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第20話 自由
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◆
授業の合間にソーニャと談笑する時間は、最近の楽しみになりつつあった。
「にしても、一緒に住んでいたとはにゃ……」
「うん……」
ソーニャには、エフティアとのことについておおよそのことは話した。他の人には全く話す気にはなれないけれど。
「そうだ、ソーニャには話してもらわないといけないことがあるんだ」
「なんにゃ」
「どうしてこの間は、僕を止めたんだい。結果としてはよかったけれど、一つ間違えればレディナは死んでた。僕はあの瞬間、君という人を心底疑ってしまったよ」
「……やっぱり?」
「当然だよ。僕は、エフティアの剣を初見で受け止められる者なんて、この世には存在しないと思ってた。絶対に……避けの一択だったんだ」
僕はあの時、エフティアの剣に何かおぞましいものを感じたんだ。全く別物のはずなのに、重ねたくない記憶の面影が、エフティアという少女に乗り移った。
「けど、それは思い込みだったみたいだにゃー」
「思い込み……」
そうか……思い込み……なのかな。
「にゃあ、ヴァルっち、おいらから言わせてもらえば、想像に不自由してるにゃ。『こうに決まってる』とか、『こうしなければならない』とか、そういうものに囚われてるにゃ」
「でも、世の中には……人として守るべき規範とか、正しさとか、責任とかがあるんじゃないのかな」
「そうかもしれんにゃ。でもそれと同時に、それを疑う自由もあるはずにゃ。『おいらが今考えてることって、本当においらの守りたいものかにゃー?』とか、『これってほんとにおいらのしたいことなのかにゃー?』って、想像してみるのも自由なはずにゃ。
その自由をしっかりと満喫してから、『やっぱりおいらはこれを大事にしたいにゃー』ってなったものが……そうだにゃ……信念とかいうものになるんじゃないかにゃ」
「そんなこと、あまり考えたこともなかったよ」
「にゃ。あんまり考えすぎると風邪を引くにゃ。獣人の最初で最後の王様も自由の果てに風邪を引いて死んだにゃ」
「あはは。有名だよね――あっ、ごめん。笑っちゃって」
「いや、おいらたちも笑ってるにゃ。獣人の子どもが反抗期になると、『王様だって仕事放って国を出たにゃ!』、『でもその後死ぬのよ!!』ってやり取りが頻発するくらいだし」
「あはは! そうなんだ――ねえ、君って教師に向いてるよ」
ふと思いついた想像が、正しい気がしてならなかった。
にゃあにゃあ言っている彼が教卓に立っているのは、なかなかの見ものだろう。
「にゃー勘弁にゃ。教師なんて自由からほど遠いにゃ」
「そうかなあ、君は物事を深く観察できているように見えるし、いいなと思ったんだけど――それとも、みんなよりも年下だから、僕の視野が狭いだけなのかな……」
「え……年下にゃの?」
「え? うん……敬語の方がよかったかな」
「やめてくれにゃ……もうなじんでしまったにゃ。にしてもそうか……道理で若干にゃ顔つきが幼いと」
ほとんど変わらないと思うけど……。
「……案外、敬語の方がよろしいかもしれませんよ。ソーニャ先生」
「うへぇ……」
「君の理屈で言うと、これも自由なのかな」
「好きだったやつと別れるのもまた自由にゃ」
「強いな、自由論法」
「勝つとか負けるとか、そういう次元ではないからにゃあ」
自由か――僕もこんな風に考えられたら、何かが変わるのだろうか。
「思ったんだけどね――」
「にゃ」
「――僕は自分の力量と、自分の見てきたものでしか判断できない世間知らずなのかもしれない。エフティアの剣は一流の剣使でも……きっと、受け止めることはできないと、勝手に決めつけてたけれど、そうではなかったのだから」
「ヴァルっちは随分と立派な剣使を見てきたみたいにゃ」
ソーニャは目を細めて愛おしむように僕を見てくる。
「なんだい、そんな風に見つめて」
「みんな、みんな……ぐちゃぐちゃなんにゃー。本当はこうしたいのに、全く逆のことをしちゃったり、目的があるのにそれを見失ったり、目的だと思っていたことが目的ではなくなったり、信じていたものが虚構だったり……でも、そういうのって悪く無いにゃ。だって、そこから自由に人は変わっていけるんにゃから」
「うーん」
「どうしたにゃ」
「やっぱり君、大人すぎる」
「それも思い込みかもしれないにゃ」
いつかソーニャの子どもっぽいところを見つけてやりたいな。
そんなことを思っていると、待ちわびたかのような表情で向かってくる人がいた。
「あんたたちが深い話ばっかりしてるから、入り込む隙が無いじゃない」
「君は――」
――レディナがばつが悪そうな表情で立っていた。
「おいら達、小声で喋ってたんにゃけど」
「ごめんね。あたし、口が動いてたらどういう話してるのか大体わかるの」
冗談ではなさそうだった。
「すごい……」
「えっちにゃ」
「なっ、なんでそうなるの!」
(表現の自由……ってことかい?)
(そうにゃ)
声にせずともソーニャと通じ合った気がした。
授業の合間にソーニャと談笑する時間は、最近の楽しみになりつつあった。
「にしても、一緒に住んでいたとはにゃ……」
「うん……」
ソーニャには、エフティアとのことについておおよそのことは話した。他の人には全く話す気にはなれないけれど。
「そうだ、ソーニャには話してもらわないといけないことがあるんだ」
「なんにゃ」
「どうしてこの間は、僕を止めたんだい。結果としてはよかったけれど、一つ間違えればレディナは死んでた。僕はあの瞬間、君という人を心底疑ってしまったよ」
「……やっぱり?」
「当然だよ。僕は、エフティアの剣を初見で受け止められる者なんて、この世には存在しないと思ってた。絶対に……避けの一択だったんだ」
僕はあの時、エフティアの剣に何かおぞましいものを感じたんだ。全く別物のはずなのに、重ねたくない記憶の面影が、エフティアという少女に乗り移った。
「けど、それは思い込みだったみたいだにゃー」
「思い込み……」
そうか……思い込み……なのかな。
「にゃあ、ヴァルっち、おいらから言わせてもらえば、想像に不自由してるにゃ。『こうに決まってる』とか、『こうしなければならない』とか、そういうものに囚われてるにゃ」
「でも、世の中には……人として守るべき規範とか、正しさとか、責任とかがあるんじゃないのかな」
「そうかもしれんにゃ。でもそれと同時に、それを疑う自由もあるはずにゃ。『おいらが今考えてることって、本当においらの守りたいものかにゃー?』とか、『これってほんとにおいらのしたいことなのかにゃー?』って、想像してみるのも自由なはずにゃ。
その自由をしっかりと満喫してから、『やっぱりおいらはこれを大事にしたいにゃー』ってなったものが……そうだにゃ……信念とかいうものになるんじゃないかにゃ」
「そんなこと、あまり考えたこともなかったよ」
「にゃ。あんまり考えすぎると風邪を引くにゃ。獣人の最初で最後の王様も自由の果てに風邪を引いて死んだにゃ」
「あはは。有名だよね――あっ、ごめん。笑っちゃって」
「いや、おいらたちも笑ってるにゃ。獣人の子どもが反抗期になると、『王様だって仕事放って国を出たにゃ!』、『でもその後死ぬのよ!!』ってやり取りが頻発するくらいだし」
「あはは! そうなんだ――ねえ、君って教師に向いてるよ」
ふと思いついた想像が、正しい気がしてならなかった。
にゃあにゃあ言っている彼が教卓に立っているのは、なかなかの見ものだろう。
「にゃー勘弁にゃ。教師なんて自由からほど遠いにゃ」
「そうかなあ、君は物事を深く観察できているように見えるし、いいなと思ったんだけど――それとも、みんなよりも年下だから、僕の視野が狭いだけなのかな……」
「え……年下にゃの?」
「え? うん……敬語の方がよかったかな」
「やめてくれにゃ……もうなじんでしまったにゃ。にしてもそうか……道理で若干にゃ顔つきが幼いと」
ほとんど変わらないと思うけど……。
「……案外、敬語の方がよろしいかもしれませんよ。ソーニャ先生」
「うへぇ……」
「君の理屈で言うと、これも自由なのかな」
「好きだったやつと別れるのもまた自由にゃ」
「強いな、自由論法」
「勝つとか負けるとか、そういう次元ではないからにゃあ」
自由か――僕もこんな風に考えられたら、何かが変わるのだろうか。
「思ったんだけどね――」
「にゃ」
「――僕は自分の力量と、自分の見てきたものでしか判断できない世間知らずなのかもしれない。エフティアの剣は一流の剣使でも……きっと、受け止めることはできないと、勝手に決めつけてたけれど、そうではなかったのだから」
「ヴァルっちは随分と立派な剣使を見てきたみたいにゃ」
ソーニャは目を細めて愛おしむように僕を見てくる。
「なんだい、そんな風に見つめて」
「みんな、みんな……ぐちゃぐちゃなんにゃー。本当はこうしたいのに、全く逆のことをしちゃったり、目的があるのにそれを見失ったり、目的だと思っていたことが目的ではなくなったり、信じていたものが虚構だったり……でも、そういうのって悪く無いにゃ。だって、そこから自由に人は変わっていけるんにゃから」
「うーん」
「どうしたにゃ」
「やっぱり君、大人すぎる」
「それも思い込みかもしれないにゃ」
いつかソーニャの子どもっぽいところを見つけてやりたいな。
そんなことを思っていると、待ちわびたかのような表情で向かってくる人がいた。
「あんたたちが深い話ばっかりしてるから、入り込む隙が無いじゃない」
「君は――」
――レディナがばつが悪そうな表情で立っていた。
「おいら達、小声で喋ってたんにゃけど」
「ごめんね。あたし、口が動いてたらどういう話してるのか大体わかるの」
冗談ではなさそうだった。
「すごい……」
「えっちにゃ」
「なっ、なんでそうなるの!」
(表現の自由……ってことかい?)
(そうにゃ)
声にせずともソーニャと通じ合った気がした。
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