5 / 27
__エマというひと。
しおりを挟むエマがまるで人魚のように波に髪を靡かせ泡と戯れている一方その頃、ビーチでは──。
「お前達! どうして此処に! というかどうやって此処に!?」
「だっ、だだだ旦那様……!?」
「と、クリスティーヌさま……ッ」
エマお付きのメイド二人の前に現れたのは、自身の旦那様と、それに真っ白な日傘をさして誰かさんとは正反対のひらひらなドレスを纏う女性。金の艷やかなウェーブの髪に色白で桃色の唇。旦那様の一年前からの恋人、クリスティーヌだった。
「誰が此処まで船を運転してきたんだ! しかも一番高い船で! シルバーが連れてきたのか?」
「え、や、それはその、あのっ」
「それがそのなんと言うかその」
「いやだわ。そんなに焦ってどうしたというのかしらね? お陰で古い船に乗ってきてあげたのだから隠さずに教えてほしいわ」
「クリスティーヌの言う通りだぞ! 正直に申してみよ!」
一年前からの恋人という名の『不倫相手』を前にしてメイド達は、今しがた海に潜っている奥様の事を正直に申し上げて良いものか迷っていた。
しかし人間そんなに息は長く続かず。どう誤魔化そうかと考えている間にザバーン、と海の底から現れた美しき我らが人魚。
「ぷはっ──! ねぇ見て! とっても素敵なものを……見つけた……って、旦那様!?」
「ッ! エマ!?」
「……エマ? あら。まさかこの方が奥様?」
「おおおおおオクサマこれはそのあの」
「こここここコチラはそのあのえっと」
驚く夫婦と余裕な笑みを浮かべる不倫相手。それから焦るメイド。
エマはメイド二人の反応と旦那様の顔色で、見ず知らずの女がきっと旦那様の恋人であると察した。
「ああ、もしかして貴女がクリスティーヌ様ですか」
「あらわたくしのことご存知なの? ふっ、それにしてもその格好……」
「どどどうしてエマが!? それに、その! 君はッ! 肌が……ッ!!」
恋人同士がまじまじと眺める視線の先は、ほんのり焼けた肌を飾るブルーグリーンの水着だった。たった下着ほどの布面積。
あらイケナイ、とエマはブラウスを一枚羽織ると、お邪魔よねと一言。
「大漁だし面白いものも見つけたから私達は帰るから安心して! 二人とも行くわよ!」
「「はい畏まりました!」」
「ちょ、誰が君を此処まで……! まさか男が……ッ! エマっ、エマ!?」
隣に女を連れている夫にそんなこと言われたくないが、流石に場の空気が悪くなるのでエマは無視して船へ向かう。乗ってきた船の隣には、クリスティーヌの言った通り少し古い船が停まっていた。明らかに手入れのなされていない古い船。構わずピカピカの方へと乗り込んだ。
メイド二人が席についたのを確認し、エンジンを始動。そしてスピードが乗ってくると、ビーチで寛ぐ旦那様に指二本で挨拶を飛ばすのだった。自分が操縦してきましたよとアピールも込めて。
「あーっ! 奥様っ、服をお召になって下さいーーっ!」
「せめて港に着くまで……! 港に着くまでにはーーっ!」
そして怒られたのだった。
20
あなたにおすすめの小説
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】16わたしも愛人を作ります。
華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、
惨めで生きているのが疲れたマリカ。
第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
私は愛されていなかった幼妻だとわかっていました
ララ愛
恋愛
ミリアは両親を亡くし侯爵の祖父に育てられたが祖父の紹介で伯爵のクリオに嫁ぐことになった。
ミリアにとって彼は初恋の男性で一目惚れだったがクリオには侯爵に弱みを握られての政略結婚だった。
それを知らないミリアと知っているだろうと冷めた目で見るクリオのすれ違いの結婚生活は誤解と疑惑の
始まりでしかなかった。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる