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第3章 第3話 エーヴェイ陥落
しおりを挟むエーヴェイ陥落
■■■ンヌエーラ=ゴーサイ■■■
「ンヌエーラ!俺が保証するエーヴェイまでだったらどんなに飛ばしても壊れるこたあない。ぶっ飛ばせ!」
オーリが小型のタイヤサーリングに乗り込んだ小柄の女、ンヌエーラに言いました。
「わかった!ありがとブリおじさん!」
オーリは頬を赤らめて親指を立てます。その親指の向こうではンヌエーラの隣に乗ったロベリアが青ざめていました。
「ゴーサイ様!本当に大丈夫なんでしょうね!こんな若い女に・・・」
「おれの曾孫(ひまご)だぞ!問題ねぇ!」
ゴーサイが豪快に笑います。
「俺が行きたいとこだったが、済まんが俺は八傑なんでな、部下共が止めやがる」
「そこであたしの出番ってわけなのよロベリアさん!」
「そういうこった!その代わり敵から守ってやってくれよ補佐官さんよ!がははははは!」
「ちょっとまってくれ!運転なら私ができ・・・」
「行ってきますオジーちゃん!」
「おう!気張ってこいや!」
「はーい♪」
加速は明らかに通常のタイヤサーリングと違っていました。スタートダッシュがまさにシートに背中を押し付けられるほどだったのです。ロベリアは慌てて目の前に備え付けられた取っ手を掴みました。手汗が噴き出し、取っ手がヌルつきます。
「そうそう!掴まっててロベリアさん!ずっとこんな感じだから!」
車高が低く幅広のタイヤを付けたタイヤサーリングはカーブのたびに車体が滑ります。
「くそ・・・私の身を確実に届けてくれればいい!それだけは約束してくれ!」
「ハイな!手が離せないからサインは出来ないけど」
急カーブで後輪が滑ります。
「ひ・・・が・・・・」
「契約成立!あ!そうだ!」
「ま、なだなにかぁ!?」
「報酬は20万テルスでいいかしら!」
輸送費20万テルスは法外です。
「にじゅうま・・・ん!!?」
「おっとう!」
ギャリギャリギャリという鋼鉄と石の擦れる音を響かせてまたドリフトでカーブを切り抜けます。
「!!」
ロベリアはこの速度でこのカーブを曲がることなんて自分にはできないと、恐怖に駆られながらも思っていました。今はとにかく1秒でも早くエーヴェイ城塞の屋上に行かなくてはならない事を最優先と考えて行動する他なかったのです。
「に!20万だな!いいだろう払ってやる!だが!」
「えぇー?!なぁにぃぃ?!」
「私の身体に傷ひとつ付けたら契約は不履行とみなす!報酬は無しだ!いいな!!」
「はあい!了解いいい!」
そう言っている間も鉄でできた大きな後輪が地面をキリキリと音を上げて滑り、逆ハンでカーブを走り抜けます。条件を付けた事で速度が落ちると思ったロベリアの予測は全く当たりませんでした。
「もうひとつ条件付けていい?!」
「何・・・だって?!」
「30分でつかなかったら契約不履行でいいわ!」
「さ・・・30!!?」
「あったしぃ!条件がキッツいほど実力出るんよおおお!ひゃっはあああああ!」
「ま!まてまてまてま・・・・て!」
あのゴーサイ様の血縁ならそうだろう。そうだろうとも。よーくわかった。
ナスカット=ロベリア。年齢77歳(マシュラ族の見た目では30歳相当)は大いなる身の危険を感じながらも、あの時、ゴーサイの大型タイヤサーリングから荷物を全ておろし、それを他の車に分散して載せ、その代わりに載せたのが今自分が乗っているこの速度重視型タイヤサーリングであったことを思い出していました。
ゴーサイの、「整備に3時間かかる。ここからナウル城塞まで3時間かかる。それだったらその整備を走ってる車の中でやればいいじゃねぇか」という発想。つまり積載した車は動かないわけですから消耗しません。だから部品交換は最小限で整備だけ完ぺきにすれば事足りるという事です。
