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第二章 地下迷宮のオルクス
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「瓶から酒がなくなるのは飲んだ人間がいるからだ、というね」
ギルドマスターは言った。
「それは」ミルコは一瞬迷った。「タウリスですか」
「今のはただのことわざだよ」
ギルドマスターは机の上で指を組んだ。
「ということを考えると、面白いことがわからないか」
「なんの話をされているのか、正直わかりません」ミルコは困惑して答えた。
「ああ…失礼」ギルドマスターは頭をかいた。「私は説明が下手で困るよ」
今日もまたギルドマスターに呼び出されている。何を期待されて呼ばれているのか全然わからないのだが、ギルドマスターはどうもミルコを自分の便利な手駒のように考えている節がある。節がある、というかそうに違いない、とミルコは思っている。
「最近迷宮の第一階層から第二階層を中心に、オルクスが目撃されているのは知っているかい」
「はい」その話を誰かから聞いた気がして、ミルコは頷いた。そうだ、あの隻眼の受付係だ。
「グルツさんから聞きました」
「うんうん」ギルドマスターは満足げに頷いた。
「おかしいとは思わないか」
「はい、少し思いました」
ミルコは言った。
「そもそもどこから?という話ですよね」
「そうだ」ギルドマスターは壁の図を指した。ギルドの建物から入獄門の周辺までが細かく図にされている。
「迷宮は国の資産でもあるからね」ギルドマスターは入獄門のあたりを指した。「この辺は高い塀で囲われているし、見張りもいるだろう?」
「つまり、入獄門以外の入り口がある、ということですよね」
「そう、それ」ギルドマスターはミルコを指さして、パチンと指を鳴らした。
「鋭いね。本当に話が早くて助かる」
「オルクスは山岳の洞窟などを住処にしています。そこから迷宮まで穴を掘って侵入してきている、ということですよね」
「そう、そうなんだが、入口を作ったとしてもすぐ塞がれてしまうだろう?」
「迷宮小人がいますからね」
その勤勉さと粘り強さ、仕事の速さと正確さは、先日ミルコ自身が目の当たりにしたのでよく理解している。
むしろその勤勉さを利用して難敵を倒したわけだけれども。
「我らが勤勉な隣人が迷宮を修復してしまうことを考えると、オルクスたちが侵入してくることはまず不可能なはずなんだが」
確かに、魔法を使って掘ったとしても一人か二人通ったあたりでレプラコーンに囲まれてしまうだろう。
「としたら」
「瓶から酒がなくなるのは」
「飲んでいる人間がいる」ミルコは引き継いで言った。「つまり」
「仕掛けがあるはずなんだ」
バッシュ・ザ・ギルドマスターはにこやかに言った。
「それを君に調べてほしい」
「で、どうするんだ」ハックが干し肉を齧りながら言った。
「まずはオルクスの目撃情報からですね。実際に被害を受けた人たちに確認を取りましょう」
「そもそも前提として」スラッシュは発酵酒の盃を舐めた。「オルクスたちは迷宮で何をしてるんだ」
「さあ」ミルコは豆をつまみながらエールを飲む。「ただ、はっきりしてるのは、これって結構大きな問題だということですよ」
「確かにオルクスは厄介な連中だが、追い剥ぎ程度の危険度しかねぇだろう。新兵が被害に遭わないよう気をつければなんとかなりそうなもんじゃねぇの」
ハックは発酵酒の瓶を倒した。もう飲み干してしまったらしい。
「入ってくるということは、出て行くこともあるということなんです」ミルコは言った。
「迷宮にしかいない魔法生物や危険な生き物が山に放たれたらどうなると思います」
「…なるほどな」スラッシュは静かに言った。
「私にとっては、これは大きな問題です」ミルコは言った。
「サンデルの山を汚すわけにはいかない。私はあそこで育ちましたから」
「まあ」ハックは気乗りしなさそうに言った。「リーダーはあんただ。手頃な依頼だとは思うよ。あのクソ眼鏡の言いなりってのがどうも気に入らないけどな」
「いったい何があったんですか」ミルコが苦笑した。「ギルドマスターと」
「さあな」スラッシュが肩をすくめる。
「そう言えば、お二人ってギルドマスターと面識があるんですか」
「俺は、ない」スラッシュは言った。「この間が初めてだ」
「ハックは」
ハックは突っ伏したまま答えない。
寝息が漏れる。
「寝たな」スラッシュが眉を顰めた。
「とりあえず明日の朝、もう一度ここに」ミルコは言った。
「まずは情報収集です。オルクスに会って生還したハンターに会いましょう」
