最弱ダンジョン商人、ドラゴンスレイヤーになる

杉戸 雪人

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マンドレイクの春

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「行方不明になった人たちを助けられるかもしれないなら、わたし……龍とだって戦います!」

しかし、勇敢な少女の後に続く声はない。
場が静まるタイミングを見計らったかのように、ミリアが口を開く。

「あんたねえ、本当に現実的に考えたの? 命を失うリスクに見合う価値が、その薬とやらにあるの?」

アルメリゼは口をきゅっと結んで今にも泣きそうな顔をした。翼を縮こまらせ、頭のてっぺんのくせ毛もしおれている。

いつもならフォローに回るネリスは、そっと見守っていた。
やがて、ミリアの険しかった銀の瞳が輝く。

「現実的に考えて……あたしも買うわ!」

ギルドがどよめく。
A級冒険者の言葉の価値は、重い。

と、聞き覚えのある笑い声が響いてくる。

「キャハハハ! おもしろそー!」
「のーほっほ! わしも一枚噛むぞ! 一枚と言わず金貨50枚は噛ませい!」

凶刃キャルと、鎚魔導士ハンマージのウォロクだ。
そして、見覚えのあるエルフの二人組が駆けつけてくる。

「わたくしたちの出番ですわね! 興奮してきましたわ!」
「奥様、私もです!」

未亡人のシルヴィアと、メイドのスーシーだ。
その光景を見たオーガスが、ギルド全体を見渡して叫んだ。

「――変態ばかりじゃないかッ!!!」
「「「「一緒にするな!!!」」」」

ミリアを筆頭とした大多数の反変態派閥は反発したものの、ギルドの心が一つになった……気がする。

ツッコミ終わったミリアはアルメリゼに対し、「ごめんね。でもあんた、かっこよかったわ」と、謝罪と賞賛を送っていた。

ミリア――彼女は見事に他の有力な冒険者を巻き込んでくれた。きっと否定するだろうが、俺たちを信じてくれているからだと思う。

だからこそ、俺はその信頼に応えなければならない。決意を胸に、ミリア達に考えていた作戦を伝えに行こうとしたその時だった。

「だめだよ……」

テナが俺の手を掴んだ。

「ボク、分かる。このままだと、みんな死んじゃう……根拠はないけど、分かるんだ」

テナは怖がりだ。

「あの龍はきっと、ルウィンが考えているよりもずっと怖いよ……今までみたいには、上手くいかない……」
 
だからこそ、俺はテナを信じている。

「テナ、分かった。もう少し、考えさせてくれるか」
「……うん」

テナが断言した以上、それはきっと起こる。最悪の事態――全員の死亡だ。

考えろ、俺が考えているよりもずっと怖いということは、つまり敵は俺の想像を超えてくるということだ。想像を超える敵を超えるなんて、そもそも俺にはできない。想像を超えるのだから。

「……分からん」

冷静になろう。

『敵が俺の想像を超えている』状態とは、
『俺の考えはお見通しである』状態だ。

では、今の俺の考えを作るきっかけとなった出来事の中に、答えがあるのではないか。

これまでのことを思い返せ――

第1領域に生えたマンドレイク、あられもないアルメリゼ(これは関係ない)。

第2領域に散らばったマンドレイク、通常現れないはずの龍。

第6領域に抜け穴で逃げる俺たち、追いかけない龍。

第4領域の抜け穴から第1領域に逃げる俺たち、腹の中にいる人間を見せつけてきた龍。

全てが奴の考えの内なのだとすれば、それが意味するのは――

「――嘘だろ」

龍よ。恋茄龍れんかりゅうマンドラゴラスよ。

もし、お前がそこまで考えていたのだとすれば、お前は龍なんてもんじゃない――




――醜悪な蛇だ。




冒険とは、始まってみなければ分からないものだと思う。
だが、今回に限っては戦う前から勝負は決まっていたのだ。

「テナ、俺は行くよ」

そうはさせない。俺は、俺にできることをやってやる。

「少し長くなりますが、俺の話を聞いてもらえますか――」

俺はそれから、想定しうる最悪のシナリオについて語った後、その打開策について話した。冒険者ギルド内にいたほとんどの冒険者たちは、疑念に満ちた表情を見せてくる。無理もない。

だが、これまで俺やテナと冒険を共にした者たちは、驚きこそすれど、真剣な眼差しを向けてくれるのだった。
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