それ自体は効率を考えるジェミン族らしく、ロベリアとて感心したものでした。
必要な部品が発生したら走っている最中の他の車から渡り渡って届きました。その手際たるや驚愕に値するという、もはや曲芸。そして自分が今乗っている速度重視型タイヤサーリングは曲芸ともいえるドライビングテクニックで激走しているのです。
「ベルモンドの親方の目もすべてに行き届いてないわねぇ!ヒッヒッヒー!」
「ぐぎぎぎ」
「今度文句言ってみようっと!アハハ!」
これほど歯を食いしばったのは生まれて初めてでした。彼はあと20kmの距離をこのままの状態で耐えねばならなかったのです。
河岸段丘が緩やかになる上流部で帝国の大軍が蟻の雪崩を見るようでした。
「2万か・・・ひいき目に見てってわけじゃなさそうだな」
「信じられませんよ。こんな山の中に2万です。でも最近のレアン共和国からの報告では10個師団、兵数14万になってましたから、マッサレイっていう総司令官が本気だってのはわかりますよ」
「本気で侵略か・・・」
「ええ」
「2万と2000じゃ正面切っての戦いは出来ねぇが、時と場所によるぜ。こんだけ縦に延びてる軍隊ならやりようはある」
「向こうがある程度川床に降りたところでこちらも斜面を降りて一撃し上流側へ離脱。誘い込んでガスマスク作戦発動。怯んだところを魔法による第二撃の後離脱して・・・・」
「ナウルにトン面だ、下手打つなよソレス」
「俺よりパニーニに少しは気ぃ使ってくださいよ」
「あいつが志願してきたんだ、遠慮しちゃ失礼ってもんだろ」
「隊長」
ソレスが目に力を入れて言いました。
「隊長のそういうとこ俺も嫌いじゃないですけど、現状戦力の低下は是が非でも避けたいところです。自重してください」
「そうそう最優先は作戦じゃなくて人命ですよ隊長」
最期の作戦確認の小さな円陣で兵士たちの密やかな笑い声が湧きおこります。
「わーかってるよ。まったくうるせぇなあ」
「ほとんどの兵は退路確保で退屈だって言ってますけど、出来る限り叩行けるならそうすべきかと思いますが・・・」
「まあな。だがナウルへ来いって命令だからな。下手打って損害が大きくなったらあとあとに響く」
「あ、それと」
「ハーヴァルウォッケン持たなくて平気ですか?」
「平気なわけねぇだろ。落とすんじゃねぇぞソレス」
「・・・わかってますよ」
空気が沈みかけます。
基本的にハーヴァルウォッケンのような長大な剣は腰に下げたり出来ないので背中に付けた固定具で背負うという形になりますが、今回の作戦では背中に魔法兵を括りつける事になるため固定具を背負うわけには行かず、必然的に帯剣できません。
「ばっか!冗談だよ!何その顔?俺が不機嫌とでも?だはは!よっし行くぞ!てめぇらぬかるな!一発で決めるぜ!」
20騎兵の先頭にナバが付き、その背後にパニーニが張り付いています。
「とにかく空になるまでぶちかませ。あいつらがこっち来たら俺たちばかりか本隊のガーラリエルもアブねぇからな」
「隊長。司令官呼び捨て」
「誰も聞いてねぇよ」
「私が聞いてま・・・・グ・・・」
いきなり馬が走り出し、決して緩やかでない斜面を駆け下ります。
気づいた敵軍が対岸から矢を撃って来ます。
「弓?」
「パニーニ撃てぇ!」
ナバの声でハッとしたように火焔魔法弾を敵へと撃ち込むとそれを皮切りに20騎が乱れ撃ちです。対岸に魔法の着弾で樹木諸共炎上、土煙や岩の破片によって人が吹き飛んでいき、叫び声や怒号が聞こえます。
時間にして数分にも満たない攻撃でしたが、魔法攻撃による打撃は効果絶大でした。閃光と共に放たれた火焔球があたり一面を火の海にし、帝国軍の進軍を阻んだのです。
「大尉!・・・ナバ隊長!」
「ああ!?どしたパニーニ?怪我でもしたかぁ?!」
「違います!隊長見てください!あれ!」
「ああ?!」
「なんだあれは!」
振り返る魔法兵を背負った騎馬部隊の兵士たちが指さす先に異様な光景が広がっていました。