「不意打ちでした。階段の陰にオルクスたちが隠れていたんです」
まだ少年と言ってもいい年齢のハンターは暗い表情で言った。
午前中のギルドホールに人はほとんどいない。休みの冒険者が遅い朝飯を食べるくらいのもので、テーブルに集まっているのはミルコたちだけだった。
ギルドマスターに頼んでおいた生還者として紹介されたのが目の前の新兵だ。
治癒魔法が効いて体は動くようになってきているようだが、まだ足を引きずっている。
「僕たちのパーティーはまだ二回しか潜ったことがなくて、暗鬼や兎鼠を狩るくらいでした。初めて二階に降りようとしたら」
「オルクスが襲ってきたのか」
「斧や剣を持ったオルクスたちが」新兵は顔を覆った。
「間違いなくオルクスだったのね」ミルコは確認するように言った。「厭鬼や戦鬼や大鬼ではなくて」
「豚のような鼻面をして、牙が生えてました。間違いなくオルクスでした」
僕は山育ちなので、奴らを見たことがあるんです、と少年兵は言った。
「奴らは戦い慣れていました。まるで僕らをからかうようにいたぶりながら追いつめて」
「どうやって逃げたの」
「僕は仲間を見捨てて走りました」泣き声になる。「みんな同じ故郷の友人たちだったんです。あんなに手強い敵がいるって知っていたら」
「オルクスは何人だったの」
「六人です。僕らと同じでした」
「六人」
ミルコたちは顔を見合わせる。
「ありがとう、辛い話をさせてごめんね」ミルコは少年兵の肩を叩いた。
「一人で生き残るのが辛いのは私もよく知ってる。ほら、私、疫病神なんて言われてるからさ」
ミルコは笑顔を少年兵に向けた。
「でも、必ずまた何かが始まるよ。それが迷宮でなくても」
少年兵は頷いた。
「さて」少年兵が宿舎に戻るのを見送りながらハックが言った。「どう思う」
ミルコは腕を組んだ。
「六人というのが、気になります」
「偶然だろう」
「オルクスに会ったことあります?」
「ああ」ハックは頷いた。「山で、奴らの縄張りにうっかり入ってしまって、逃げたことがある。その頃俺はまだガキだったけどな」
「オルクスは狩りをするとき、大体三人くらいですよね。部族間の衝突とかなら別ですけど」
「そう言われれば、そうだな」
「オルクスは六人ひと組で行動している。これってあれじゃないですかね」
ミルコは眼鏡を上げた。
「マカリスター・セオリー」
「迷宮で生き残るためには、六人が最適だってあれか」
「つまり、オルクスの目的は、迷宮内でハンターを襲うことなんじゃないかって話です」
ミルコは立ち上がった。
「迷宮でオルクスを探しましょう」
ギルドマスターは言った。
「それは」ミルコは一瞬迷った。「タウリスですか」
「今のはただのことわざだよ」
ギルドマスターは机の上で指を組んだ。
「ということを考えると、面白いことがわからないか」
「なんの話をされているのか、正直わかりません」ミルコは困惑して答えた。
「ああ…失礼」ギルドマスターは頭をかいた。「私は説明が下手で困るよ」
今日もまたギルドマスターに呼び出されている。何を期待されて呼ばれているのか全然わからないのだが、ギルドマスターはどうもミルコを自分の便利な手駒のように考えている節がある。節がある、というかそうに違いない、とミルコは思っている。
「最近迷宮の第一階層から第二階層を中心に、オルクスが目撃されているのは知っているかい」
「はい」その話を誰かから聞いた気がして、ミルコは頷いた。そうだ、あの隻眼の受付係だ。
「グルツさんから聞きました」
「うんうん」ギルドマスターは満足げに頷いた。
「おかしいとは思わないか」
「はい、少し思いました」
ミルコは言った。
「そもそもどこから?という話ですよね」
「そうだ」ギルドマスターは壁の図を指した。ギルドの建物から入獄門の周辺までが細かく図にされている。
「迷宮は国の資産でもあるからね」ギルドマスターは入獄門のあたりを指した。「この辺は高い塀で囲われているし、見張りもいるだろう?」
「つまり、入獄門以外の入り口がある、ということですよね」
「そう、それ」ギルドマスターはミルコを指さして、パチンと指を鳴らした。
「鋭いね。本当に話が早くて助かる」
「オルクスは山岳の洞窟などを住処にしています。そこから迷宮まで穴を掘って侵入してきている、ということですよね」
「そう、そうなんだが、入口を作ったとしてもすぐ塞がれてしまうだろう?」
「迷宮小人がいますからね」
その勤勉さと粘り強さ、仕事の速さと正確さは、先日ミルコ自身が目の当たりにしたのでよく理解している。
むしろその勤勉さを利用して難敵を倒したわけだけれども。
