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こういう展開になるだろう、とどこかで予想していたはずだったが、裕司はすぐにうんと言えなかった。
「あるんでしょそれぐらい」
と、彩乃は催促する口調で言ってきた。ここで嫌だと言えば面倒くさいことになるのは目に見えていたし、拒否するに足りる理由は自分の中にも見つからなかった。
渋々スマホを出しながら、ここで抵抗を覚えるのはやはり身内にセクシャリティを見せたくないという気持ちが強いせいだと思う。自分の私生活を見せたくない。家族が知るのは、自分の公の顔だけでいいと思っているのだ。
カメラロールを開けば、半分以上が良の写真で、それを彩乃の横で見ていることが妙に恥ずかしかった。見られて困るような写真など撮っていないのだが、それらは裕司にとってとてもプライベートなものだ。
良が一人で写っていて顔立ちのわかりやすい写真を選び、警戒心を拭えないまま差し出した。
「もっとこっち向けてよ」
手を伸ばされてとっさに腕を引きかけた裕司を、彩乃はじろりとねめつけて言った。
「勝手にスクロールしたりしないわよ。いいから見せてよ」
警戒を見通されるのもいたたまれない、と思いながら、裕司は渋い顔でテーブルの上にスマホを置いた。彩乃はそれを覗き込んで、やだ、と言うなり口許を押さえた。
「えっやだ、可愛いじゃない。うそ、こんな子があんたみたいなおっさんと同棲してんの?」
失礼甚だしい、と思いつつ、そう言いたくなる気持ち自体はわからなくもなかった。渋面を作ったまま、裕司は何も言わずにスマホを引き寄せる。どうせ自分がけなされるのなら、良のことは存分に褒めてもらわなければ損だという気持ちが湧いてきた。
良の笑顔が綺麗に撮れた一枚を開いて彩乃に向けると、彩乃は期待以上に黄色い声を上げた。
「やっだ可愛い~! えっ加工したりしてんの? アプリ使ってる?」
「普通にスマホのカメラで撮っただけだよ」
うそ~、と高い声を上げて、彩乃は裕司の手からスマホを奪った。
「今どきの男の子ってきれいな顔してるけど、良ちゃん可愛いじゃない~やだなんで今日いないのよ本物見たかったぁ~」
呼び方が変わったことにつっこむべきか、と思ったが、彩乃が裕司のシャツをつかんで揺さぶり始めたのでそれどころではなくなった。やめろ、と言っても、彩乃はまるで聞く気がないようだった。
「えっ身長どのくらい? 全身写ってる写真ないの?」
顔がいいというだけで態度が変わりすぎではないか、と思いながら、裕司はスマホを操作する。
「……ほら。背は俺と変わんねぇよ。もしかしたらまだ伸びてるかもな」
十代だし、と付け加えたが、それは彩乃の声とかぶって裕司の耳にも残らなかった。
「細ーい、手足長ーい! そうよね~十代の子ってこんなよね~。最近の子ってなんでこんなにスタイルいいのかしら」
両手でスマホを握って、彩乃は一人ではしゃいでいた。良の方がよほど落ち着きがあると思って、裕司はため息をつく。ついさっきまで深刻な顔をしていたくせに、調子のいいものだ。
良の身の上話より良の容姿の方がはるかに効果的だったのではないかと考えかけたが、彩乃が裕司と良の関係性を呑んでくれたことは確かで、それは感謝すべきだとわかっていた。性別の問題はともかく、年齢差のことを思うと、裕司自身今でも自分を肯定しきれない。そこを非難されたら言い逃れる自信はなかった。
「やだ~良ちゃん何時に帰ってくるの~? 会いたかったー!」
もはや彩乃の言いようは子どもと大差なかった。子育てで逆に子どもの言動が移っているのではないだろうか。
「……良も会えなくて残念そうだったよ」
言いながら裕司は立ち上がる。カウンターの内側に置いてあった紙袋を取って、彩乃のところに戻った。
「これ持って帰ってやってくれ。良が土産に渡してくれって買ってきたんだ」
彩乃は目を丸くして紙袋を見つめ、それから両手で袋を受け取って中を覗いた。
「えっ……えっ良ちゃんが? 私に? なんで?」
「なんでって……あいつなりに気ぃ遣ったんだろ。あいつバイト始めたばっかで金ないのに、奮発したんじゃねえか」
彩乃はしばらく黙って袋の中を見つめていたが、やがて持ち手を握り締めて頭を垂れた。
「なにそれめっちゃいい子じゃない~! うそでしょ~?」
「だからいいやつなんだって言ったろ……」
「えー、私あんたにしかお土産持ってきてないのに!」
「そりゃあいつがいるの知らなかったんだから」
「やだぁ直接お礼言わせてよぉ! あんただけずるいわよ!」
何がだ、と思ったが裕司は口を閉じていた。彩乃のそれは反駁すれば三倍になって返ってくるときの口調だと経験で学んでいたからだ。
「ええー……可愛くっていい子で頭もいいの? あんた家事もやってもらってるって言ってなかった?」
「……やってくれてるよ。何も言わなくてもやってくれるんだよ」
「うそでしょー? そんな子うちの子にしたいー! 連れて帰るー!」