「木が・・・いや、森がまるで生き物のように・・・・」
「オイあっちを見ろ!」
「な・・・」
「なんだよあれ」
「・・・まるでカレラの精霊兵みてぇだ・・・」
樹木が動物のように動いて暴れまわり、岩の塊が人型に盛り上がって岩塊の精霊兵のように暴れ、それらが帝国軍の兵士に襲い掛かっていたのです。ナバはハッとして思い出しました。
「そういや、デルの野郎が言ってたぜ・・・。木が歩くとかいう・・・ジェミン族の噂ってこれの事か・・・」
「噂?」
「ああ、よく覚えてねぇが・・・」
「隊長。このさい噂についてはどうでもいいですよ。これはまさに天祐です。この機に更なる攻撃を!」
その時でした。
「うわあああああ!」
「ちい!やっぱりか!」
「きゃああ!」
ナバが背中にパニーニを背負ったまま下馬して悲鳴の下方へ走ります。
「た!助けてくれぇ!!」
そこには気の化け物につかみ上げられた兵士の姿があったのです。
「ぬおおおおあああ!」
ナバは誰かの持っていた剣を振り上げて兵士に絡みついていた歩く樹木の枝を切り払いました。そこにまた別の方向から樹木の枝が今度はナバに襲い掛かります。背中のパニーニが叫びます。
「隊長!後ろ!うしろおおおおおお!」
「ああ!?」
背後に迫っていた樹木の怪物に、ナバは振り向きざま剣を振り下ろし・・・たのではなく、剣を捨てて怪物の枝を両腕でガッシリ抱え込んだのです。
「野郎ども!こいつから生えてる腕を全員で掴めええ!」
ナバの号令で兵士たちが暴れる樹木から生えている十数本の枝に組み付きました。
「隊長ぉぉぉどうすればぁ?!」
「全力で引きちぎれえええええ」
男たちの踏ん張る声とメキメキ、ミリミリと木が捩れそして切れる音があちこちから聞こえてきました。
樹木の化け物がさすがに逃れようと身をよじります。
「逃がすな!担ぎ上げて投げ飛ばせえええええ!」
そして全員で大木を頭上に担ぎ上げて崖下に放り投げたのです。眼下には狂ったようにのたうつ樹木が見えます。
「くそ!あんなのがいちゃあこっちにも被害が出ちまいそうだ。これ以上の攻撃は無理か・・・」
川床そして対岸の帝国軍の混乱ぶりはもとより、樹木や岩塊は決して自分たちの味方ではない事を理解したナバはナウル城塞への移動を優先しようと考えました。
「待ってください隊長!」
背中で魔法兵のパニーニが言います。
「帝国軍は弓でしか反撃してません。それに見てください」
化け物と戦う帝国軍は剣や鈍器、そして弓で応戦しています。
「敵は全く魔法で応戦してないんです。」
ナバを含む全員がその言葉で気が付きました。
「ほんとだ・・・」
「温存してるだけだろ」
「あんな混乱時にですか?緊急時には私だって魔力温存なんて考えません。魔力配分は考えますが、全く使わないなんてありえませんよ!迷わず自分や同僚の身を守るために魔法を使います」
自身が魔法兵だけにパニーニの言葉には説得力がありました。
魔法は味方が生きているうちに敵を倒すために使えばこそです。味方が倒れた後に使っても魔力が尽きれば死が待っているだけです。
「じゃあ何で使わないんだ?」
「使わないんじゃなくて、使える魔法兵がいないんです。そうとしか思えません」
ナバがそれに応えました。
「魔法使いがいない?バカいえ!そんな軍隊なんて聞いたことないぜ」
「そうだ。こんな大規模な作戦行動ならなおさら・・・・・・あ、・・・そ、そうか!」
何かに思い当たったソレスが言いました。
「いつかの作戦会議で話に出ましたよね?隊長」
「何が?」
「敵が国境を越えて進行してくるなら、間違いなく渡河の為に氷の橋を架けるって!」
「ああ・・・それで?」
理解しないナバにしびれを切らしたソレスが畳みかけます。
「エーヴェイ川の川幅で10万の大軍が渡れるほどの氷結橋を短時間で作るとなったら、所属している魔法兵が総動員されるって事ですよ!」
