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第01章 認証登録(キス)から始まる運命的邂逅(ボーイ・ミーツ・ガール)
01-01「人造勇者、覚醒」①
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①
ぬるり。
自分の中に生温い何かが入ってくる。
それが少年の感じた最初の感覚だった。
やがて、それはゆっくりと遠ざかっていく。
「はぁっ……」
呼吸をする。
「んっ……」
ゆっくりと目を開ける。
少年の目に映ったものは、合わせ鏡のように無遠慮に覗きこんでくる碧い瞳であった。
「誰だ……!」
少年の剣幕に何者かが飛び退く。
距離が空いて、ようやく己の顔を覗きこんでいた者の姿が明らかとなる。
それは少女だった。
年の頃は十六、七歳位だろうか。
銀髪に碧眼、肩辺りまでの長さの髪。
しかし、斜めに切り揃えられた前髪だけは非対称で片目は隠されている。
そんな少女は白地に青と金が配された奇妙な衣服を纏っていた。
彼女の女性らしい身体の線を強調するかのように、ぴったりと肌に吸いつく光沢のある薄布で作られた服だ。
より具体的に表現するのなら、水着がそれに一番近い形をしていると言っていい。
「やっとお目覚め? よろしくね、私の勇者様!」
少年と同じ年頃であろう少女は朗らかに笑った。
「勇者……? 俺が……?」
そう呟く少年の記憶は曖昧だ。
まず己が何者なのかすらもわからない。
自分が何故ここにいるのかもわからない。
ここがどこなのかもわからない。
今がいつなのかもわからない。
何もかもがわからないことだらけだ。
「人造人間六百六十六号……」
少女の後ろに控えていた老人がそれに答える。
彼は錬金術師の長。
長年に渡り人造勇者の開発を重ねてきた一族の末裔だった。
その後ろには何人もの錬金術師たちが控えている。
「ホムンクルス……?」
少年には彼が発した言葉の意味はわからない。
彼の頭の中にその単語は存在しない。
「いや、違うな……」
自らの発言を顧みて老人が呟く。
その人造人間には名が与えられていたはずだ。
そう、彼はほぼ唯一の成功体。
その事実に相違ない、相応しい名が。
「ゼクシズ。ゼクシズ=ベスティエ。それがお前の名だ」
「ゼクシズ……。ゼクシズ=ベスティエ……」
確認するように覚醒したばかりの人造人間は与えられた己の名を呟く。
「……俺は何者だ?」
「人造勇者。我々はそう呼んでいる」
「人造……。そうか、俺は造られた存在か……」
現状を確認するように淡々と少年は呟く。
「その通り。『ベスティエ』とは古代語で『獣』を意味する。お前は【獣】を司る人造勇者だ」
「獣……」
己の内に在る【獣】の力を感じようとするかのように、少年は自らの両手をじっと見つめる。
「……俺は何のために造られた?」
己の存在意義を求めるように少年は問う。
「勇者の血脈が失われて久しい」
老人は衝撃的な事実を告げる。
「その勇者に代わり魔王を屠り、人の世を取り戻すために」
「魔王を屠る……」
己の使命を確認するように覚醒したばかりの人造勇者は同じ言葉を復唱する。
「そうだ。そのためには何をどれだけ犠牲にしようと構わん」
付け加えるように老人は言う。
彼にとって、それ以外のすべては些事に過ぎないのであろう。
「時間がないので手短に話す」
長がそう切り出す。
「我々の存在を嗅ぎつけた魔族どもが現在ここを襲撃している。迎撃部隊は送ったが長くはもつまい」
「お前たちは戦わないのか?」
「我々では物の役に立たん。我々には我々の役割がある」
「役割とは?」
次に老人の口から飛び出した言葉は少年には思いもよらないものだった。
「お前たちに命を捧げることだ」
「命を捧げる? 俺たちに?」
「私からの最初で最後の命令だ。その少女を『使って』我々を殺せ」
ぬるり。
自分の中に生温い何かが入ってくる。
それが少年の感じた最初の感覚だった。
やがて、それはゆっくりと遠ざかっていく。
「はぁっ……」
呼吸をする。
「んっ……」
ゆっくりと目を開ける。
少年の目に映ったものは、合わせ鏡のように無遠慮に覗きこんでくる碧い瞳であった。
「誰だ……!」
少年の剣幕に何者かが飛び退く。
距離が空いて、ようやく己の顔を覗きこんでいた者の姿が明らかとなる。
それは少女だった。
年の頃は十六、七歳位だろうか。
銀髪に碧眼、肩辺りまでの長さの髪。
しかし、斜めに切り揃えられた前髪だけは非対称で片目は隠されている。
そんな少女は白地に青と金が配された奇妙な衣服を纏っていた。
彼女の女性らしい身体の線を強調するかのように、ぴったりと肌に吸いつく光沢のある薄布で作られた服だ。
より具体的に表現するのなら、水着がそれに一番近い形をしていると言っていい。
「やっとお目覚め? よろしくね、私の勇者様!」
少年と同じ年頃であろう少女は朗らかに笑った。
「勇者……? 俺が……?」
そう呟く少年の記憶は曖昧だ。
まず己が何者なのかすらもわからない。
自分が何故ここにいるのかもわからない。
ここがどこなのかもわからない。
今がいつなのかもわからない。
何もかもがわからないことだらけだ。
「人造人間六百六十六号……」
少女の後ろに控えていた老人がそれに答える。
彼は錬金術師の長。
長年に渡り人造勇者の開発を重ねてきた一族の末裔だった。
その後ろには何人もの錬金術師たちが控えている。
「ホムンクルス……?」
少年には彼が発した言葉の意味はわからない。
彼の頭の中にその単語は存在しない。
「いや、違うな……」
自らの発言を顧みて老人が呟く。
その人造人間には名が与えられていたはずだ。
そう、彼はほぼ唯一の成功体。
その事実に相違ない、相応しい名が。
「ゼクシズ。ゼクシズ=ベスティエ。それがお前の名だ」
「ゼクシズ……。ゼクシズ=ベスティエ……」
確認するように覚醒したばかりの人造人間は与えられた己の名を呟く。
「……俺は何者だ?」
「人造勇者。我々はそう呼んでいる」
「人造……。そうか、俺は造られた存在か……」
現状を確認するように淡々と少年は呟く。
「その通り。『ベスティエ』とは古代語で『獣』を意味する。お前は【獣】を司る人造勇者だ」
「獣……」
己の内に在る【獣】の力を感じようとするかのように、少年は自らの両手をじっと見つめる。
「……俺は何のために造られた?」
己の存在意義を求めるように少年は問う。
「勇者の血脈が失われて久しい」
老人は衝撃的な事実を告げる。
「その勇者に代わり魔王を屠り、人の世を取り戻すために」
「魔王を屠る……」
己の使命を確認するように覚醒したばかりの人造勇者は同じ言葉を復唱する。
「そうだ。そのためには何をどれだけ犠牲にしようと構わん」
付け加えるように老人は言う。
彼にとって、それ以外のすべては些事に過ぎないのであろう。
「時間がないので手短に話す」
長がそう切り出す。
「我々の存在を嗅ぎつけた魔族どもが現在ここを襲撃している。迎撃部隊は送ったが長くはもつまい」
「お前たちは戦わないのか?」
「我々では物の役に立たん。我々には我々の役割がある」
「役割とは?」
次に老人の口から飛び出した言葉は少年には思いもよらないものだった。
「お前たちに命を捧げることだ」
「命を捧げる? 俺たちに?」
「私からの最初で最後の命令だ。その少女を『使って』我々を殺せ」
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