異世界めぐりの白と黒

小望月 白

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第二の世界

ランドーレ家の中で -1

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メリザ・ランドーレは野心が強く図々しい父、金銭的な余裕も無いのに自らを飾り立てる事ばかりに執着する母、自信過剰でどうしようもない発想の持ち主の兄を持つ下級貴族の娘だ。
そして貴族とは言っても下級の中の下級。
名ばかりの貴族で生活はいつも余裕がない。



毎日煩い家族に悩みながらも特にどうする事もなくこれまで18年生きてきた。




しかしある日、同じ下級貴族仲間の友人から今王城にこれまで見たことも無い見目麗しい女性が滞在されているという噂を聞いた。家に居てもガヤガヤと煩い家族と離れたく思い『見られたらいいな』くらいに思って王城に来た。
すると王城の使用人達の間ではその麗人が庭巡りをするのがお好きで、最後にはいつも同じ花壇に花を見に来られるという情報が当然かの様に出回っていた。

「なら、私もご一緒しても宜しいですか?」

無理かなと思いながらもダメ元で教えてくれた使用人の人達にそう言うと快く許してくれた。そして暫く待った頃、周りの使用人達が静かに浮き足立ち出した。

「ほら、お見えになられましたよ」

使用人の女性の言葉に視線を移すとそこには本当に見た事が無いような色合いの女性が居た。
遠目でもよくわかる艶々とした漆黒の髪、透き通るように白く美しい肌。
楽しそうにその女性を眺めている使用人達が言うには瞳は深い朱と黒のグラデーションが美しい夕暮れ時の色らしい。


ーーこんなに美しい方が存在するなんて………


そして衝撃を受けたのは見た目だけではない。何と護衛騎士や侍女達と楽しそうに話しをしているのだ。


ーー下級貴族の私でももう少し距離を置いて接するのに………


今回のこの見学会も、初めて使用人とこんなに近くで話しをしたし、向こうから話しかけられもした。
しかしここは何というか、あの女性を眺める為に皆んなが集まっているので普段のそういった決まり事やしがらみは少し薄れていそうだ。


ーー何もかもが私と違う方………


聞けば滅多にいない『王族の客人』という称号を受け、上級貴族よりも更に上の扱いを受けているらしい。


ーーここまで差があると恨めしさとか、妬ましさなんて出てきませんね


隣の男性に彼女の名前を聞くと『レイチェル様だよ』とそのレイチェル様から目を離さずに前を見たまま答えてくれた。



ーーお友達になってみたい………


ふと自分の中に浮かんだ考えに思わず赤面する。


ーーなんて分不相応な!


しかしこんな遠くからではなく、直接目が合う距離でお会いしたい。
声をお聞きしてみたい。
その夕暮れ時の瞳に私を映して欲しい。
そんな思いがふつふつと湧いてくる。


この様な考え、図々し過ぎて普段の父の事を言えないではないかと自分に言い聞かせた。しかしそれからほぼ毎日王城へは向かい、使用人達に混じってレイチェル様の鑑賞会に勤しんだ。


ここでは皆『レイチェル様を見る為』に集まっているので、貧乏貴族の自分が混じっていようと特に誰も気に留めない。それがまた楽しかった。


ーーああ、でもやっぱり直接お話ししてみたい………


淡い希望を抱きながら楽しい鑑賞会に入り浸っていたがある日、恐れていた事が起きてしまった。
一応、貴族の端くれなので王城に出入りする事が許可されている父がある日レイチェル様の噂を耳にしてしまった。
そしてそこから自信が有り余っている兄の耳にも入った。



ーーやめてやめて!せっかくの私の時間を壊さないで!



そしてその夜予想通り父に呼び出され、予想通りの言葉をかけられた



『今王城に滞在しているレイチェルという女性に取り入れ』と。



ーーお友達にはなれなくてもせめて直接お話はしてみたい。けど………


父親の言葉の後では何をしても下心がある様になってしまう気がする。そんなのは嫌だ。


ーーせっかく、せっかく見つけた私のささやかな幸せを壊したくない



父親には努力するとは伝えたが、こうなった以上もう自分から関わり合いになる気は無かった。仮にもし自分が少しでもレイチェル様と話でもしようものならあの父親は図々しくレイチェル様を利用しようとするに違いない。


ーーもう、見にいくのも控えた方がいいのでしょうが………


やはりどうしても姿だけでもみたいと思ってしまい、使用人に混じっての鑑賞会は続けていた。






しかし、狂ってしまった。
ナルシストあの兄の所為で全てが狂ってしまった。






いつも通り楽しそうなレイチェル様と侍女や護衛騎士の方達。
そしてそれをほくほくと見守る私達。


ーーこれこそが幸福なのだわ



見ているだけで幸せな気持ちになっていると、とても聞き覚えのある自信たっぷりの声が聞こえてきた。



「やあやあ!そこに居られるのは今噂のレイチェル様ではございませんかな?」



その声を聞いた後、暫く頭が考える事を拒否していた。
はっきりと何を言っているのかは無駄にでかい兄の第一声以外聞こえなかったが十分だった。



美しくにっこりと笑ってはいらっしゃるものの、纏う空気がピリピリとしてはっきりとお怒りなのが分かるほどレイチェル様はお怒りだった。



ーーどうしよう


今すぐにここを飛び出して兄を止める?しかしいつもこちらの意見を全く聞こうとしない兄だ。私が行った所で無意味だろう。しかしレイチェル様やその周りの方々に対して失礼を働いているのは明白。


ーーどうしましょう



そしてオロオロとしている内にぶわりと風が吹き、頭がぼうっとして何も考えられなくなった。その日はどうやって家に帰ったのかもわからない。
そして遅れて兄も運ばれてきた。倒れたと王城の使者は言うがどうも兄の様子がおかしい。



ーーいつもなら絶対に近づかないけど……



一応お見舞いという形で兄の部屋を訪れた。するとそこには帰ってきた時と同様、恍惚とした表情で何かをぶつぶつと話す兄がいた。


ーー 数刻経っても『こう』なのですね



今まで散々自分勝手に動いていた兄だがこんな状態になったのは初めてだ。



ーーと、言う事は。



普通に考えればレイチェル様は何かの『能力』を持たれている事になる。
別に能力を兄に対して使った事は全くもって何とも思わないが、もしその能力を使う事でレイチェル様の名誉に傷が付くのは避けなければいけない。
それに、能力の中には使えば使うほど能力者自身の身体を壊す物もあるという。



ーー謝りたい。それから、ご無事かどうかを確かめたい



常識的に考えればあの兄の妹である私なんて会いたくないかもしれないがどうしても謝りたかった。



ーー明日、王城へと向かってみましょう




会話の成り立たない兄の部屋を出ながら、明日レイチェル様やその周りの方々に謝罪する言葉を考えた。
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