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地獄の狂炎
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§ 水のダンジョン 第7領域 『悪夢の湖』 §
暗い。何も見えない。
ここは水底だろうか。
いや違う……この胸の圧迫感はなんだろう。
それに、なんだか聞き覚えのある声がする。
「キャハハハ! 噴水みたーい! がーんばれ! がーんばれ!」
噴水? 何やら応援されているらしい。何も分からないが……胸の奥と言うか、腹の奥と言うか、とにかく身体の奥からこみ上げ続けている。
〈――ウィン……ルウィン!〉
……誰かが、俺を呼んでいる? ……テナ?
「ルウィーン! 死ぬなー!」
テナの声に応えるようにして、口からぴゅーと吹く水が、自分の顔に戻ってきた。
「がはぁッ」
「ルウィンが生き返ったー!」
身体を起こすと、テナが勢いよく抱きついてくる。伝わってくる温もりと感触が直接的な感じがするのは……そうか、肌着のせいだった。
「ありがとう、テナ」
「生きてるー!」
「ここは?」
「水のダンジョンだって!」
「そうか、俺たちやったんだな――」
不意に、ただならぬ視線を背後に感じて振り返る。と、そこには可憐な人形のような少女が、両手に物騒な剣を持っていた。
周りに数十頭もの水竜系の魔物の死骸が浮いている。なるほど、全て彼女がやったのだろう。
「復活したねー。じゃーあー、火のダンジョンに戻ろっか」
「え?」
今、火のダンジョンに戻ろうと言われたのか?
「ん? どしたの?」
「いや、俺たちは急いでギルドに戻らないと……火のダンジョンの警戒レベルを上げてもらわないといけないんですよ」
「は? なにそれ? つまんなくない?」
「つまんな……い?」
なにこの人、怖い。急に冷たい声を出してきた。
俺はテナの方を見る。
「にゅっにゅっにゅっにゅっ!」
テナは小声で必死に首と尻尾を横に振っていた。なるほど、めっちゃ怖いらしい。
「アタシは別にいーんだけどー。ここはダンジョンの第7領域だから、このままギルドに戻ってもけっこう時間かかっちゃうよ」
「なるほど、確かに火のダンジョンに戻ってからギルドに報告に行った方が早そうですね」
溺死のリスクは負うことになるが。
「なに寝ぼけたこと言ってんのー?」
「あれ、俺まだ夢見てる?」
「火のダンジョンでA級冒険者二人が龍と戦ってるんでしょー?」
俺は再びテナの方を見る。どうやら、おおよその状況はこの怖い人に伝えたらしいな。
「……未確認ですが」
「だったらさー、倒しに行かないと……でしょ?」
この人の言い分は、あるいは真っ当だった。
ただ、俺たちに刃を向け始めたのは正気とは思えない。とても口には出せないが。
「分かりました……ですが、熱水の湖を通ることになるので、普通の火傷では済まされませんよ」
「知ってる。けど、ちょっと熱いくらいならアタシ我慢できるしー? ずいぶん前に飛び込んだこともあるからさ」
「正気ですか」
口に出してしまった。俺も人のことは言えないのに。
「キャハハ! 正気の人間は冒険者なんてやらないよ?」
ごもっとも。だが、狂気だけでは生き残れない。
俺たちはミリアやウォロクを助けなければならないのだ。
「……我慢できるなら、あなただけで行けばよいのでは? 俺たちはギルドに応援を求めるので」
俺がそう言うと、彼女は二つの剣をそれぞれ俺とテナの首筋に押し当てた。刃が肌に触れている……しかし痛みはまだない。
少女はその愛くるしい顔を俺とテナの間に寄せて、口を開く。
「それがつまんないって言ってんの」
まったく、俺の判断はどうも遅いらしい。現状この人に逆らう以上に怖いことは存在しない。
(そうだな、テナ?)
俺はテナが超高速でうなずくのを見て、それを確信した。
「耐火ポーションの素材、向こう側にあるんでしょー?」
「ええ、まあ」
「水竜血晶ならほら、ここにいる水竜から集めたから」
・水竜血晶 ×44
「それと合わせて耐火ポーション作ろうよ。アタシ調合とか苦手だから、キミたちが作って?」
「作って、どうします?」
「火のダンジョンの魔物って、たいてい火属性じゃない?」
「ですね」
「アタシらで殺そうよ、火龍」
殺さないと、殺される。そんな空気だった。
というか、まだ本当に龍が出たか分からないのだが。いなかったら殺されたり……しないよな。
それに、ミリアとウォロクが既に龍を倒している可能性だってある。
「……」
俺とテナは目を合わせ、うなずき合った。
「龍゛殺しに行くぞぉぉぉッ!!」
「に゛ゃあああああぁぁぁッ!!」
願わくば、龍が現れていてほしい。
何より、ミリアとウォロクに生きていてほしい。
そう願いながら、俺たちは再び湖に飛び込むのだった。
暗い。何も見えない。
ここは水底だろうか。
いや違う……この胸の圧迫感はなんだろう。
それに、なんだか聞き覚えのある声がする。
「キャハハハ! 噴水みたーい! がーんばれ! がーんばれ!」
噴水? 何やら応援されているらしい。何も分からないが……胸の奥と言うか、腹の奥と言うか、とにかく身体の奥からこみ上げ続けている。
〈――ウィン……ルウィン!〉
……誰かが、俺を呼んでいる? ……テナ?
