53 / 100
氷室の水禍
54
しおりを挟む
§ 氷のダンジョン 第4領域 『琥珀遺跡』 §
シルヴィアによる絶大な威力の一矢――『エルフの蹴撃』で水龍は崩れた。その衝撃的な光景に驚愕していると、スーシーが得意げな顔で隣に歩み寄ってくる。
「エルフが放つ一撃はエルフショットと呼ばれますが、奥様のエルフショットは一味も二味も違います。手で持つべき弓を、威力が足らないからとそのおみ足を使い、蹴るようにして矢を放つ――」
言いながら、スーシーは空中を蹴った。
「――エルフの蹴撃……私が名づけました」
得意げなスーシーだったが、片足立ちの姿勢を崩してしまう。
「あら……!」
「ちょっと!」
倒れそうになるスーシーを急いで受け止めると、彼女は何を思ったのか頬をいっそう赤らめた。
「いやん……」
「じゃないですよ」
スーシーを立たせていると、テナが睨んでくる。
「……フーッ!」
「いや不可抗力!」
「……にゅッ!?」
「今度はなんだ!?」
テナが急に目を見開いたかと思えば、ダンジョンが再び揺れ始めた。すると、シルヴィアが叫ぶ。
「龍が……まだ存命ですわ!」
そんなばかな……!
確かに逆鱗を刺したはず……!
だが、シルヴィアの言う通り、龍が再びその巨体を起こし始めている。
「うそだろ……!」
しかもまずいのは、鎌首をもたげて俺たちを見下ろしていることだ。だが、動きが遅い……やはり弱っているのか。
「奥様、もう一発!」
「急所が隠れて狙えませんわ! 回り込みませんと!」
確かに、龍の喉元にある逆さの鱗――逆鱗は隠れてしまっていた。
「目潰しです! 目潰しましょう!」
「目潰しね!」
シルヴィアは再び蹴るような姿勢で弓を構え、矢を放つ。
「――エルフの蹴撃!!!」
矢は確かに龍の眼を捉えた……かに見えた。冷たく鋭い音が空気を震わせたかと思えば、矢は龍の眼を滑るようにかすめる。
(いや、本当に矢が滑ったんだ……!)
目に見える変化が起き始めていた。龍の身体が氷の膜で覆われていく――
「変異……している……」
――その全身は薄氷の鎧そのもの……今までの弱弱しい龍とは違う、圧倒的な存在感を放っていた。
テナが俺の肩を揺らして、ようやくはっとする。
「ルウィン逃げよう!!?」
「……そうしよう!」
だが相変わらず位置関係は悪い。龍のいる方向に領域からの出口があるのだ。
パキィリリ……ピキィ……!
龍の長くしなる全身が張り裂けるような悲鳴を上げると、龍が大きく口を開いた。
「ブレスが来るッ!」
俺は周囲にも聞こえるように叫んでからテナをかばうが、予想とは違うことが起こる。龍は苦しそうに水を吐いたのだ。
〈ギュロオ゛エエエ゛ェェェェ……〉
え、何それ。
龍が酔っ払いのように大量のねっとりとした水を吐き続ける。
「ミ゛ッ!」というテナの声で、俺は事の重大さに気づいた。水は遺跡を浸食しながら、恐ろしいことに瞬く間に凍っていくではないか。
「おかしい、いくら氷のダンジョンでもこんなに早く凍らないぞ……!」
ダンジョンの地平を飲み込むように、急速冷凍する粘り気のある水が押し寄せてきた。水は氷となり、氷の上をさらに水が流れて迫ってくる。
「逃げろおおおぉぉぉッ!!」
「にゃあ゛ああぁぁぁッ!!」
俺とテナは雪杖細剣でせっせと滑雪板をこぎ、後からシルヴィアとスーシーが走って追いかける……が、水の勢いがとどまることを知らない。
「奥様ああぁぁッ!」
「スーシーィィッ!」
二人の絶叫が聞こえる……だが、今振り返ったら誰も助からない!
