トランスファー “空間とか異次元とかってそんなに簡単なんですか?”

ajakaty

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現場の事情は・・・偉い人には分からん物なんですよね? 44

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     第一章   四十話


 だいたい40代半ばだろうか、目の前に座った男は中肉中背、髪はダークブラウンで短髪。切れ長の目の他は印象の薄い顔つき、これと言って特徴の無い男だった。


 だが・・・印象とは裏腹に仕事は出来る男の様だ、いつの間にか周りの客が誰もいなくなっている。


「で、そのはどうだ。」


 すかさずミネルヴァから、


{毒物検査完了。問題ありません。}


{ありがとう、ミネルヴァ。}


 ミネルヴァからの報告と同時に、料理の一つを摘まむ・・・


「・・・言わなければなりませんか?」


 ライモンドは・・・少し苦笑しながら、


「ああ、決まりなんでな。」


「仕方有りませんね。“不味くて食えたもんじゃねぇ”」


「よし! 良く来てくれたな、歓迎する。」


「席、料理、感想、符丁を3つも使うとは・・・用心深いのは良いことですが面倒過ぎますね。」


「文句はヴィルヘルムへ言ってくれ。使者が来たという事は、こちらからの連絡は届いたという事だな?」


 ・・・やはり変事を伝える手筈は取ったようだ。ならばそれを阻止したのはギルムガン側としか考えられない。


「・・・お話の前に食事を済ましても構いませんか? 彼女は僕の連れではなく、ここに来てから知り合ったばかりです。状況の把握の為にお話を聞いていた所なんです。」


 ざっとロアナと知り合った経緯を説明する。ライモンドは少し驚いた顔をして、


「おまえさん?もしかしてローランドの娘か?」


「・・・親父の事を知ってるのか?」


「俺はな、これでも元々アルブレヒト公が領地の発展の為に集めた冒険者だったんだよ。あの頃のここらは・・・本当に魔物が多かったんだ。そのの為に集められたのが俺達やおまえさんの親父だったんだよ。」


 どうもロアナの親父さんは、ライモンドの知り合いだったようだ。


「親父の奴、そんな素振りぜんぜん無かったぞ。」


「おまえさんの親父が、この領地に来たのが15年程前だ。その時におまえさんは3才、覚えてなくても無理ねえ。親父さんはこの領地に来てすぐ引退しちまったしな。」


「・・・その頃なら親父もまだ若いのに、なんでまた?」


「魔物相手の冒険者なんぞ妻子持ちがするもんじゃねぇ、親父さんは元々この間引きを最後に引退を考えてたんだよ。だがな、あの時も馬鹿な冒険者が、エルグラン山脈のギドルガモンにを出してな・・・」

 
 どうも・・・話の雲行きが怪しい。


「手を出したのは・・・親父さんをライバル視していた冒険者らしい。あの時のローランドは冒険者として最盛期だったと思う。そのローランドに張り合おうとしていた冒険者だ、それなりに強かったんだろうな。怒り狂ったギドルガモンは周辺の村を蹂躙し尽くして領都までやって来た。親父さんを含めて領都にいた戦力は正に総力戦だったそうだ。やっとの事で追い払ったが、運悪く大公妃殿下が女子供を集めて避難していた領主館の一角に奴のブレスが直撃してな・・・大公妃も、おまえさんのお袋も・・・」


「ライモンドさん!」


 そこまで話してはっとする。そう、ロアナの様子からすると、母親の死の状況は知らない可能性がある。


「ああ、気にすんなよ。お袋がギドルガモンのせいで死んだってのは聞いてるよ。領主館で死んだってのは知らなかったけど、二度と奴のせいで誰かが死なない様に見張ってる、って親父が毎晩の様に言ってるからな。」


「すまん・・・まあ話を戻す。ローランドは防衛戦での目覚ましい働きで、大公様から近衛兵に取り立てる話が来たんだが、妻を失って娘を育てなければならないと丁重に断った。ならば村をやるから余生を静かに暮らせば良いと言われたんだ。だが、何故かは分からんが、ローランドはエルグラン山脈に一番近い村を復興する道を選んだ。」


 冒険者を引退した経緯は分かったが、少し合点がいかない。


「・・・小さな娘さんがいるのに、そんな所をわざわざ選んだのは何故なんでしょう?」

 
 そこでロアナが口を開く。


「多分、親父は・・・“自分を敵視した人間が、ギドルガモンを呼び覚ました事”を気にしてるんだと思う。いつもギドルガモンアイツを二度と呼び覚ましちゃいけないって言ってるからな。」


 カナタにしてみれば、それは考え過ぎだと思うのだが・・・きっと責任感の強い男なのだろう。

       
「なんにしろ、奴はそう言ってギドルガモンを見張りながら村の再建をする道を選んだ。幸い先の大戦では、ギドルガモンの被害を想定してエルグラン山脈一帯は非戦闘地域として隔離された。それだけが理由でもないが、大公領からアルバ地方に呼び名は変わっても、なんとか奴の村は存続できたんだ。」


「よくグラム神聖国に目を付けられませんでしたね。」 


 そこでロアナが返事を引き継ぐ。


「いや、来ることは来たんだ。だけど俺達の村は、それこそ100人弱しか居ない村だからな。しかも森の奥で農地も極僅かだし、わざわざ徴税官を置くほうがコストがかかるだろう? だから正直に納税した年なんてほとんど無いし、国が変わった事は、そんなに困ってなかったんだよ・・・今回の事があるまではな。」


 なる程・・・話を聞く限り、ローランドと領主だった大公は、さほど縁深い訳では無いらしい。まぁ村を貰ったとはいえ、妻の事を考えれば大恩とは言えないだろう。


「だから、現領主が逃げ出してたって聞いて腹は立ってるが・・・それよりも、奴らがギドルガモンに余計な事をする前に止めないと・・・とんでもない事になる!そっちの方が心配なんだよ!」


 なる程、彼女の立場からすれば、どこに話を持って行けばいいのか分からない訳だ・・・


「そうか・・・ところでお前さんの名前をまだ聞いて無かったな。符丁でヴィルヘルムからの使者なのは分かったが・・・向こうではこちらの現状をどう考えてる?」


「・・・申し遅れました。僕はカナタ・コウサカです・・・ヴィルヘルムさん達の事を、ここで話しても構わないのですか?」

 
 ちらっと、ロアナに視線を飛ばしながら聞いてみる。


「まあ、ローランドの娘なら構わないだろう・・・ここで見聞きした事は、他言無用で頼む。」

 
 ロアナは無言で頷く、なんと無くだが、彼女もに気づいて来てる様だ・・・


「では・・・まずは、これを読んで下さい。ただ・・・まだそちらからの連絡は、彼等に届いていませんよ。」


 そう言った瞬間、ライモンドの顔色が変わる。


「じゃあ・・・サブリナはヴィルヘルム達の所に着いて無いのか?」


「・・・サブリナさんの事は、私には分かりませんが、まずはそれを見て頂きましょう。」


「・・・分かった。ちょっと待ってくれ。」


 そう言ってライモンドは封書を開いた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「なんてこった! これが本当なら、お前さんヴィルヘルムに勝ったのか?」


 驚く所はそこか?


「・・・ええ、まあそうですね。」


「まあ、ここに書いて有る事が本当なら・・・殿下も少し肩の荷が降りたって事だな。本当に俺達の事なんぞほっといて幸せになって欲しいぜ。」


「・・・あなた方は解放を望んでいるのでは?」


「そりゃ大公殿下の治世の時は、ここらも随分と良い所だったが・・・ここらがグラム神聖国に奪われたのは、別にマルグリット殿下のせいじゃない事位分かってるさ。」


 やはり・・・彼女の部下や協力者達の全てが、解放を望んでいる訳では無いらしい。少なくとも、マルグリットにを求める者は居ないだろう。


「取り敢えず向こうの状況は分かった。使いに出したサブリナの事も気になるが・・・明日、仲間達を集めて対応を考える。取り敢えずお前達は泊まっていけよ。」


「あたしもいいのか? 部外者だぞ。」


「今更慌てても仕方有るまいよ。取り敢えずは腹一杯食って良く寝ないと、良い知恵も浮かばん。」


「・・・分かったよ。ただギルムガンの奴らが討伐に出るのはそんなに先の事じゃない。それまでには・・・気に食わないけど、グラム神聖国の奴らに報せないと、親父もそんなに抑えてられないと思う。」
 

 ロアナが表情を曇らせる。やはり心配しない訳がない。


「お父上はどうやって彼等を止めて居るんです?」


「ギドルガモンの住処に行くには、満月の夜に奴の住処に繋がる洞窟でをしないと行けないんだ。だから、それ迄はすると思うんだけど・・・」


 どうも歯切れが悪い。
 

「奴ら、その儀式を手伝わせる為だと思うけど・・・魔力の高そうな人間を捕らえて来てたんだ。出来ればそいつも助けてやりたいしな。」


「ちょっと待って下さい。その人の風体は分かりますか?」


 どうも嫌な予感がする。


「そんなの分かんねえよ。なんせを頭からかぶってたから・・・声も聞けないし男か女かもわからねぇ。」


 ライモンドに視線をやると顔色が青い。


「・・・サブリナかもしれん。」


 ・・・この世界に来てから、どうにも事態が改善しないのは何故だろう・・・

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