産賀良助の普変なる日常

ちゃんきぃ

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1年生夏休み

8月19日(木)曇り 清水先輩との夏散歩その4

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 夏休み30日目。途中で部活には行っているものの、とうとう授業から離れて1ヶ月も経つと思うと……特に身が引き締まるわけでもないけど、一つ忘れちゃいけないことがある。夏休み明けには体育祭や文化祭の前に実力テストがあるのだ。遊びつつもそれなりに勉強しておかなくちゃいけない。

 そんなわけで今日は……どちらかというと遊びにはなるけど、僕にとっては結構重大なミッションを遂行する日だ。数日前、ソフィア先輩の件を僕から清水先輩に話したところ、快く会ってくれると言ったので、二人が会うセッティングには成功した。後は今日の会合が滞りなく終われば僕のミッションは完了する。

「ウーブ君、おはよー!」

「おはようございます……」

「どしたの? テンション低いね?」

「まぁ……朝ですから」

 だけど、まさかその会う時間帯がいつも清水先輩が散歩に行く時間だとは思わなかった。流れ的には喫茶店とかに集まってのんびり話すものだと思い込んでいたから、その返事が返ってきた時、僕は目を疑ってしまった。

「だらしないわね、産賀くん。毎日、夢愛の散歩に連れられているのに」

「毎日じゃない。先週は行ってないし、頻度としても2日1回くらいだ」

 それに加えて桜庭先輩まで来ることになってしまった。ここは別に嘆かなくてもいいはずだけど、僕の立場からすると、3人の女子の先輩に囲まれるという何とも言えない居心地の中、過ごさなければいけなくなってしまった。そう、僕が心配しているのはソフィア先輩が二人と仲良くなれるかではなく、僕自身の心配だった。

 そんな僕のことはさておき、対面した清水先輩とソフィア先輩が話し始める。

「清水さん、初めましてじゃないけど……岬ソフィアです。桜庭さんとは同じクラスで、ウー……産賀くんと同じ文芸部です」

「ご丁寧にどうも。私は清水夢愛。清らかな水に夢を愛すると書いてしみずゆあだ」

 久しぶりに聞いたその自己紹介はどうやらお決まりの台詞だったようだ。いきなりこんな自己紹介された警戒してしまうと改めて思ってしまう。

 しかし、ソフィア先輩はそこには触れず、話を続ける

「それでその……清水さんはソフィアと一回会ったこと覚えてる? ほら、産賀くんと藤原くんと一緒にいた時……」

「あー 確かあれは良助にパンのお礼を言いに行った時か」

「そう! ソフィアね、あの時、清水さんに失礼な態度を取っちゃって……ごめんなさい!」

 ソフィア先輩は思いっきり頭を下げる。謝りたいとは言っていたけど、そんなに思い詰めていたとは思わなかった。

 それを見た清水先輩は顎に手を当てて考え始めた。

「うーん…………まぁ、覚えてないが、謝ってくれたなら許しかあるまい」

「本当に!? いいの!?」

「全然構わない。それより止まってないで歩き始めようじゃないか。えっと……ソフィアさん?」

「呼び捨てでいいよ!」

「そうかそうか。私も好きなように呼んでくれ」

 一瞬でムードは和やかになり、二人は散歩を始めた。僕は一瞬置いてきぼりになったけど、すぐに後を追う。

「夢愛と岬さんって何があったの?」

 桜庭先輩にそう聞かれるけど、僕もあの状況を詳しくは説明できないので、首を傾げるしかなかった。



 それから暫くは清水先輩とソフィア先輩が喋っている様子を後ろから見ることになった。二人の相性は意外に良いようで、初対面とは思えない盛り上がりっぷりだ。

「女子同士の日常会話の観察、楽しい?」

 隣を歩く桜庭先輩にいきなり指摘されて、僕は少し焦る。それを見た桜庭先輩はクスリと笑った。この人、絶対わざと言った。

「別に観察してたわけじゃないです。それより桜庭先輩は混ざらなくていいんですか?」

「そうね。頃合いが来たら行きましょうか。でも、岬さんは夢愛と話したくて来たんだからもう少しは様子見ね」

「別にそこまで気を遣わなくても……」

「そこは私も女子同士の日常会話の観察、楽しんでるから」

「えっ? そうなんですか?」

「ううん、冗談よ。産賀くん」

 やっぱり僕は桜庭先輩のことがまだよくわからないらしい。いや、一つわかるとすればポカンとする僕を見て笑っているので、僕を弄るのは楽しんでいるんだろう。

「でも、観察だけは本当かも。今日は夢愛が珍しくがんばってるみたいだし」

「珍しく……?」

「夢愛はああ見えて喋りかける人はよく見て選ぶから、こんな風に待ち合わせて知らない人と会うのはたぶん初めてのことよ」

「そうだったんですか……」

「あら、別に悪いことをしたなんて思わなくていいのよ。本人が会うって言ったんだから」

 僕の表情が露骨だったのか、考えていることを読まれてしまった。でも、清水先輩は二つ返事で返してくれたから初めてのことだなんて思ってなかった。

「まぁ、だからこそ私も呼ばれたんだろうけどね。私は岬さんとは顔見知り程度だけど、夢愛よりは話せるだろうし」

「だったら……」

「でも、私が混ざらなくても楽しそうに話してるでしょ? だから、今までの時間はちょっと成長した夢愛を見てた時間」

 そう言った桜庭先輩はどこか嬉しそうな感じがした。これも桜庭先輩との話し合いを経て、清水先輩が少し変わった部分なんだろう。

「さて、それでもそろそろ私も混ざりましょうか。何せ、私は嫉妬深い人と思われてるみたいだし、夢愛を取られないようにがんばらないと」

「えっ!? 僕は何も言ってませんよ!?」

「別に産賀くんとは言ってないわよ?」

 そんなことを言っているけど、完全に僕の方を見ながら言ってきたからそう思ってしまう。いや、僕がちょっとだけ思っていたのは事実だ。てっきり今日も桜庭先輩の方から来ていたと思っていたから。

「それに他人事みたいに言ってるけど、産賀くんも夢愛にとっては岬さんと話すために混ざって欲しい人なんだから、遠慮しちゃ駄目よ?」

「いや、僕はセッティングした本人だから来ただけで……」

「そんなところで気遣いはいらないから。ほら、行きましょ」

 そう言われて前で話す二人の方に引っ張られると、桜庭先輩はソフィア先輩に改めて挨拶を始める。そこで僕はようやく気付いた。桜庭先輩は僕が居づらそうにしているのに気付いて、わざわざ話してかけてくれたのだと。僕と桜庭先輩を関係性を繋ぐのは清水先輩だけど、それとは別に桜庭先輩は僕を見てくれている。僕はいつまでも桜庭先輩をわからないと言ってる場合じゃないかもしれない。

 それからは僕も心配など忘れて普通に楽しめる時間だった。もちろん、一人後輩の僕は弄られたりはしたけど、知り合いを交えた中で話す先輩方はいつもと違う感じがして、より仲良くなれた気がした。
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