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嵐の夜に
しおりを挟む夏の嵐がやってきました。
少々の地震ならば慣れているが、ここまで荒れた天気はさすがに怖い。風で飛ばされそうなものは全部屋敷の中に仕舞い、災害に備えて今日は騎士団の皆も自宅待機。
ブルーが上司だからなのか、かなりホワイトだと思う。
(青だけど白……哲学かなにかですか……?)
「木が折れそうなぐらい風強いな……雨やば」
「窓から離れろ。枝が飛んできて硝子が割れたら怪我するぞ」
「確かに」
「カーテンも閉めておけよ。もし割れた時には飛散防止になるから」
「はーい」
夜中に直撃の嵐に備え、今晩はブルーの私室で寝ることとなった。
最近は距離感がおかしいから躊躇したものの、自然災害を舐めてはいけないと知っているから素直に従った。屋敷の通路だって完璧には慣れていないし、逃げるとなったら多分怪我をする。
カーテンを閉め、窓から離れると、柔らかに腰に手を回され「今日は酒もおあずけ、もう寝るんだ」と、ベッドに誘導された。
一辺倒は良くない見方を変えてみるかと思い、今一度ブルーを客観的に捉えると、世話好きなただのお兄さんなんじゃないかと感じたから、本当にただの世話好きなんだと思う。
(私もただ世話されてるだけ……そうだよね……まさかね)
ベッドに入ると雷が鳴り響く。
激しい風の音と打ち付ける雨が不安になる。
「え。やば、こわ……」
「大丈夫だ。私がここに居るから安心して寝ろ」
「っ…………はい」
少しでも距離を取ろうと背を向け寝ていた私に、ぎゅ、と後ろから抱きつくブルー。普通に驚いたし、なにより温もりがじわじわ身体を侵食してゾクゾクする。
人でも動物でもハグをされると安心感を覚えるものだが、相手は一人でも生きていけそうな私だし、一人でも生きていけるであろうブルーがする行為なのか。
(は……? なんなのこの人……私のこと好きなの……? いや、まさかでしょ。最初の頃のブルーさん思い出してみろよ自分……)
出会った頃、婚約した頃を思い出せば、やはりこの人が私を好きになるなんて有り得ない。そもそも誰かを好きになるかさえ怪しい。愛だのなんだのくだらないと言っていたし、婚約者というもの自体面倒そうだった。
いやいや待て待て。ミハエルだって言っていたじゃないか。自分だって女の子を好きになるんだ、と。ブルーだって何処かの誰かを好きになるはずだ。
(それが、まさか……わたし……?)
いやいやいや待て待て待て。何処かの誰かを好きになったとしてもこんな出会って一年も経ってない女、やはり有り得ない。周りに沢山居るじゃないか。選り取り見取りで何故わたしを選ぶ。
もしかして己の性的欲求を満たすため私に優しくしているのか? そういった行為のときだけやけに優しい男なのかこいつは。ブルーのプライベートな態度など知らないからそれも一理ある。
たとえ私がただの性処理道具ではなかったとしても、そりゃあ人生のいつかは、いつかは子を作らねばならないと思ってはいる。けれど、遠い未来の事だと思っているから、まだ私にそんな気は無い。
しかしながらこの状況を見てほしい。
(え……? いま……? 今がその時なの……?)
ゴクリ──。
生唾を飲むとくびれに巻き付いていた指がつるつると骨盤から太ももへ這っていく。
まさか本当にその時なのか。股を開く覚悟だってしていないのにいきなり子を孕むなんて無理すぎる。腰に手を回すだなんて性的欲求の表れじゃないか。
(あーーっ……! ちょ、そんな風に撫でないでくれーーっ! え!? これは本気ですか……!!?)
ついには耐えられなくなって、「あのっ……!!」と暗闇に声を響かせた。それはもう雨風に負けないように。
「どうした?」
「これだけはっ、言わせてほしいんですけど!! っわたし! まだ親になる覚悟は出来てませんので……!!」
雷が轟いて、煩く脈打つ鼓動が掻き消されて丁度良い。
まともな親だとは言えない家庭で育ったのに、大して出来た人間でもないまだまだ未熟な私なんかが、親として責任を果たせるとは思えない。
背を向けているから彼の顔は見えない。彼はどんな表情をしているのだろう。私は恥ずかしくて恥ずかしくてこの状況に耐える表情は出来れば見られたくない。
ブルーは暫しの沈黙後、「馬鹿かお前は」と、久し振りに粗暴な言葉で否定した。
「へ……??」
「私だってそんな覚悟無いぞ」
「そ、そうなんですか……!?」
当たり前だ、とブルー。
執事のマルコには最後の性行為を確認されるし、全く想像してなかったけど初花の儀なんてものがあるし、政治的な結婚だからと高を括っていたが、そんな話をされれば誰だって思う。
(あぁ……“血筋”を守らなきゃなんだなぁ……)って。
結婚したってお互い好き勝手やっていれば良いんだしと考えていた過去の自分に鉄槌を下してやりたい。何にだって責任というものは伴うが、これに関してはちょっとハードルが高すぎる。
まあ何にせよまだ“その時”じゃないのかと安心していれば、腰をグイと引き寄せられ仰向けにされた。
驚いて声も出ない内に脚の間にブルーの膝が割込んできて、押さえつけるように手を絡められた。急にそんな寝技かけられても対応出来ない。
「親になる覚悟は、という事はそれ以前の覚悟は出来ていると?」
そう言ってこの前みたいに悪い顔をして笑う。
確かにそうとも取れる言い方だが、決してそういう意味ではない。固まって言葉も出ない私に、お構いなしと言わんばかりに顔を近付けてくる。
「ッ! 断じて! 断じてっ……!! っひぅ……!」
銀の髪が私の頬を撫で、右の首筋と鎖骨の下にキスをされると、「そんなに否定されると私も傷付くのだが?」と言ってするりと離れた。そして、寝ろ、と一言。
寝れるわけ無いだろうが。馬鹿野郎なのか。
(ナニコノ寝技……ッ! この男慣れてるんですけど危険なんですけど……! つか私は処女でもないくせに何を焦っているんだ恥ずかしい!!)
外は未だ嵐の中。
打ち付ける雨風と轟く雷、不安と緊張でこれでは吊橋効果されてしまう。
また彼の腕がくびれに巻き付く。
ぽんぽん、と子供を寝かしつけるように優しく叩かれ、そうしていつの間にか眠っていたのだった。
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