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1年生夏休み
8月20日(金)曇り 岸本路子との夏創作その7
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夏休み31日目。部室に入るや否や、ソフィア先輩が僕を見つけて駆け寄って来る。
「ウーブ君、昨日はありがとね! おかげでゆあゆあとこりりんと仲良くなれた!」
「いえいえ。僕も楽しかったです」
いつの間にか呼んでいた二人のニックネームはともかく、昨日のミッションが大成功に終わって良かった。三人は同じ学年だし、これからも話す機会が増えるのかもしれない。
すると、今日も森本先輩の隣で作業をしている水原先輩が顔を上げずに喋りだす。
「まったく、落ち着きがないな、ソフィアは」
「あー!? みっしー、それ悪口言ってる!?」
「別に悪口じゃない。もう少しボリュームを下げたらどうだってことだ」
「むー みっしー副部長は厳しいですね~」
抗議するソフィア先輩を水原先輩は我関せずといった具合にスルーしていく。……みっしーって何だ。いや、当てはまるのは水原先輩しかいないけど、僕のウーブ君やさっき言った二人以上に独特な呼び方だ。
「ソフィア先輩。文芸部で呼ぶニックネームって誰が決めてるんですか?」
「うーん? 何となく決まってような?」
「な、なんとなくですか」
「だいたい最初に言った人のやつが定着してるからあんまり意識してなかった。ウーブ君は……誰が言ったんだっけ?」
ソフィア先輩は森本先輩と水原先輩に話を振ると、今度は森本先輩が口を開く。
「忘れちゃったけど、確かみっしーって言ったのはソフィアじゃなかったかなー」
「えー? そうだっだっけ?」
「自分で付けといて忘れるな。クラスでも若干広まって私は困ってるんだぞ」
「でも、ミッキーやミッチーみたいでいい感じじゃない?」
「結構可愛いからいいと思うけどなー ねぇ、みっしー」
「お前までみっしーって呼ぶな。産賀もないと思うだろう?」
水原先輩の言葉にとりあえず同意しておくけど、みっしー先輩を呼ぶと一気に親しみがある気がしてくるから悪くないニックネームだと思う。まぁ、ニックネームは呼ばれる側が指定するのは難しいものだ。
そんな先輩方との会話を終えて、席に着こうとすると、岸本さんが手招いているのが見えた。短歌について進展があったのだろうか。
「産賀くん、ちょっといい?」
「ああ、岸本さん、短歌の話なら――」
「ニックネームってあった方がいいの?」
岸本さんの傍へ着くや否や真剣な表情でそう聞かれた。さっきの話、聞いてたんだ。
「えっと……それは岸本さんの話か、それとも他人を呼ぶ方の話?」
「両方だと思う。わたし……ニックネームで呼ばれたことない……というより、呼ばれるような友達いなかったから」
そう言われてしまうとどちらでもいいじゃないとは言いづらくなってしまった。僕も考えながら話し始める。
「僕は無理に付けるものじゃないと思ってるけど、岸本さんはあった方がいいと思う?」
「ええ。やっぱり親しみを込める意味だと……あっ!? 産賀くんが親しみを込めてないと言ってるわけじゃないし、私も親しみを込めてないわけじゃ……」
「だ、大丈夫。わかってる。でも、それなら僕もニックネームらしいニックネームでは呼ばれないよ。男友達から呼ばれる”りょうちゃん”は結局、名前にちゃん付けしてるだけだし」
「それでも名前の通りじゃないからニックネームと言っていいと思うわ。わたしは……苗字をそのまま呼ばれることが多いから」
そう言われると、大山さんから呼ばれる「うぶクン」も敢えて「産賀くん」じゃないようにしているからニックネームらしくなっているのか。僕は呼ばれる方だから苗字や名前の簡略化だと思っていたから結構新鮮な発見だ。
「それで……産賀くんがもしわたしをニックネームで呼ぶとしたら……どう呼ぶ?」
「えっ」
「あっ……べ、別にニックネームじゃなきゃダメというわけじゃなくて、参考までに」
遠慮しながらも岸本さんの目は少しだけ期待が込められたものになっていた。だけど、岸本さんに限らず普段からくん・さん付けしている僕が良いニックネームを思い付けかと言われると……
「産賀くん……?」
いや、簡単に諦めちゃ駄目だ。こうなったからには考えてみよう。ここで「岸本ちゃん」……は何も考えてないと思われるからナシ。岸本さんの下の名前は「みちこ」さんだから「みーちゃん」……は結局ちゃん付けから脱していない。恐らく岸本さんが求めるのはもっとらしい感じだ。となると、みちこの「み」を活かして……み、み、み――
「ミッチーとかどう?」
「…………」
「…………」
「……ごめんなさい、産賀くん。急に言っても答えづらい質問だったわ」
否定じゃなく気を遣われてる感じは一番堪えるやつだ! あんまり長考したらいけないと思ったけど、よりにもよってさっき出たやつをそのまま使うのは浅はかだった。
「き、岸本さんは何か呼ばれたいニックネームとかあるの?」
その空気を誤魔化すために僕は空気を読まない質問をしてしまう。付けて欲しいと頼まれたのに本人へ聞くのは悪手に程がある。
「わたしは…………”みち”って呼ばれたいかな」
「敢えて略す感じなんだ」
「うん……あっ、産賀くんは今の呼び方でも全然大丈夫だから、気にしないで」
「わ、わかった」
僕としてもいくら略したとはいえ、名前とあまり変わらない呼び方をするのはハードルが高い。
その後も作業する中でどう答えたら良かったか考えてみるけど、ピンとくるニックネームは思い浮かばなかった。ペンネームについてまだ決めていないけど……僕のネーミングセンスだといい感じにできないかもしれないと思ってしまった。
「ウーブ君、昨日はありがとね! おかげでゆあゆあとこりりんと仲良くなれた!」
「いえいえ。僕も楽しかったです」
いつの間にか呼んでいた二人のニックネームはともかく、昨日のミッションが大成功に終わって良かった。三人は同じ学年だし、これからも話す機会が増えるのかもしれない。
すると、今日も森本先輩の隣で作業をしている水原先輩が顔を上げずに喋りだす。
「まったく、落ち着きがないな、ソフィアは」
「あー!? みっしー、それ悪口言ってる!?」
「別に悪口じゃない。もう少しボリュームを下げたらどうだってことだ」
「むー みっしー副部長は厳しいですね~」
抗議するソフィア先輩を水原先輩は我関せずといった具合にスルーしていく。……みっしーって何だ。いや、当てはまるのは水原先輩しかいないけど、僕のウーブ君やさっき言った二人以上に独特な呼び方だ。
「ソフィア先輩。文芸部で呼ぶニックネームって誰が決めてるんですか?」
「うーん? 何となく決まってような?」
「な、なんとなくですか」
「だいたい最初に言った人のやつが定着してるからあんまり意識してなかった。ウーブ君は……誰が言ったんだっけ?」
ソフィア先輩は森本先輩と水原先輩に話を振ると、今度は森本先輩が口を開く。
「忘れちゃったけど、確かみっしーって言ったのはソフィアじゃなかったかなー」
「えー? そうだっだっけ?」
「自分で付けといて忘れるな。クラスでも若干広まって私は困ってるんだぞ」
「でも、ミッキーやミッチーみたいでいい感じじゃない?」
「結構可愛いからいいと思うけどなー ねぇ、みっしー」
「お前までみっしーって呼ぶな。産賀もないと思うだろう?」
水原先輩の言葉にとりあえず同意しておくけど、みっしー先輩を呼ぶと一気に親しみがある気がしてくるから悪くないニックネームだと思う。まぁ、ニックネームは呼ばれる側が指定するのは難しいものだ。
そんな先輩方との会話を終えて、席に着こうとすると、岸本さんが手招いているのが見えた。短歌について進展があったのだろうか。
「産賀くん、ちょっといい?」
「ああ、岸本さん、短歌の話なら――」
「ニックネームってあった方がいいの?」
岸本さんの傍へ着くや否や真剣な表情でそう聞かれた。さっきの話、聞いてたんだ。
「えっと……それは岸本さんの話か、それとも他人を呼ぶ方の話?」
「両方だと思う。わたし……ニックネームで呼ばれたことない……というより、呼ばれるような友達いなかったから」
そう言われてしまうとどちらでもいいじゃないとは言いづらくなってしまった。僕も考えながら話し始める。
「僕は無理に付けるものじゃないと思ってるけど、岸本さんはあった方がいいと思う?」
「ええ。やっぱり親しみを込める意味だと……あっ!? 産賀くんが親しみを込めてないと言ってるわけじゃないし、私も親しみを込めてないわけじゃ……」
「だ、大丈夫。わかってる。でも、それなら僕もニックネームらしいニックネームでは呼ばれないよ。男友達から呼ばれる”りょうちゃん”は結局、名前にちゃん付けしてるだけだし」
「それでも名前の通りじゃないからニックネームと言っていいと思うわ。わたしは……苗字をそのまま呼ばれることが多いから」
そう言われると、大山さんから呼ばれる「うぶクン」も敢えて「産賀くん」じゃないようにしているからニックネームらしくなっているのか。僕は呼ばれる方だから苗字や名前の簡略化だと思っていたから結構新鮮な発見だ。
「それで……産賀くんがもしわたしをニックネームで呼ぶとしたら……どう呼ぶ?」
「えっ」
「あっ……べ、別にニックネームじゃなきゃダメというわけじゃなくて、参考までに」
遠慮しながらも岸本さんの目は少しだけ期待が込められたものになっていた。だけど、岸本さんに限らず普段からくん・さん付けしている僕が良いニックネームを思い付けかと言われると……
「産賀くん……?」
いや、簡単に諦めちゃ駄目だ。こうなったからには考えてみよう。ここで「岸本ちゃん」……は何も考えてないと思われるからナシ。岸本さんの下の名前は「みちこ」さんだから「みーちゃん」……は結局ちゃん付けから脱していない。恐らく岸本さんが求めるのはもっとらしい感じだ。となると、みちこの「み」を活かして……み、み、み――
「ミッチーとかどう?」
「…………」
「…………」
「……ごめんなさい、産賀くん。急に言っても答えづらい質問だったわ」
否定じゃなく気を遣われてる感じは一番堪えるやつだ! あんまり長考したらいけないと思ったけど、よりにもよってさっき出たやつをそのまま使うのは浅はかだった。
「き、岸本さんは何か呼ばれたいニックネームとかあるの?」
その空気を誤魔化すために僕は空気を読まない質問をしてしまう。付けて欲しいと頼まれたのに本人へ聞くのは悪手に程がある。
「わたしは…………”みち”って呼ばれたいかな」
「敢えて略す感じなんだ」
「うん……あっ、産賀くんは今の呼び方でも全然大丈夫だから、気にしないで」
「わ、わかった」
僕としてもいくら略したとはいえ、名前とあまり変わらない呼び方をするのはハードルが高い。
その後も作業する中でどう答えたら良かったか考えてみるけど、ピンとくるニックネームは思い浮かばなかった。ペンネームについてまだ決めていないけど……僕のネーミングセンスだといい感じにできないかもしれないと思ってしまった。
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