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マンドレイクの春
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§ 草のダンジョン 第1領域 『深緑回廊』 §
草のダンジョンは第1領域『深緑回廊』に、全ての準備を完了した冒険者10人が足を踏み入れようとしていた。
『抗マンドレイク薬はマンドレイク10体で一つしか作れないのさぁ!』
オーガスの持っていたマンドレイクと俺のマンドレイク――合わせて50体を薬に変え、10個の抗マンドレイク薬作るに至った。そして、選ばれし冒険者たちがそれを口にしたのだ。
……とはいっても、俺の良く知る面々だが。
「さあ、行きましょう」
俺は冒険者一行の中心から全体に呼びかける。俺を中心として集合することで、魔よけの範囲に全員を含めることができるからだ。少なくとも、龍との戦闘時以外ではこの状態を維持しなければならない。
静かな道中、前衛のキャルが高い声で笑いだす。
「キャハ! この耳当て、けっこう可愛くな―い?」
キャルライン=アバレスト――通称キャル。A級の双剣使い、凶戦士。純粋な攻撃者だ。
ちなみに、キャルが気に入っている耳当てはオーガスが提供したもので、この場にいる全員が着用している。
『猫人用、エルフ用の耳当てもあるのさ!』
ということだが、つまり全ての人種で実験済みということだろうか。恐れ入る。
「のほほ! 確かに静かだのぉ!」
キャルに対して、後衛のウォロクが見当違いな返事をしていた。反対側同士だから、聞こえないのも無理もない。ウォロクには鎚魔導士として魔法戦を展開してもらう予定だ。
そんな中、ウォロクと同じく後衛のシルヴィアが叫ぶように声を出す。
「耳がまったく聞こえませんわッ!」
人によってマンドレイク対策の程度に違いがあるようで、シルヴィアのようにほとんど聞こえなくなることもあるらしい。彼女には超遠距離戦闘の要を担ってもらうが、果たして大丈夫だろうか。
「奥様! 私もです!」
と、シルヴィアのメイドであるスーシーが振り返って叫んだ。
何となく、ミリアの表情が気になって振り返ると、『聞こえてるじゃない……』という顔をしながら、その口は違う言葉を並べていた。
熱々エルフの一角であるスーシーには、召喚士として全体のサポートをしてもらうことになっている。彼女の精霊を通した状況把握能力が、今回の戦いにおいて大きな力となるだろう。
(ん……?)
急にネリスが振り返ったかと思えば、それはそれは真剣な表情をしていた。ネリスは守りの要であり、彼女が崩れれば全体が崩れてしまう可能性のある存在だ。だからこそ、仲間の顔をしっかりとその目に焼き付けて気持ちを高めているに違いない。
そんなネリスが口を開く。
「くっ、何か面白いことを言ったのだろうな……! よく聞こえんが!」
違った。どうやらネリスもあまり聞こえていない派閥らしい。
と、隣を歩いていたオーガスが急に深呼吸を始める。
「すーはー、すーはー。ああ、こんなにも多くの変態に囲まれたのは初めてだ。最高の瞬間だなぁ! この背負い袋に空気を詰め込みたい!」
変態の空気を吸っているらしい。吸えるのかどうかはともかく、オーガスは非戦闘員だが、自ら最も危険な役割を担うことを提案してきた勇気ある変態だ。
そんなオーガスに対して、アルメリゼが抗議する。
「わ、わたしは変態じゃないのです!」
「んっんー、変態はみんなそう言うのさぁ」
無視すればいいものを、アルメリゼは変態理論の餌食になっていた。また、別のA級変態であるエルフメイドのスーシーがなぜか追撃し始める。
「あの時ギルドで立ち上がった瞬間から、私たちは変態です」
「わたしは変態じゃありません……!」
アルメリゼが必死に否定する。が、その必死な姿を見たスーシーは頬を赤く染めた。
「アルメリゼ様は一番最初に立ち上がったので、一番の変態ということになりますッ!!」
「し、知らないのです!!」
アルメリゼは否定し続けるが、否定される方がかえって嬉しいらしく、スーシーはひどく興奮していた。どうやら、アルメリゼを新しいおもちゃか何かと認識したようだ。
「そ、そんなことより……みなさん、そろそろ第4領域に通じる抜け穴です!! 作戦通り――」
と、アルメリゼが続けようとしたその時だった。
「ペギゥイウ゛ェア゛アァウエオォ゛ォオ゛オ゛オオヴェアイ゛エェェ゛ッ!!!!」
どこからともなく、マンドレイクの悲鳴が俺たちを襲った。
「きやあああぁぁぁぁぁ!!!!」
続けざまにアルメリゼの悲鳴が回廊内に響き渡ったかと思えば、大量の触手めいた蔓が雨のように降り注いでくる。龍が蔓だけを抜け穴から伸ばしてきたのだ。
§ 草のダンジョン 第4領域 『若葉の大草原』 §
手足をまったく動かせない。
何も聞こえない。何も見えない。
まるで暗闇の激流の中にいるようだ。
さらに酷いのは、口も塞がれているということだ。
(このままだと窒息してしまうな)
恋茄龍……これも全て、お前の計画通りということか……?