「ルウィーン! 死ぬなー!」
テナの声に応えるようにして、口からぴゅーと吹く水が、自分の顔に戻ってきた。
「がはぁッ」
「ルウィンが生き返ったー!」
身体を起こすと、テナが勢いよく抱きついてくる。伝わってくる温もりと感触が直接的な感じがするのは……そうか、肌着のせいだった。
「ありがとう、テナ」
「生きてるー!」
「ここは?」
「水のダンジョンだって!」
「そうか、俺たちやったんだな――」
不意に、ただならぬ視線を背後に感じて振り返る。と、そこには可憐な人形のような少女が、両手に物騒な剣を持っていた。
周りに数十頭もの水竜系の魔物の死骸が浮いている。なるほど、全て彼女がやったのだろう。
「復活したねー。じゃーあー、火のダンジョンに戻ろっか」
「え?」
今、火のダンジョンに戻ろうと言われたのか?
「ん? どしたの?」
「いや、俺たちは急いでギルドに戻らないと……火のダンジョンの警戒レベルを上げてもらわないといけないんですよ」
「は? なにそれ? つまんなくない?」
「つまんな……い?」
なにこの人、怖い。急に冷たい声を出してきた。
俺はテナの方を見る。
「にゅっにゅっにゅっにゅっ!」
テナは小声で必死に首と尻尾を横に振っていた。なるほど、めっちゃ怖いらしい。
「アタシは別にいーんだけどー。ここはダンジョンの第7領域だから、このままギルドに戻ってもけっこう時間かかっちゃうよ」
「なるほど、確かに火のダンジョンに戻ってからギルドに報告に行った方が早そうですね」
溺死のリスクは負うことになるが。
「なに寝ぼけたこと言ってんのー?」
「あれ、俺まだ夢見てる?」
「火のダンジョンでA級冒険者二人が龍と戦ってるんでしょー?」
俺は再びテナの方を見る。どうやら、おおよその状況はこの怖い人に伝えたらしいな。
「……未確認ですが」
「だったらさー、倒しに行かないと……でしょ?」
この人の言い分は、あるいは真っ当だった。
ただ、俺たちに刃を向け始めたのは正気とは思えない。とても口には出せないが。
「分かりました……ですが、熱水の湖を通ることになるので、普通の火傷では済まされませんよ」
「知ってる。けど、ちょっと熱いくらいならアタシ我慢できるしー? ずいぶん前に飛び込んだこともあるからさ」
「正気ですか」
口に出してしまった。俺も人のことは言えないのに。
「キャハハ! 正気の人間は冒険者なんてやらないよ?」
ごもっとも。だが、狂気だけでは生き残れない。
俺たちはミリアやウォロクを助けなければならないのだ。
「……我慢できるなら、あなただけで行けばよいのでは? 俺たちはギルドに応援を求めるので」
俺がそう言うと、彼女は二つの剣をそれぞれ俺とテナの首筋に押し当てた。刃が肌に触れている……しかし痛みはまだない。
少女はその愛くるしい顔を俺とテナの間に寄せて、口を開く。
「それがつまんないって言ってんの」
まったく、俺の判断はどうも遅いらしい。現状この人に逆らう以上に怖いことは存在しない。
(そうだな、テナ?)
俺はテナが超高速でうなずくのを見て、それを確信した。
「耐火ポーションの素材、向こう側にあるんでしょー?」
「ええ、まあ」
「水竜血晶ならほら、ここにいる水竜から集めたから」
・水竜血晶 ×44
「それと合わせて耐火ポーション作ろうよ。アタシ調合とか苦手だから、キミたちが作って?」
「作って、どうします?」
「火のダンジョンの魔物って、たいてい火属性じゃない?」
「ですね」
「アタシらで殺そうよ、火龍」
殺さないと、殺される。そんな空気だった。
というか、まだ本当に龍が出たか分からないのだが。いなかったら殺されたり……しないよな。
それに、ミリアとウォロクが既に龍を倒している可能性だってある。
「……」
俺とテナは目を合わせ、うなずき合った。
「龍゛殺しに行くぞぉぉぉッ!!」
「に゛ゃあああああぁぁぁッ!!」
願わくば、龍が現れていてほしい。
何より、ミリアとウォロクに生きていてほしい。
そう願いながら、俺たちは再び湖に飛び込むのだった。
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