トランスファー “空間とか異次元とかってそんなに簡単なんですか?”

ajakaty

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現場の事情は・・・偉い人には分からん物なんですよね? 52

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     第一章  四八話

 ギドルガモンが、グラブフットの放った重力魔法に捕まっていた丁度その頃、幻晶の回廊から遠く離れたロアナ達の村では・・・

「おい! ありゃあ一体どうなってる・・・」

 ギルムガンの侵攻部隊を拘束していた村人達が、エルグラン山脈の変化に困惑していた。

 村人達のうちの一人が、ロアナに異変を告げると、慌てて屋外に出たロアナが、目に飛び込んで来た光景を見て

「こんな事初めてだよ・・・」

 思わず呟いた。そこには常に稜峰を覆い隠していた黒雲が全て霧散し、満月の月明かりで雄大な山頂を露わにしたエルグラン山脈が鎮座していた。

「オヤジ、カナタ、頼むから無事に帰ってくれよ・・・」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ギドルガモンは、グラブフットの放った重力魔法に力で対抗するのは諦めたようだ。無駄に動くのはやめ、その場で最後に残った首が大きく顎を開く。それを見たグラブフットが怪訝な表情で呟いた・・・

「?ブレスを吐くつもりか? だがそんな方向に吐いても無意味だろう・・・」

 彼の疑問は半ば独り言のつもりなのだろうが、ミネルヴァからの最後の能力を聞いていた僕は、

{ミネルヴァ! 魔法構造式プログラムの準備は?}

{87%まで構築完了、完成まで4分12秒かかります!}

 この魔法の規模からして、構築に暫く時間がかかるのは分かっていたが・・・

 ミネルヴァに確認している間に、ギドルガモンは開いた顎を震わせ、周囲の大気を吸い込み始めた。見る間に大気だけではなくを縛り付ける“漆黒の魔力”も同時に吸い込み始める。
 
 ヤツが吸い込み始めてから、漆黒に染まっていたヤツの体色が、顎の周りから急速に金色に戻っていく。それを見たグラブフットが、

「なんてこった、ヤツめ! 魔法を吸収しているのか?」

〈リンドルム! ヤツがされているうちに、ありったけの竜巻を喰らわせろ! 〉

〈命令受諾! “範囲指定型殲滅魔法”ヲ行使シマス。〉

「グラブフットさん・・・今からヤツに追撃をかけます。“自分の身”位は自分で守って下さい。」

 ヤツの行動に驚いていたグラブフットだが、かなりの距離をひとっ飛びで離れる。風魔法で補助したのだろうが・・・この男もかなりの化け物だ。とびすさった先で、今度は自前の結界らしき物を展開している。直後にリンドルムがヤツに向かって魔法を放った。

魔力エネルギー粒子充填完了・指定範囲確定・全弾拘束解放! 無限のインフィニット爆風ブラスト!〉

 未だ、体躯の大部分を“重力魔法”の影響下に置くギドルガモンに、猛烈に勢いを増した大量の竜巻が襲い掛かかる。今度は、流石のギドルガモンも成す術なく竜巻を喰らった。

「GGy@OOOGAAAWYA@oRYaaaaー!!!!」

 喰らったギドルガモンが、説明し難い咆哮をあげる。恐らくは血液なのだろう、翡翠色ジェイドグリーンが、大量に飛び散って風にけぶる。

 今リンドルムテンペストワイバーンが放った竜巻は・・・先程とは違い、只の“風が渦巻いた物”ではない。土系魔法を並行展開し、大量の“鋭利な小岩”を内包する事で、威力を飛躍的に向上させている。

 もし仮に・・・人が無防備に食らえば、その場から血煙だけを残して、消失しかねない物になっているのだ。強靭な竜鱗のおかげで、高い防御力を誇るギドルガモンも、無傷では済まなかった様だ。

「よし! これで暫くは・・・」

 リンドルムの持つ魔力エネルギー粒子のかなりの部分を犠牲にしたが深手を負わせる事が出来た。これでまでの時間稼ぎが出来れば・・・そこにグラブフットからの警戒を促す声が飛ぶ。

「おい!にしてる余裕はなさそうだぜ!」

 視認出来る体表の大部分から、翡翠色の体液を流していたギドルガモンだが、重力魔法の効果を示す漆黒に染まった部分は足先と翼の半ばまで消えてしまっていた。そして・・・魔力を吸い込んでいく事でその姿にも変化が現れる。先の攻撃で負った全身に及んでいた傷が、魔力を吸い込むにつれてどんどん再生していくのだ!