だとすれば、皮肉だな。
お前の計画通りということは――
(――俺たちの計画通りということだ!)
暗闇の中、俺の耳はほとんど聞こえないはずだった。だが、俺には天才魔法使いの声が、聞こえた気がした。
【遍在の神火】
その時、全身が熱気に包まれたかと思うと、暗闇だった視界が一気に開ける。そこには、空中を落下するミリアがいた。
「……げほ、やっぱり火は効くわね!!」
ちょっと熱いけど、とミリアは笑う。
「はは……」
確かに、耐火ポーションがなければきつかった。俺もつられて笑う。ミリアたちが火のダンジョンで使った余りが役に立ったのだ。
俺たちを奇襲した蔓は、ミリアの放った火炎によって、みるみる内に焼けていく。さすがの龍も、マンドレイクの悲鳴が効かないことは想定はできなかったらしい。いや、これすらも想定内だったのかもしれない。
「ほんと嫌になっちゃう! あいつ、口まで塞いでくるなんて魔法使いの敵ね!」
ミリアの言葉に俺は苦笑する。実際、第1領域でミリアが事前に詠唱をしていなければ、あの物量を焼き尽くすことはできなかっただろう。
いずれにせよ、俺たちは恋茄龍マンドラゴラスの奇襲を乗り切った。
俺は思い切り声を張り上げた。
「プランB開始ッ!!!」
ここから、俺たちの奇襲を開始する。
草のダンジョンは第1領域『深緑回廊』に、全ての準備を完了した冒険者10人が足を踏み入れようとしていた。
『抗マンドレイク薬はマンドレイク10体で一つしか作れないのさぁ!』
オーガスの持っていたマンドレイクと俺のマンドレイク――合わせて50体を薬に変え、10個の抗マンドレイク薬作るに至った。そして、選ばれし冒険者たちがそれを口にしたのだ。
……とはいっても、俺の良く知る面々だが。
「さあ、行きましょう」
俺は冒険者一行の中心から全体に呼びかける。俺を中心として集合することで、魔よけの範囲に全員を含めることができるからだ。少なくとも、龍との戦闘時以外ではこの状態を維持しなければならない。
静かな道中、前衛のキャルが高い声で笑いだす。
「キャハ! この耳当て、けっこう可愛くな―い?」
キャルライン=アバレスト――通称キャル。A級の双剣使い、凶戦士。純粋な攻撃者だ。
ちなみに、キャルが気に入っている耳当てはオーガスが提供したもので、この場にいる全員が着用している。
『猫人用、エルフ用の耳当てもあるのさ!』
ということだが、つまり全ての人種で実験済みということだろうか。恐れ入る。
「のほほ! 確かに静かだのぉ!」
キャルに対して、後衛のウォロクが見当違いな返事をしていた。反対側同士だから、聞こえないのも無理もない。ウォロクには鎚魔導士として魔法戦を展開してもらう予定だ。
そんな中、ウォロクと同じく後衛のシルヴィアが叫ぶように声を出す。
「耳がまったく聞こえませんわッ!」
人によってマンドレイク対策の程度に違いがあるようで、シルヴィアのようにほとんど聞こえなくなることもあるらしい。彼女には超遠距離戦闘の要を担ってもらうが、果たして大丈夫だろうか。
「奥様! 私もです!」
と、シルヴィアのメイドであるスーシーが振り返って叫んだ。
何となく、ミリアの表情が気になって振り返ると、『聞こえてるじゃない……』という顔をしながら、その口は違う言葉を並べていた。
熱々エルフの一角であるスーシーには、召喚士として全体のサポートをしてもらうことになっている。彼女の精霊を通した状況把握能力が、今回の戦いにおいて大きな力となるだろう。
(ん……?)
