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第16話 アンドレア王子の決意
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カルトル国の軍隊が進軍を始めたと情報が入った。
想像よりもはるかに早い進軍。
急いで隊を整え南の森へ向けて出発した。
森を抜けられてしまえば、南の都市は崩壊するだろう。
そしてすぐに王都まで進撃されてしまう。
急がなければ。
けれど、南の森に着いたとき目にしたのは、信じがたい光景だった。
「これは、どういうことだ?!」
目の前に広がるのは、カルトル軍兵士たちの無残な姿。
屈強な兵士たちが地を覆いつくすように倒れ、辺りはまるで嵐が通り過ぎたかのようだった。
いったいここで何が起こったんだ。
倒れた兵士たちを前に立ち尽くしていると、一人の男が膝を付きながら立ち上がった。
黒の鎧に赤い髪。あれはカルトルの総統ランドルフだ。
僕は急いで取り押さえる。
すでに負傷しているため、あっさりと捕えられた。
「おのれヴァローレごときが、あんな化け物みたいなやつらをどこから連れてきた」
「化け物? なんの話だ」
――南の森に突如現れた三人組が、見たこともないような攻撃魔法で何万もの兵士たちを倒していったのだという。
人間の所業とは思えない、圧倒的な魔力行使で手が出せなかったとランドルフは表情を歪めた。
「大柄な黒いマントの性別不明の人物、露出の高い服を着た髪の長い女性、そしてもう一人は黒髪の小柄な女性だった。ヴァローレの者ではないのか」
黒髪の小柄女性?
僕が知っているのは一人だけ。ユリ……なのか?
仮にその女性がユリだとしてあとの二人はだれなんだ?
なぜ、カルトル軍を?
わからない。だが、我が国にとって好機であることには間違いない。
今は目の前の問題を片付けなければ。
「カルトルの総統、お前は捕虜として連れていく」
他の兵士たちも死んではいないようだった。
けれど総統も捕えられ、壊滅的な状態で再度攻めてくることはないはず。
あとはランドルフと今後の両国についての関係を話合わなければ。もちろん、こちらが優位な立場として。
◇ ◇ ◇
カルトルの総統ランドルフを連れ帰って数日後、僕は街に来ていた。
いつもと変わらない街の様子に安心しながらも、心はどこか落ち着かないでいた。
あれから、またユリを探していた。
追跡魔法をかけて満足していたあの時の自分が恨めしい。
ランドルフから話を聞けば聞くほど、南の森のでの出来事は不可解なことが多かった。
森全体に張られた結界魔法により逃げることも、打撃を与えることもできない状態。
黒髪の女性から放たれた嵐の激風。
ここから先へは絶対に進ませないとでもいうような、カルトル軍に対する敵意。
ヴァローレの者だろうとランドルフは言うけれど、この国にそんな人材が隠れていたとは考えにくい。
念のため南の都市を探させたけれど、ユリや仲間らしき人物は見つからなかった。
街を抜け、丘の上にやってきた。
腰を下ろし、街の様子を眺める。
「ユリ……」
「え?」
え……?
後ろを振り返ると、そこにはユリが立っていた。
さっきまでは誰もいなかったはず。
「転移魔法を使ってきたのか?」
「はい……買い物に行こうと思いまして」
少しぎこちなく笑いながら、ではと街へ向かって歩き出す。そんな彼女の腕を咄嗟に掴んでいた。
「お願いがあるんだ!」
「え? お願い……ですか?」
思わず引き止めてしまったけれど、急にお願いなんて言って引かれてしまっただろうか。
お願いしたいことと聞きたいことはたくさんあるけれど、前のように警戒されてしまってはだめだ。
「少し、僕の話しを聞いてくれないか」
彼女のことを教えてもらうためにはまず自分のことを話さなければ。
それに、知って欲しい。僕のこと、この国のこと。
掴んだ腕をそのままに、じっと彼女の目を見つめる。
「わかり、ました」
その返事にほっとして、その場に腰を下ろす。
彼女もそっと隣に座ってくれた。
「僕は……この国が好きで、とても大切なんだ」
「いいところ、ですもんね」
「ありがとう。だから、この国をもっと良くしたいし守りたいと思ってる」
ユリは僕の話を真剣に聞いてくれていた。
「地方の領土は自然が多く農作物は豊富で、王都も活気があって人々の暮らしも安定しているように見える。けれど、裏では理不尽に権力を誇示する者もいる」
「教会の人たちですか?」
「知っているのか」
街の住人ではないはずなのに大きく頷く彼女は、もしかすると神官たちに何かされたことがあるのだろうか。
「他にもたくさんの脅威に直面している。先日は、隣国との争いもあった」
すると、ユリの顔付きが変わった。
「その争いは、解決したのですか?」
「両国との関係問題を解決するのには時間がかかるだろう。でも、この国の地は守られた」
「そうですか。良かったです」
柔らかく微笑む彼女の顔は美しかった。
南の森の黒髪の女性はユリなのか?