俺は後で二人を助けることを誓った。
シルヴィアによる絶大な威力の一矢――『エルフの蹴撃』で水龍は崩れた。その衝撃的な光景に驚愕していると、スーシーが得意げな顔で隣に歩み寄ってくる。
「エルフが放つ一撃はエルフショットと呼ばれますが、奥様のエルフショットは一味も二味も違います。手で持つべき弓を、威力が足らないからとそのおみ足を使い、蹴るようにして矢を放つ――」
言いながら、スーシーは空中を蹴った。
「――エルフの蹴撃……私が名づけました」
得意げなスーシーだったが、片足立ちの姿勢を崩してしまう。
「あら……!」
「ちょっと!」
倒れそうになるスーシーを急いで受け止めると、彼女は何を思ったのか頬をいっそう赤らめた。
「いやん……」
「じゃないですよ」
スーシーを立たせていると、テナが睨んでくる。
「……フーッ!」
「いや不可抗力!」
「……にゅッ!?」
「今度はなんだ!?」
テナが急に目を見開いたかと思えば、ダンジョンが再び揺れ始めた。すると、シルヴィアが叫ぶ。
「龍が……まだ存命ですわ!」
そんなばかな……!
確かに逆鱗を刺したはず……!
だが、シルヴィアの言う通り、龍が再びその巨体を起こし始めている。
「うそだろ……!」
しかもまずいのは、鎌首をもたげて俺たちを見下ろしていることだ。だが、動きが遅い……やはり弱っているのか。
「奥様、もう一発!」
「急所が隠れて狙えませんわ! 回り込みませんと!」
確かに、龍の喉元にある逆さの鱗――逆鱗は隠れてしまっていた。
「目潰しです! 目潰しましょう!」
「目潰しね!」
シルヴィアは再び蹴るような姿勢で弓を構え、矢を放つ。
「――エルフの蹴撃!!!」
矢は確かに龍の眼を捉えた……かに見えた。冷たく鋭い音が空気を震わせたかと思えば、矢は龍の眼を滑るようにかすめる。
(いや、本当に矢が滑ったんだ……!)
目に見える変化が起き始めていた。龍の身体が氷の膜で覆われていく――
「変異……している……」
――その全身は薄氷の鎧そのもの……今までの弱弱しい龍とは違う、圧倒的な存在感を放っていた。
テナが俺の肩を揺らして、ようやくはっとする。
「ルウィン逃げよう!!?」
「……そうしよう!」
だが相変わらず位置関係は悪い。龍のいる方向に領域からの出口があるのだ。
パキィリリ……ピキィ……!
龍の長くしなる全身が張り裂けるような悲鳴を上げると、龍が大きく口を開いた。
「ブレスが来るッ!」
俺は周囲にも聞こえるように叫んでからテナをかばうが、予想とは違うことが起こる。龍は苦しそうに水を吐いたのだ。
〈ギュロオ゛エエエ゛ェェェェ……〉
え、何それ。
龍が酔っ払いのように大量のねっとりとした水を吐き続ける。
「ミ゛ッ!」というテナの声で、俺は事の重大さに気づいた。水は遺跡を浸食しながら、恐ろしいことに瞬く間に凍っていくではないか。
「おかしい、いくら氷のダンジョンでもこんなに早く凍らないぞ……!」
ダンジョンの地平を飲み込むように、急速冷凍する粘り気のある水が押し寄せてきた。水は氷となり、氷の上をさらに水が流れて迫ってくる。
「逃げろおおおぉぉぉッ!!」
「にゃあ゛ああぁぁぁッ!!」
俺とテナは雪杖細剣でせっせと滑雪板をこぎ、後からシルヴィアとスーシーが走って追いかける……が、水の勢いがとどまることを知らない。
「奥様ああぁぁッ!」
「スーシーィィッ!」
二人の絶叫が聞こえる……だが、今振り返ったら誰も助からない!
俺は後で二人を助けることを誓った。
10
あなたにおすすめの小説
スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~
名無し
ファンタジー
主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。
素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる