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良の唇が自分の名前を紡いだことが嬉しく、そしてその声のひどく小さかったことがおかしくて、裕司は笑ってその頭を撫でた。
「なんだ、そんなに呼びにくかったか?」
「……」
「名前で呼んでくれたの初めてだろう? 嬉しいよ」
そう言って目を細めると、良は上目遣いになって呟いた。
「こんなのが嬉しいの、あんた……」
「こんなのってこたないだろ。名前呼ぶって大事なことだぞ。お前は俺がお前の名前呼ばなくなっても気にしないか?」
「……それはやだ」
だろ? と笑うと、良ははにかみながらも微笑んだ。
「……裕司さん、…………変な感じ」
「そのうち慣れるよ」
笑いながら、どちらともなくキスをする。そしてまた離れて笑った。
良から泣きそうな気配が消えて、裕司は少なからず安堵を覚える。泣いていたらいくらでも慰めたいし抱き締めてやりたかったが、それ以上に笑ってくれているのが一番だった。
「…………ねえ、続きしないの」
控えめな催促も可愛く思えて、ゆっくりと温かな頬を撫でた。
「こんなところでやめられると思ってるのか?」
「俺がやめてって言ったらやめるんでしょ……」
「言うのか?」
良はふいと視線を外して、いくらか照れを隠すような声色で、言わない、と言った。
良が何を言っても、何をしても、愛しさしか湧いてこなくて、裕司はもうその気持ちに従うしかなかった。彼が求めてくれる限り、彼を愛するということしか頭にないと言っても過言ではなかった。
白い身体を撫でて、口づけて、長い指を握って、また肌を愛撫する。こんなふうに受け身になって、男に愛されるのは初めてのはずなのに、良は裕司のすることのひとつひとつに反応を返してくれた。
熱っぽい吐息や、小さな喘ぎや、身体の震えのすべてが裕司には甘くて、下腹部の熱をかき立てた。
隠すものもない視界の中で、良のペニスが徐々に硬く大きくなっていくのが嬉しかった。彼も期待し、欲情してくれているのだということが、その身体のありようでわかることを幸せだと思う。
勃ち上がったそれを手のひらで包むようにして、やんわりと刺激してやると、良の唇から熱い息がこぼれた。
彼が裕司と同じ身体を持っていて、同じように快感を覚えて、この手で達してくれることを知っている。そのことを確かめるように手を動かすと、ん、と短い声が漏れた。
「……そこ、そんなしなくていいよ……」
感じているくせに、声にも熱が露わになっているくせに、良はそんなことを言った。
「なんで? いやか?」
訊いてみると、艶を帯びた目がこちらを見て、裕司はつい息を呑む。
「だって……あんたがしたら、すぐ出ちゃうし」
「……若いんだから、別にいいだろ」
よくないよ、と言って、良は脇腹の辺りを蹴ってきた。足癖が悪いな、と思いながら、裕司は良のものから手を離す。
代わりに行儀の悪い足首をつかんで、足の甲に口づけてやると、ひくりと指が震えたものの、嫌がりはしなかった。
「せっかく人が気持ちよくしてやってんのに、気難しいな」
わけが知りたくてそう言ってみると、良は気まずそうに枕を抱き寄せながら呟いた。
「…………だって、俺のを手でしたってあんた別に気持ちよくないじゃん……」
へそを曲げたような言い方だったが、また何やら可愛らしいことを言い出したなと思って、裕司は苦笑してしまった。
「……お前が感じてるの見るのが好きなんだがなぁ」
「すけべ……」
「そうじゃなかったらこうなってないだろ」
笑って、良の胸を撫でて腹筋に口づける。良が息を詰めたのがわかって、ささいなことにも反応を返してくれる身体がつくづく愛らしいと思えた。
「まあ、お前がやだってんならしないけど……」
初めての、しかもこんなに若い相手に強いることではない。そう思って言った言葉に、良はほっとしたような、それでいて申し訳なさそうな、複雑な顔をしてみせた。
わがままな態度に見えても、良はいつも繊細に何かを心配していたし、裕司に気を遣ってくれていることを知っていた。それをうまく言葉や行動に示せない不器用さが愛しくて、裕司は笑んで黒い髪を撫ぜてやった。
「どうした? そんな顔して」
「……そんなって……どんな顔」
「謝りたいのに素直になれない子どもみたいな顔してるぞ」
あえて正直に言ってやると、良は幾拍か躊躇ってから、裕司に向けて手を伸ばしてきた。それに逆らわずに抱き締められてみると、思いの外その手が熱くて裕司は驚く。
「……嫌だったわけじゃないよ、俺……」
耳元で弱い声がそう言って、裕司は目を細めて熱を持った身体を抱き返した。
「なんだ、そんなに呼びにくかったか?」
「……」
「名前で呼んでくれたの初めてだろう? 嬉しいよ」
そう言って目を細めると、良は上目遣いになって呟いた。
「こんなのが嬉しいの、あんた……」
「こんなのってこたないだろ。名前呼ぶって大事なことだぞ。お前は俺がお前の名前呼ばなくなっても気にしないか?」
「……それはやだ」
だろ? と笑うと、良ははにかみながらも微笑んだ。
「……裕司さん、…………変な感じ」
「そのうち慣れるよ」
笑いながら、どちらともなくキスをする。そしてまた離れて笑った。
良から泣きそうな気配が消えて、裕司は少なからず安堵を覚える。泣いていたらいくらでも慰めたいし抱き締めてやりたかったが、それ以上に笑ってくれているのが一番だった。
「…………ねえ、続きしないの」
控えめな催促も可愛く思えて、ゆっくりと温かな頬を撫でた。
「こんなところでやめられると思ってるのか?」
「俺がやめてって言ったらやめるんでしょ……」
「言うのか?」
良はふいと視線を外して、いくらか照れを隠すような声色で、言わない、と言った。
良が何を言っても、何をしても、愛しさしか湧いてこなくて、裕司はもうその気持ちに従うしかなかった。彼が求めてくれる限り、彼を愛するということしか頭にないと言っても過言ではなかった。
白い身体を撫でて、口づけて、長い指を握って、また肌を愛撫する。こんなふうに受け身になって、男に愛されるのは初めてのはずなのに、良は裕司のすることのひとつひとつに反応を返してくれた。
熱っぽい吐息や、小さな喘ぎや、身体の震えのすべてが裕司には甘くて、下腹部の熱をかき立てた。
隠すものもない視界の中で、良のペニスが徐々に硬く大きくなっていくのが嬉しかった。彼も期待し、欲情してくれているのだということが、その身体のありようでわかることを幸せだと思う。
勃ち上がったそれを手のひらで包むようにして、やんわりと刺激してやると、良の唇から熱い息がこぼれた。
彼が裕司と同じ身体を持っていて、同じように快感を覚えて、この手で達してくれることを知っている。そのことを確かめるように手を動かすと、ん、と短い声が漏れた。
「……そこ、そんなしなくていいよ……」
感じているくせに、声にも熱が露わになっているくせに、良はそんなことを言った。
「なんで? いやか?」
訊いてみると、艶を帯びた目がこちらを見て、裕司はつい息を呑む。
「だって……あんたがしたら、すぐ出ちゃうし」
「……若いんだから、別にいいだろ」
よくないよ、と言って、良は脇腹の辺りを蹴ってきた。足癖が悪いな、と思いながら、裕司は良のものから手を離す。
代わりに行儀の悪い足首をつかんで、足の甲に口づけてやると、ひくりと指が震えたものの、嫌がりはしなかった。
「せっかく人が気持ちよくしてやってんのに、気難しいな」
わけが知りたくてそう言ってみると、良は気まずそうに枕を抱き寄せながら呟いた。
「…………だって、俺のを手でしたってあんた別に気持ちよくないじゃん……」
へそを曲げたような言い方だったが、また何やら可愛らしいことを言い出したなと思って、裕司は苦笑してしまった。
「……お前が感じてるの見るのが好きなんだがなぁ」
「すけべ……」
「そうじゃなかったらこうなってないだろ」
笑って、良の胸を撫でて腹筋に口づける。良が息を詰めたのがわかって、ささいなことにも反応を返してくれる身体がつくづく愛らしいと思えた。
「まあ、お前がやだってんならしないけど……」
初めての、しかもこんなに若い相手に強いることではない。そう思って言った言葉に、良はほっとしたような、それでいて申し訳なさそうな、複雑な顔をしてみせた。
わがままな態度に見えても、良はいつも繊細に何かを心配していたし、裕司に気を遣ってくれていることを知っていた。それをうまく言葉や行動に示せない不器用さが愛しくて、裕司は笑んで黒い髪を撫ぜてやった。
「どうした? そんな顔して」
「……そんなって……どんな顔」
「謝りたいのに素直になれない子どもみたいな顔してるぞ」
あえて正直に言ってやると、良は幾拍か躊躇ってから、裕司に向けて手を伸ばしてきた。それに逆らわずに抱き締められてみると、思いの外その手が熱くて裕司は驚く。
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