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第1章 第27話 フラミア連邦王国史
しおりを挟むエデリカが持って来た着替えや体を拭く布などを取けとると、うんうんと頷きながらミニは言いました。
「モノはいいみたいね。ま、王室御用達なんだろうし、当然ね」
「それじゃ今着てい・・・あ、お召、お召し物を・・・」
エデリカはミニの服を脱いでもらおうと近づきましたが、ミニは手を挙げて制止します。
「慌てないで」
「え」
エデリカは意味ありげに微笑むミニを見て少しだけドキリとしました。
「ほら・・・兄上の話が始まったでしょう?」
耳を澄ますとカルの張りのある声が衝立越しに聞こえてきました。
「国政とか国家の成り立ちとかの話を始めると長いのよ兄上は。全部聞いてたら居眠りしてしまいそう。そうなったらまた頭を叩くに決まっているもの」
エデリカは先ほど頭を叩かれた時のミニの顔を思い出し、笑いそうになるのをこらえて口元に両手を当てました。
「笑ったわね?」
「ご、ごめんなさ・・・すみません・・・」
ミニはホウっと息を吐き出すと腰に手を当てて首を少し傾げました。
「まあいいわ。とにかくこっちはゆっくり事を進めましょう。念入りに、ね」
念入りに。
「さあ、うなじを拭いてちょうだい」
エデリカは少し焦りました。
髪をたくし上げたミニのうなじを拭きながら、アレスは一人で大丈夫だろうかと心配したのでした。
「地図があるとよりよく解っていただけるのですが、八つの国と言っても元々わが国は現在の王国直轄統治領と呼ばれる部分だけのありきたりの王国だったんです」
カルの話を聞きながらうんうんと頷くアレス。彼はこう言う話が好きたっだので不安もなく退屈してもいませんでした。
それを察知したのか、話始めたカルの声にもだんだんと力が入ってきます。
「カル。これを使ったら?」
シャアルが手近にあった紙とペンを持ってきてテーブルにおきました。
「ありがとうシャアル。それじゃあ、ええと・・・」
カルは紙にざっとフラミア連邦王国周辺の略図を描きました。
「ちょっと雑ですが」
”相変わらずこういうのは下手だなあ、カル”シャアルは困った顔で微笑みます。
「まず先ほど申し上げた王国直轄領は現在の我が国の内海を挟んだ西側部分になります」
以前見たことのある地図で知っていたアレスは頷きました。
「ここも以前は小さな国がたくさんあって、その時の我が国の名前はナヴェイラ王国と言いました。小さな国をまとめあげて今の王国直轄領の大きさになったのですが、その時もまだナヴェイラ王国と呼称されていたんです」
■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
=フラミア連邦史第1巻抜粋=
今から2000ほど年前ナヴェイラ王国は周辺の小国を戦争や併合するなど様々な方法で平定し、統一国家を築き上げたものの、それ以上に国土を広げようとはしなかった。
拡大路線に走らなかったその理由は当時の国王が人が統べることの出来る国土の広さには絶対的な限界があると考えていたからだ。そしてそれは後の世で証明されることになった。
しかし一部ではそうではなく統一戦争で疲弊していたため拡大路線を続けるだけの国力がなかったという説もあるがいずれにしてもこれが功を奏した。
統一を果たした当時のナヴェイラ王は哲学的思想を理解する人物で現実主義者でもあった。王はこれまで延々と行われていた戦争状態を繰り返しては過去幾度もあった王国の興亡が繰り返されるだけで、それは人心の荒廃を招き、それは王国の荒廃にもつながってしまうだろうと考えた。
内政を整え、国内の治安を守る警察組織を整備し、外敵を排除する軍隊を再編成するという方針を打ち出し、商業の振興や農地改革などを行って国内に繁栄と安定をもたらした。商業の振興には当時まだ国家を持っていなかったジェミン族が深く関わっていたといわれている。
その繁栄が100年ほど続いた頃、現在のフラミア連邦王国の東側の地域に小さな国が勃興する。不穏の空気を伴って。
■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
「・・・それじゃあ東側の方はどうなっていたの?」
興味が出てきたのかアレスは身を乗り出してカルの描いた地図を覗き質問しました。
「当時の東側は別の王国が興って発展しつつありました」
「別の国?」
「はい。国名はマブル王国です」
「マブル・・・」
頷くカル。「国の勃興はナヴェイラに遅れること150年ほどですが、勢力を拡大し続けたこの国は当時のナヴェイラ王国を凌ぐほどの軍事大国に成長したのです」
