最弱ダンジョン商人、ドラゴンスレイヤーになる

杉戸 雪人

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マンドレイクの春

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「あんた、恋茄龍の腹の中に生存者がいるかもって言ってたけど、実際に見たわけ?」
「生きているかどうかは分からず……ただ、龍の腹の中で蔓に吊るされているのを見ています」

俺がそう言うと、ネリスが「聞き捨てならないぞ――」と割り込んでくる。

「――『つる』に『る』されてって……あっはっはっは!!
「あんたは黙って!!」

ネリスはミリアに追いやられながら、「さて、笑った分は働かねばな」と急に冷静な顔をした。

「たく……ばかネリス。それでルウィン、あんたは珍しく必死になって訴えていたわけね」
「いや、俺はいつも必死で」
「サービスとか?」
「?」

ミリアは「余計なことを思い出したわ」とよく分からないことを言ってから、俺に尋ねる。

「で、実際のとこ、これまで戦ってきた龍と比べてどっちが強いと思う? 直感でいいわ」

どっちが強いか……考えてもみなかった。

「強さは正直なところ分かりません。一番強そうだったのは闇のダンジョンで戦った龍ですが、邪悪さで言えば恋茄龍の方が上かと」
「なるほどね」

ミリアは考え込むように黙ると、ネリスが話に入ってくる。

「闇の龍よりも闇が深いというわけか……どうだミリア、私たちで倒せそうか」
「……どうかしら、大量のゴブリンを相手にして疲れ切っていることもあるし」

そうだ……ミリアたちは、ついさっきまで戦っていたんだ。

その上、俺の発言に価値を与えてくれた彼女たちにこれ以上を望むのは虫がいいにもほどがあった。テナも先ほどまでピンと立っていた耳をしゅんとさせる。

そんな俺たちに、ネリスは「あっはっは」と笑いかけた。

「そんな顔をするな。たとえどんなに疲れていようが、仲間を見捨てたりはしない」

そんなネリスの言葉を聞いて、アルメリゼが胸の前で両手を組み、「ふわぁぁ……!」と声を上げる。

やはりファンだったか。
気持ちは分かる。

「まあ、ネリスがこういうやつだからね。あたしも仕方なく付き合うのよ。でもね、問題は疲れがどうのとか言う話じゃないわ」
「そうだな。私たちではおそらく、龍に捕まった冒険者を救うことはできないだろう」

二人の言葉を聞いて、アルメリゼが「お二人でも、ですか……?」と今度は不安そうに尋ねる。

「ネリスは守りは頼りになるけど、スピードがいまいちなのよね」
「あはは! ストレートすぎるぞ。それに私だって脱いだら中々のものだぞ」

え、ネリスさん――

「――脱げば凄いってどういう……」
「ルウィン……? ああ! あっはっは! 鎧の話だよ!」

ばかだなあルウィンは、と笑われてしまったが、むしろ清々しかった。

そんな俺たちのやり取りを見て、ミリアが肩をすくめる。

「……何の話してんのよ。で、あたしの魔法なら龍を倒せるかもしれないけど……恋茄龍が植物系の魔物の特性を持つなら、純粋な炎の魔法が弱点になるでしょう? 中にいる冒険者を巻き込まない保証はできないわ」

ミリアがやるせなさそうに言うと、テナが首をかしげた。

「前にミリア、炎の魔法を使ってたけど、全然痛くなかったよ?」
「闇のダンジョンで使ったのは『熾天の銀火ゼルフィス・ファイア』……アンデッド系にだけ効く神聖魔法だから、少し違うのよ。残念だけどね」

ミリアが首を振ると、心の中の希望の火が揺らいだ気がした。

「それにマンドレイクの悲鳴に対してどう対抗するかも、考えないといけないわ」

マンドレイクに対抗する薬なら、今俺が背負っている箱の中にいるマンドレイクを使えばなんとかなるかもしれない。

ただ、本当にそれができるのかは俺にもまだ分からなかった。




具体的な打開策も見えないまま、時間だけが過ぎていこうとしていたその時、アルメリゼが悲鳴を上げ、俺に寄りかかってくる。

「ひぃ……いやぁッ!!」
「なにごと……!?」

俺が困惑していると、不気味な気配が漂ってきた。

「おやおやぁ? 何やら面白いことになっているようじゃあないかぁ」

のらりくらりとした若い男の声だが、どこか狂気じみている。

「ぼ・く・も……もまぜてくれないかい?」

……振り向くとそこには、こういう男がいた。

メガネをかけ、上半身裸のまま白いシャツをボタンをとめずに羽織り、首にマンドレイクの首飾りをぶら下げた――

「にゃあ゛あぁぁッ!! 変態にゃあ゛あぁぁッ!!」

――テナが叫んだ通り、変態だった。
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