迷宮転生記

こなぴ

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第1章

外伝 ~ヴィアの冒険~

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 ここのダンジョンでお世話になって50年以上経ったかな?ついに私は真人様の庇護を離れてしまいました。
 みんなはまだダンジョンの入口で見送ってくれているでしょう。
 今すぐ後ろを振り向きたいですが、振り向いてしまうと涙が出そうだし、足を止めてしまいそうです。
 精霊湖はもう少し先ですが、真人様が見えなくなった所で私は立ち止まりました。
 まぁ真人様はこの程度の距離ならば把握している可能性もありますね。
 それに、街の門は夜は閉ざされているため、精霊湖の方で夜明けを待つことにしたから、精霊たちが私のことを話しているでしょう。
 早朝出発すればいいだろうって?それでは冒険者が多くて見送りどころではないですっ!私は真人様に見送ってもらいたいのですっ!
 しかし、立ち止まった理由は他にもあります。
 体が重いのです!これは魔力枯渇でしょうか?
 久しぶりに外に出ましたが、魔力が薄く、空気も悪く、真人様の元へ今すぐ帰りたくなってきました。

「ヴィア。名残惜しいのはわかるが、さっさと行くぞい」

「リム様?どこにいらっしゃるんですか?体が重くて動きにくいです」

「あれだけ魔力が濃い所にいればそうなるじゃろ。じきに馴れるから我慢せい。我らは人間の前には姿を現さんからな、いつも近くにいるとは限らんぞ」

「そ、そんな・・・」

「しょうがないのう。街に入るまでは近くにいてやるかの」

「リム。どうせ長旅になるんだから、ゆっくりでいいと思うわ」

「そうじゃのう。これは先が長くなりそうじゃ・・・。夜明けまでまだ時間がある。我らが見張っとくから仮眠をとるがよい」

「ありがとうございます。でも見張りはいらないと思いますっ!真人様に野営用の魔道具を作ってもらいました!」

「ほう。そんな便利な魔道具があるのか」

「リム。ヴィアはもらったと言ったわ。真人ちゃんのことだからきっと非常識な物よ」

「リア様。そんなことないですよ?さて、どれにしようかな~。木が邪魔で家は出せなそうだし。テントかな~?小屋もいいな~。うーん。決めた!どうせすぐ起きるしテントにしよう!」

「リアよ・・・。すでに家だの小屋だの言っておる気がするが聞き間違いかの・・・?」

「私にもそう聞こえたわ・・・。この分じゃテントも普通じゃなさそうね・・・」

 私は鼻歌を口ずさみながら真人様に作ってもらったテントを腕輪の空間収納から取り出して地面に設置しました。

「見た目は普通じゃが・・・」

「そういえばリア様とリム様は、普段目隠しをつけておられますが、見えてるのでしょうか?」

「ええ。見えてるわよ。目隠しというより、魔力を抑える眼帯みたいな物ですもの。これも真人ちゃんが作ったのよ?真人ちゃんに会う前は魔力でしか判断できなかったけどね」

「そうなんですか。そんなことよりテントに入ろ~っと。では、おやすみなさい」

「そんなことって・・・。リム。ヴィアは少し冷たくないかしら?」

「クリスもそうじゃが、真人以外には興味を持たんのじゃろうな・・・」

 私はテントの中に入り、魔力を流すとテントに付与された、結界、隠密、防音が発動されました。
 これで誰からも見つかることなく静かに過ごせます。
 人が多い場所や、最初から見られてると隠密の効果はないですが、結界と防音だけでも十分です。
 テントの中は、空間拡張が付与されていて各部屋にはキッチン、リビング、寝室、なんとお風呂とトイレまであります。
 小屋は、見た目は茶色の5メートルほどで、中はテントの2倍の広さ、和室、客室、物置が追加されていて、家はダンジョンの私の家と同じ建物です。
 こんな物が収納されてるなんて誰も思わないですね。
 フフッ。真人様はすごいです。
 私はテントだけでいいと言ったのですが、真人様は見た目も大事だとおっしゃって小屋と家も作ってくれたのです。
 床に寝っ転がった私はそのまま伸びをしました。
 ここの床にはカーペットというモフモフの敷物が敷いてあってベッドじゃなくても寝てしまいそうです。
 温度調整の魔道具で部屋の温度を下げてこたつをだすのもありですね。
 昔、クリス姉様が言っていた、こたつから出れなくなった気持ちもわかります。
 そんなことを考えながら微睡みまどろみ始めた私は、真人様が「そのまま寝たら風邪引くぞ」とおっしゃっていたのを思いだし、いそいそとベッドに潜り込みました。
 しかし、真人様のことを思いだしたのがいけなかったのか、突然、寂しさに襲われ、ついには一睡も出来ずに夜明けを迎えてしまいました。
 朝食を軽く食べ、重い足取りでテントを出ると、テントの結界の上にリア様とリム様が寝ていました。

「お二人共、そんなところで寝てたんですか?中に入ってこればよかったのに」

「我らも入ろうとしたんじゃがな・・・。声をかけても叩いても出てくる様子がなかったもんでの」

「そういえば、中に入ると結界が発動して入ってこれないですし、防音だから何も聞こえないですね」

「そ、そうなのね・・・。今度から私たちは別の場所に行くわ」

「わかりました。私は今から街に向かいますよ?」

「ええ。私たちは姿を消しておくわ」

 私はテントを仕舞い、街に向かって歩き始めました。
 街に近づくと立派な城壁が見えてきましたが、いつも真人様の作る物を見ている私は、特に驚くことなく門に並んでる列に並び、種族を隠すためにローブについたフード被り、すぐに順番がくると、身分証がないためよくわからない水晶に手をかざして、問題なく街に入ることができました。
 私は街に入ると、まずは冒険者登録をするために、道行く人に冒険者ギルドの場所を訪ね、街並みを見ながら向かいました。
 冒険者ギルドに着き入口をくぐると、正面に受付カウンターが4つ、左側の壁には依頼と思われる掲示板、右側は酒場や食事ができるようです。
 朝早く訪れたこともあり、人が少し多いですが、私は気にすることなくフードを取りました。
 すると一気に視線を感じました。
 真人様以外に興味のない私は、そんな視線をものともせず、一番列が少ない受付に並びました。
 順番がくると、受付の女性に「冒険者登録をしたい」と言うと私の顔を見た受付の女性は、目を見開き驚いた顔で「は、は、白銀のエ、エルフ様!?」とつぶやいていました。
 私はその様子に首をかしげながら受付の女性をみていると、ハッと我を取り戻し「し、少々お待ちくださいっ!」と言い、飛び上がってどこかへと走って行きました。
 不思議に思いながら待っていると、そこに列の後方から1人の体格のいい男が威圧しながら近づいてきました。
 もっとも真人様やクリス姉様に比べたら赤子・・・いや、ゴブリン?うーん、道端の石コロ?のようなものですかね。
 要するに何も感じないということですね。
 そんな風に思っていると男は「おいっ!お前!リーナちゃんに何しやがったんだ!?」と叫んできました。
 その叫び声でさらに注目を集めました。
 どうやらさっきの受付の女性はリーナという名前らしいです。
 身に覚えがない私が不思議そうな顔をしていると、男はさらに近づいて私に掴みかかろうとしてきましたが、触れられたくなかった私は距離を取りました。
 いつの間にか周りに列はなく、他の冒険者たちは壁際に寄り、私たちの様子を窺っているようで、周りからは「またアイツかよ」「よくこの街に入れたよな」「誰か衛兵呼んでこい」と聞こえてきました。
 察するによくトラブルを起こしている人物のようです。
 男は私が距離を取ったことにビビって下がったと勘違いしたのか、ニヤニヤしながらまた掴みかかろうとしてきました。
 そういえばクリス姉様に「冒険者になるなら舐められるようなことをするな」と言われたことを思い出した私は、男が近づこうとした瞬間、軽く威圧して足が止まったところを一瞬で懐へと踏み込み、お腹へと拳をお見舞いしました。
 男は泡を吹いて気絶し、これに満足した私は受付の方に戻り女性待つことにしました。
 周りの冒険者たちは口をポカーンと開けて倒れた男を見ていたが、次第に「おい今の見えたか?」「一瞬だったぞ」「アイツAランクだったよな?」と騒ぎ始め、少しめんどうになりそうだと感じ、フードを被りました。
 するとカウンターの脇にあった階段から1人の男と受付の女性が降りてきました。
 男は現れて早々、冒険者が倒れてる現場に出くわして思わず声を上げました。
 受付の女性は額に手を当てています。

「おいおい!何の騒ぎだこりゃあ!?誰か説明しろ!」

 そこに受付のカウンターに残っていた女性が男に一部始終を話したようです。
 男は倒れた男を一瞥すると、女性に「牢屋に入れておけ」と言うと私の方を見て言ってきました。

「嬢ちゃんは俺についてきてくれ」

 男を見ると身長は高く屈強な体格で、先ほど倒した男よりかは強いと思えるが、僅かな差と判断した私は大人しくついて行くことにしました。
 男は階段を上がり始め、受付の女性に「どうぞ」促された私は、男の跡についていき2階へと上がりました。
 案内された一室はどうやら男の執務室のようで、ソファーに掛けるよう言われ、テーブルを挟んで男も腰掛けました。
 男の後ろにはリーナと呼ばれる女性が立ちました。

「先程の件はアイツの自業自得だろう。殺し合いは論外だが、冒険者同士のいざこざなんて日常茶飯事だしな。だから嬢ちゃんはおとがめなしだから気にするな」

「私は何も気にしてませんよ?邪魔なのを払っただけですから」

「Aランクを邪魔者扱いか・・・。ところでお顔を拝見しても?」

「・・・まぁ、いいですけど」

 私はフードを取りました。
 すると男は驚愕で目を見開き、ソファの前にあったテーブルにぶつかるほどの勢いで頭を下げてきました。

「私は頭を下げられるようなことしてないですよ?」

 男は頭をあげて言ってきました。

「申し遅れました。私はギルドマスターのガイウン・ダンパと申します。白銀のエルフ様。私は父からあなた様方のことを伺っております。父は誕生祭に参加した時、あなた様方を目にすることができて大層感動したとお聞きしております。それにこの街はダンジョンのおかげで発展してきたのです。私たちはあなた様がこの街を訪れてきてくれたことを歓迎いたします」

「そうでしたか。あの時のことですか。別に普段の口調でいいですよ?それで私は冒険者の登録にきたのですが」

「ありがとう。俺が貴族以外に丁寧に話すとなると他の冒険者に示しがつかなくなるもので。それと失礼ながらエルフ様も冒険者になるなら言葉遣いを改めるべきかと」

「わかった。私の名前はオリヴィア。それで登録は?あとはダンジョンの物があるから出来れば換金して欲しい」

「それなら俺の権限でCランクで登録しとこう。Bランクになるには盗賊の捕縛、討伐依頼を受けることが規則だからな。まぁオリヴィアならすぐなれるだろう。換金はそうだな・・・。ランクがわかるか?」

「ランクはわからない。魔石から薬草、果物、ポーションなんでもある」

「ふむ。下では騒ぎになりそうだな。ここで見ることはできるか?リーナに見てもらおう」

 私は腕輪の空間収納から上級ポーションを取り出しました。
 これの反応を見て、どの程度の物が市場に出回っているのか判断するためです。

「い、今のは収納魔法!?いや、腕輪に収納の魔法が付与されてるのか・・・?そ、それは?ま、まさか上級ポーション!?リーナ鑑定を頼む!」

「ギルドマスター。まずは自己紹介させて下さい。はじめまして。オリヴィア様。副ギルドマスターのリーナと申します。朝や多忙な時間帯は今日みたいに受付業務をしております。今後はオリヴィア様を優先的に担当することになりますので、どうぞよろしくお願いいたします」

「わかった。リーナよろしく。それでどれぐらいで買い取れる?」

「鑑定しましたが、間違いなく上級ポーションですので、金貨20枚が相場となります」

「ふむ。じゃあ中級ポーションを20本、ヒール草100束、リーンの実10個、Cランクの魔石2個でどう?」

「えーっと。中級ポーションが1本銀貨4枚で金貨8枚、ヒール草が100束だと金貨1枚と銀貨5枚、リーンの実は10個で銀貨5枚、Cランクの魔石は1個金貨5枚で金貨10枚、合わせて金貨20枚で・・・す!?」

「では上級ポーションではなくそちらを売ろう。銀貨100枚と金貨10枚でお願いできる?」

 私はクリス姉様に習った算術が役に立ったと安心しました。
 クリス姉様は10進法?と言ってましたが、きっと真人様に教えていただいたのでしょう。
 それにあの反応を見るとやはり上級ポーションはあまり見かけないようだ。

「それは可能ですが・・・。あの。どうして金額がわかったんですか?」

「うん?まぁほとんど勘だけどね。最初、上級ポーションを出した時、ギルドマスターが驚いていた割には金額が高くなかったから、ここでは珍しいけど需要がない、中級ポーションまでで間に合ってるってとこかな。リーンの実は市場で見たけど、今の時期はちょっと高いのかな?魔石にしてもAランクの冒険者があの程度じゃ取れる魔石の平均ランクもこんなもんでしょ。あんまり価値が高いの出して出所探られても困るし、売るなら王都の方が高く売れるだろうし」

「・・・・・」

「さすがだ。ほとんど合ってる。Aランクのヤツらも近頃は安定してとれる階層しか潜ろうとしなくてな。素材が豊富ってのも考えものなんだよ。だからと言って高ランクの素材ばかりだと、今度は低ランクの相場が下がって新人冒険者たちの食い扶持がなくなるしな。だが中にはSランクになろうと必死になってるヤツもいるんだがな」

「別に冒険者なんだから冒険するのは自由。だから高ランクの階層に行って夢を見ようが、身の丈に合った冒険をしようが私には関係ない。でもメイグウ市を発展させるためにもっと頑張ってほしい」

「それは私たちもやぶさかではないが。まぁオリヴィアに影響されて高ランクの冒険者たちにも気合いが入るだろ」

「私はダンジョンの依頼は受けないよ?」

「な、なぜでしょうか?私がオリヴィア様を優先的にお相手すると申したからでしょうか?」

「ん?違う違う。私はダンジョンの最下層からきたんだよ?ダンジョンのほとんどの物は手に入るし、お金にも困ってない、ランクも興味ない。まぁ持ってるのが白金貨と素材ばっかりで換金はしないといけないけど。だから優先的に依頼を回してくれるのは嬉しいけど、ダンジョン関係はいらないかな」

「わ、わかりました。ではその辺を考慮して依頼を選別させていただきます。ただそうなると街の清掃やトラブルの解決、商会の護衛、盗賊の捕縛、討伐関係といったものになりますが・・・」

「・・・さ、最下層だと!?まさか最下層に住める場所でも存在するのか!?」

「うん。リーナそれでいいよ。しばらくこの街で過ごしたら移動するし。ギルドマスターそれを知ってどうする」

 ガイウンが立ち上がり興奮気味に聞いてきましたが、私は少し威圧しながら答えました。
 詮索することは、相手の印象、自分の印象も悪くしかねない諸刃の剣と教えてもらいましたから。
 ただ私も口を滑らして最下層と言ってしまったことは反省ですね。

「い、いや。すまなかった。我々は冒険者だからな。未知の世界へ冒険することも一つの楽しみだろう」

「それでいい。もう戻っていい?」

「オリヴィア様。明日の朝もう一度お越しください。ギルドカードと依頼を見繕っておきます」

「うん。リーナよろしく。あとリーナもそんな丁寧な言葉遣いじゃなくていいよ」

「わ、わかりました。オリヴィアさん。少しずつ変えていきます」

 私は換金したお金を受け取り、部屋を出ました。
 1階の騒ぎは収まっており、冒険者たちも依頼を受けたのかほとんどおらず、何事もなく冒険者ギルドをあとにしました。
 あとは、さすがに家は出せないので、近くの宿を探して明日に備えることにしましょう。

 ◇◇◇
 翌日の朝、冒険者ギルドに訪れると、何人かの視線は感じるものの、昨日よりは全然感じなくなりました。
 きっとギルド側からなにかしらお達しがあったのでしょう。
 私はリーナからギルドカードを受け取り、ランク等の説明を聞き、依頼をもらいました。
 その依頼は、ある宿の屋根や壁の修理、物置小屋の整理というものでした。
 場所を聞き、宿に向かうとなんと私が泊まっている宿でした。
 私は特に名前を気にすることなく看板で宿だと判断して借りたのですが、どうやら宿の名前は「水の精霊亭」というようです。
 どうりで料理にこだわっていて、美味しいと感じるわけです。
 気のせいかもしれませんが。
 通りの先をみると、他にも宿泊施設が並んでいて「風の精霊亭」「土の精霊亭」「火の精霊亭」とありますね。
 アル様たちに紹介したら加護を授けるかもしれません。
 さすがに光と闇はないようです。
 値段の方も銀貨4枚と安くも高くもなく、ダンジョンで稼げる冒険者たちも多いことから、この程度の宿が多いのかもしれませんね。
 貴族や商人たちはもう少しいい所に泊まるのでしょう。
 宿に入り宿主に依頼の話しをすると、まだ何もしてないのに感謝されました。
 もしかしたら冒険者ギルドが私の宿泊先を調べて、根回ししたのかもしれません。
 水の精霊亭は真人様のダンジョンができて、しばらくした頃に建てられた物で、屋根は劣化で一部雨漏りし、壁も板が反ってしまい隙間風が入るとのことでギルドに修理を依頼したようです。
 普通なら大工の職人なり、魔術師に頼むなりするような気がしますが・・・やはり冒険者ギルドが私になにかしら期待しているのでしょうか?報酬もそれなりによかったですし。
 まぁこの程度のこと、ルタ様に鍛えられた私にかかれば造作のないことです。
 とりあえず魔術で直すことに決めた私は、危険がないよう宿主や宿泊客がいないことを確認して、やってやりましたよ!一部だけのはずが木材で建てたことのない私は、土の魔法で新築にしてしまいました・・・。
 建物の中は前の間取りと変わってないし、宿主と奥さんも大変喜んでくれたからヨシとしましょう。
 ついでに物置小屋も同じ外観に合うように建て替えました。
 これで依頼完了ですね!
 お腹が空いた私は宿主に昼食を出してもらい、依頼完了をギルドに伝えに行き、報酬を貰って今日は終わりです。
 リーナは顔をひきつらせていましたが、おそらく私が魔術を使って建てたのを誰かが報告したのでしょう。
 案の定、翌日から立て続けに「風の精霊亭」「土の精霊亭」「火の精霊亭」と建て替えましたよ。
 しかし、ある日見つけてしまいました。
 最近の私は依頼を受けつつ街を詮索しながら歩くようにしてます。
 ここは貴族や商人たちが泊まるような高そうな宿が並んでる通りです。
 そこで見たのは、白と黒の建物が隣り合わせています。
 神殿のような建物なのに、なぜか如何わしい格好をした女性がたくさんいます。
 まさかあの2人の知ってる?と思わせる雰囲気です。
 そう。ついに見つけてしまったのです。
「光の精霊亭」と「闇の精霊亭」なるものを。
 結局私は見なかったことにして歩き去りました。
 あの建物は一体なんだったのでしょう。
 一つ言えるのは真人様をあそこに近付けてはいけないことですね。
 1年程が過ぎBランクになった私は、そろそろ移動しようとしていました。
 シルフィス国に向かうにはローラ聖教国、イルムド帝国を通った方が早いのですが、帝国を通るルートは避け、セリア王国の王都、イルアを経由して遠回りすることにしました。
 時間もあることですし、真人様に旅の土産話もできるし、小さい村などにもできるだけ行って、ディーネ様にも言われた食糧を配っていきたいと思います。

 ◇◇◇
 私はガイウンとリーナに感謝を告げて別れました。
 この方たちはホントに親切で、次に会うのは10年後?50年後?でしょうか、それまでに生きてるといいなと思いながら2人と別れた私は、小さい村、貧しい村、商隊がこない村等、色んな場所を転々と渡り歩き、その都度食糧を分け与え、真人様の素晴らしさを教え、ようやく王都イルアに着いた時にはダンジョンを出てから5年近く経っていました。
 ギルドカードを使い、問題なく王都の門をくぐった私でしたが、すぐに目を細めることになりました。
 そこには明らかに身分差があるのです。
 本来ならこれが普通だとわかっていたはずなのに、真人様の元やメイグウ市での生活のせいで忘れていたようです。
 当たり前ですが、王都には貴族も多いようで、めんどくささを感じつつ冒険者ギルドを訪れました。
 しかし、めぼしい依頼もなく、値踏みするような視線ばかりで興味を失った私は、すぐに王都を発ちました。
 次に目指すのは港街セルアです。
 そこからセルアの近くにあるインバイ大河の対岸にある商業都市リニアに渡ろうと思います。
 私は船を見るのも乗るのも初めてなのでワクワクしながら旅を始め、村を巡り2年程かけてセルアに着きました。
 セルアは港街ということもあり、貿易が盛んで色んな種族や食べ物、見たことのない武器や道具を見ることができました。
 その中に刀もありましたが、真人様の作る刀より明らかに質が落ちているため買うことはありませんでしたが、参考までに振らせてもらうことにしました。
 ところが、いつものように魔力を流すと粉々に砕け散ってしまい、弁償することとなり店主に平謝りしながら値段を聞くと、東の国からということ、さらに珍しい武器という理由で白金貨2枚を支払わされました。
 お金には困っていないものの、余計な出費はやはり気分が悪くなると感じ、少し落ち込みながら冒険者ギルドへと向かいました。
 ギルドへ着くと受付へ行き、何かいい依頼がないかと聞くとAランクの魔物討伐を紹介されました。
 どうやら1ヶ月程前から船の航路に巨大なシーサーペントという海の魔物が現れて、甚大な被害が出て困っているようです。
 高ランクの冒険者も何名かいるようですが、水上ということで手も足も出ないようで、エルフの私は魔術師では?と判断されて依頼を紹介してきたわけです。
 そしてシーサーペントを討伐しないことにはリニア行きの船も出ないということで、私は依頼を受けることにしました。
 ギルドで確認すると、このシーサーペントは何十年かに一度現れるらしく、浅瀬に魔物を追い込んで補食したりするため、浅瀬の近くにある建物や船はそのたびに被害が出ているようです。
 私は浅瀬に追い込んでくる習性を利用して討伐することにしました。
 魔術よりも斬撃を飛ばして切った方が早いと判断したわけです。
 そして少し上流へと行き、50メートル程ある停泊用の桟橋に来ました。
 ギルドには今日討伐すると伝えたので、港や付近の建物に住んでる住人は避難していることでしょう。
 私は桟橋に片膝をついてしゃがみ、腕輪の空間収納から白桜を取り出し鞘から抜き、刃を川下へ向けて、刀身の半分を水につけて目を瞑りました。
 刀身に魔力を注ぎ込みしばらくすると、私の魔力を感知したのか、1キロ程先にシーサーペントが現れました。
 シーサーペントは巨大で、水面から現れている部分だけでも30メートルはありそうです。
 私は目を開け、白桜にさらに膨大な魔力をそそぎ、水につけていた刀身を思いっきり斬り上げました。

「ハァァァァ!メイグウ流第四秘剣!水鳴りみずなり!」

 すると、膨大な魔力と振動を伴った斬撃が発生し、私に向かってきていたシーサーペントを縦に斬ると共に、大河の遥か先の海の沖まで海底が見えるほど縦に割れました。
 ここに真人がいればモーゼの海割りか!と叫んでいただろう。
 そして左右に割れていた水が元に戻る力、さらに絶命したシーサーペントの巨体が落下したことによる影響で、巨大な津波が発生することになりました。
 私は呆気にとられ、呆然とその様子を見ていると、港に停泊してある大型船は岸壁へとぶつかり軒並み沈み、街の方にも水が流れ込んでいきました。
 私がいる付近は上流の浅瀬で、ほとんど被害はありませんでした。
 とぼとぼと冒険者ギルドに戻ると、私の落ち込んだ心とは反対に、住人たちや漁師たちは喝采をあげて喜んでいました。
 私が不思議に思っていると、依頼を紹介した受付の女性は、これから先も受け続ける被害に比べたら微々たるものと言い、笑顔でお礼を言ってきました。
 今までは人的被害もあり、破壊されては修理の繰り返しで、住人たちも不安な生活、漁師たちも次々に沈められる船を見て諦めていたと言われました。
 それに、私の放った水鳴りによって水深が深くなり、色んな海洋生物が訪れる漁場となりそうだとも言っていました。
 次の日、私はAランクのシーサーペントを討伐したため、Aランクへとあがり、受付の女性にリニアに向かいたいと告げると、大河を渡る大型船を建造するのに2年近くかかると言われ、リニアに渡ることは諦めて、引き返すことにしました。
 リム様とリム様は友人に会いに行くのは、セルアからが一番近いらしく、いつの間にかいなくなっていました。
 挨拶もすることが出来ずに、あの2人はホントに自由で呆れました。
 住人たちに見送られセルアを発った私は、今度はセリア王国では寄り道せず、ローラ聖教国に向かいました。
 寄り道しないと言っても、小さな街や村に最低限寄って食糧を配り、真人様の素晴らしさを教え、魔物や盗賊の討伐、時には商会の護衛をしながら進み、ローラ聖教国にたどり着くのに2年はかかりましたが。
 ローラ聖教国に着いて、冒険者ギルドに行き依頼を確認すると、ここには討伐系の依頼はなく採取系の依頼ばかりでした。
 どうやら聖騎士団が存在し、街の治安、魔物の討伐を請け負っているらしいのです。
 ダンジョンの自警団のような感じかな?と興味の沸いた私は、偶然にも聖騎士団の副団長のスカーレット・プリンという女性と出会うことができました。
 美味しそうな名前と思ったことは私だけの秘密です。
 スカーレットは、私がイルムド帝国の情報を集めていたため、最初は警戒していましたが、私が種族を明かすと、心よく手伝いを申し出てくれました。
 昔、イルムド帝国により精霊湖を汚されたそうで、精霊と相性がいいのはエルフだというのはローラ聖教国でもわかっているため、すぐに仲良くなり、その話で意気投合した私たちは、買い物したり食事したりと充実した日々を過ごすことができました。
 そして、ローラ聖教国に1年程滞在して、再開を約束し、なごみ惜しみながら、スカーレットと別れた私は、イルムド帝国に入国しようとしました。
 情報通りですが、やはりエルフでは入国が厳しく、そもそも人族以外の種族は、奴隷と思っているようです。
 そこで私は、真人様とアル様にいただいたローブを使って入国した・・・まではよかったんですが、今度は出国出来なくなりそうになったので、ちょうどいい機会だったのでダンジョンへ一旦帰ることにしました。
 そしてダンジョンに着いた私は、思う存分真人様に甘えたのでした。

 ◇◇◇
 ここはとある港町の酒場。
 ヴィアが旅立ったその晩、1人の吟遊詩人が新たな物語を語っていた。

「ここに語るは、白銀の戦乙女、オリヴィア様のお話し!ある港町に現れた巨大な魔物。住人たちは悲嘆に暮れた。しかし、そこに白銀の髪を靡かせなびかせ、1人のエルフが颯爽さっそうと現れた。その神々しいお姿に見かけた全員が、神の使いか!と見間違い圧倒された。不思議な形の剣を手に、巨大な魔物にいざ立ち向かい、小さな体で一刀両断!神罰と思うほどの斬撃!そして衝撃!なすすべなく斬られた巨大な魔物!驚くことに魔物と共に遥か先まで水底が露見するほどの1本の太刀筋!残るは水に沈みゆく巨大な魔物!虹色の水しぶき!陽光に照らされキラキラと輝き水辺に佇むたたずむエルフ!まさに!英雄!白銀の戦乙女!街に平和をもたらしたオリヴィア様に住人は歓声をあげた。ところが気づいた時には、オリヴィア様のお姿はなくなっていました・・・。しかし誰もがわかっていました。オリヴィア様はどこかで誰かを救っているだと・・・。住人たちは感動で涙を流し、両手を胸の前で組み、オリヴィア様へと感謝の気持ちを込めたのでした・・・」

 こうしてヴィアの見知らぬ所で吟遊詩人、冒険者、商人たちによって各国へと白銀の戦乙女の噂が広まっていくのだった・・・。
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