インフルエンサーを目指す幼馴染が僕の前だけで見せる姿が可愛らしいから語りたい

ちゃんきぃ

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中立になってみた!

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 企画会議が行われた2日後の放課後。
 目前のテストに備えた部活停止期間が迫る中、僕は兎亜とあ双葉ふたばに呼び出される。
 場所は地元のアパレルショップ。
 どちらかといえばおしゃんな方々が利用する店舗で、僕も1回だけ来たことがあり、これが2回目の来店になる。つまりはあまり縁がない店だ。
 そんな場違い空間に僕が召集された理由は現地で双葉の口から聞かされた。

阪梨さかなしくん、おつー 今日阪梨くんには公平なる対決のための見届け人と荷物持ちをやって貰おうと思って呼んだの」
「絶対後半が本題だろ」
「いやいや、前半も大事だから。今回のファッション対決の予算は1万5千円以内なんだけど、不正がないよう料金チェックして貰いたくて。お互いに確認し合ってもいいんだけど、本番までコーデ隠し合ってる方が面白いから」
「そんな大事な内容を僕に喋っていいのか……?」
「だって、阪梨くんにはやることバレてるんだし、こうなったら最後まで巻き込んだ方がいいでしょ」
「そうは言うけどなぁ」
「……って、どうよって聞いたらとあも賛成したから呼んだわけ」
「えへ。ごめんね、礼人れいと
「兎亜も乗ったんかい! ああ、わかった。やればいいんだろやれば」

 僕が渋々言うと、兎亜と双葉はハイタッチしながら喜んだ。
 バチバチの勝負するんじゃなかったのかと思いつつも、仲が拗れていないようで僕は少しだけ安心する。

「じゃ、選ぶのに制限時間とかはないけど、1時間くらいを目安にする感じ」
「1時間!?」
「え。30分増やした方がいい?」
「長い方で驚いたんだよ。1万5千円使い切るのってそんなに難しいのか」

 僕はそう言った途端、兎亜と双葉から責めるような目で見られる。
 やってしまった。よく知らないくせに適当なことを口走ってしまった。

「阪梨くんさぁ。時間とお金の感覚どっちも間違ってるんだけど」
「使い切るどころか足りない可能性の方が高いんだよ? これでもキリがいいように1万円にしようかと悩んで、それでも物足りないコーデにしたらいけないと思って5千円増やしたんだから」
「とあ、もうちょっと日頃から阪梨くんを教育しないとダメだよ」
「うん。ファッションについては私も礼人を甘やかしてたところがあったけど、これを機に教える」
「な、なんか、ごめんなさい……」

 始まる前から僕はダメージを負ってしまった。
 今日の僕は料金チェック兼荷物持ち人形として生きよう。今度余計なことを喋って何か言われたら立ち直れなくなるかもしれない。

「はっ!? 私こそごめん! わざわざ来て貰ってるのに怒っちゃって……」
「え。今ので怒ってるの? この前はもっと怒ってたのに」
「そ、それは夏海なつみちゃんが……」
「だったら……これならどう?」

 そう言いながら双葉は急に僕の右腕引っ張って無理やり腕を組んできた。
 それと同時に右腕に何か感触が――

「な、なにやってるの!?」

 ――伝わる前に兎亜が引き離す。

「いや、そういえば今から対決するようなものだから、また闘争心を煽っておこうかと」
「そんなことしなくていいから!!! 私、この前のことまだ半分くらい許してないからね!」
「それなら、今のでまた全開になった? じゃ、今度こそ買い物スタートで」
「もう! 礼人も気を付けなきゃダメだよ。夏海ちゃんは……アサシンみたいなものなんだから」
「あ、アサシンなのか」
「そう、今日も常に命を狙われてると思って。それじゃあ、私も行ってくるね」

 まさか兎亜からアサシンの単語が出てくるとは。いったい誰がこんな言い回しを……たぶん僕のせいだ。
 もしかしたら普段の僕との会話は兎亜の語彙力に悪影響を与えているんじゃないだろうか。今度からお嬢様口調で話すくらいしないと兎亜に迷惑がかかるかもしれない。

 そんな冗談は置いといて、気が付けばファッション対決で最も重要なコーデ選びを見守ることになってしまった僕だが……買い物が終わるまでやることがない。
 先ほどファッション観をボコボコされたばかりの僕が店の商品を見ても暇が潰せるわけがないし、2人とも荷物持ちがいるほど買い物するわけではない(と思われる)。
 それなのに1時間待つ……待たせて頂くのは中々厳しいものだ。
 何よりこの店の空気でひとりぼっちにされるのが心細い。

 そこで僕は中立なる立場として2人の買い物を交互に見守ることを決めた。
 これで2人の服選びを見ているうちに僕のファッションセンス上がるかもしれない。そう思いながら僕は先に見つけた双葉の方へ近づく。

