堂に迫る。藤堂は困ったような顔をした。
「藤堂さん、入ってくれよ。頼む」
 小さく手をパチンと合わせる西田。俺も藤堂の顔を凝視した。すると、藤堂は部長の胸辺りに視線が釘付けになっていた。視線に気づいた部長は、戸惑った顔をした。そりゃいきなり胸辺りをまじまじと見られても困るよな。
 藤堂は突然、力を込めるようにフゥと溜め息をついた。そして改めて小早川部長へ向き直った。
「1週間、仮入部という形でここにいさせてもらっても構いませんか? 少し考える時間が欲しいので」
 藤堂の言葉に、戸惑った表情を奥底にしまい込んだ小早川部長は、顔を輝かせていた。2人はガシッと力強い握手をした。
 俺にとって藤堂の答えは意外なものだった。てっきり藤堂なら断るのかとばかり思っていたのだ。俺の護衛がどうのこうのとか言って。
「あ、そうだ。あそこにいる男子2人も見学として1週間、ここにいさせてもらうのは構いませんか? 彼らも一応、入部を検討中らしいので」
 小早川部長はおやゆびをたてて応えてくれた。西田も巻き込んだことになったが、西田はアホみたいに喜んでいた。抑えられないテンションは、興奮したようなボソボソ声で俺に伝わった。
「マスター、これで俺のナンパ計画も……おっと、なんでもない」
 自分で言っちまったじゃねえか。
「安心しろ、俺にはもうバレてる」
 ギクッとした西田だが、開き直ったのか小早川部長へと向き直った。
 こうして剣道部見学の1週間が始まった。西田は部長へアタックを開始するために、1日目からタメ口で喋る仲になっていた。
「じゃあ、藤堂さんを剣道部に入部するよう言ったのは西田君だったのね。ありがとう! 1人でも入部したら廃部は無しになるの。これで剣道部は無くならないよ」
「いや~、礼を言われるようなことはしてないぜ。人助けと思えばな」
 と、こんな具合に。それにしても西田は、部長の言葉に罪悪感を感じているのだろうか。人助けというのは偽りで、部長へのナンパがコイツの目的なのだから。
 藤堂はというと、剣道部顧問の特訓相手になっていた。小早川部長を全国レベルまで育て上げただけはあり、剣の腕前は小早川部長をも上回る……らしい。自称なので、多少盛っている可能性もあるのだ。
 そんな先生は、藤堂と小早川部長の試合を見て、再び奮起する気になったらしい。剣道ド素人の藤堂に、剣道の何を学ぶ気なのだろうか、気になるところではある。
 剣道部の練習を見学して、時には練習に参加していた1週間は、あっという間に過ぎていった。
 この1週間で小早川部長の実力は、メキメキと成長していた。目を見張るほどの伸びっぷりだ。先生との試合では終始圧倒していたし、他の部員との差は一層開いていったのだ。
 より自信を付けた小早川部長は、藤堂と試合をすることになった。1週間で伸びた自分の実力を、藤堂との試合で確かめたいそうだ。
「藤堂さん、もしあなたに一矢報いることが出来たら、剣道部に正式に入ってくれる?」
 挑むような目で藤堂を見る部長。まるで師匠と弟子のようだ。
「……分かりました。その代わり、私も前回より実力を出させてもらいますよ」
 前回と同じ形式で試合は行われた。
 先攻を仕掛けたのは、やはり小早川部長だった。藤堂の胴に横薙を打ち込もうと踏み出す。それを軽く避けた藤堂は、素早く懐まで飛び込むと、胴と面を同時に切り上げた。勝負はほんの一瞬だった。
 藤堂の凄腕に、やっと慣れを見せ始めた審判は、藤堂の勝ちをやかましく宣言した。小早川部長は地面に突っ伏している。
「全然……敵わなかったなぁ。強すぎるよ、藤堂さん……」
  嗚咽混じりにそう呟いた小早川部長だが、様子がおかしい。小早川部長の胸あたりから、モクモクと黒煙が立ち上っているのだ。様子を見る限り、西田やその他剣道部員たちは気付いていないらしい。
 藤堂と俺だけに見えているようだ。藤堂は素早く飛び退くと、壁際に掛かっている木刀を蹴り上げてガシッと掴んだ。藤堂の異常な身体能力に、剣道部室の全員が呆気に取られる。
「『空間魔法・捌式』!」
 さざ波のような音を立てながら、剣道部室は、あっという間に川の畔へ変わっていた。俺と藤堂、そして小早川部長だけがこの空間にいた。
「どうなってるんだ?」
「生物憑依型の魔人が、小早川さんに取り憑いています。さっきの試合で負けた発生したマイナスエネルギーが、魔人を目覚めさせたのでしょう」
 突っ伏したままの部長へ、藤堂が厳しい視線を送る。
「人にも魔人って取り憑くのか……」
 俺は立花と初めて出会った時に現れた、デカ蜘蛛魔人を思い出した。
「その人の発生させる、マイナスエネルギーを依り代として取り憑く魔人もいます。一定量のマイナスエネルギーが発生すると、宿主を操ってしまう場合があるんです。小早川さんは今正にそうなっていますね」
 小早川部長がスクっと立ち上がる。暗黒のオーラを身に纏い、コチラを睨んでいる。白目の部分は黒く光り、黒目の部分は青紫色をしている。
「もしかして、最近小早川部長がやたら剣道で強くなったのも関係あるのか?」
「それは多分、魔人が体を操ってマスターさんを襲う時のため、体を慣らしていたのでしょう」
 漆黒の眼光がコチラを睨みつけている。
「それにしても厄介ですね、あのタイプは。宿主に一定のダメージを与えないと魔人が出て行ってくれません」
 そう言いながら、さっき取ってきた木刀を構える。まもなく、目は真紅に光った。
「『換装』さて、どこまで及ぶのか、が問題なのですが……」
 黒いTシャツに、ダメージジーンズへいつの間にか着替えている。
「私は……大会で優勝するために必死で練習してきた!」
 小早川部長が吐き出すように叫ぶ。漆黒に光る目は、涙を浮かべていた。
「私の何が悪かったの? 何がダメなのォっ! 『召喚』!」
 小早川部長はどこからともなく、太刀を取り出した。
「心の叫びです。魔人が戦うため、マイナスエネルギーを解放された人は、それまでの不満を無意識のうちにぶちまけてしまいます」
 俺の疑問を先読みして、藤堂は答えた。
「しかし……まさかここまで操られているとは思いませんでした。まさか魔人の武器を召喚するとは……」
 藤堂はジリジリと力を込めている。
「みんな……私のことが嫌いなんでしょ? だから剣道部辞めて……」
 ユラユラと揺れながら、ゆっくりと小早川部長が近づいてくる。
「私のことが嫌いなら、私だって嫌ってやる! みんなみんな……大っっ嫌いだァァっ!」
 雷のように不満を轟かせ、小早川部長は藤堂に向かって飛び出した。
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