「ナヴェイラ王国はマブルを滅ぼしたの?」
カルは首を振りました。「混みいった話になるので順に話しましょう。まずマブル王国はナヴェイラと違って領土を広げるのがとても好きな国家でした」
「それはどうして?」
「それは人の業というものでしょう。欲望は一度決壊すると留まるところを知りません」
「なぜ?」
「・・・その答えは後に出てきます。ひとまず私の国の話に戻しましょう」
「うん」
シャアルはカルの話の持って行き方に感心しました。”ここでその答えを出すと横道にそれてしまう・・・”
「まず我が国の国王は平定でまとめ上げた地域以上に領土を広げることは王国に良くない結果を招くだろうと、内政に力を入れたんです」
「国を豊かにすることを優先したんだね」
たったこれだけの話でそこまで理解するとは、と、カルは少し驚き、笑顔になりました。
「その通りです陛下。ところがマブル王国は全くその逆で、軍事的に強固なナヴェイラに攻め込めばただでは済まないと理解するや自国の内政もそこそこに北へ東へと領土を拡張して行ったんです」
「・・・・」
「最終的には今のダナイン帝国・・・このあたりですね。このあたりまでを全て手に入れて、遂に世界最大領土を持つ国家へと成長したんです」
「世界最大・・・」
「ええ。それをたったひとりの国王が成し遂げたのですから、この事実は驚嘆に値しますが、ところがその国王が帝王を名乗って僅か数か月後に亡くなると残された兄弟たちが領土の取り合いで争い、内乱が勃発したんです」
■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
=フラミア連邦史第3巻抜粋=
マブルの王は飽くることなく周辺諸国を攻め落としては搾取するという所業を繰り返す。しかし拡大路線を敷いておきながらナヴェイラ王国と事を構えることは避けていた。なぜなら軍事、産業、経済とどれをとってみても強大な国家であるナヴェイラ王国に下手に手を出せば自分達が危ういとわかっていた、だから彼らは東進した。
そして現在のダナイン帝国がある地域のほぼ全てを征服し掌握すると国土の広さで言えばナヴェイラ王国を遥かに凌ぐ広さの巨大国家が出来上がった。だがナヴェイラ王はもとより、思想家や哲学者達が説いていた『人間の支配できる国土の広さには限界がある』の言葉通り、時が経つにつれて政治的ほころびが目立ち始め、自滅の道を歩み始める。その兆候として国内のあちこちで反乱が起こっては鎮められるという繰り返しはやまず、そして反乱を鎮めるたびにマブルの軍隊の強大さを喧伝するという的外れなプロバガンダに王室は酔いしれた。
そして愚かにもマブルの国王は帝王を名乗った。マブル王国がマブル帝国となった瞬間である。しかし帝国はわずか数か月後に皇帝を失う。命の火が燃え尽きたのだ。
皇帝が代替わりしてもしばらくは国体を保っていたが、数年を待たず綻(ほころ)びが露(あらわ)になり始める。
ひとつの国家でありながら君主が並立する歪な政体、近親婚による世継ぎの短命、兄弟間で繰り返された暗殺、内政を怠ったがゆえの治安の悪化と食糧危機、飢餓、反乱の火種は尽きることなく、責任の擦り付け合いなどが発端となってついに内戦が勃発した。
帝国の分裂はもはや避けられず、分離、衰退は緩やかにそれでも確実に進んで行った。
■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
「内乱によってマブル王国は四つの国家に分裂し、戦争を始め、そしてその余波が我が国にも押し寄せました」
アレスは物語を聞くような感じでジッとカルの話に耳を傾けていました。
「四つの国の内訳はこんな・・・感じで・・・」
線を入れて当時の国家の名称を書き入れて分裂した様子を説明します。
「ドレスデン帝国、コレングアガ軍事政権国家、ルーデン王国、グニアリッガ王国という四つの国家に分裂、覇権を争っていました」
現在のフラミア連邦王国の東側を縦に貫く山脈の左右にひとつずつ、ダナイン帝国も左右に二つに分かれていました。
■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
=フラミア連邦史第4巻抜粋=
後継者争い、軍の分裂とクーデター、過重な税制による民衆の暴動、虐殺、衆愚政治による議会の崩壊や国益の貴族への偏重、失政によって引き起こされた飢餓。結果内戦の激化。マブルは事実上滅び、ドレスデン帝国、グニアリッガ王国、コレングアガ軍事政権国家、ルーデン王国の四つの国に分裂した。
いったんはこれで落ち着いたかに見えたが、ドレスデン帝国内では相も変わらず政争、グニアリッガとの紛争に明け暮れていた。その余波がついにナヴェイラ王国にも押し寄せる。
難民である。
経済的にも治安も劣悪な国から豊かで平和なナヴェイラに難民が流入しその数は日に日に増え、ついにナヴェイラ王国全人口の三割が不法入国者や難民と言う深刻な事態に陥ってしまった。その中には難民だが犯罪者もいた。
ナヴェイラは豊かな穀倉地帯を開発済みだったので食糧供給については暫く問題にはならなかった。商人たちは買い手が増えたことを歓迎する向きもあった。だがしかし、人口の三割が難民という状況は徐々に重く圧(の)し掛かってくる。労働や住居の確保など、いくら人道的措置、人道支援と言っても限界がある。そうなれば職を持たない難民は盗み、家を持たない者は脅迫し、略奪にと犯罪に手を染めていった。
そしてナヴェイラで、とうとう暴動が起こってしまった。
■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
「我が国と国境を接していたこのドレスデン帝国から、犯罪被害や飢餓に苦しむ民たちがナヴェイラ王国に流入してきたんです」
「実際ドレスデンの国情はひどい様相だったそうです」シャアルが言います。「治安は劣悪で犯罪はとどまるところを知らず昼間でも武器なしで歩くことは自殺行為でした。食べ物もとても十分とは言えず、餓死する者も多かったのに重税を課して、あまつさえ隣の国との戦争をやめようともしなかった・・・」
「そして難民となったドレスデンの民たちが我が国に入ってきてしまったのです」
「難民・・・」
頷くカル。
「初めは人道的に受け入れていたのですが、難民の流入は止まらず、とうとう当時のナヴェイラ王国国民の三割以上が難民という非常に困難な状況に陥ってしまったんです」
その当時の人口は難民を含めて1200万人以上に達し、現在の人口(約1000万人)より多く、皮肉なことにこれはフラミア連邦王国の歴史上最大人口として記録されています。
「難民と原住の民とのあいだに諍(いさか)いも起こり始めて、対応に苦慮したそうです」
「どうなったの?」
カルは憂鬱そうな顔をしてから言いました。
「難民が流入し始めて約20年の間、ナヴェイラ王国はドレスデン帝国に争いをやめ、難民問題を解決して欲しいと再三陳情し、そのための協力も惜しまないことを約束するなど、外交交渉によって解決しようという努力をしたのですが、言を左右にしてドレスデンの皇帝は空約束をしたり、黙殺を決め込んだままでした。業を煮やした国王は・・・」
やがて難民の援助に対してナヴェイラ国民が反発し始め、食料の供出を拒む地域が出ると、ナヴェイラ王国は苦渋の断を下したのです。
「ナヴェイラ王はドレスデン帝国に宣戦布告したんです」
「そんな・・・」
アレスは驚き、悲しそうな顔をします。
史実では、ナヴェイラの国民の一部が難民を迫害し始めたことがきっかけとなって、遂に起こってはならない事態が起こってしまいました。
難民の虐殺です。
それは食料の国内生産高が追いつかなくなったのが発端でした。一部のナヴェイラ国民が食料を要求する難民に怒りを覚え、激発してしまったのです。
それを知ったナヴェイラの国王はやむを得ず戦争による解決を選択したのですが、カルは難民虐殺の部分をアレスの為を思って伏せて話しました。あまりにも悲惨な出来事だったからです。
ナヴェイラとドレスデンの国境近辺に居住するな国民は、暴徒となってドレスデン帝国領土へなだれ込み略奪と虐殺を繰り返し、ドレスデン帝国の兵士とも争いを繰り返し、憎しみはとどまるところを知らず、悲劇はさらなる悲劇を産み出し、収集がつかなくなってしまったのでした。
一部の地域では暴挙をやめるよう説得に赴いた味方であるはずの王国軍を裏切り者だと言って同国人同士で争いが起こってしまったのです。
■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
=フラミア連邦史第5巻抜粋=
ドレスデン帝国には穀倉に適した地があるのに開発もせず、それどころか既存の生産物を搾取することばかり続け、一部の貴族や有力者達が圧政を強いて私腹を肥やしていた・・・とはいえ、戦争を仕掛けたのはナヴェイラ側だった事はドレスデン帝国に名文を与えてしまったことになってしまった。それゆえにナヴェイラは負けるわけにはいかなかった。
かくして国境に端を発した戦火は拡大の一途を辿った末にとうとう全面戦争へと突き進んでいく。
当時60歳だったナヴェイラ国王にとって幸運だったのは子供が多く、庶子を含めれば20人ほどいて、様々な能力に長けた者が多かったことである。その中でも次期国王と目されていた37歳の長男と29歳の四男の軍事手腕は抜きんでていて、兵士たちの信望も厚く、更に用兵にも秀でていた。
ナヴェイラ王国の宣戦布告に激怒して総力戦を挑んできたドレスデン帝国に対してこの二人の戦略家は様々な知略戦略をめぐらし、見る見る間に戦況はナヴェイラ王国側に有利になり、ドレスデン帝国の軍勢を僅か6ヶ月で撃退、駆逐してしまった。
■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
「開戦後ドレスデン帝国は、それまで争っていた隣国であるグニアリッガ王国と連合してナヴェイラ王国軍に戦いを挑んできました」
「!・・・。どうして・・・」
「理由は分かっていません」
「理由がわからないのは、その戦争にナヴェイラが勝ち、ドレスデン帝国とグニアリッガ王国の中心人物たちが死んでしまったからです」
シャアルの話を聞いたアレスは心の中で思いました。
処刑されたのだろうかと。
しかしその意を汲んだようにカルが話を続け、アレスの抱いた疑問に応えます。
「ドレスデンとグニアリッガの王や貴族たちは戦争が劣勢になり敗戦の色が濃厚になった時、・・・あろうことか国を捨てて逃げ出したのです」
「え・・・」
アレスであってもその行為を許すことができないという義憤を抱きました。カルの口調にもその色がうかがえます。
「ドレスデンとグニアリッガの王室関係者や貴族達は東の軍事政権国家コレングアガに亡命しようとしたのです。もともとは一つの国でしたから国交はあったのでしょう」
現在ダナイン帝国となっている箇所を指し示します。
「逃げた先で彼らは死んだとされています。正式な記録はないのですが、コレングアガ政権によって殺されたようです」
「そんな!同じ国の人だったのに・・・」
処刑ではなく同国人に殺されたという事実はアレスにとっては衝撃でした。
「悲しいことです。もとは同胞であった人々が助けを求めたのに擁護するどころか、面倒を嫌って殺してしまったのです」
「ひどい・・・」
痛々しい表情で両手で顔を覆うアレス。
シャアルはカルを見て頷くと続きを話し始めました。
「ええ。たしかにひどいことです。しかしそれは彼らが自ら招いた事で、自業自得です。救いがあるとすればその出来事によって戦争は終結し、事実上ドレスデン帝国とグニアリッガ王国は滅び、そしてその地域の住人たちが圧政から解放されたことでしょうね・・・」
■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
ナヴェイラ国王はもともとマブル王国だった土地をまずは属領とし、プロバラントと命名。
息子たちの何人かを総督として派遣。自国の政策(税制、司法、立法)を反映させ、建設、農業、産業、鉱山開発などの専門家や技術者達に国土開発を次々と推し進め、長男と四男は属領のコレングアガ国境を守備するという体制が敷かれた。
その15年後、属領プロバラントが漸く安定を見せ始め平和を取り戻した頃、それを見届け、安心したようにナヴェイラ国王が崩御。その後、長男が新国王として即位した。
■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
「15年もかけて・・・」
「長いと思いますか?」
「うん。だって僕は14歳だもの・・・」
「はは。確かに陛下の人生以上の年月ですが、それでも発展の速度は早いと私は思います」と、カルが言うとシャアルが雑に描かれた属領プロバラントの部分を指差しながら言い添えます。
「陛下。これだけの大きい地域を安定した状況にすることは非常な国家力を必要とします。なによりそこに住み続ける人々の協力が必要ですし、それぞれの地域によって人材力も様々です。さらに治安が悪い地域に蔓延る犯罪者どもが発展の足かせになってしまう。そう言った不安定要素を勘定に入れると15年は驚くべき早さなんです」
アレスは感歎(かんたん)して頷きました。
「難民は?どうなったの?」
「属領の各地開発整備に協力させて、その土地に、つまりもともと住んでいた場所に帰り根付いてゆきました。ほとんどすべての人たちが」
「よかった・・・」
微笑むアレスを見てカルは歴史物語を結びました。
「今から2000年前から1800年ほど前にあった出来事ですが、その出来事のあと暫くしてからナヴェイラ王国は国名をフラミア連邦王国と改め、それから現在に至るまでの間に徐々に属領であるプロバラントが分割されて最終的には七つの自治区や属領などが誕生したんです」
アレスはホッと吐息しました。
「ざっとですが、これが我が国の誕生から草創期の歴史です」
「ありがとう。すごくよくわかった」
「いえいえ」
カルはニッコリとして頭を浅く下げます。
「王室の人々や国民たちが自分の国を守ろうとしたり、発展させようとしのがよくわかる・・・。そうなんだ・・・そうなんだよね・・・」
カルが物憂げな表情になってしまったアレスを見ておやと思い、シャアルを見て彼と視線を合わすとまたアレスに視線を戻しました。
「どうされました陛下」
「うん・・・」
アレスは言いました。カルたちがローデンから告げられたあの言葉を。
「フラミア連邦王国も同じなんだね。家臣たちが一生懸命働けば国は発展してく・・・発展させるのは国民たちなんだ。・・・それなら国王って・・・・国王って一体何だろう・・・国王って必要なんだろうか」
■道標
領土欲がなかったにもかかわらず、ナヴェイラ王国は気がつけば領土が二倍になっていました。これを一部の者は喜んだとも言われていますが、当時のナヴェイラ王は喜ばなかったそうです。
領土が二倍になったということは、単純に計算すれば管理する力も倍必要ということになります。しかし実際は倍以上の政治的エネルギーを必要としたのです。
当時のナヴェイラ王は既に70歳近くの高齢で、覇気、気力ともに既に下り坂どころではなかったので、弱気になっていたのかもしれません。
しかし幸運なことに彼には息子や娘が大勢いたのです。
そして才気あふれる後継者たちがいたことは国王にもですが、なにより王国に幸運をもたらしたのでした。
若き王族達に刺激されて、大臣や官僚たちもこの新領土の開発に非常に乗り気になっていたため、王の気持ちとは裏腹にプロバラントの発展は驚く程早く進んだのです。
それでも国王は慎重でした。
気力体力が衰えていたとは言え、この賢老は生き急ぐ後継者たちを常に厳しい目で見つめ続けることを忘れなかったのです。
まず国王は王国に存在した多くの貴族たちに、人的経済的入植を制限する法を制定して管理しました。これは有力な貴族が入植した場合に何が起こるかを想定して考えられたことです。具体的に一番大きなものとして、私兵、民兵を問わない軍備の禁止という項目があります。
軍備があれば邪なことを考え始める人間は少なからず現れます。それの専横を許せばせっかく属領として平定した領土に新しい国が出来てしまい、管理が難しくなるばかりでなく、油断すればマブル帝国で起こったことが繰り返されてしまう可能性があります。
これら不測の事態を回避するため、プロバラントに存在する防衛力や治安維持力などの軍事力は全てナヴェイラ王国軍のみとし、これを破ったものは容赦なく処罰されるのです。
長いフラミア連邦王国の歴史の中で処刑されたのは市民だけでなく貴族も少なからずいました。一切の例外を認めなかったこの一事から国王の断固とした思いが伺えます。
この法は現在でも生きており、このプロバラントだった地域に存在する全ての自治区には政治的決定権があっても軍隊は持っていません。プロバラントにいる軍隊は全てフラミア連邦王国軍です。
そして税制についてもフラミア連邦王国の首長である国王が認めなければ変えることはできません。
国家管理機構は複雑でしたが、1800年ほど前から続くプロバラントでは小さな違法行為や謀反騒ぎはあっても、大きな反乱や独立戦争等の戦乱は起こったことがありません。
それがどうしてなのかという問いに明確な答えを与えることは困難ですが、歴代の国王の中のひとりが言った言葉がその要因の一つとして挙げられます。
”すべての国民が無知蒙昧でいることは許されない。幸せな事も悲惨な事も、包み隠さず正しい歴史を全ての民に教え広めよ。歴史は我々に絶望を与えることも、活路を見出す力を与えることもある。だがこの道標は真に正しき行く手を指し示す灯りになるだろう。”
プロバラントの国民は正しく歴史を学ぶことで、自分たちが平穏を幸福を享受し続けるにはどうしたらいいか、何をすべきか、何をすべきでないかを深く考えるようになったと評価する識者もいます。
現在プロバラントという名称は属領の呼称ではなく地方名として定着していますが、このプロバラント地方は七つの区域に区切られていて、共和自治区が3、民主自治区が1、単民族特区が1、属州が2という構成になっていました。
明確な理由がわからなくとも、フラミア連邦王国の現体制下でそれらが平和を享受しているのは紛れもない事実なのです。
第28話へつづく
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