異世界めぐりの白と黒

小望月 白

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第二の世界

ランドーレ家の中でー2

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次の日、緊張で早く起きすぎてしまったのでひたすらレイチェル様にお会いした時のイメージをしながら予行練習をした。


まずは、淑女の挨拶。
そして、自己紹介。
最後に、兄の失礼を誠心誠意謝罪する。



何度も、何度も繰り返している内に出掛ける時間になった。


ーーああ、ドキドキします


謝罪したいという気持ちが嘘な訳ではない。しかし、初めてレイチェル様の正面に立つ事ができるかもしれないと思うとやはりドキドキした。



ーーレイチェル様、今日もあの花壇へいらっしゃるのでしょうか



ガタガタと乗り心地の悪い馬車の中から外の景色を見ながら考えた。
























「……え?今なんと?」



「ですから」



今目の前で私に説明をしてくれているのは以前私にレイチェル様が花壇へいらっしゃる事を教えて下さった使用人の女性です。



「レイチェル様は現在体調を崩されお部屋から出られない様子です」




鈍器で頭部を殴られたかの様な衝撃が走った。



ーーやはり、レイチェル様のお身体に負担が……?


「なので散歩にも来られないそうですよ。早くお元気になられると良いですね」


目の前の女性の言葉が耳をすり抜ける






暫くの間私は使用人の女性が立ち去ってからもそこから動けずにいた。




ーーどうしましょう




私は能力を持っていないし、周りに持っている人もいないからよくわからないが、散歩にも来られないということはよっぽど酷いのだろうか






ーーとりあえず……帰りましょう………





行きと違い帰りの馬車は酷く長く感じた。




次の日、次の日こそは。そう思って朝早くから一日中花壇の前でレイチェル様を待った。
気がついたらもう夕方で空腹なんて感じなかった。






そして4日目、やっとレイチェル様が花壇へお越しになった。



ーーよかった!ご無事で……!!




そう思ったが少し疲れておられる様な気がする。



ーーもう少しだけ………




少しだけ、そう思い距離をほんの少し詰める



「誰だ!」



ーーあっ



レイチェル様ばかりに目を取られていて植木にスカートが引っかかってしまった



「やましい事がないのならばさっさと出てこい!」




レイチェル様の護衛騎士の方が叫んでおられる。




ーーは、早く出ないと……



ようやくドレスが植木から外れた。しかし足が動かない




ーー 一体どの面を下げてレイチェル様にお会いできるというのでしょうか



このまま走り去れば誤魔化せるかもしれない、そう思ったがきっとあの叫んでいる護衛騎士辺りが追いかけてくるだろう。
たまたま通りがかっただけだと言ってすぐに立ち去ろうか………
そう思った直後、女性の声が聞こえる





「あの、そちらへいらっしゃる方。どうか出てきては貰えませんか?こちらから何か危害を加える様な事はしませんので」




「!」



レイチェル様だ。きっとレイチェル様の声だ。聞いたことはないが、声を聞いただけで心が痺れる感じがする。
レイチェル様のお言葉の後に何か恐ろしい言葉も聞こえた気がしたがここは出ないわけには行かない。
決死の思いで足を踏み出した。




「!!!」




初めて正面から見るレイチェル様はとても美しく、離れて見るよりもずっと魅力的だった。そして初めて見るレイチェル様の瞳に吸い込まれそうな感覚がし、思わず目を逸らしてしまった。



ーー私ったら失礼を………



するとどうしてこんな所に居たのかと聞かれた。それはそうだ。普通こんな所に用はない。



ーーれ、練習通りに。練習通りに、よ。




「はい。実はその、レイチェル様!初めてお見掛けした時からお慕い申し上げておりました!!」










ーー間違った………


















その後は取り乱しに取り乱し、もう自分でも何を言っているのか全くわからなかった。
普段から両親や兄から「オドオドぶつぶつと喋るな」と顔を顰めながら言われているのに、今回のはその比ではない程酷い物になった。





しかしレイチェル様は顔を顰めるでも、無視するでもなく私の言葉を聞いて下さると言って下さった。そして近くで話をしようと。


私の様な者が近付いてはいけないとはわかっていたけれどレイチェル様のお言葉に甘えてしまった。


そして自己紹介をし合ったが、レイチェル様の流れる様な美しい淑女の礼に見惚れた。
とにかく、私は本来の目的である『兄の失礼を謝罪する』事にした。


しかしレイチェル様は自分も悪い事をしたと言って兄を慮って下さった。
詳しくは知らないが兄がレイチェル様の護衛騎士の方々を悪く言ったのが原因でレイチェル様はお怒りになられたらしい。



ーーだったら全て、あの人のせいなのに





本当にあの兄は昔からろくな事をしない。













対して私が脈絡を得ない話し方をしているのに、レイチェル様は最後まで話を聞いてくださった。久しぶりにこんなに自分の口で沢山お話をした気がする。


そして何と、夢の様な事が起こった。
レイチェル様と関わりを持ちたい貴族達が娘を使って手紙を沢山出しているのは知っていたがそれに対してレイチェル様はお茶会を近々開かれるらしい。
私はお手紙なんて烏滸がましくて出してはいないが、いろいろな事を気にせずにお手紙を出せる子はいいなと思っていた。

なのに、レイチェル様は私にもそのお茶会に参加しないかと誘ってくれた。しかし残念ながら我が家は余裕がない。
そんな沢山の貴族の令嬢が来られるのならきっと皆競う様にして華やかな格好をしてくるだろう。
下級貴族の中でも末端の私が行った所でいい目では見られないのはわかっているので本当に残念だが辞退した。


すると少し考えたレイチェル様は「じゃあ、個人的にお茶をしませんか」と提案して下さった。


ーーそれなら……!



しかしそう思った直後、他の方々は皆でお茶会なのに私なんかが個人的にお茶をご一緒するのは余りにも申し訳ない気がした。
断ってばかりの私に嫌な顔1つせずにレイチェル様は「なら時々ここで一緒にお話をしませんか?お友達になりましょう」と微笑んで下さった。
















「ああ、なんて素敵な方なんでしょう」


自室のベッドの上で思わずため息が漏れる。
とりあえず、レイチェル様と交友関係ができたなんて父親あの人が知ればまた確実にレイチェル様にご迷惑をおかけする事になる。



「隠し通さないと」



私は胸いっぱいの幸せを噛み締めながら眠りについた。







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