「我らが勤勉な隣人が迷宮を修復してしまうことを考えると、オルクスたちが侵入してくることはまず不可能なはずなんだが」
確かに、魔法を使って掘ったとしても一人か二人通ったあたりでレプラコーンに囲まれてしまうだろう。
「としたら」
「瓶から酒がなくなるのは」
「飲んでいる人間がいる」ミルコは引き継いで言った。「つまり」
「仕掛けがあるはずなんだ」
バッシュ・ザ・ギルドマスターはにこやかに言った。
「それを君に調べてほしい」
「で、どうするんだ」ハックが干し肉を齧りながら言った。
「まずはオルクスの目撃情報からですね。実際に被害を受けた人たちに確認を取りましょう」
「そもそも前提として」スラッシュは発酵酒の盃を舐めた。「オルクスたちは迷宮で何をしてるんだ」
「さあ」ミルコは豆をつまみながらエールを飲む。「ただ、はっきりしてるのは、これって結構大きな問題だということですよ」
「確かにオルクスは厄介な連中だが、追い剥ぎ程度の危険度しかねぇだろう。新兵が被害に遭わないよう気をつければなんとかなりそうなもんじゃねぇの」
ハックは発酵酒の瓶を倒した。もう飲み干してしまったらしい。
「入ってくるということは、出て行くこともあるということなんです」ミルコは言った。
「迷宮にしかいない魔法生物や危険な生き物が山に放たれたらどうなると思います」
「…なるほどな」スラッシュは静かに言った。
「私にとっては、これは大きな問題です」ミルコは言った。
「サンデルの山を汚すわけにはいかない。私はあそこで育ちましたから」
「まあ」ハックは気乗りしなさそうに言った。「リーダーはあんただ。手頃な依頼だとは思うよ。あのクソ眼鏡の言いなりってのがどうも気に入らないけどな」
「いったい何があったんですか」ミルコが苦笑した。「ギルドマスターと」
「さあな」スラッシュが肩をすくめる。
「そう言えば、お二人ってギルドマスターと面識があるんですか」
「俺は、ない」スラッシュは言った。「この間が初めてだ」
「ハックは」
ハックは突っ伏したまま答えない。
寝息が漏れる。
「寝たな」スラッシュが眉を顰めた。
「とりあえず明日の朝、もう一度ここに」ミルコは言った。
「まずは情報収集です。オルクスに会って生還したハンターに会いましょう」
「不意打ちでした。階段の陰にオルクスたちが隠れていたんです」
まだ少年と言ってもいい年齢のハンターは暗い表情で言った。
午前中のギルドホールに人はほとんどいない。休みの冒険者が遅い朝飯を食べるくらいのもので、テーブルに集まっているのはミルコたちだけだった。
ギルドマスターに頼んでおいた生還者として紹介されたのが目の前の新兵だ。
治癒魔法が効いて体は動くようになってきているようだが、まだ足を引きずっている。
「僕たちのパーティーはまだ二回しか潜ったことがなくて、暗鬼や兎鼠を狩るくらいでした。初めて二階に降りようとしたら」
「オルクスが襲ってきたのか」
「斧や剣を持ったオルクスたちが」新兵は顔を覆った。
「間違いなくオルクスだったのね」ミルコは確認するように言った。「厭鬼や戦鬼や大鬼ではなくて」
「豚のような鼻面をして、牙が生えてました。間違いなくオルクスでした」
僕は山育ちなので、奴らを見たことがあるんです、と少年兵は言った。
「奴らは戦い慣れていました。まるで僕らをからかうようにいたぶりながら追いつめて」
「どうやって逃げたの」
「僕は仲間を見捨てて走りました」泣き声になる。「みんな同じ故郷の友人たちだったんです。あんなに手強い敵がいるって知っていたら」
「オルクスは何人だったの」
「六人です。僕らと同じでした」
「六人」
ミルコたちは顔を見合わせる。
「ありがとう、辛い話をさせてごめんね」ミルコは少年兵の肩を叩いた。
「一人で生き残るのが辛いのは私もよく知ってる。ほら、私、疫病神なんて言われてるからさ」
ミルコは笑顔を少年兵に向けた。
「でも、必ずまた何かが始まるよ。それが迷宮でなくても」
少年兵は頷いた。
「さて」少年兵が宿舎に戻るのを見送りながらハックが言った。「どう思う」
ミルコは腕を組んだ。
「六人というのが、気になります」
「偶然だろう」
「オルクスに会ったことあります?」
「ああ」ハックは頷いた。「山で、奴らの縄張りにうっかり入ってしまって、逃げたことがある。その頃俺はまだガキだったけどな」
「オルクスは狩りをするとき、大体三人くらいですよね。部族間の衝突とかなら別ですけど」
「そう言われれば、そうだな」
「オルクスは六人ひと組で行動している。これってあれじゃないですかね」
ミルコは眼鏡を上げた。
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