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第7話 おともだちになれますこと!?
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――訓練場がざわついていた。
今まで同級生との交流を避けていたつけを、注目にさらされるという形で払うことになっている。
どう振舞うべきか、考えていなかった。今朝のエフティアとの出来事のせいで、それどころではなかったのだ。
「エフティア――」
――は、頬を膨らませながら、目を合わせてくれなかった。
弱った。
「おーほっほっほっほ! 特待生さんがようやくお出ましというわけですのね! よろしければ、このわたくし――リゼ=ライナザルがお相手いたしますわ!」
高飛車な雰囲気のこの人は、僕が特待生だとなぜ知っているのだろう。
リゼ=ライナザル――彼女のことは遠目にだが知っている。一般家庭の出身も多いグランディオス第五学園では悪目立ちしているお嬢様だった。
好機と見ると名乗りを上げて、周囲の冷笑を一身に浴びる気の毒な人……という印象だ。僕が人のことを言える立場ではないし、彼女の方がよほど人として美しいとは思うのだが……なんだか空気は冷めていた。
だけど、僕としてはとても助かる。
正直、今どう振舞うべきか分からなかったのだから。
「訓練ではありますが、真剣でよろしくって? 刃引きの剣はどうも肌に合いませんの」
「分かりました。それでいきましょう」
「いいですわあ! それでこそ、名を背負う者!」
「……背負えたことは、一度もありません」
「そうなんですの……?」
「……」
リゼは全ての動作が自信にあふれている。
正直なところ、うらやましいな。
「誰か! 試合開始の合図をなさい! ほら! そこの獣人の人!」
「えぇー」
「黙っておやりなさい!」
「にゃぁ……じゃあ、二人とも――」
空気が変わる。
向かい合うと、この人が強いということがはっきりと分かった。
「――剣に想いを馳せよ」
剣を想起し、実体化させる。
遥か遠い昔から剣使たちが続けてきた、神々への憧憬にも似た感情の発露。
それが剣を創り出すという行為だ。
けれど、僕の剣はそんな美しいものではない。
吐き気を催すような景色が目の前に広がる。
血染めの空と大地、転がる死体、愚かなこどもの叫び声。
そして、両親を殺した短剣――それらすべてが合わさり、剣と成ってゆく。
「どうなされたの……? 顔色が悪くてよ……?」
「……問題ありません」
「そうですの……では――行きますわよッ!」
「……ッ」
リゼの速攻の横一閃……微塵の甘さもない剣だったが、それには退かず、短剣を逆手に持ち替え、いなして滑らせる。少し驚きの表情を見せるリゼだったが、すぐ冷静にこちらの手元から剣先を凝視した。
体勢はこちらが有利だったが、初撃はかわされ、続けざまの刺突は剣で払われる。勢いのままリゼの背後に回ろうとしたが、彼女も前進し、すれ違う形で距離を取った。
この動きは見たことがある……彼女は本当に強いんだ。それに、見た目の派手さに反して落ち着きがある。
周囲の彼女を見る目も変わり、息をのんでいるのが伝わってくる。
リゼは左足を前に出し、剣を脇に構えた。
刀身を隠されると、剣のリーチが分かっていても辛いものがある。
「逆手に持っているものですから、間合いを管理するのが難しいですわ。これは褒めていますのよ。それに、刀身が短い……ナイフとまではいかないけれど、接近戦を強いる戦い方――それがディアストラの剣ですの?」
「いえ――」
――それを殺した剣だ。
「なんでも構いませんことよ。でも、もっと剣に誇りを持つべきですわ」
「それは……必要でしょうか」
「ええ、大切なことですわ。それに、先ほど剣に想いを馳せたのでしょう?」
「あれは儀礼的なもので……」
「形式だけで中身の伴わないものは嫌いですわ。何のためにするのか分かりませんもの」
「それは、確かに……もっともです」
「まあ今はよろしいです。今度はあなたから来てくださいまし。あえて無理攻めをするのも試合ならではですわ」
無理攻めか。
広い空間、平坦な地形、リーチの差――有利な点がないのだから、全くその通りだ。この不利を埋めるのは決死の接近しかない。回り込もうとしたところで最適な形で受けられるのだから……それに合わせるしかない。
相手も初撃を放たざるを得ない距離まで最速で飛び込むと、リゼの剣はこちらの胴の中心を捉えてきた。飛んでも、しゃがんでも間に合いはしない。
脇を閉めながら、左手に持ち替えた剣で薙ぎ払いを受け流す。剣の重さが全身に重くのしかかってきたが、地に足はついている。
それぐらいのことはしてくると分かっていたのか、リゼの目に動揺はない。剣を振り抜いた勢いのまま、こちらの短剣の間合いから左足を一歩下げ、斜め上から斬りかかってきた。
これを躱して順手に持ち替えて突きを繰り出すが――やはりあと少し届かない。
引き下がるように見せかけて小手を狙おうとしたが、蹴りを準備しているのが見えたのでこれをやめた。
お互いに体勢を立て直し、再び同じ形で相対する。
「やりますわね!!」
「……そちらこそ」
紙一重の攻防を繰り返し続けるうちに、つけ入るほどではないが、完璧なリゼにもわずかな隙が生まれていた。正確だった薙ぎ払いの角度にも乱れが生じ、こちらの剣を滑り込ませる余裕が生まれてきた。
そして、ついに剣が肉体を捉える――
「本当に、やりますわね」
――最初の横一線を払った時のようにリゼの剣をかわし、こちらのカウンターに持っていくまではよかった。しかし、彼女も意地で剣の底――柄頭でこちらの側頭部を捉えていた。
寸止めでなければ、こちらも危なかった。
「双方剣を収め、和解の握手を」
猫の獣人の声に従い、リゼと握手を交わす。
〈おおーっ!〉
〈特待生って本当だったんだな〉
〈ちょっとかっこよかったかも〉
歓声が上がったが、ものすごく気まずい。
そもそも、なんで特待生だと知られているのだろう。
「いい試合でしたわ。あなたのような戦い方をする方は初めてでした。思わず、わたくしも……その、意地になってしまいましたわ」
「僕も、もっと早く、あなたと試合をしていればと思いました」
「っ! ……そ、それは、儀礼的な意味ではなく?」
リゼはこちらの表情をうかがうように前かがみになっていた。妙なところで疑い深いところがあるようだ。
「儀礼的な意味ではなく」
「……まあ! でしたら、わたくしたち、おともだちになれますこと!?」
「えっ?」
「おともだちに――」
この不意打ちには、どう打ち返せばよいのだろうか。
答えあぐねていたところに、歓声に混じってよく知る声が聞こえてくる。
「わたしとも、お願いします」
エフティアだ……助かった。
正直なところ、リゼにどう応えればよいのか分からなかったから。
「分かった」
エフティアと正面から向き合う。
そもそも、最初から彼女が目的だった。
望むところだ。
〈バカだなーあの子、さっきの見てなかったの?〉
〈エフティアちゃんには無理だ〉
〈勇気あるなぁー〉
〈――わたくしのおともだちになるというお話は!?〉
「えへへ……」
何を笑っているんだ。他のみんなも……君も。
いや、違う。君は違うはずだ。
確かめるんだ――
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どう振舞うべきか、考えていなかった。今朝のエフティアとの出来事のせいで、それどころではなかったのだ。
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――は、頬を膨らませながら、目を合わせてくれなかった。
弱った。
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高飛車な雰囲気のこの人は、僕が特待生だとなぜ知っているのだろう。
リゼ=ライナザル――彼女のことは遠目にだが知っている。一般家庭の出身も多いグランディオス第五学園では悪目立ちしているお嬢様だった。
好機と見ると名乗りを上げて、周囲の冷笑を一身に浴びる気の毒な人……という印象だ。僕が人のことを言える立場ではないし、彼女の方がよほど人として美しいとは思うのだが……なんだか空気は冷めていた。
だけど、僕としてはとても助かる。
正直、今どう振舞うべきか分からなかったのだから。
「訓練ではありますが、真剣でよろしくって? 刃引きの剣はどうも肌に合いませんの」
「分かりました。それでいきましょう」
「いいですわあ! それでこそ、名を背負う者!」
「……背負えたことは、一度もありません」
「そうなんですの……?」
「……」
リゼは全ての動作が自信にあふれている。
正直なところ、うらやましいな。
「誰か! 試合開始の合図をなさい! ほら! そこの獣人の人!」
「えぇー」
「黙っておやりなさい!」
「にゃぁ……じゃあ、二人とも――」
空気が変わる。
向かい合うと、この人が強いということがはっきりと分かった。
「――剣に想いを馳せよ」
剣を想起し、実体化させる。
遥か遠い昔から剣使たちが続けてきた、神々への憧憬にも似た感情の発露。
それが剣を創り出すという行為だ。
けれど、僕の剣はそんな美しいものではない。
吐き気を催すような景色が目の前に広がる。
血染めの空と大地、転がる死体、愚かなこどもの叫び声。
そして、両親を殺した短剣――それらすべてが合わさり、剣と成ってゆく。