「まさか? 吸い込んだ魔力を使って身体をしている?」

{ミネルヴァ? ギドルガモンは魔法を無効化するだけでなく、吸収した魔力エネルギー粒子を、傷ついた身体を癒やす “治療魔法” に転換したのか?}

 事前に3つ目の首が“魔法を無効化”する事は掴んでいたが・・・ヤツに魔法を使うと、逆に魔力を供給する事になりかねない。

{外部から観測した限りでは、吸い込んだ魔力で魔法を起動した訳ではなく、魔力を体組織に変換しています!恐らくヤツの身体は、魔力で構成されている擬似魔力体サスペクトボディと同系統の技術だと推察されます。そして恐らく・・・ヤツは無尽蔵に魔力を吸収する事も、吸収した魔力を転用する事も出来ない筈です。}

{ん?どうしてだ?}

{まず、無条件・無尽蔵に吸収出来るならば初撃も追撃も、相殺してかわしたり、まして喰らって傷つく事もない筈です。まして、そのまま“エネルギー源”として活用出来るなら・・・ヤツはエルグラン山脈に縛られる事はないでしょう。}

{なる程、その通りだな。という事は・・・}

{はい。ほぼ間違いなく“魔力エネルギー粒子の吸収”には、ある程度の制限が存在すると考えられます・・・さらに吸収した魔力を“ボディの修復”にしか使用していない所を見ると、魔法や活動エネルギーへの転用は出来ないと推察されます。}

{・・・・改めて考えたら、ほとんど無敵なんじゃないか?}

{・・・やはり通り、魔力由来の攻撃ではかなり不利かと思われ・・・退避します!!!}

 瞬間! 今までいた所を、極太のレーザーがに通り過ぎる。なんとかかわせたが、グラブフットの所にも直撃した筈だ。

「・・・・?」

 慌てて1から外を確認する。グラブフットのいた所は、地面がいた。グラブフットは・・・やられたのかは分からないが、その場には見当たらない。少し離れたヤツギドルガモンの死角に出て、グラブフットを探す。

「・・・こっちだ。俺を探してるならな・・・」
 
 反射的に声がする方向を見ると・・・片膝をついて、全身から煙を吹き上げたグラブフットがいた。

「全く・・・たまんねえな・・・分かっちゃいたが・・・厳しいぜ・・・」

 彼の状態は・・・致命傷はかろうじて避けた様だが、とてもヤツと戦えるとは思えない。

「あんた、頼みがある。ヤツは・・・責任を持って俺が仕留める! だが、俺も恐らく命を落とすだろう。しでかした事に責任が取れるとは思わんが・・・事が成った暁には、少しでいいから地母神の涙ガイアラドライトをアローナに持たせてやってくれ。そうしてくれれば俺の目的も達成出来る。王の命が助かりさえすれば・・・ギルムガンも後の事はなんとでも取り繕うだろう。頼む・・・」

 また・・・とんでもない事を言い出す男だ。

「あなたが倒してくれるなら・・・僕が何かをする必要はないでしょう。今はアローナさん達を保護しては居ますが・・・それも目的あっての事です。僕が助けた等と思わないで下さい、ましてや・・・さっきは彼等を見捨てたくせに・・・自分も、僕が対価も無しに働く様なお人好しに見えるなら・・・」

「ハハハ!流石にそんなお人好しには見えんさ!だが、どんな理由でもアローナ達を助けた事実は変わらんだろ? 後のない俺からしたらチップ自分の命だけで幸運さ!ほとんどの死に逝く者には、って事を考えればな。それに・・・」

「何です?」

「多分アローナを助けてくれれば・・・あんたの利益にもなる。俺のは良く当たるんだ、聞いておいて損はないぜ!」

 そう言ってグラブフットはヤツギドルガモンに向き直り、認識阻害魔法を展開しながら詠唱を始める。その後ろ姿を眺めて、

ねぇ・・・残念ですがハズレですよ。少なくともって部分はね・・・ミネルヴァ!」

{準備が整いました。何時でも行けます!}
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