「ああ?!」
氷結橋を架けるイコール魔法使いが大勢必要になる。したがって別動隊に魔法使いはいなくなるという意味です。
ナバはそれがどうしたと言い返します。
「魔法使いがいない事が何だってんだ。兵力差は歴然としてんだ。魔法使いがいようが居まいが・・・」
「その言葉、ツェーデル先生にも言えます?」
ツェーデルの顔を思い出し、ナバはグッと口をつぐみました。そしてパニーニは眼に力を入れてナバを見て言います。
「隊長、川べりを下流へ移動しながら対岸への遠距離攻撃。これなら数の不利は関係ないです」
「だめだだめだ!いくら魔法攻撃がないったって、そんなアブねぇ賭けは出来ねぇ!」
”ナウルへの後退を最優先とせよ”
ロマから送られてきた伝令のこの一言がナバを迷わせていました。
「あなたはいつからそんな腰抜けになったんですコーレル隊長!」
「あ?」
ナバがカチンとして顔を怒らせます。
「てめぇ今なんつったぁ!」
背中合わせだと喧嘩も様になりません。ソレスが止めます。
「パニーニ。言い過ぎだ。隊長だって一応考えてるんだぞ?」
そのソレスの言葉にもナバは少しむっとします。
「お前な・・・」
「攻撃は一撃だけです!」
「たった1度だと?ハハっ!聞いたかソレス」
ソレスのみならず幾人かの兵士はナバの言葉に肯定的のようでした。
「俺が腰抜けならお前はヌケサクだパニーニ!そんなのなおさらだめに決まってんだろ!一撃であの大軍にどんな効果があるってんだ!」
ナバはパニーニを背中でゆすりながら言い放ちました。
周囲の反応はナバに賛意を示して頷く者もいます。
しかしパニーニも引き下がりませんでした。
「わかっています。しかし同じ一撃でも要点に対する集中攻撃だったらどうです?・・・そして速やかに離脱しナウルへ向かうというのは?」
「要点?」
「どういうことだパニーニ」
「要点とは?」
パニーニは引き結んだ口を開いて言います。
「要点とは・・・敵の指揮官がいる場所です」
一瞬でその言葉が場の空気を変えました。
ざわめきが起こります。
しかしナバはらしくない冷静さで物事を見極めているようでした。ひとつ息を吐いて今度は落ち着いた口調で話し始めたのです。
「パニーニ。落ち着いてよく聞け。いきなり帝国軍が襲ってきて俺らはこんな情けねえ状態だ。奴らに一泡吹かせたい気持ちはわかる。だがバカな事をいうな。指揮官をやれりゃあ御の字だが、こんな大軍でしかもこんな山の中じゃ居場所なんざわかるわけねぇだろが・・・」
大規模軍隊なら指揮官は間違いなく大将級です。しかも複数人いるとみてもいいでしょう。その周りには副官や参謀と言った作戦行動に重要な役割を持った士官たちがいるはずでした。それらを魔法攻撃で一気に討ち取る事が出来ればいくら大軍とは言えども作戦行動に影響がないわけがありません。しかしナバの言う通りその場所を短時間で探り出すなど不可能と言えます。
「下手をすればその場所を探ってることに気づかれて逆にドカンとやられちまう」
「指揮官のいる場所は守りが堅いと思います」
「なにを当たり前のことを言って・・・」
「さっき私はこの部隊には魔法使いがいないって言いましたけど、さすがに一人もいないってことは無いと思います」
「ん?んん?なんだとぉ?」
ナバが何を言いたいのか理解できないという顔をします。
「数少ない魔法使いは絶対指揮官を守っているハズです」
パニーニのこの言葉のあとの一瞬の沈黙を破ったのはソレスで、次にナバでした。
「なるほど!そう言う事か!」
「おお!・・・やっとわかったぜパニーニ。回りくどいこと言いやがってぇ!」
ナバがニヤッとします・
「魔法攻撃が飛び出したところに指揮官がいる・・・そういうこったな」
「はいっ」
「だがやっぱり賭けですよ隊長。パニーニの予測は100%じゃない・・・」
「しかしよソレス」
少しうれしそうな顔でナバが言いました。
「こんなにやる気になる作戦はそうそうないぜ」
言い終えたナバ場の顔は既にやる気満々でした。闘気の滾りたぎりが空気の温度を上げんばかりでした。
「やるんですか」
「おお。人選はお前に任せる。最後っ屁作戦発動だ!」
パニーニが変な作戦名に泣きそうな顔をし、ソレスは首を振りながらもこの作戦に光明のような物を見出していました。これが成功すれば後の戦況に必ず利するところがある、と。
■■■亡失■■■
敵から見て対岸を見えるように下流側へ走り、魔法攻撃が飛んできた先へ集中攻撃という作戦で行くことになりました。
「へっへへー!やっぱこれだぜ」
ナバはハーヴァルウォッケンを構えて笑顔満面です。
「俺を含めた30騎で敵から目立つように川べりを走って注意をひく。お前たちは斜面になるが少し高いところを俺たちと並走してついてこい。俺らに魔法攻撃が返ってきたらそこに集中攻撃だ。司令官をやれりゃあいいが、結果確認は出来ねぇ。全力の一撃離脱だ。そのあとガーラリエルの指令通りナウルへ向かう!」
ナバの思惑通りに川べりを目立つように走ると対岸の帝国軍から弓攻撃が始まりました。ナバたちの鎧にあたりますが跳ね返ってしまいます。「ハッハァ!へなちょこ弓が効くかってんだ!」弓が雨のように降ろうと霊牙力のガードがあり、距離が離れているうちは数の不利も軽減されます。そしてパニーニの予測した通り魔法による攻撃も全くなかったのです。
しかし暫く行くと。
バアアアアン!
ナバの乗る馬の足元の土が炸裂して燃え上がりました。
爆炎魔法攻撃です。
「来たぞ!霊牙力で防げ!」
「速度を落とすな!」
馬や騎乗の兵士の鎧に魔法が跳ね返り倒れそうになったりよろけますが、疾走は続きました。騎兵は速力が無ければただの的になってしまいます。
騎兵の後ろに乗っていた魔法使いたちがナバの言葉を思い出していました。
”指揮官の居場所を突き止めても絶対防御を張られたら意味がねぇ。チャンスは一度きりだ、馬から降りてよく狙え”
ナバを含めた30騎が凸凹の河原を更に下流へと下るとそちらへ魔法攻撃が移動していきます。
馬が止まって飛び降りた魔法使いたちが一列に並び魔方陣を現出させます。魔方陣の放つ光は木々が隠してくれました。
「撃てぇ!!」
パニーニの声を合図に全ての魔方陣から攻撃が放出されました。複数の火球が目の前の木々を粉砕し高速で敵を襲います。
魔法の着弾点に爆発が起こり一気に火の手が上がり燃え広がりました。
誰もがやったと思ったとき、着弾点から少し離れたところから新たな魔法攻撃がナバの率いる騎兵部隊に撃ち込まれたのです。
「くそ!!」
「まだいやがるか!」
そしてその一撃は1騎を撃ち抜きます。
「止まるな走れ!狙い撃ちにされるぞ!」
ナバは叫んで騎兵たちを走らせ後ろを振り返ります。
「ソレス!」
「はい!」
「俺になんかあったらお前がこの隊をナウルまで連れてけ!」
「え?なにを・・・」
「頼んだぜ!」
ソレスは振り返ると魔法で射抜かれた馬から落ちた兵士がまだ生きている事に気が付きます。
「まてぇ!何考えてんだあ!隊長ぉ!!」
悪態をついたソレスはそれでも馬を止められませんでした。
河岸段丘を帝国軍が滑り降りてきて落馬した兵士を捕らえようと迫っていたのです。今引き返せば確実に取り囲まれて潰されることは眼に見えていました。
「くそ!」
馬から落ちた兵士は腕についている小型の盾で弓の攻撃をしのいでいましたが、もはやこれまでと思ったのか小刀を抜いて自分の喉笛にあてがいました。捕まれば拷問され、自分が敵に情報を与えてしまうかもしれない事を悟ったのです。
「はやまんな!馬鹿たれぇ!」
「たいちょ・・・」
「掴まれ!」
兵士が腕を伸ばすとナバはそれをがっちり掴んで自分の馬の上に軽々と引っ張り上げます。
それでも二人乗りは馬にとっても厳しく、速度がなかなか出ません。後ろから敵騎兵が迫って来ました。このままでは追いつかれるのは時間の問題でした。