「どうなされたの……? 顔色が悪くてよ……?」
「……問題ありません」
「そうですの……では――行きますわよッ!」
「……ッ」
リゼの速攻の横一閃……微塵の甘さもない剣だったが、それには退かず、短剣を逆手に持ち替え、いなして滑らせる。少し驚きの表情を見せるリゼだったが、すぐ冷静にこちらの手元から剣先を凝視した。
体勢はこちらが有利だったが、初撃はかわされ、続けざまの刺突は剣で払われる。勢いのままリゼの背後に回ろうとしたが、彼女も前進し、すれ違う形で距離を取った。
この動きは見たことがある……彼女は本当に強いんだ。それに、見た目の派手さに反して落ち着きがある。
周囲の彼女を見る目も変わり、息をのんでいるのが伝わってくる。
リゼは左足を前に出し、剣を脇に構えた。
刀身を隠されると、剣のリーチが分かっていても辛いものがある。
「逆手に持っているものですから、間合いを管理するのが難しいですわ。これは褒めていますのよ。それに、刀身が短い……ナイフとまではいかないけれど、接近戦を強いる戦い方――それがディアストラの剣ですの?」
「いえ――」
――それを殺した剣だ。
「なんでも構いませんことよ。でも、もっと剣に誇りを持つべきですわ」
「それは……必要でしょうか」
「ええ、大切なことですわ。それに、先ほど剣に想いを馳せたのでしょう?」
「あれは儀礼的なもので……」
「形式だけで中身の伴わないものは嫌いですわ。何のためにするのか分かりませんもの」
「それは、確かに……もっともです」
「まあ今はよろしいです。今度はあなたから来てくださいまし。あえて無理攻めをするのも試合ならではですわ」
無理攻めか。
広い空間、平坦な地形、リーチの差――有利な点がないのだから、全くその通りだ。この不利を埋めるのは決死の接近しかない。回り込もうとしたところで最適な形で受けられるのだから……それに合わせるしかない。
相手も初撃を放たざるを得ない距離まで最速で飛び込むと、リゼの剣はこちらの胴の中心を捉えてきた。飛んでも、しゃがんでも間に合いはしない。
脇を閉めながら、左手に持ち替えた剣で薙ぎ払いを受け流す。剣の重さが全身に重くのしかかってきたが、地に足はついている。
それぐらいのことはしてくると分かっていたのか、リゼの目に動揺はない。剣を振り抜いた勢いのまま、こちらの短剣の間合いから左足を一歩下げ、斜め上から斬りかかってきた。
これを躱して順手に持ち替えて突きを繰り出すが――やはりあと少し届かない。
引き下がるように見せかけて小手を狙おうとしたが、蹴りを準備しているのが見えたのでこれをやめた。
お互いに体勢を立て直し、再び同じ形で相対する。
「やりますわね!!」
「……そちらこそ」
紙一重の攻防を繰り返し続けるうちに、つけ入るほどではないが、完璧なリゼにもわずかな隙が生まれていた。正確だった薙ぎ払いの角度にも乱れが生じ、こちらの剣を滑り込ませる余裕が生まれてきた。
そして、ついに剣が肉体を捉える――
「本当に、やりますわね」
――最初の横一線を払った時のようにリゼの剣をかわし、こちらのカウンターに持っていくまではよかった。しかし、彼女も意地で剣の底――柄頭でこちらの側頭部を捉えていた。
寸止めでなければ、こちらも危なかった。
「双方剣を収め、和解の握手を」
猫の獣人の声に従い、リゼと握手を交わす。
〈おおーっ!〉
〈特待生って本当だったんだな〉
〈ちょっとかっこよかったかも〉
歓声が上がったが、ものすごく気まずい。
そもそも、なんで特待生だと知られているのだろう。
「いい試合でしたわ。あなたのような戦い方をする方は初めてでした。思わず、わたくしも……その、意地になってしまいましたわ」
「僕も、もっと早く、あなたと試合をしていればと思いました」
「っ! ……そ、それは、儀礼的な意味ではなく?」
リゼはこちらの表情をうかがうように前かがみになっていた。妙なところで疑い深いところがあるようだ。
「儀礼的な意味ではなく」
「……まあ! でしたら、わたくしたち、おともだちになれますこと!?」
「えっ?」
「おともだちに――」
この不意打ちには、どう打ち返せばよいのだろうか。
答えあぐねていたところに、歓声に混じってよく知る声が聞こえてくる。
「わたしとも、お願いします」
エフティアだ……助かった。
正直なところ、リゼにどう応えればよいのか分からなかったから。
「分かった」
エフティアと正面から向き合う。
そもそも、最初から彼女が目的だった。
望むところだ。
〈バカだなーあの子、さっきの見てなかったの?〉
〈エフティアちゃんには無理だ〉
〈勇気あるなぁー〉
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