急にネリスが振り返ったかと思えば、それはそれは真剣な表情をしていた。ネリスは守りの要であり、彼女が崩れれば全体が崩れてしまう可能性のある存在だ。だからこそ、仲間の顔をしっかりとその目に焼き付けて気持ちを高めているに違いない。
そんなネリスが口を開く。
「くっ、何か面白いことを言ったのだろうな……! よく聞こえんが!」
違った。どうやらネリスもあまり聞こえていない派閥らしい。
と、隣を歩いていたオーガスが急に深呼吸を始める。
「すーはー、すーはー。ああ、こんなにも多くの変態に囲まれたのは初めてだ。最高の瞬間だなぁ! この背負い袋に空気を詰め込みたい!」
変態の空気を吸っているらしい。吸えるのかどうかはともかく、オーガスは非戦闘員だが、自ら最も危険な役割を担うことを提案してきた勇気ある変態だ。
そんなオーガスに対して、アルメリゼが抗議する。
「わ、わたしは変態じゃないのです!」
「んっんー、変態はみんなそう言うのさぁ」
無視すればいいものを、アルメリゼは変態理論の餌食になっていた。また、別のA級変態であるエルフメイドのスーシーがなぜか追撃し始める。
「あの時ギルドで立ち上がった瞬間から、私たちは変態です」
「わたしは変態じゃありません……!」
アルメリゼが必死に否定する。が、その必死な姿を見たスーシーは頬を赤く染めた。
「アルメリゼ様は一番最初に立ち上がったので、一番の変態ということになりますッ!!」
「し、知らないのです!!」
アルメリゼは否定し続けるが、否定される方がかえって嬉しいらしく、スーシーはひどく興奮していた。どうやら、アルメリゼを新しいおもちゃか何かと認識したようだ。
「そ、そんなことより……みなさん、そろそろ第4領域に通じる抜け穴です!! 作戦通り――」
と、アルメリゼが続けようとしたその時だった。
「ペギゥイウ゛ェア゛アァウエオォ゛ォオ゛オ゛オオヴェアイ゛エェェ゛ッ!!!!」
どこからともなく、マンドレイクの悲鳴が俺たちを襲った。
「きやあああぁぁぁぁぁ!!!!」
続けざまにアルメリゼの悲鳴が回廊内に響き渡ったかと思えば、大量の触手めいた蔓が雨のように降り注いでくる。龍が蔓だけを抜け穴から伸ばしてきたのだ。
§ 草のダンジョン 第4領域 『若葉の大草原』 §
手足をまったく動かせない。
何も聞こえない。何も見えない。
まるで暗闇の激流の中にいるようだ。
さらに酷いのは、口も塞がれているということだ。
(このままだと窒息してしまうな)
恋茄龍……これも全て、お前の計画通りということか……?
だとすれば、皮肉だな。
お前の計画通りということは――
(――俺たちの計画通りということだ!)
暗闇の中、俺の耳はほとんど聞こえないはずだった。だが、俺には天才魔法使いの声が、聞こえた気がした。
【遍在の神火】
その時、全身が熱気に包まれたかと思うと、暗闇だった視界が一気に開ける。そこには、空中を落下するミリアがいた。
「……げほ、やっぱり火は効くわね!!」
ちょっと熱いけど、とミリアは笑う。
「はは……」
確かに、耐火ポーションがなければきつかった。俺もつられて笑う。ミリアたちが火のダンジョンで使った余りが役に立ったのだ。
俺たちを奇襲した蔓は、ミリアの放った火炎によって、みるみる内に焼けていく。さすがの龍も、マンドレイクの悲鳴が効かないことは想定はできなかったらしい。いや、これすらも想定内だったのかもしれない。
「ほんと嫌になっちゃう! あいつ、口まで塞いでくるなんて魔法使いの敵ね!」
ミリアの言葉に俺は苦笑する。実際、第1領域でミリアが事前に詠唱をしていなければ、あの物量を焼き尽くすことはできなかっただろう。
いずれにせよ、俺たちは恋茄龍マンドラゴラスの奇襲を乗り切った。
俺は思い切り声を張り上げた。
「プランB開始ッ!!!」
ここから、俺たちの奇襲を開始する。
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