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氷室の水禍
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「――というわけなのです」
「つまり、奥様――シルヴィアさんがミンタエディナ家という名家に嫁いでから、スーシーさんはとても楽しい日々を過ごしていた。けれど、シルヴィアさんの旦那様が数百年前に亡くなってから、シルヴィアさんはずっと寂しさを抱えていた」
「はい」スーシーは微笑む。
「……だから、スーシーさんはシルヴィアさんをダンジョンに連れ出した……ダンジョン経験も浅いのに。挙句の果ては、なぜか二人とも床に顔をこすりつけて、凍ってしまった……で、合っていますか?」
「そうですね」
まったく意味が分からない。というか――
「――あなたが犯人じゃないか!」
俺はメイドを指さした。
「……??」
スーシーは『なんのことでしょう』と言わんばかりに首をかしげていた。そんな彼女を後押しするように、シルヴィアが叫ぶ。
「スーシーは悪くないわ!」
「そうですよね奥様!」
……俺にも殴る勇気があれば。と思っていたら、ちょうどテナがかまくらを完成させた。
「テナ、ありがとう」
「うん」
遺跡の中に、さらに雪の家ができた形になる。
「「「「あったかい」」」」
なにはともあれ、俺たちは声をそろえて温もりの言葉を発した。かまくらの中とはどうしてこうも温かいのか。
「とにかく、お二人の寒さが解消されたら、早くダンジョンを出てしまいましょう。そういえば、お二人の滑雪板はどこに?」
俺が尋ねると、シルヴィアが「わたくしたち、そりでここまで来たのです」と答える。
「なるほど。そりはどこに?」
「さあ……外のどこかに置いてきてしまいました」
「武器は?」
「そりの中に」
「えっと、鉄猫爪は……?」
鉄猫爪と聞いて、シルヴィアとスーシーは顔を見合わせた。
「「……??」」
この二人、死に急ぎたいらしい。
「鉄猫爪は、猫の爪を模した足につける装備で、これがあると氷の坂道でも登っていけるという優れものです。というか、これがないと場合によって死にます」
「「なるほどぉ」」
テナ、助けて……と思ったら、テナはかまくらの外に出ていた。何もない空間を見上げては、耳をぴこぴこさせている。
(何か、察知したのか……?)
ともかく、俺はお気楽エルフたちに向き直った。
「鉄猫爪がない以上、第5、6領域を経由して第1領域に戻る手段が使えません」
「あら、どうして?」シルヴィアが小首をかしげる。
「ダンジョンの領域の序列は深さで決まります。氷のダンジョンの第1領域と第6領域は繋がっていますが、深さに大きな違いがあるんです。第6から第1へと登るには、氷雪の坂道を登るための鉄猫爪が必要になります」
一応、今後が心配な二人のために説明をするが、二人の「……??」という反応を見る限り、改めて説明する必要がありそうだった。
「ともかく、第3、2、1領域の順で来た道を戻るしかないですね。そのルートなら傾斜も緩いので、鉄猫爪なしでもなんとかなります」
もう、俺がこの人たちを助けよう。そう心に決めてテナを呼ぼうとしたその時――
「ルウィン! 何か聞こえる!」
――テナが何かを察知したらしい。こういう時は、大抵よくないことが起こる。
すっかり乾ききったエルフたちもかまくらから飛び出した。シルヴィアが尋ねる。
「何が聞こえますの?」
「第3領域の方からこわい音がする! ……多分生き物だよ……!」
シルヴィアは「なんですって……!」とひざまずき、顔を床に押しつけた。
「何も聞こえませんが……」と言っている側から、メイドのスーシーも床に顔を押し付ける。
「奥様……私も聞こえません」
しばらく眺めていると、突然シルヴィアが叫んだ。
「地面に顔が張りついて動けませんわ!」
「奥様! 私もです!」
「「ばかなの!?」」
二人が再び凍りついてしまう前に、俺たちはシルヴィアとスーシーを無理やり引っぺがすのであった。
「つまり、奥様――シルヴィアさんがミンタエディナ家という名家に嫁いでから、スーシーさんはとても楽しい日々を過ごしていた。けれど、シルヴィアさんの旦那様が数百年前に亡くなってから、シルヴィアさんはずっと寂しさを抱えていた」
「はい」スーシーは微笑む。
「……だから、スーシーさんはシルヴィアさんをダンジョンに連れ出した……ダンジョン経験も浅いのに。挙句の果ては、なぜか二人とも床に顔をこすりつけて、凍ってしまった……で、合っていますか?」
「そうですね」
まったく意味が分からない。というか――
「――あなたが犯人じゃないか!」
俺はメイドを指さした。
「……??」
スーシーは『なんのことでしょう』と言わんばかりに首をかしげていた。そんな彼女を後押しするように、シルヴィアが叫ぶ。
「スーシーは悪くないわ!」
「そうですよね奥様!」
……俺にも殴る勇気があれば。と思っていたら、ちょうどテナがかまくらを完成させた。
「テナ、ありがとう」
「うん」
遺跡の中に、さらに雪の家ができた形になる。
「「「「あったかい」」」」
なにはともあれ、俺たちは声をそろえて温もりの言葉を発した。かまくらの中とはどうしてこうも温かいのか。
「とにかく、お二人の寒さが解消されたら、早くダンジョンを出てしまいましょう。そういえば、お二人の滑雪板はどこに?」
俺が尋ねると、シルヴィアが「わたくしたち、そりでここまで来たのです」と答える。
「なるほど。そりはどこに?」
「さあ……外のどこかに置いてきてしまいました」
「武器は?」
「そりの中に」
「えっと、鉄猫爪は……?」
鉄猫爪と聞いて、シルヴィアとスーシーは顔を見合わせた。
「「……??」」
この二人、死に急ぎたいらしい。
「鉄猫爪は、猫の爪を模した足につける装備で、これがあると氷の坂道でも登っていけるという優れものです。というか、これがないと場合によって死にます」
「「なるほどぉ」」
テナ、助けて……と思ったら、テナはかまくらの外に出ていた。何もない空間を見上げては、耳をぴこぴこさせている。
(何か、察知したのか……?)
ともかく、俺はお気楽エルフたちに向き直った。
「鉄猫爪がない以上、第5、6領域を経由して第1領域に戻る手段が使えません」
「あら、どうして?」シルヴィアが小首をかしげる。
「ダンジョンの領域の序列は深さで決まります。氷のダンジョンの第1領域と第6領域は繋がっていますが、深さに大きな違いがあるんです。第6から第1へと登るには、氷雪の坂道を登るための鉄猫爪が必要になります」
一応、今後が心配な二人のために説明をするが、二人の「……??」という反応を見る限り、改めて説明する必要がありそうだった。
「ともかく、第3、2、1領域の順で来た道を戻るしかないですね。そのルートなら傾斜も緩いので、鉄猫爪なしでもなんとかなります」
もう、俺がこの人たちを助けよう。そう心に決めてテナを呼ぼうとしたその時――
「ルウィン! 何か聞こえる!」
――テナが何かを察知したらしい。こういう時は、大抵よくないことが起こる。
すっかり乾ききったエルフたちもかまくらから飛び出した。シルヴィアが尋ねる。
「何が聞こえますの?」
「第3領域の方からこわい音がする! ……多分生き物だよ……!」
シルヴィアは「なんですって……!」とひざまずき、顔を床に押しつけた。
「何も聞こえませんが……」と言っている側から、メイドのスーシーも床に顔を押し付ける。
「奥様……私も聞こえません」
しばらく眺めていると、突然シルヴィアが叫んだ。
「地面に顔が張りついて動けませんわ!」
「奥様! 私もです!」
「「ばかなの!?」」
二人が再び凍りついてしまう前に、俺たちはシルヴィアとスーシーを無理やり引っぺがすのであった。
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