91 / 149
第二の世界
ランドーレ家の中で -1
しおりを挟むメリザ・ランドーレは野心が強く図々しい父、金銭的な余裕も無いのに自らを飾り立てる事ばかりに執着する母、自信過剰でどうしようもない発想の持ち主の兄を持つ下級貴族の娘だ。
そして貴族とは言っても下級の中の下級。
名ばかりの貴族で生活はいつも余裕がない。
毎日煩い家族に悩みながらも特にどうする事もなくこれまで18年生きてきた。
しかしある日、同じ下級貴族仲間の友人から今王城にこれまで見たことも無い見目麗しい女性が滞在されているという噂を聞いた。家に居てもガヤガヤと煩い家族と離れたく思い『見られたらいいな』くらいに思って王城に来た。
すると王城の使用人達の間ではその麗人が庭巡りをするのがお好きで、最後にはいつも同じ花壇に花を見に来られるという情報が当然かの様に出回っていた。
「なら、私もご一緒しても宜しいですか?」
無理かなと思いながらもダメ元で教えてくれた使用人の人達にそう言うと快く許してくれた。そして暫く待った頃、周りの使用人達が静かに浮き足立ち出した。
「ほら、お見えになられましたよ」
使用人の女性の言葉に視線を移すとそこには本当に見た事が無いような色合いの女性が居た。
遠目でもよくわかる艶々とした漆黒の髪、透き通るように白く美しい肌。
楽しそうにその女性を眺めている使用人達が言うには瞳は深い朱と黒のグラデーションが美しい夕暮れ時の色らしい。
ーーこんなに美しい方が存在するなんて………
そして衝撃を受けたのは見た目だけではない。何と護衛騎士や侍女達と楽しそうに話しをしているのだ。
ーー下級貴族の私でももう少し距離を置いて接するのに………
今回のこの見学会も、初めて使用人とこんなに近くで話しをしたし、向こうから話しかけられもした。
しかしここは何というか、あの女性を眺める為に皆んなが集まっているので普段のそういった決まり事やしがらみは少し薄れていそうだ。
ーー何もかもが私と違う方………
聞けば滅多にいない『王族の客人』という称号を受け、上級貴族よりも更に上の扱いを受けているらしい。
ーーここまで差があると恨めしさとか、妬ましさなんて出てきませんね
隣の男性に彼女の名前を聞くと『レイチェル様だよ』とそのレイチェル様から目を離さずに前を見たまま答えてくれた。
ーーお友達になってみたい………
ふと自分の中に浮かんだ考えに思わず赤面する。
ーーなんて分不相応な!
しかしこんな遠くからではなく、直接目が合う距離でお会いしたい。
声をお聞きしてみたい。
その夕暮れ時の瞳に私を映して欲しい。
そんな思いがふつふつと湧いてくる。
この様な考え、図々し過ぎて普段の父の事を言えないではないかと自分に言い聞かせた。しかしそれからほぼ毎日王城へは向かい、使用人達に混じってレイチェル様の鑑賞会に勤しんだ。
ここでは皆『レイチェル様を見る為』に集まっているので、貧乏貴族の自分が混じっていようと特に誰も気に留めない。それがまた楽しかった。
ーーああ、でもやっぱり直接お話ししてみたい………
淡い希望を抱きながら楽しい鑑賞会に入り浸っていたがある日、恐れていた事が起きてしまった。
一応、貴族の端くれなので王城に出入りする事が許可されている父がある日レイチェル様の噂を耳にしてしまった。
そしてそこから自信が有り余っている兄の耳にも入った。
ーーやめてやめて!せっかくの私の時間を壊さないで!
そしてその夜予想通り父に呼び出され、予想通りの言葉をかけられた
『今王城に滞在しているレイチェルという女性に取り入れ』と。
ーーお友達にはなれなくてもせめて直接お話はしてみたい。けど………
父親の言葉の後では何をしても下心がある様になってしまう気がする。そんなのは嫌だ。
ーーせっかく、せっかく見つけた私のささやかな幸せを壊したくない
父親には努力するとは伝えたが、こうなった以上もう自分から関わり合いになる気は無かった。仮にもし自分が少しでもレイチェル様と話でもしようものならあの父親は図々しくレイチェル様を利用しようとするに違いない。
ーーもう、見にいくのも控えた方がいいのでしょうが………
やはりどうしても姿だけでもみたいと思ってしまい、使用人に混じっての鑑賞会は続けていた。
しかし、狂ってしまった。
ナルシストあの兄の所為で全てが狂ってしまった。
いつも通り楽しそうなレイチェル様と侍女や護衛騎士の方達。
そしてそれをほくほくと見守る私達。
ーーこれこそが幸福なのだわ
見ているだけで幸せな気持ちになっていると、とても聞き覚えのある自信たっぷりの声が聞こえてきた。
「やあやあ!そこに居られるのは今噂のレイチェル様ではございませんかな?」
その声を聞いた後、暫く頭が考える事を拒否していた。
はっきりと何を言っているのかは無駄にでかい兄の第一声以外聞こえなかったが十分だった。
美しくにっこりと笑ってはいらっしゃるものの、纏う空気がピリピリとしてはっきりとお怒りなのが分かるほどレイチェル様はお怒りだった。
ーーどうしよう
今すぐにここを飛び出して兄を止める?しかしいつもこちらの意見を全く聞こうとしない兄だ。私が行った所で無意味だろう。しかしレイチェル様やその周りの方々に対して失礼を働いているのは明白。
ーーどうしましょう
そしてオロオロとしている内にぶわりと風が吹き、頭がぼうっとして何も考えられなくなった。その日はどうやって家に帰ったのかもわからない。
そして遅れて兄も運ばれてきた。倒れたと王城の使者は言うがどうも兄の様子がおかしい。
ーーいつもなら絶対に近づかないけど……
一応お見舞いという形で兄の部屋を訪れた。するとそこには帰ってきた時と同様、恍惚とした表情で何かをぶつぶつと話す兄がいた。
ーー 数刻経っても『こう』なのですね
今まで散々自分勝手に動いていた兄だがこんな状態になったのは初めてだ。
ーーと、言う事は。
普通に考えればレイチェル様は何かの『能力』を持たれている事になる。
別に能力を兄に対して使った事は全くもって何とも思わないが、もしその能力を使う事でレイチェル様の名誉に傷が付くのは避けなければいけない。
それに、能力の中には使えば使うほど能力者自身の身体を壊す物もあるという。
ーー謝りたい。それから、ご無事かどうかを確かめたい
常識的に考えればあの兄の妹である私なんて会いたくないかもしれないがどうしても謝りたかった。
ーー明日、王城へと向かってみましょう
会話の成り立たない兄の部屋を出ながら、明日レイチェル様やその周りの方々に謝罪する言葉を考えた。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
※他サイトでも掲載しています
※ちょいちょい手直ししていってます
2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる