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第3章 第2話 200年前の生き残りたち
しおりを挟む■■■午後の評議会■■■
ブリ=オーリ 車両ギルドのマスター
ンバラ=ゴーサイ 運送ギルドのマスター
ハットン=リーリントン 鍛冶ギルドのマスター
ラデッカ=キースキン 裁縫ギルドのマスター
ガガータ=アタリス 採掘ギルドのマスター
ベリベルガ=ベルモンド 建築ギルドのマスター
ジーチェ=ワウル 開発ギルドのマスター
セキーニ=ペリドリアン 宝飾ギルドのマスター
「だめだだめだ駄目だ!」
「マンドル貴様!元首だろうが!国家の危機に出撃するなとはどういう了見だ!」
「戦うなとは言っておらん!わしは情報収集が先だと言っておるんじゃ!闇雲に戦いに出てもい無駄死にするだけだというのがわからんほどお前は単細胞だったのかガガータよ!」
「誰が単細胞だ!いくら戦友でも言ってはイカン事があるぞ!」
ガガータがマンドル元首につかみかかろうとしたその時ドアがバンと開かれて入ってきたのは。「おうベルベル!おせぇぞ!」
「また面倒なのが来おって・・・」
「じっちゃん!戦争だろ!傭兵なんかあてにすんなよ!俺らで帝国のくそボケどもなんざ蹴散らしちまおうぜ!」
「バカ言ってんじゃないわよじっさい。青二才が」
「うお!久しぶりだな姉御ぉ!いろっぺぇなあ200歳とは思えね・・・・」
ベルベルの顔をかすめて背後に裁縫用の刃物が5~6本刺さっています。
「ベルベル・・・それ、今度言ったらあんた死刑だよじっさい」
「す・・・すんません」
「だいたいあんただって100歳越えてんだろう?」
「ラデッカ。レザーナイフを投げ散らかすなっ」
マンドルは仕事道具を粗末にすることを嫌う性格でした。
「そんな事よりマンドルちゃん、まさか戦争が起こるなんて思ってなかったからあたしらなんにも準備してないじゃないさ。どうするのよじっさい」
「だから先走りするなと言っておるのだ。おぬしの裁縫ギルドとて一日で戦争の準備は出来まいが?」
「ま、それは認める。わかるけどさじっさい。急いで作らせてはいるけどサ。でも敵は待ってくれないわよん。じっさい」
ラデッカがそう言って足を組み替えます。
「うおお、やっぱいろっぺぇぜ姉御~」
ラデッカの足に見とれて目がハート型になっているベルベルをマンドルは怒鳴りつけます。
「ベルベル!」
「おう!」
「なにがおうだ。建築ギルドのマスターがこんなところで油を売ってどうするんじゃ!ナウル城塞の補強と物資の搬入を頼んだのを忘れておらんだろうな?」
「抜かりないさ。おれの有能な部下たちが既に到着したころだよ」
「ならいいが・・・そういえばゴーサイとリーリントンにオーリがおらんな」
「その3人ならナウルに行くってさっき」
ベルベルがそう言って椅子にドカッと座ります。
「なんじゃとおお!なぜそれを早く言わんのだバカベル!あやつら評議会に出席もせずに何を勝手な事を!」
「ゴーサイのアンちゃんは兵站は若いやつらに任せられんとか言って、軌道で積めない分はオーリさんに依頼してありったけのタイヤサーリングで物資運ぶって言ってたぜ。リーリントンのおっちゃんはギルドの職人あらかた連れて傭兵の武器の修繕と手入れするって」
「うかつじゃった!・・・うかつじゃったわいいい・・・・いちばん厄介な奴らを戦場に送りだしてしまうとは!」
この事実が知れたらロベリアにまた嫌味を言われるとマンドルは頭を抱えました。
「ええい!仕方ない!とにかく全員勝手に戦場に行くな!まずは持ち場に戻って戦闘の準備を万全にせい!見切り発射でなし崩しにする事は厳禁じゃ!戦闘員以外の人員確保も忘れるな!残った者は全力で生産活動に従事!これは元首命令じゃ!」
マンドルはそう言い於いて部屋を出ると共和国情報員の待つ部屋へと向かいました。
「とにかくゲーゼルじゃ。何を交渉するにもやつの居所を特定せにゃあならん・・・間に合えばええが」
■■■エーヴェイへ■■■
軌道駅舎へ到着したロベリアはナウルへの物資搬出のラッシュに巻き込まれてしまいました。
「ナウルへですか?!無理無理!物資搬出が最優先ですよ補佐官様!今は積み込み中だあ。出発は早くても2時間後ぐらいになりますぜ!」
「そうそう。それに補佐官殿が乗れるかどうかもわかりませんよ。空くのは早くても夜の便でしょうな」
「私ひとりが乗る隙間もないというのか?!」
「そりゃあそう言われれば・・・でも無理したら命の補償もできませんぜ補佐官殿!」
確かに殺気立った作業員が物資をひとつでも多く運ぼうと躍起になって、他人の事を構っている余裕がない事は、今いる駅構内指令室に来るまでに何度となくわからされました。
「ええい・・・くそ・・・」
何とかしようと駅舎を出たロベリアの目の前に大型タイヤサーリングが急停止します。
「よう!困ってるみてぇだな!ロベリア!」
「ゴーサイ様・・・オーリ様も・・・!?」
「ナウルへ行きたいなら載せてってやってもいいぜ」
「あなた方には元首閣下より評議会への出席が通達されているはずでしょう!こんなところで・・・」
「ごちゃごちゃいうならおいてくぜ!小僧!」
そう言ったのは助手席に乗っていたオーリです。ゴーサイも屈強な感じの男でしたが、オーリはそれに加えて一癖ありそうな顔をしています。
一瞬だけ考えたロベリアは仕方ないと言った感じでタイヤサーリングに乗り込みました。
「積み荷は!?」
「全部軍需物資だ!」
そう言われて荷室を振り返ったロベリアの視界に入った人物が手を挙げて挨拶するのを見てロベリアはまたため息をつきます。「リーリントン様・・・あなたもですか」
鍛冶屋に車屋に運送屋のマスターが首都をほったらかしてナウル城塞へ向かうという事はナウルが最終防衛線になるだろうとロベリアは気持ちを切り替えたのです。
「俺の部下たちが職人共全員連れていく!帝国軍なんぞに後れを取ってたまるかよ!200年前のお礼に叩き潰してやるぜ!」
「ゴーサイ様!勇み足は禁物です!まだ戦争になるとは・・・」
ゴーサイは笑って言いました。
「平和ボケか坊や!相手が俺らの頭に剣を振り下ろそうとしてるんだぜ。よけるか受け流して一発お見舞いしてやるかしかねぇだろ!見ろ!」
気が付くと道路が端から端まで、そして何百台と言う車列が遥か後方まで車両ギルドや運送ギルドの車で埋め尽くされています。
「ロベリア!こうなったらもう止まらねぇ。200年前に飲まされた苦汁を吐き出さにゃ気が済まねぇ!どっちにしたって仕掛けてきたのは帝国の奴らだ!お前の仕事はなんだ?!俺たちの手綱を取れるかお手並み拝見だぜ!」
八傑衆はまさにレアン共和国の柱ともいえる存在です。彼らの殆どが200年前の帝国による侵略をその身をもって経験していました。その3人までもがこの戦争を積極的に戦おうと前線に向かっている理由は200年前と同様に祖国を踏みにじられることを許せないからです。同胞であれば言うまでもない、そして訊くまでもない事でした。
「現時点で情報がありません!勢いだけでは勝てない!情報がいるんです!」
「情報だと?!そんなものなくてもなあ・・・・」
反論しようとしたオーリをゴーサイは手で制しました。オーリはウッとなって気に食わなそうに腕組みをしてシートによりかかります。
「行くのかエーヴェイに」
「行かねばなりません!」
ゴーサイはロベリアにそう言われて笑う事も怒鳴り返すこともしませんでした。
ゴーサイは知っていたのです。ロベリアの部下の何人かは仮想敵国であるデヴォール帝国内に身分を偽って潜み続け、事が起これば国家の為に命を懸ける事を。
「・・・・」
少しの間黙ってハンドルを操作し続けていたゴーサイは言いました。
「オーリよ」
「ああん?」
「ここから全力でナウルに行った後、この車はどのくらい続けて走れる?」
「そりゃあ!・・・・」
オーリはハッタリをかますつもりでゴーサイを見てちょっと気圧(けお)されました。彼の目には冗談抜きで正直に言えと言う迫力があったのです。
