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出張ってヤツは・・・だいたい突然決まる物ですよね? 40
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第一章 三六話
僕の言葉で頭を抱えている彼女に、ヴィルヘルムが声を掛ける。
「殿下! あの様な無責任な物言いを、気に掛ける必要など御座いません! その場に居合わせても居ない無関係な者に、殿下や我等の怒りや無念など解る筈が無いのですから!」
マルグリットはヴィルヘルムの言葉を聞いて頷く。そして僕に向かって言い放った。
「...貴方のおっしゃる事は、確かに正しいと私にも分かります。ですがそれは数多ある正しさの一面に過ぎ無いのではないでしょうか?私達には私達の思いと真実があります。これから私達のするべき事は、変わらざるを得ないでしょう...ですが目指したものが過ちだったとは思いません」
マルグリットは決然と言い放った。
「ええその通りです。僕の言った事は、所詮当事者では無い者の言い分です。しかし貴女が仰られた通り一面の真実でも有ります。それに気付いて頂けたのなら、これからの貴女方のやり方に、僕が敵として関わる事は無いでしょう」
マルグリットが静かに頷いた。その目には新たに秘めた決意が宿っている。少しお節介だったかも知れない。
しかし自分が絶望に身を委ねていた時にも、改めて考える事を思い出させてくれた人達がいた。彼女達がした事についての罪滅ぼしは、これからパウルセン宰相達が考える事だ。
「それでは僕はこれでお暇します。これからは王国側からワーレンハイト子爵に対して連絡をとらせて頂きます。今更、逃げ出す事も無いでしょうが、余計な事はせず大人しくしていて下さい。帝国側には出来るだけ知らせない様に進言しておきます」
そこでヴィルヘルムが、
「まて!まだ貴様の名前も聞いておらんぞ!そもそも誰の依頼で我等を探していたのだ?」
「忘れていました...僕の名前はカナタ・コーサカです。依頼主は...まあいいでしょう、王国宰相であるパウルセン公爵です」
ヴィルヘルムが一瞬固まる。
「そんな大物に貴様が口止め等出来るのか?我等をだしにすれば帝国に兵を挙げる格好の口実になるだろう?」
意外だが、ヴィルヘルムも帝国と王国の戦乱は、望んでいないようだ。
「それは心配要りません。パウルセン宰相には、僕が関わった件で“戦端を開かない”と確約を頂いております。それと...マルグリット殿下や配下の方達の安全に付いては...」
{ミネルヴァ、ドローンオウルを転移先のマーカーにする事は可能かい?出来るなら一体召喚してくれないか}
{畏まりました。3体までならマーカーにするのは可能です。魔力集積・元形質複写・魔力回路構築・行動パターン構築・全設定完了! 召喚、ドローンオウル}
僕の腕の上に光が集まりそれが消え去った後に〈ミニミネルヴァ〉が姿を表す。
「このフクロウは見ての通り僕の使い魔です。彼を置いていきますので、もし危険が迫れば彼を通じて僕に連絡を下さい。できる限り駆けつけましょう」
マルグリット殿下をはじめ、ヴィルヘルムやハンスがまたしても驚愕している。
「触媒の魔晶石も使わずに?...いや今更ですね。ですが遠く離れた王国からどうやって駆けつけるのですか?」
マルグリット殿下が不思議そうに訪ねる。ヴィルヘルムとの戦闘で“ムーヴ”を使って攻撃を回避したが転移魔法だとは分からなかったようだ。
「僕は“転移魔法”が使えます。彼は僕の転移先の目印になりますから...」
マルグリットやハンスは、言葉の意味を理解しきれなかった様だが、ヴィルヘルムは顔面蒼白だ。
「...解った。パウルセン宰相への口ききをよろしく頼む。必要なら...殿下以外の幹部達の首を差し出す事も厭わん」
「ヴィルヘルム!それはなりません!全ての責任は私に...」
「いえ殿下。これは我等が大公殿下から託された最後の使命なのです。貴女は、生き延びてするべき事が有る筈です」
ヴィルヘルムが言ってる事は確かに想定される事の一つだが、ややこしい事になる前に、ここらで口を挟んでおこう。
「まあ僕の方で、王国が“そんな物を要求しない”様に出来るだけ努めましょう。確約は出来ませんが、今は落ち着いて下さい」
マルグリット達がこちらを見て黙る。僕はあえて何も言わず話を進めた。
「さあ、この建物を元の空間に戻して僕はお暇しょう。また会う日までご壮健をお祈りします。さらばです」
一瞬マルグリット達が何か言おうとしたが結局口を閉ざして何も言わなかった。
僕は彼らをアジトごと通常空間に転移させるとそのままシドーニエが待つ路地に転移した。
「お帰りなさいませ、コーサカ様。ご無事で何よりです」
「ご心配おかけしました、シドーニエさん。取り敢えず目的は達成しました。これからヒルデガルド様の所に行って報告をしますので同行よろしくお願いします」
「畏まりました!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
シドーニエを伴って迎賓館の控え室に転移した時、ヒルデガルドは、まだ迎賓館で待機中だった。僕等は急ぎ事のあらましを報告する。ヒルデガルドは内容に驚きつつどこか納得した様だ。
「ヒルデガルド様はマルグリット殿下が生き延びているかも知れないと思っておられたのですか?」
率直に疑問をぶつけてみる。
「いや、先の事件は私もまだ13歳の頃だったから其処まで詳しい事情は知らない。ある程度の事情を知ったのはもう少し経ってからだ。だがアルブレヒト大公の事件は未だに謎が多い。現皇帝の謀だったのではないかと考えるのが一番多い意見だが勿論そんな証拠はないし、これは非公式な噂に過ぎないが当時、現皇帝はどうも帝位に興味などなかったと言う噂もあるのだ」
どうも話が胡散臭い。枢機卿の暗殺から始まる大戦と各国の情勢は何者かの影がちらついてならない。自分には直接関係ない事だがマルグリットを始め様々な人達が不幸になっている影で誰かが糸を引いていると思うと腹立たしくもある。
「取り敢えずコーサカ殿の報告で今回の事件のあらましは解った。パウルセン宰相や父上に報告して今後の対応を相談しよう。私はこれから帝国側と折衝になるので、申し訳ないがコーサカ殿は、一度王国に戻って父上に報告してくれないだろうか?」
「畏まりました。何かあった時はミニミネルヴァで連絡して下さい」
「よろしく頼む」
こうして僕等は王国に転移してビットナー伯爵に報告する事になった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カナタがマルグリット達を残して立ち去った後、ヴィルヘルムは恭しくマルグリットの前に跪き頭を垂れる。
「此度の失態は、私が奴を甘く見たのが原因です。如何様な処罰も覚悟しております」
「それには及びません。重ねて言いますが、全ては私の責任なのです。それに今は、早急にせねばならない事があります」
「...たしかに。今は王国がどう対応するか解りません。最悪の場合、事が帝国に知れるやもしれない今、直ちにワーレンハイト領に帰還するべきでしょう」
「それが賢明ですね。配下達に活動の即時停止と撤収を急がせて下さい」
そこでハンスが微妙な表情をする。
「殿下、僭越ながら奴が約束を守るか分からないのに、奴に把握されていない者達まで引かせるのですか?」
困り顔のマルグリットに代わってヴィルヘルムが答える。
「逆だハンス。今、奴は我等に引く為の猶予を与えているんだ。把握されてないと思って手勢を残し、それが後でバレたら今度こそ奴を止める事は出来んぞ。それに奴はそのつもりでは無いのかも知れんが、その使い魔は多分我等の言動を把握しているぞ」
ハンスがギクリとしてそっと視線を向けるとミニミネルヴァはじっと彼の事を見ていた。ハンスの背中に冷たい汗が流れる。
「解ったな?ならば早急に殿下の宿に戻り侍女と共に支度を整えるのだ。私も護衛として同行する」
本当は諸々の報告を済ませた後、迎えが来る手筈だったが仕方ない。
「さあ、急げ!」
僕の言葉で頭を抱えている彼女に、ヴィルヘルムが声を掛ける。
「殿下! あの様な無責任な物言いを、気に掛ける必要など御座いません! その場に居合わせても居ない無関係な者に、殿下や我等の怒りや無念など解る筈が無いのですから!」
マルグリットはヴィルヘルムの言葉を聞いて頷く。そして僕に向かって言い放った。
「...貴方のおっしゃる事は、確かに正しいと私にも分かります。ですがそれは数多ある正しさの一面に過ぎ無いのではないでしょうか?私達には私達の思いと真実があります。これから私達のするべき事は、変わらざるを得ないでしょう...ですが目指したものが過ちだったとは思いません」
マルグリットは決然と言い放った。
「ええその通りです。僕の言った事は、所詮当事者では無い者の言い分です。しかし貴女が仰られた通り一面の真実でも有ります。それに気付いて頂けたのなら、これからの貴女方のやり方に、僕が敵として関わる事は無いでしょう」
マルグリットが静かに頷いた。その目には新たに秘めた決意が宿っている。少しお節介だったかも知れない。
しかし自分が絶望に身を委ねていた時にも、改めて考える事を思い出させてくれた人達がいた。彼女達がした事についての罪滅ぼしは、これからパウルセン宰相達が考える事だ。
「それでは僕はこれでお暇します。これからは王国側からワーレンハイト子爵に対して連絡をとらせて頂きます。今更、逃げ出す事も無いでしょうが、余計な事はせず大人しくしていて下さい。帝国側には出来るだけ知らせない様に進言しておきます」
そこでヴィルヘルムが、
「まて!まだ貴様の名前も聞いておらんぞ!そもそも誰の依頼で我等を探していたのだ?」
「忘れていました...僕の名前はカナタ・コーサカです。依頼主は...まあいいでしょう、王国宰相であるパウルセン公爵です」
ヴィルヘルムが一瞬固まる。
「そんな大物に貴様が口止め等出来るのか?我等をだしにすれば帝国に兵を挙げる格好の口実になるだろう?」
意外だが、ヴィルヘルムも帝国と王国の戦乱は、望んでいないようだ。
「それは心配要りません。パウルセン宰相には、僕が関わった件で“戦端を開かない”と確約を頂いております。それと...マルグリット殿下や配下の方達の安全に付いては...」
{ミネルヴァ、ドローンオウルを転移先のマーカーにする事は可能かい?出来るなら一体召喚してくれないか}
{畏まりました。3体までならマーカーにするのは可能です。魔力集積・元形質複写・魔力回路構築・行動パターン構築・全設定完了! 召喚、ドローンオウル}
僕の腕の上に光が集まりそれが消え去った後に〈ミニミネルヴァ〉が姿を表す。
「このフクロウは見ての通り僕の使い魔です。彼を置いていきますので、もし危険が迫れば彼を通じて僕に連絡を下さい。できる限り駆けつけましょう」
マルグリット殿下をはじめ、ヴィルヘルムやハンスがまたしても驚愕している。
「触媒の魔晶石も使わずに?...いや今更ですね。ですが遠く離れた王国からどうやって駆けつけるのですか?」
マルグリット殿下が不思議そうに訪ねる。ヴィルヘルムとの戦闘で“ムーヴ”を使って攻撃を回避したが転移魔法だとは分からなかったようだ。
「僕は“転移魔法”が使えます。彼は僕の転移先の目印になりますから...」
マルグリットやハンスは、言葉の意味を理解しきれなかった様だが、ヴィルヘルムは顔面蒼白だ。
「...解った。パウルセン宰相への口ききをよろしく頼む。必要なら...殿下以外の幹部達の首を差し出す事も厭わん」
「ヴィルヘルム!それはなりません!全ての責任は私に...」
「いえ殿下。これは我等が大公殿下から託された最後の使命なのです。貴女は、生き延びてするべき事が有る筈です」