彩乃はそう言ってテーブルに突っ伏してしまった。やはりこの場に良がいなくてよかった、と思いながら、何もかも彼に救われていると感じる自分はあながち間違っていないようだ、という気がした。
「あるんでしょそれぐらい」
と、彩乃は催促する口調で言ってきた。ここで嫌だと言えば面倒くさいことになるのは目に見えていたし、拒否するに足りる理由は自分の中にも見つからなかった。
渋々スマホを出しながら、ここで抵抗を覚えるのはやはり身内にセクシャリティを見せたくないという気持ちが強いせいだと思う。自分の私生活を見せたくない。家族が知るのは、自分の公の顔だけでいいと思っているのだ。
カメラロールを開けば、半分以上が良の写真で、それを彩乃の横で見ていることが妙に恥ずかしかった。見られて困るような写真など撮っていないのだが、それらは裕司にとってとてもプライベートなものだ。
良が一人で写っていて顔立ちのわかりやすい写真を選び、警戒心を拭えないまま差し出した。
「もっとこっち向けてよ」
手を伸ばされてとっさに腕を引きかけた裕司を、彩乃はじろりとねめつけて言った。
「勝手にスクロールしたりしないわよ。いいから見せてよ」
警戒を見通されるのもいたたまれない、と思いながら、裕司は渋い顔でテーブルの上にスマホを置いた。彩乃はそれを覗き込んで、やだ、と言うなり口許を押さえた。
「えっやだ、可愛いじゃない。うそ、こんな子があんたみたいなおっさんと同棲してんの?」
失礼甚だしい、と思いつつ、そう言いたくなる気持ち自体はわからなくもなかった。渋面を作ったまま、裕司は何も言わずにスマホを引き寄せる。どうせ自分がけなされるのなら、良のことは存分に褒めてもらわなければ損だという気持ちが湧いてきた。
良の笑顔が綺麗に撮れた一枚を開いて彩乃に向けると、彩乃は期待以上に黄色い声を上げた。
「やっだ可愛い~! えっ加工したりしてんの? アプリ使ってる?」
「普通にスマホのカメラで撮っただけだよ」
うそ~、と高い声を上げて、彩乃は裕司の手からスマホを奪った。
「今どきの男の子ってきれいな顔してるけど、良ちゃん可愛いじゃない~やだなんで今日いないのよ本物見たかったぁ~」
呼び方が変わったことにつっこむべきか、と思ったが、彩乃が裕司のシャツをつかんで揺さぶり始めたのでそれどころではなくなった。やめろ、と言っても、彩乃はまるで聞く気がないようだった。
「えっ身長どのくらい? 全身写ってる写真ないの?」
顔がいいというだけで態度が変わりすぎではないか、と思いながら、裕司はスマホを操作する。
「……ほら。背は俺と変わんねぇよ。もしかしたらまだ伸びてるかもな」
十代だし、と付け加えたが、それは彩乃の声とかぶって裕司の耳にも残らなかった。
「細ーい、手足長ーい! そうよね~十代の子ってこんなよね~。最近の子ってなんでこんなにスタイルいいのかしら」
両手でスマホを握って、彩乃は一人ではしゃいでいた。良の方がよほど落ち着きがあると思って、裕司はため息をつく。ついさっきまで深刻な顔をしていたくせに、調子のいいものだ。
良の身の上話より良の容姿の方がはるかに効果的だったのではないかと考えかけたが、彩乃が裕司と良の関係性を呑んでくれたことは確かで、それは感謝すべきだとわかっていた。性別の問題はともかく、年齢差のことを思うと、裕司自身今でも自分を肯定しきれない。そこを非難されたら言い逃れる自信はなかった。
「やだ~良ちゃん何時に帰ってくるの~? 会いたかったー!」
もはや彩乃の言いようは子どもと大差なかった。子育てで逆に子どもの言動が移っているのではないだろうか。
「……良も会えなくて残念そうだったよ」
言いながら裕司は立ち上がる。カウンターの内側に置いてあった紙袋を取って、彩乃のところに戻った。
「これ持って帰ってやってくれ。良が土産に渡してくれって買ってきたんだ」
彩乃は目を丸くして紙袋を見つめ、それから両手で袋を受け取って中を覗いた。
「えっ……えっ良ちゃんが? 私に? なんで?」
「なんでって……あいつなりに気ぃ遣ったんだろ。あいつバイト始めたばっかで金ないのに、奮発したんじゃねえか」
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「なにそれめっちゃいい子じゃない~! うそでしょ~?」
「だからいいやつなんだって言ったろ……」
「えー、私あんたにしかお土産持ってきてないのに!」
「そりゃあいつがいるの知らなかったんだから」
「やだぁ直接お礼言わせてよぉ! あんただけずるいわよ!」
何がだ、と思ったが裕司は口を閉じていた。彩乃のそれは反駁すれば三倍になって返ってくるときの口調だと経験で学んでいたからだ。
「ええー……可愛くっていい子で頭もいいの? あんた家事もやってもらってるって言ってなかった?」
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「うそでしょー? そんな子うちの子にしたいー! 連れて帰るー!」
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