聞いてもいいだろうか。
さっさと聞いてしまえばいいものの、どうしてか彼女を前にすると、こんなにも臆病になってしまう。
真実に触れてしまえば、もう二度と会えなくなりそうで。
「さっきのお願いというのは、この国を守るためにユリの力を貸して欲しいということなんだ。僕たちの仲間になって欲しい」
「……私も、この国が好きです。教会のしていることは許せませんし、戦争は嫌いです」
「では――」
「ですが、仲間にはなれません」
「どうして?」
「訳は、言えません……でも、この国の人たちの暮らしがよくなることを願っています」
困ったように笑う表情が、悲しみを帯びているように見える。
言えない事情を抱えているのだということはわかった。
僕は彼女を諦めなければいけないのだろうか。
もし、南の森に現れた女性がユリだとしたらこんな頼もしい戦力はない。
勅命だと言えば、仲間になってくれるだろうか。
「ユリ、僕はこの国の――」
いや――王子という立場を利用し、彼女を無理やり仲間にするべきではない。
それでは教会のやっていることと同じになる。
権力を誇示し、縛り付けてはなんの意味もない。
僕は王子なんだと言いかけてやめた。
「自分で、なんとかしないといけないな。覚悟を決めるよ」
ふう、と息を吐きながら両手を後ろにつき空を見上げる。
ユリの力はすごく魅力的だ。
でもこれでは他力本願になってしまう。
僕は王子として自分の力でこの国を守るんだ。
改めて自覚して、なんだかスッキリした。
するとユリは僕を見てクスリと笑う。
「私、あなたのこと変な人だと思ってました。なんかすごく絡んでくるし」
変な人か。それもそうだ。
いきなり知らない男が自分のことを根掘り葉掘り聞いてきたらそう思うだろう。
「そうだよな……本当に申し訳ない」
「いえ、今はこの国のために私の力が必要だったからなんだなってわかりました。私も、自分の力にはびっくりしているので」
まるで友人に向けるようにニカッと笑うユリは、いろいろな表情をするのだとわかった。
そんな彼女に、僕の心が揺れる。
ああ。やっぱり、欲しい。
「ユリ、仲間になってとは言わない。せめて僕と友人に――」
手を伸ばしかけたその時、ユリの体が浮いた。
「ええ? ちょ、なんで?!」
浮いたと思えば、大きな男の肩に抱えられていた。
「ユリ!」
立ち上がり手を伸ばすが、魔力の空砲に振り払われる。
「あ! 攻撃はだめですよ。悪い人じゃないですから!」
肩に抱えられたユリは男の背中をペシペシと叩いている。
「買い物に行くと言っていたのに人間の男と逢引きか」
「いやいや逢引きって。お話してただけですよ。それより下してください」
「だめだ。このまま帰る」
突然現れたこの男、転移魔法をつかってきたのか?
それに大柄で黒いマント。南の森に現れた三人組の一人?
いや、それよりあの角は……!
「お前は魔王か!」
男は僕を睨みつけ、返事はない。
それは魔王であることを肯定しているということ。
「ユリを離せ! その首、ここで取ってやる」
「こんなところで争ってもいいのか。後ろの街が吹き飛ぶぞ」
冷静に僕を見下す魔王。
こんなところで戦えば街への被害が避けられないのは事実だ。
何よりその冷酷な瞳に、今ここでどうにかできる相手ではないと思い知らされるようだった。
「人間の暮らしなどに興味はない。ただ、そっちが向かってくるなら対抗するまで」
魔王はそれだけ言うとユリを抱えて消えていった。
僕はただ、二人の残像を眺めるように立ち尽くす。
ユリが魔王の仲間だったなんて。
でも、彼女もこの国が好きだと言っていた。
人々の暮らしが良くなって欲しいと思う気持ちは同じだと。
魔王に無理やり囚われているのか?
そんな様子ではなかった。
魔王が言った人間の暮らしに興味はないとは、どういう意味なんだ?
ヤツならば、勇者でもなんでもない僕一人の人間くらい今ここで殺してしまうこともできただろう。
それなのに、攻撃ひとつしてこなかった。
むしろ、争うことを拒んだ。
魔王は、何を考えているんだ?