「そりゃあ・・・おめぇ・・・」
「嘘つくなよ!」
「わ・・・わかったよ!怒鳴るなってんだぃ!」
「どうなんだ!?」
「ナウルまでならどんなに飛ばそうと問題はねえ!だがそれ以上となると乗り方によるとしか言えねぇ!」
「どういう意味だ」
「あんただってタイヤサーリングの操縦についちゃ素人じゃねぇんだ、わかるだろ?」
「バネか?タイヤか?」
「個々の部品の問題じゃねぇ。総合的なもんだ。車ってなぁ全ての部品のバランスが良くて初めて全力が出る。ひとつの部品に不具合があればそこから壊れてくんだぃ」
オーリは少し考えてから言いました。
「ナウルまで80km・・・着いたら消耗の激しい部品を交換して、総点検すれば3時間はかかっちまう」
3時間は何とも言えない線です。彼らはみんなエーヴェイでどんな事が起こっているかは知っていました。氷の橋が完成するのにどれぐらいかかるかは国境防衛軍次第でしたが、ナウルまでの80kmを平均時速30kmと見積もって約3時間でこなし、そこから3時間の整備時間とすると、ナウル城塞を出るのはいまから6時間後。その頃は日も暮れはじめています。
「ロベリア。ナウルの軌道サーリングは全部・・・」
「ええ、おそらく全部エーヴェイに出払っているはずです。兵士たちをナウルに移送する為に」
ゴーサイは舌打ちします。
「なら車しかねぇか・・・オーリよ」
「うん?」
「ナウルに常備してあるタイヤサーリングはどうだ」
「あるにはあるはずだが、最近は軌道の方が便利で長距離輸送にタイヤは殆ど使われてねぇ。普段使いはしてるが、部下の話じゃ普段使いの車は壊れる事があまりないから整備が不十分だと言ってたよ」
「いずれにせよ整備が必要ってことか・・・」
「だな」
「整備せず行ったらどうなる?」
「全速力か?」
「勿論だ」
オーリは苦々しい顔で言いました。
「エーヴェイまで・・・・行けるかどうか・・・保証は出来ねぇ」
壊れてしまえばそこで立ち往生という事です。
「帰りは軌道になるがそれに間に合わせるには・・・・20kmか・・・60で飛ばせば・・・平均速度・・・30分で・・・」
「ナウルとエーヴェイ間は軌道が主な交通機関となって久しいからな。道路整備も問題があるかもしれん」
「ベルベルの小僧が手ぇ抜きやがって・・・」
街道網の整備は建築ギルドが行っています。
「手は抜いてませんよ。発注は評議会ですからね」
ロベリアは非難されるのを覚悟のうえで言いました。
「ロベリア。運送の主体は軌道より車だ。雇用を確保したいならそうすべきだ」
「ええ。それはわかっていますが、仮想敵国から最終防衛ラインのナウル川までの間に整備の行き届いた道を敷設するのは防衛上の問題から容認できません」
「だとしても・・・」
するとそれまで黙っていたリーリントンが口を開きました。
「刀と言う物は人を斬るためのものだが、斬り合いになりゃあ刃こぼれは避けられん。だが刃こぼれしたからと言って敵は待ってくれねぇ」
「リーリントン!何が言いたい!」
ゴーサイが大声で言います。
「斬れなきゃ突けばいいだろうが?!」
「突きってのは難しい。切っ先が敵に当たる確率は低い。だがそうしたところでいつかは刀も折れる。折れちまったら刀はクソの役にも立たねぇ」
「・・・・」
誰もが黙り込んでしまいました。
「どーしろってんだ!」
「簡単な事さ。二本三本と刀を持てばいい。切れなくなった刀は捨てればいい」
「ああ?」
オーリは何を言ってるのかと思いましたが、ゴーサイは何か思いついたようです。
「オーリ!運転変ってくれ!」
「何ぃ?うおわ!」
オーリは慌ててハンドルに取りつきます。
ゴーサイは屋根のない運転席から身を上に乗り出して後方を走る仲間たちのタイヤサーリングを見始めました。そしてしばらくすると空に向かって筒状の物体を立てるとそれについている紐を引っ張ります。すると筒から勢いよく赤い色のついた煙が吐き出されました。
「おいおいおいおいおいぃぃぃ!」
赤い煙を見た後続車が次々と止まり始めました。
「ゴーサイ!どうするつもりだ!急いでるんだろ?!」
車を止めたオーリが声を上げます。
止められた部下たちも何事かと声を上げました。
「どうしたんです親方ぁ!」
「故障ですかぁ?!」
それに構わずゴーサイは大声で言いました。
「俺の車の荷物を運び出してお前たちの車に分散して積み込め!急げ!」
そこまで聞いたオーリが気が付いたようでした。
「ゴーサイ・・・おめぇ天才だな」
「あたぼうよ。無駄に250年生きてねぇってんだ」
ロベリアは隣でボソッと呟くリーリントンの言葉を聞き逃しませんでした。
「ま、俺の与えたヒントが一番ってこったな。お前もそう思うだろ?ん?」
ロベリアは何が始まるのか、まだわからずにいました。
■■■人殺し■■■
その頃、ロマはある大きな問題を目の前に突き付けられていうました。
「タニアが?」
タニアが魔法攻撃の隊列から外れて後方で佇んでいます。表情は恐怖と情けなさが入り混じったものでした。
「閣下・・・私・・・わかってたんです。でも言い出せなくて・・・まさかこんな事になるなんて・・・」
「なんの話をしている・・・攻撃できないとはどういう事なの?」
「わたし・・・わたし・・・・人殺しは・・・できません」
ロマはその言葉に愕然としました。
人殺しが出来ない。つまり敵兵を攻撃できないという事です。獣人にはあれほどの損害を与えた強力な魔法使いが襲い来る人間の敵に対して無力だったのです。
攻撃力として期待できない兵士は後方に下げるしかないと判断せざるを得ません。ロマは現在の発熱クリスタルと魔法攻撃で時間を稼ぐつもりでいたし、魔法攻撃ではタニアにかなりの期待を寄せていたので発覚したこの事実はかなり痛手でした。
「困りましたね・・・」
しかし思い悩んでいる時間もありません。
「デル。どれぐらい持つ?」
「ワウル殿の話を加味すれば・・・あと4から3時間と言う所ですね」
「間に合うか?」
「敵に悟られないように急がせていますが、続々と到着していますがナウルからの軌道サーリングがどれだけ効率よく到着するかに依ります」
「残りの実数は?」
「現時点で要塞に残っている兵数は2500、到着済みの軌道サーリングの定員はその半分ほどです」
軌道サーリングが足りるのかもわからないのは不安材料です。
「半分か・・・」
「物資の搬出も合わせれば間に合うかどうかギリギリまで何とも言えません。・・・正直言ってコーレル大尉の訓練に2千兵を割いたのは幸運でした」
「うむ・・・」
ナバは騎兵隊です。馬の積み込みは時間がかかります。馬がいなければ搬出時間が大幅に短くできるのです。
「閣下もそろそろ脱出の用意を」
「いや私は・・・」
「ダメです」
「・・・」
余りにもはっきりと否定されたロマはデルマツィアの顔を見ました。
「あなたの兵士を思う気持ちはわかりますが、万が一あなたが倒れたらもっと多くの兵士が犠牲になってしまう可能性がある事をお考え下さい」
「・・・・・」
「閣下の代わりはいないのです」
ロマは視線を元に戻すと隣にいるデルマツィアに聞こえるギリギリの声量で言いました。
「・・・・わかった」
「すみません。正直に言います。おそらく2~300名は間に合わない可能性が高いです」
ロマはハッとしてデルマツィアを見て視線を泳がせながら元に戻します。
「それはお前の予測だな?」
「そうです」
「最大限の努力をしろ。やはり私は一兵たりとも残してはいけない」キッと目に力を入れてデルマツィアを見上げました「わかったな」
「ハ!」
軍需物資、兵装、どれも戦争に必要なものです。これを置いて逃走しても逃走した先で戦えない。デルマツィアはそれでもこの国がレアン共和国であることに期待していました。
※つまり不足物資は造って補充する事が可能であるという事。
そして、一兵も残していきたくないのは彼とて同じ気持ちだったのです。
大山岳地帯の裾野にあたる場所は山の中腹です。エーヴェイ川をさかのぼっていくと河岸段丘となっている為、段丘の上を行軍する事になりますが、城塞から20kmほど遡って段丘が狭くそして低くなった当たりでナバ=コーレル率いる防毒マスク作戦訓練部隊が下流域の異変に気付いていました。
「どうだ?」
「やはり訓練とは違いますね・・・あれは敵の攻撃による煙のようです。どうします?」
「大隊長。やはり戻りましょう」
「いやダメだ」
「どうしてですか!友軍が危機に陥っているんですよ?!」
「うるせぇな。でけぇ声出すな」
迷惑そうなナバの声に周りの士官たちが黙り込みます。
「引き返すって事はこの山の中を1500の騎兵が動くってこった。いくら足の速い騎兵でも旅団規模の大軍が城塞まで戻るのにたぶん半日じゃ足りねぇ。ついた頃には・・・・」
ナバがそこまで言ったときに一人の兵士が息を切らせて駆け寄って来ました。
「大尉!・・・司令官閣下より伝令です!!」
伝令から聞かされたロマからの指令は、”帝国軍エーヴェイ渡河を開始。本隊はナウルへ後退す。貴君らはエーヴェイ城塞に戻ること厳禁、ナウル城塞へ向かえ。敵との遭遇時に必要ならば迎撃してよし、されどナウルへの後退を最優先とせよ”
「・・・」
ナバは眉間にしわを作ります。
「隊長、ご報告します」
「どうした」
そこへ慌てた様子の兵士がナバの元に訪れます。声のトーンは落としていますが声色と顔に緊迫が見えました。
「対岸に敵兵です」
「・・・んだと。規模は?」
「2~3千ではないでしょう見える限りでは数千、おそらく少なくとも1万は・・・道がないのでよくわかりません。ですが続々と集まってきています」
「帝国の戦略単位だと1師団は1万5千だ。そんくらいはいそうだな」
ナバは少し考えてから言いました。
「地図を持ってこい!」
広げられた地図をみて士官のひとりが言いました。
「現在地はここです。対岸までの距離はおよそ120メートル。段丘地形のため渡河には向かない地形なのでさらにさかのぼる可能性があります」
「どの辺から渡り始めると思う?」
この地図はレアン共和国で作られたもので、おそらく測量技術も発達しているジェミン族であることを考えれば正確さの信頼度は100%でした。
「あと2kmほど上流に行くと川幅も狭くなり段丘もなくなっています」
「そこか・・・」
ナバは顎を擦りましたがすぐに言いました。
「よし、魔法使いをケツに載せた部隊を編成する。魔法使いは20人だったな?」
「はい」
「魔法騎馬部隊って名付けよう。かっこいいだろ」
「隊長・・・」
そんなことを言っている場合かと士官のひとりが諫めますが。
「そんな顔すんな。始まったもんはしょうがねぇんだ。それとも部隊の呼び名はお前が考えるか?」
水を向けられた下士官は首を振りました。
「いえ」
「よし。魔法騎馬部隊20騎は・・・・」
ナバが指名した兵士はナバが実力を認めている兵士でした。これに反論する者は一人もいません。
「魔法使いを振り落としたりするなよ」
「隊長もね」
「なにぃ。言ってくれるじゃねぇかソレス」
「お忘れですか隊長」
「ん?・・・・あ!」
他の騎兵がニヤニヤしています。
「訓練の時にソレスを振り落として最後まで気が付かなかったじゃないですか」
一瞬にして思い出したナバは決まり悪そうに咳払いします。
「これはまああれですよ隊長。あなたは魔法騎馬部隊より護衛隊の方がいいのでは・・・という密やかなる提案といいましょうか・・・」
わが身の不幸を思い出すかのようにソレスがそう言います。
「むむむ・・・」
ナバもそういう事態に自覚的なだけに二の句を次げずにいます。
「冗談は抜きにして、その方が隊長の戦力は発揮されやすいと思いますが?」
さすがのナバも指揮官だけに我儘ばかり言っていられません。ここは折れるべきと思いました。
「しょうがねぇな、それじゃ・・・」
「私、平気ですよ」
後ろの方から声だけが聞こえてきて、誰もが驚いた表情を見せます。その声の下あたりの人垣が割れると。
「マレイ=パニーニ上等兵」
そこにいたのは女の魔法兵でした。
「おいおいおい。マジで言ってんのか、悪い事は言わんからやめろ」
「自殺行為だ」
「隊長。冷静なるご判断を。これは訓練ではありません」
「そうです。一兵卒の希望を聞き入れる事で作戦に支障を来たす事があってはなりません」
失礼な言い回しも含めて様々な意見があちこちから聞こえてきます。
そんな空気にもめげることなく小柄なマレイ=パニーニ上等兵は冷静な面持ちで言いました。
「隊長。あなたの突撃力は師団内でも、いえ、わが王国軍で知らない者はいません。それがどれだけ士気を上げる事であるかも、ここにいる全員がご存じのはずです」
この言葉に仕官下士官全員が口を開けませんでした。
言われたナバはまんざらでもない顔です。それを見たソレスはハッとして言いました。
「パニーニ。だから何だというのだ。お前が隊長の後ろに乗って振り落とされたらそれは戦力が失われるという事だ」
正論がさらに繰り広げられます。
「魔法兵は20名。お前が死ねば、貴重な魔法戦力が5%も失われる。それがどれだけ大きな損失かわからない事ではあるまい?」
「ソレス中尉。お言葉ですが、危険だからと言う理由で尻込みした結果、更なる危機的状況を招くことになる可能性を想定しておられません」
さすがにソレスもむっとして言い返します。
「想定範囲だけで作戦立案していたら犠牲者がいくら出ても良いとなってしまうだろう。そんなことは容認できん」
「私には自信があります」
「だからその自信とやらが誰も保証・・・」
ナバはそこで割り込んで話を止めます。
「パニーニ。おまえの自信ってのは俺を納得させられるか?俺だって馬鹿じゃない」一瞬場の空気が「くす」となります。「俺がソレスを振り落としちまった時は本当に気が付かなかった。俺は疾駆(はし)ってる最中後ろを気にする事がないぐらいに集中・・・いや、夢中になっちまうんだ。だがそうでなければお前がさっき言った俺の突撃力は生まれない」
その言葉に周りの兵士たちはナバをはやしたて、持ち上げ指笛を吹き鳴らします。
それらを背景にナバは話を続けました。
「俺自身それには自覚がある。ソレスはそれを考えたうえで言ってるんだぜ?それを踏まえればどんなに自信があると言われても、女のお前に俺の後ろが任せられるとは・・・・」
パニーニはナバを遮りました。
「考えがあるんです。私が小柄な女だから出来る事です」
一同が怪訝な顔を見せます。
「どんな考えだ」
「騎手の背中に乳飲み子よろしく私を縛り付ける事で絶対に振り落とされません」
そう言われて誰もがなるほどと思った直後にその状況にナバが耐えられるかという疑問が、やはり誰しもが思ったのです。
今回、訓練とはいえ完全装備でこの場に赴いていた兵士たちですが、騎兵は重装歩兵ほどではありませんが全身を鎧で包んでいます。そして背中には剣を固定するための固定具を背負っています。パニーニの提案を採用するとなればこの固定具を外す必要性が出てきます。これは武器を捨てるに等しい行為でした。
しかしそれは良いとしてもそれ以上の問題がある事は明白でした。全員の視線がパニーニ上等魔法兵の胸のふくらみに集中します。
「いや・・・う~ん・・・パニーニ・・・・お前の考えは確かに理にかなっているが・・・・つまりそのなんだ・・・お前のアレがアレでだな」
その反応にパニーニはやっぱり冷静に返します。
「魔法攻撃は一撃離脱。ならば・・・背中合わせであっても問題ないかと」
「え?」
ナバの「え」という言葉とその時の残念そうな顔でパニーニ上等兵の申し出は受理される事となったのです。
>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>第3章 第3話へ続く
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