ヴィルヘルムが言ってる事は確かに想定される事の一つだが、ややこしい事になる前に、ここらで口を挟んでおこう。
「まあ僕の方で、王国が“そんな物を要求しない”様に出来るだけ努めましょう。確約は出来ませんが、今は落ち着いて下さい」
マルグリット達がこちらを見て黙る。僕はあえて何も言わず話を進めた。
「さあ、この建物を元の空間に戻して僕はお暇しょう。また会う日までご壮健をお祈りします。さらばです」
一瞬マルグリット達が何か言おうとしたが結局口を閉ざして何も言わなかった。
僕は彼らをアジトごと通常空間に転移させるとそのままシドーニエが待つ路地に転移した。
「お帰りなさいませ、コーサカ様。ご無事で何よりです」
「ご心配おかけしました、シドーニエさん。取り敢えず目的は達成しました。これからヒルデガルド様の所に行って報告をしますので同行よろしくお願いします」
「畏まりました!」
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シドーニエを伴って迎賓館の控え室に転移した時、ヒルデガルドは、まだ迎賓館で待機中だった。僕等は急ぎ事のあらましを報告する。ヒルデガルドは内容に驚きつつどこか納得した様だ。
「ヒルデガルド様はマルグリット殿下が生き延びているかも知れないと思っておられたのですか?」
率直に疑問をぶつけてみる。
「いや、先の事件は私もまだ13歳の頃だったから其処まで詳しい事情は知らない。ある程度の事情を知ったのはもう少し経ってからだ。だがアルブレヒト大公の事件は未だに謎が多い。現皇帝の謀だったのではないかと考えるのが一番多い意見だが勿論そんな証拠はないし、これは非公式な噂に過ぎないが当時、現皇帝はどうも帝位に興味などなかったと言う噂もあるのだ」
どうも話が胡散臭い。枢機卿の暗殺から始まる大戦と各国の情勢は何者かの影がちらついてならない。自分には直接関係ない事だがマルグリットを始め様々な人達が不幸になっている影で誰かが糸を引いていると思うと腹立たしくもある。
「取り敢えずコーサカ殿の報告で今回の事件のあらましは解った。パウルセン宰相や父上に報告して今後の対応を相談しよう。私はこれから帝国側と折衝になるので、申し訳ないがコーサカ殿は、一度王国に戻って父上に報告してくれないだろうか?」
「畏まりました。何かあった時はミニミネルヴァで連絡して下さい」
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カナタがマルグリット達を残して立ち去った後、ヴィルヘルムは恭しくマルグリットの前に跪き頭を垂れる。
「此度の失態は、私が奴を甘く見たのが原因です。如何様な処罰も覚悟しております」
「それには及びません。重ねて言いますが、全ては私の責任なのです。それに今は、早急にせねばならない事があります」
「...たしかに。今は王国がどう対応するか解りません。最悪の場合、事が帝国に知れるやもしれない今、直ちにワーレンハイト領に帰還するべきでしょう」
「それが賢明ですね。配下達に活動の即時停止と撤収を急がせて下さい」
そこでハンスが微妙な表情をする。
「殿下、僭越ながら奴が約束を守るか分からないのに、奴に把握されていない者達まで引かせるのですか?」
困り顔のマルグリットに代わってヴィルヘルムが答える。
「逆だハンス。今、奴は我等に引く為の猶予を与えているんだ。把握されてないと思って手勢を残し、それが後でバレたら今度こそ奴を止める事は出来んぞ。それに奴はそのつもりでは無いのかも知れんが、その使い魔は多分我等の言動を把握しているぞ」
ハンスがギクリとしてそっと視線を向けるとミニミネルヴァはじっと彼の事を見ていた。ハンスの背中に冷たい汗が流れる。
「解ったな?ならば早急に殿下の宿に戻り侍女と共に支度を整えるのだ。私も護衛として同行する」
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