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第9話 一身上の都合で授業を抜けます!
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普段は面白く聞けるベッシュ先生の剣史の授業も、頭に入ってこない。
いつもは前の方を探せば一瞬で見つかるエフティアが、今日は見えなかった。思い返せば、彼女はこれまでも時々姿を消していたっけ……。
「珍しいにゃ、今日は全然集中できてない」
「わっ」
「おいおい、そんなに驚くにゃよぉ、おいらいつもこの辺だぜぃ」
「君は――」
「にゃ」
試合開始の合図をしてくれた人……だけど。
「――誰だったかな」
「おいら達風邪を引く風は確かに人の発言をとやかく言わないやつが多いけど、人並みに傷つくんにゃ」
「……ごめん」
「おいらはソーンにゃ」
「そうか、ソーンというんだね。よろしく」
「違うにゃ、ソーンにゃ」
「ソーンだよね?」
「ソオオォンにゃ!」
「??」
困惑していると、「ソーニャ君! 自己紹介は休み時間にでも済ませなさい!」とベッシュ先生に叱られた。
〈自己紹介ですって! ずるいですわ! このわたくし、リゼ=ライナザルを差し置いて!〉
〈リゼ君! 授業中は静かになさい!〉
〈あっ……すみませんでしたわ〉
リゼには自己紹介は必要ないように思う。
「ソーニャっていうんだね?」
「そうにゃ。ところで、ヴァルっちは何浮かない顔をしてるにゃ? いつも浮かないけど。あ、ヴァルっちって呼んでいいにゃ? ダメって言われても呼ぶけど」
「ヴァル……そんなに浮かない顔してた?」
「浮かないどころじゃなく、いつも顔が死んでるにゃ。おいらが今日初めて声をかけてみたいと思うくらいには」
そんなに顔色が悪かったのか。
「声をかけてくれてありがとう、ソーニャ……ところで、エフティアがどこにいるか知らないかな」
ソーニャはその大きな丸い目を見開いて、猫耳をぴくぴくさせた。
「おいら知ってるぜ。フテっちは時々一人でこっそり剣の修行をしてるんだ。おいら、人が一人でこそこそ何かしてることを他の奴に教えるのは好みじゃないけど、ヴァルっちにもあの子がどこにいるのか教えてやってもいいぜ」
「ありがとう……でもどうして僕には?」
「ヴァルっち、試合の時にフテっちのこと一度もばかにしてなかっただろ? 近くで見てたから分かるんだ。おいら、人のことをばかにするのも人の自由だと思うけど、好みじゃないんにゃ」
「なるほど……」
だから教えるという理屈に繋がるのかは怪しかったけれど、何となく理解できる気がした。
ソーニャからエフティアがおそらくいるであろう場所を教えてもらい、教室を出る準備をする。
「ありがとう、ソーニャ。僕は授業を抜けるよ」
「にょっ? ひょっとして、今からこっそりサボるつもりかにゃ? いいことだにゃ~。学生っぽいにゃ~」
「サボるなんて、そんなまさか」
「え?」
「すみません! 一身上の都合で授業を抜けます!」
「にゃに!?」
授業を途中で抜けるなんて初めてだ。
母さんが生きていたら怒られただろうか。
でも、今は他にどうしても優先したいことがあるんだ。
ざわめく教室を後にすると、何だか胸が軽くなる気がした。
◆
アヴァルが抜けた教室は、既にベッシュの授業を聞く空間ではなくなっていた。
〈はは、あんなに堂々とサボるやつがあるか〉
〈むしろ真面目なのかな〉
〈ベッシュ先生ぽかんとしてるぜ〉
「いや~、あいつ思ってたよりも面白い奴だにゃ~。さすが特待生」
「ちょっと! そこの獣人さん! わたくしのおともだちが急に教室を抜け出すなんてどういうことですの! はっ……! まさか、あなたがそそのかしたんじゃないでしょうね!!」
「リゼっちもたいがい面白い奴にゃ」
「えっ……リゼっちってなんですの? もしかして、わたくしのことですの?」
「そうにゃ」
「まさかっ……! あなたも……わたくしとおともだちになりたいんですの!?」
いつもは前の方を探せば一瞬で見つかるエフティアが、今日は見えなかった。思い返せば、彼女はこれまでも時々姿を消していたっけ……。
「珍しいにゃ、今日は全然集中できてない」
「わっ」
「おいおい、そんなに驚くにゃよぉ、おいらいつもこの辺だぜぃ」
「君は――」
「にゃ」
試合開始の合図をしてくれた人……だけど。
「――誰だったかな」
「おいら達風邪を引く風は確かに人の発言をとやかく言わないやつが多いけど、人並みに傷つくんにゃ」
「……ごめん」
「おいらはソーンにゃ」
「そうか、ソーンというんだね。よろしく」
「違うにゃ、ソーンにゃ」
「ソーンだよね?」
「ソオオォンにゃ!」
「??」
困惑していると、「ソーニャ君! 自己紹介は休み時間にでも済ませなさい!」とベッシュ先生に叱られた。
〈自己紹介ですって! ずるいですわ! このわたくし、リゼ=ライナザルを差し置いて!〉
〈リゼ君! 授業中は静かになさい!〉
〈あっ……すみませんでしたわ〉
リゼには自己紹介は必要ないように思う。
「ソーニャっていうんだね?」
「そうにゃ。ところで、ヴァルっちは何浮かない顔をしてるにゃ? いつも浮かないけど。あ、ヴァルっちって呼んでいいにゃ? ダメって言われても呼ぶけど」
「ヴァル……そんなに浮かない顔してた?」
「浮かないどころじゃなく、いつも顔が死んでるにゃ。おいらが今日初めて声をかけてみたいと思うくらいには」
そんなに顔色が悪かったのか。
「声をかけてくれてありがとう、ソーニャ……ところで、エフティアがどこにいるか知らないかな」
ソーニャはその大きな丸い目を見開いて、猫耳をぴくぴくさせた。
「おいら知ってるぜ。フテっちは時々一人でこっそり剣の修行をしてるんだ。おいら、人が一人でこそこそ何かしてることを他の奴に教えるのは好みじゃないけど、ヴァルっちにもあの子がどこにいるのか教えてやってもいいぜ」
「ありがとう……でもどうして僕には?」
「ヴァルっち、試合の時にフテっちのこと一度もばかにしてなかっただろ? 近くで見てたから分かるんだ。おいら、人のことをばかにするのも人の自由だと思うけど、好みじゃないんにゃ」
「なるほど……」
だから教えるという理屈に繋がるのかは怪しかったけれど、何となく理解できる気がした。
ソーニャからエフティアがおそらくいるであろう場所を教えてもらい、教室を出る準備をする。
「ありがとう、ソーニャ。僕は授業を抜けるよ」
「にょっ? ひょっとして、今からこっそりサボるつもりかにゃ? いいことだにゃ~。学生っぽいにゃ~」
「サボるなんて、そんなまさか」
「え?」
「すみません! 一身上の都合で授業を抜けます!」
「にゃに!?」
授業を途中で抜けるなんて初めてだ。
母さんが生きていたら怒られただろうか。
でも、今は他にどうしても優先したいことがあるんだ。
ざわめく教室を後にすると、何だか胸が軽くなる気がした。
◆
アヴァルが抜けた教室は、既にベッシュの授業を聞く空間ではなくなっていた。
〈はは、あんなに堂々とサボるやつがあるか〉
〈むしろ真面目なのかな〉
〈ベッシュ先生ぽかんとしてるぜ〉
「いや~、あいつ思ってたよりも面白い奴だにゃ~。さすが特待生」
「ちょっと! そこの獣人さん! わたくしのおともだちが急に教室を抜け出すなんてどういうことですの! はっ……! まさか、あなたがそそのかしたんじゃないでしょうね!!」
「リゼっちもたいがい面白い奴にゃ」
「えっ……リゼっちってなんですの? もしかして、わたくしのことですの?」
「そうにゃ」
「まさかっ……! あなたも……わたくしとおともだちになりたいんですの!?」
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