【本編完結】愛だの恋だの面倒だって言ってたじゃないですか! あ、私もか。

ぱっつんぱつお

文字の大きさ
26 / 175

公爵の憂鬱【執務室にて】

しおりを挟む

 先日──、婚約者の〈天宮 千聖〉が城へ来た。

 陛下に用があると言っていたが、隣にはミハエルが居た。彼のジャケットを羽織り、仲睦まじげだった。
 まるで私には見付かりたくないと言わんばかりにミハエルは挙動が不審で、反対に彼女は堂々としていたが、公爵家についての噂が回ると面倒なので二人には釘を差した。

 彼女が誰と恋をしようが関係ないが、ミハエルは伯爵家長男であるため〈来訪者〉の彼女と結婚すると貴族のパワーバランスが少し変わってくるだろう。
 そうなるのを恐れる侯爵家や、他の伯爵家が黙っていないだろうが、ふたりはそこまで考えているのだろうか。本気で考えているのなら手助けしてやらなくも無いが、そこまでする必要も無い。
 私がしてやれるのは彼女がこの世界で自立出来る知識を与えるぐらいだ。私の人生には関係無い。

 そう思って彼女を見ていたが、体調が優れないのか嫌に顔色が悪い。指摘したあとで、彼女が初めて笑った。
 いや。正確に言えば、口角が上がった。『笑った』というには程遠い笑み。
 しかし思い返せばミハエルノウマに愛しく微笑む横顔を一度見た気がする。
 こんな場所でひとり不安だろうと、その馬が〈ミハエルノウマ〉だと紹介すれば「くすくす」と笑う声が隣から聞こえてきたから、あとはミハエルに任せておけば良い。あいつはどうも年上の女性に好かれるようだから、丁度良いと思ってミハエルに指示した。
 ミハエルは特に格上の貴族女性に「可愛い可愛い」と持て囃されている。私からしてみれば強くて頼もしい頭の良い部下だ。どこが可愛いと思うのか、女性の考えることは分からない。


 そして私は陛下に呼び出された。
 行ってみれば思った通りに彼女が居て、どうせまた女の面倒な我儘だろうと考えていた。『放っておいてほしい』だなんて言葉、大体は反対だ。大体女性は反対のことを言う。
 構ってほしいとか、プレゼントが欲しいとか、自分の事を大事に想っていないだとか、そんな事を陛下に言っているのだと、そう、勝手に思った。今までそうだったように。

 けれど、やはり、彼女は他の女性と違った。
 確かに私が至らなかった。
 彼女はひとりの人間だ。されたら嫌な事ぐらいあっただろう。公爵家の権力と財産を惜しみなく注いだ教養がまさか彼女にとって『嫌な事』だとは思わなかった。こればかりは知ろうとしなかった私が悪い。
 それを笑う陛下はどうかと思うが、私には止めるすべがない。

 まずは〈来訪者〉について知ろうと神官達の元へ行けば、次々と話が広がり収拾がつかない。
 彼女がいた世界では女性も男性のように働くのかと驚いたが、よく考えればこの世界でも女性だって少なからず働いているからその比率がただ単に多いだけだろう。
 ならば彼女が居た世界では男性が社交をするのだろうか。分からないことがまだ沢山あるが、領地も騎士団も抱えていると時間が足りない。
 定期的な使用人からの報告も纏めなければならない。
 疲れが溜まっているが、あたらしい世界彼女を知るたび自分の世界も広がっているようでなかなか楽しいとも思う。

 けれどひとつ気になった事がある。彼女は嘘をついていた。
 「ドレスの背中のリボンは枝に引っ掛ってしまった。だからミハエルのジャケットを借りた」と言っていたが、メイド長の報告によれば、「何をしていたのかは遠くからで見えなかったが、ミハエル様が丁寧に背中のリボンを解いていた」と言う。
 その前には親しげに耳打ちまでしていたらしい。
 そしてそのリボンは何処へ消えたのか、そして何故嘘を付いたのか。
 どうだって良いが、面倒だけは御免だ。


 そして今日──、また彼女が城へ来た。
 私の執務室の前でミハエルと共に親しげに耳打ちしている。
 職場で浮気だの仮面婚約者だの言っているが、どうか噂の格好の的であるこんな場所では遠慮してほしい。
 彼女のドレスのポケットには、無くなった筈のリボンが少しだけ見えている。今までミハエルが持っていたのだろうか。
 何故、彼女のリボンを持つ必要があったのか疑問だが、ふたりが親しいのは確かだ。
 彼女の『運命の人』はミハエルなのか。

 彼女はミハエルとの関係を誤魔化すためか、「瞳が綺麗だ」と私の目を真っ直ぐ見て言う。
 嘘をついているようには見えないが、女とは簡単に嘘をつく生き物だ。金や地位が目当てならそう正直に言えばいいものを、わざわざ「お慕いしております」と嘘をつく。
 何故嘘をつく必要があるのか。正直に言ったほうがよっぽど好感が持てるというのに。

 そんな事も相変わらず私にとってどうでもいいが、少し苛々いらいらするのは疲れているからだろう。
 そろそろ家に帰ってちゃんと休まなければ。

 だから彼女を突き放すような言い方をしてしまった。
 彼女も彼女でそれに言い返したのか、不機嫌そうに聞いたことのない言語を呟いた。向こうの言葉だろうか。
 ともかく私も帰って休みたいから、彼女には親しいミハエルと先に帰ってほしかったのだが、先程まで居たはずのミハエルが居ない。頭の良い男だから雰囲気を察したのだろう。
 ありのままの感情を口に出せば彼女と息が合った。
 ミハエルを『あいつ』と呼んでいた。
 本当に彼女はミハエルとそういう仲なのだろうか。また私が知ろうとしていないだけなのか。けれどありのまま聞くのは野暮なものだ。

 そして、彼女は『笑った』
 初めて見た横顔、ミハエルノウマの時ほどでは無いが、『笑った』心が浮いたような感覚だ。
 次に悪巧みをしている笑みを浮かべるから、彼女は思ったよりも感情が豊かなのだと知った。
 他の皆にはまだ私の知らない表情かおを見せているのだろうか。それは一体どんな表情かおだろう。

 しかしそれを知ったところで、私には関係無いのだが。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする

矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。 『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。 『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。 『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。 不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。 ※設定はゆるいです。 ※たくさん笑ってください♪ ※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...