僕は何か重要なことを見過ごしているのかもしれない――。
想像よりもはるかに早い進軍。
急いで隊を整え南の森へ向けて出発した。
森を抜けられてしまえば、南の都市は崩壊するだろう。
そしてすぐに王都まで進撃されてしまう。
急がなければ。
けれど、南の森に着いたとき目にしたのは、信じがたい光景だった。
「これは、どういうことだ?!」
目の前に広がるのは、カルトル軍兵士たちの無残な姿。
屈強な兵士たちが地を覆いつくすように倒れ、辺りはまるで嵐が通り過ぎたかのようだった。
いったいここで何が起こったんだ。
倒れた兵士たちを前に立ち尽くしていると、一人の男が膝を付きながら立ち上がった。
黒の鎧に赤い髪。あれはカルトルの総統ランドルフだ。
僕は急いで取り押さえる。
すでに負傷しているため、あっさりと捕えられた。
「おのれヴァローレごときが、あんな化け物みたいなやつらをどこから連れてきた」
「化け物? なんの話だ」
――南の森に突如現れた三人組が、見たこともないような攻撃魔法で何万もの兵士たちを倒していったのだという。
人間の所業とは思えない、圧倒的な魔力行使で手が出せなかったとランドルフは表情を歪めた。
「大柄な黒いマントの性別不明の人物、露出の高い服を着た髪の長い女性、そしてもう一人は黒髪の小柄な女性だった。ヴァローレの者ではないのか」
黒髪の小柄女性?
僕が知っているのは一人だけ。ユリ……なのか?
仮にその女性がユリだとしてあとの二人はだれなんだ?
なぜ、カルトル軍を?
わからない。だが、我が国にとって好機であることには間違いない。
今は目の前の問題を片付けなければ。
「カルトルの総統、お前は捕虜として連れていく」
他の兵士たちも死んではいないようだった。
けれど総統も捕えられ、壊滅的な状態で再度攻めてくることはないはず。
あとはランドルフと今後の両国についての関係を話合わなければ。もちろん、こちらが優位な立場として。
◇ ◇ ◇
カルトルの総統ランドルフを連れ帰って数日後、僕は街に来ていた。
いつもと変わらない街の様子に安心しながらも、心はどこか落ち着かないでいた。
あれから、またユリを探していた。
追跡魔法をかけて満足していたあの時の自分が恨めしい。
ランドルフから話を聞けば聞くほど、南の森のでの出来事は不可解なことが多かった。
森全体に張られた結界魔法により逃げることも、打撃を与えることもできない状態。
黒髪の女性から放たれた嵐の激風。
ここから先へは絶対に進ませないとでもいうような、カルトル軍に対する敵意。
ヴァローレの者だろうとランドルフは言うけれど、この国にそんな人材が隠れていたとは考えにくい。
念のため南の都市を探させたけれど、ユリや仲間らしき人物は見つからなかった。
街を抜け、丘の上にやってきた。
腰を下ろし、街の様子を眺める。
「ユリ……」
「え?」
え……?
後ろを振り返ると、そこにはユリが立っていた。
さっきまでは誰もいなかったはず。
「転移魔法を使ってきたのか?」
「はい……買い物に行こうと思いまして」
少しぎこちなく笑いながら、ではと街へ向かって歩き出す。そんな彼女の腕を咄嗟に掴んでいた。
「お願いがあるんだ!」
「え? お願い……ですか?」
思わず引き止めてしまったけれど、急にお願いなんて言って引かれてしまっただろうか。
お願いしたいことと聞きたいことはたくさんあるけれど、前のように警戒されてしまってはだめだ。
「少し、僕の話しを聞いてくれないか」
彼女のことを教えてもらうためにはまず自分のことを話さなければ。
それに、知って欲しい。僕のこと、この国のこと。
掴んだ腕をそのままに、じっと彼女の目を見つめる。
「わかり、ました」
その返事にほっとして、その場に腰を下ろす。
彼女もそっと隣に座ってくれた。
「僕は……この国が好きで、とても大切なんだ」
「いいところ、ですもんね」
「ありがとう。だから、この国をもっと良くしたいし守りたいと思ってる」
ユリは僕の話を真剣に聞いてくれていた。
「地方の領土は自然が多く農作物は豊富で、王都も活気があって人々の暮らしも安定しているように見える。けれど、裏では理不尽に権力を誇示する者もいる」
「教会の人たちですか?」
「知っているのか」
街の住人ではないはずなのに大きく頷く彼女は、もしかすると神官たちに何かされたことがあるのだろうか。
「他にもたくさんの脅威に直面している。先日は、隣国との争いもあった」
すると、ユリの顔付きが変わった。
「その争いは、解決したのですか?」
「両国との関係問題を解決するのには時間がかかるだろう。でも、この国の地は守られた」
「そうですか。良かったです」
柔らかく微笑む彼女の顔は美しかった。
南の森の黒髪の女性はユリなのか?
聞いてもいいだろうか。
さっさと聞いてしまえばいいものの、どうしてか彼女を前にすると、こんなにも臆病になってしまう。
真実に触れてしまえば、もう二度と会えなくなりそうで。
「さっきのお願いというのは、この国を守るためにユリの力を貸して欲しいということなんだ。僕たちの仲間になって欲しい」
「……私も、この国が好きです。教会のしていることは許せませんし、戦争は嫌いです」
「では――」
「ですが、仲間にはなれません」
「どうして?」
「訳は、言えません……でも、この国の人たちの暮らしがよくなることを願っています」
困ったように笑う表情が、悲しみを帯びているように見える。
言えない事情を抱えているのだということはわかった。
僕は彼女を諦めなければいけないのだろうか。
もし、南の森に現れた女性がユリだとしたらこんな頼もしい戦力はない。
勅命だと言えば、仲間になってくれるだろうか。
「ユリ、僕はこの国の――」
いや――王子という立場を利用し、彼女を無理やり仲間にするべきではない。
それでは教会のやっていることと同じになる。
権力を誇示し、縛り付けてはなんの意味もない。
僕は王子なんだと言いかけてやめた。
「自分で、なんとかしないといけないな。覚悟を決めるよ」
ふう、と息を吐きながら両手を後ろにつき空を見上げる。
ユリの力はすごく魅力的だ。
でもこれでは他力本願になってしまう。
僕は王子として自分の力でこの国を守るんだ。
改めて自覚して、なんだかスッキリした。
するとユリは僕を見てクスリと笑う。
「私、あなたのこと変な人だと思ってました。なんかすごく絡んでくるし」
変な人か。それもそうだ。
いきなり知らない男が自分のことを根掘り葉掘り聞いてきたらそう思うだろう。
「そうだよな……本当に申し訳ない」
「いえ、今はこの国のために私の力が必要だったからなんだなってわかりました。私も、自分の力にはびっくりしているので」
まるで友人に向けるようにニカッと笑うユリは、いろいろな表情をするのだとわかった。
そんな彼女に、僕の心が揺れる。
ああ。やっぱり、欲しい。
「ユリ、仲間になってとは言わない。せめて僕と友人に――」
手を伸ばしかけたその時、ユリの体が浮いた。
「ええ? ちょ、なんで?!」
浮いたと思えば、大きな男の肩に抱えられていた。
「ユリ!」
立ち上がり手を伸ばすが、魔力の空砲に振り払われる。
「あ! 攻撃はだめですよ。悪い人じゃないですから!」
肩に抱えられたユリは男の背中をペシペシと叩いている。
「買い物に行くと言っていたのに人間の男と逢引きか」
「いやいや逢引きって。お話してただけですよ。それより下してください」
「だめだ。このまま帰る」
突然現れたこの男、転移魔法をつかってきたのか?
それに大柄で黒いマント。南の森に現れた三人組の一人?
いや、それよりあの角は……!
「お前は魔王か!」
男は僕を睨みつけ、返事はない。
それは魔王であることを肯定しているということ。
「ユリを離せ! その首、ここで取ってやる」
「こんなところで争ってもいいのか。後ろの街が吹き飛ぶぞ」
冷静に僕を見下す魔王。
こんなところで戦えば街への被害が避けられないのは事実だ。
何よりその冷酷な瞳に、今ここでどうにかできる相手ではないと思い知らされるようだった。
「人間の暮らしなどに興味はない。ただ、そっちが向かってくるなら対抗するまで」
魔王はそれだけ言うとユリを抱えて消えていった。
僕はただ、二人の残像を眺めるように立ち尽くす。
ユリが魔王の仲間だったなんて。
でも、彼女もこの国が好きだと言っていた。
人々の暮らしが良くなって欲しいと思う気持ちは同じだと。
魔王に無理やり囚われているのか?
そんな様子ではなかった。
魔王が言った人間の暮らしに興味はないとは、どういう意味なんだ?
ヤツならば、勇者でもなんでもない僕一人の人間くらい今ここで殺してしまうこともできただろう。
それなのに、攻撃ひとつしてこなかった。
むしろ、争うことを拒んだ。
魔王は、何を考えているんだ?
僕は何か重要なことを見過ごしているのかもしれない――。
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