「隊長!ありがとうございます!もう充分です!自分はここで!アグニで会いましょう!」
「バカ言ってんじゃ・・・!!」
ナバの見てる目の前で自らの首筋を掻き切った兵士は馬から落馬し転がっていきました。さらに敵の馬に踏みつけられ絶命したのです。ナバのギリッと言う歯ぎしりの音が蹄の音に混じります。
「馬鹿、野郎・・・・」
荷重が軽減された馬は速度を上げて敵騎兵を引き離してゆきます。
川べりから山間の斜面へ上り木々の間を縫って進むとやがて友軍が視界に入って来ました。後ろに誰も乗っていないのを見たソレスは並走するナバの横顔をちらりと見ました。
「隊長ご無事で・・・」
ナバはソレスに向けて拳を突き出して制止し、深く刻んだ眉間の皺と動いた口を読んだソレスは何も言わず前に向き直りました。
■■■最初の一撃■■■
「総員列車へ乗り込めぇぇぇえ!」
「戦闘は禁ずる!」
「乗車を最優先とせよ!乗車を最優先!!」
乗車していない兵員は後数十名という所でついに氷結橋梁が完成してしまいました。完成と共に敵兵がなだれ込んできます。
「発車!発車だ!」
軌道列車は初速が絶望的に遅くのろのろと進み始める事に誰もがイラつきと恐怖を感じます。
何人かは列車から降りて押しています。
「このままでは追いつかれるぞ!」
最後の何人かが乗り込み、そこへデルマツィアとロマが走ってきました。
「閣下!お早く!!」
デルマツィアがロマを急かします。
「特火点の兵士たちは?!」
「残っているのは我々だけです!」
「デル!」
大きな声で呼ばれたデルマツィアは視線で応えます。
「よくやってくれた!!」
ロマの感謝の気持ちにデルマツィアは口元に僅かな笑みで喜びを表しました。
「押せぇぇぇ!」
列車はまだノロノロとしていて速度が上がりません。そこへ魔法攻撃が一撃。エーヴェイ城塞の屋上へ上った魔法兵が放ったのです。
「まずい!」
盾を持った兵士たちが列車後端部に集まって攻撃を受けていましたが、数発の攻撃を受けると防御魔法の力が無くなってしまいます。
上空からその様子を見れたなら、敵軍がまるで黒い波となってエーヴェイ城塞の壁を回り込んでくる様が見えた事でしょう。100mもない距離に敵兵が迫り、もはやこれまでかとデルマツィアがロマに「閣下!先頭車両へ!ここは私が・・・」と、言いかけた時でした。
海側の道路から数発の何かが撃ちあがって、上空で何色かの色のついた光を放ち、それに呼応するようにエーヴェイ川の向こうから同じく何種類かの色の光が撃ちあがりました。
それに気づいた帝国兵が最初に何かを打ち上がった方向に突進していくのが見えます。
いったいなんだという顔でロマとデルマツィアを含むノスユナイア兵たちが見ていると。
「ひゃっはあああああああああ!逃げろ逃げろおおおおおお!」
一台の鉄輪サーリングが列車と並走する形で接近してきました。
「なんだ?あれは・・・」
ロマはそのサーリングに乗っている人物を見て驚きました。
「ロベリア補佐官殿?」
「うっわ!やっべぇえ!帝国軍来ちゃってんじゃん!どーすんのロベさあああん!ひいいいいいいい!」
ロベリアはンヌエーラの駆る高速鉄輪サーリングの後部座席に備え付けてある蜂の巣のような筒状のものを敵に向けました。
「怯むな!そのまままっすぐ進め!列車に追いつくんだ!まだ間に合う!」
「アイアイサー!ボーナス弾んでよぉぉぉぉ!」
「帝国軍!これがジェミン族の底力だ!!」
ロベリアがレバーを引くとハチの巣状の穴からぼぼぼっぼぼぼぼっという音と共に何かが一気に射出され帝国軍に降り注ぎました。それに呼応して帝国軍の魔法使いがンヌエーラとロベリアの鉄輪サーリングに魔法攻撃を仕掛けます。
しかし時速60kmという速度とンヌエーラの巧みなローリング走行で、動きを捉えきれず彼らの後方に着魔点が炎を上げて行きます。
「ばーーか!!当ったるもんかぁぁい!」
ンヌエーラがそう言ったタイミングで先ほどロベリアが放出した何かが帝国軍の目の前で続けざまにボン!ボン!と弾けました。弾けると同時に細かい霧状の物質があたり一面に充満します。
「なにあれ!煙幕?!」
「これが答えだ!」
ロベリアは再度筒からまた別の何かを射出します。それは煙幕のような粉塵の中に落ちるとチカチカッと火花を散らし、直後に大音響とともに爆発が起こったのです。奇しくもこれがレアン共和国がデヴォール帝国に最初に与えた一撃でした。
それを見たロマもデルマツィアも息をのみ、体を腕で庇いました。
「見たか!共和国の力を!」
それは粉塵爆発を利用した兵器による攻撃でした。規模こそ小さいものの、相手の戦意を減退させる効果はありました。敵兵の走る速度が明らかに戸惑い遅くなっています。
「いったいなんだ?」
「閣下!詮索は後です!とにかく先頭車両へ!」
こんな時でもデルマツィアは冷静でした。速度の上がり切っていない軌道サーリングの先頭へロマを促します。
「ロベさん!ヤバイぃぃぃ!」
ンヌエーラが悲鳴のように叫びました。
「どうした!?」
「エンジンが!エンジンがぁぁぁぁ!」
エンジンから煙が上がり始め、焦げ付いたようなにおいが鼻腔の奥をを突きます。
「ンヌエーラ!軌道サーリングへ向かえぇ!」
「無茶振りやめてよちっきしょおおおおおお!エンジンー頑張ってよなああああああ!」
後方に濛々と白い煙を吐き出しながら鉄輪サーリングは軌道わきの狭い整備用道路を、速度が上がり始めた軌道サーリングに向かって突き進みます。
「わあああああああああああ!」
速度を上げる軌道サーリングのすぐ横を並走するンヌエーラたち。まずはロベリアが差し出されたデルマツィアの手をガッチリと握って車内へと転がり込み、次に高速タイヤサーリングを捨てたンヌエーラの手をロマが掴んで車内に引っ張り上げました。鉄輪サーリングが後方でひっくり返りながらバラバラになるのが見えるとンヌエーラは泣きそうな顔で鼻をすすり上げ言いました。
「あんた・・・いい子だったよ・・・後できっと・・・・っきしょう・・・」
「ありがとう。助かりましたデルマツィア殿」
「補佐官殿・・・無茶な事をしますね。いったいどうして・・・」
ハアハアと焦りから来る息を切らしながらロベリアは「ああ・・・・」と言って、先ほどの発光信号が打ち上ったあたりを見ていました。
「大丈夫?」
「え・・あ!ガーラリエル様!・・・ですよね?」
ロマは慌てて身を引くンヌエーラを見てきょとんとします。
「引っ張り上げていただきありがとうございまーす!てへへ」
ンヌエーラは相手が師団の長である将軍であることを思い出して礼儀を弁えたつもりなのでしょう。
「残念だったわね。あの車・・・」
「え・・・はい・・・とってもいい子でした・・・」しかしンヌエーラの悲痛な表情がパッと笑顔に切り替わりました。「でもいいんです!」
ロマはえ?という表情になります。
「特別ボーナス付きの報酬でまた新しいの作れるから!ね!ロベさん!!」
ロベリアは眉をひん曲げながらンヌェーラから視線を外してため息をつきました。「20万か・・・」その顔はまさに”なんてこった”でした。
そんな一見して和やかともいえる時間を手に入れられたのも脱出が成功したからですが、それぞれの胸の内は複雑でした。ロベリアの抱く疑念と不安、ロマの抱く危惧、それぞれの思いを乗せて軌道サーリングはぐんぐんと速度を上げて、どんどんと煙の上がるエーヴェイ城塞から離れて行きます。
この日エーヴェイ城塞は殆ど戦闘をすることなく陥落したのでした。
>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>第3章 第4話へ続く
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