「あれ? 阪梨くん、どしたの?」
「見届け人の仕事をやりに来たんだよ」
「ほんとぉ? 実は兎亜に情報を横流しするために来たんじゃない?」
「そこは安心していい。今双葉が持っている服がなんて名前か僕にはわからないからな」
「……たしかに」
「納得するな!? というか、それを言うなら見届け人に僕を選んだのが間違いだぞ。もっと中立な人間を選べば良かったろうに」

 喋り過ぎている自覚はあったが、純粋な疑問だったのでそう言ってしまう。
 それに対して、双葉は名前の知らない服を戻しながら答えてくれる。

「さっきも言ったじゃん。企画バレしてるんだし、阪梨くんが一番適任だって。それに……阪梨くんもいい子でしょ。いい子過ぎるかまではわからないけど」
「……言われたことないからわからないよ」
「そう? うちは少なくともそう思ってるよ。だって、ここまで付き合わされても兎亜と同じであんまり怒らないんだから」
「双葉。言っておくが兎亜は十分怒ってるぞ。さっきのも含めて僕がどれだけ二次災害を受けたか……」
「あれはちょっとしたスキンシップだからいいでしょ? それより、うちの見張りばっかりしてるとまた阪梨くんが怒られちゃうから、とあのところにも行ってあげなよ」

 双葉はそう言いながら僕を追い払うように手を振る。
 別に探るつもりはなかったけど、双葉は我が道を行くという感じだ。この対決を持ちかけた方であるから当然と言えば当然なのだが、今日の服選びも楽しんでいるのだろう。

 一方、兎亜は……

「…………」

 とてもオシャレな服選びしている表情ではなかった。
 それは決して先ほどの双葉の行動を引きずっているわけではなく、この対決に挑む姿勢が真剣だからだ。
 闘争心に火が付いたからこそ、持ち前の程よい真面目さが発揮されている。

「あっ、礼人……これとこれだとどっちの方がいいと思う?」
「……それ、ルール的に聞いて大丈夫なのか?」
「はっ!? そ、そっか。そうだよね……ごめん」

 僕はルールを知らないので中立の立場として言ったのだが、兎亜は気落ちして反省する。
 それを見た僕は……真面目にやっているとしても何だか兎亜らしくないと思った。
 「冗談だよ~」と流せばいいところを普通に謝ってしまうのは、先ほどの双葉と比較して余裕がないようにも見えてしまう。

「…………ふぅ」

 けれども、僕は先ほどファッションのことで的外れなことを言ってしまったので、何か声をかけるのも良くないと思っていた。
 これで僕が余計なことを言って兎亜の集中力を損なってしまったら、一番大切な装備選びが台無しになってしまう可能性がある。
 それに情報の横流しではないにしても、兎亜だけに肩入れしてしまうのは今日の立場としては相応しくない……そう考えていた時だった。
 兎亜が僕の方へ顔を向けて言う。

「……ねぇ、礼人」
「どうした?」
「も、もしもの話ね。もしも私がこの対決に勝ったら……」
「勝ったら?」
「…………やっぱり何でもない」
「……何を言うつもりかわからないけど、願掛けくらいしてもいいんじゃないか? それが兎亜のやる気に繋がるなら」
「……ううん、やめておく。ほら、大きな戦いの前にこういう振りをするのって良くないじゃない? えっと……」
「死亡フラグか」
「そうそう、それ! だから、今のでキャンセルしたってことで!」

 兎亜はそう言いながら服選びに戻ってしまった。
 確かに言い切らない方が死亡フラグを回避できる可能性もあるが、中途半端に思ったままで戦地へ赴くのもそれはそれで嫌なフラグが経ってしまいそうである。

 兎亜は……何を言うつもりだったんだろうか。
 この対決は全体的に見れば小豆とあにともメリットはあるけれど、対決だけに焦点を当てるとなつみかんに勝利するのは非常に難しい。
 第2位と第4位は順位だけで見れば2つしか差がないが、登録者数やフォロワー数はどの媒体でも倍くらいの差がある。
 そんな中でも、兎亜は双葉の用意した戦場で度重なる煽りを受けて戦おうとしている。それこそ双葉が望んだ真剣勝負というものなのだろう。
 だけど、兎亜がこの対決に何の恐怖心も抱かないかといえば、そんなことはないと思う。いくら普段からランキングで比較されているとはいえ、直接対決になれば緊張感も違ってくるはずだ。
 それを紛らわすために僕へ何か言おうとしていたなら……僕がもっと食い下がるべきだったんだろうか。

「……というわけで、買い物しゅーりょー! 阪梨くん、うちもとあも1万5千円以内で間違いなかった?」
「ああ。2人とも不正はなかったよ」
「よし、それじゃ、あとは公開日までにコラボ動画とか撮って本番って感じだね、とあ」
「……う、うん」

 結局、この日の僕は中立という立場を貫いて、兎亜へそれ以上何か聞くことはなかった。
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